名無しの英雄~パラオ艦隊戦記~   作:レイキャシール

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今回も複数に分かれてますので、最新話リンクから来られた方はご注意願います。


第四章・第三話:提督から見た艦娘達・3

――――――

 

 

「だーかーら、なんでアンタの方が私よりスコアが多いことになるのよ!!」

「何でもへったくれも無いわ、このクソ駆逐艦!」

「アンタだって駆逐艦でしょうに!!」

 

 その日の内に必要な書類の処理を終え、偶には食堂で夕飯をと思った矢先に何やら言い争う声が聞こえてくる。何事かと思って扉を開けると、廊下のど真ん中で曙と叢雲が言い争いをしていた。その周りでは初霜が必死に二人をなだめようとしており、一方で響は半ば傍観者に徹している。

 

「どうしたんだ、騒々しい」

「あ、提督! 丁度良いところに、手を貸してください!」

「・・・・・・わかった。二人とも、それぐらいにしておけ」

「何よ、外野は黙っててくれる!?」

「そうよ!」

 

 すると此方に気付いたのか。初霜が助け船を求めて来たのでやむなく曙と叢雲を強引に引き剥がしにかかる。

 その後、初霜が事のあらましを説明してくれた。

 曰く、今日の出撃先で複数の敵艦隊と遭遇、辛くも撃退に成功したのだが乱戦だった上に大半が駆逐艦級だったこともあって叢雲と曙の撃沈数があやふやになってしまったと言う。

 一応叢雲に関しては、きっちり四隻沈めた事を響が確認したと言っているのだが、曙の方は単独行動を取っていた所為ではっきりとは確認出来なかったという。

 

「確認出来ない以上は、アンタの言う五隻仕留めたと言うのも眉唾ものね」

「そっちだって、響が数え間違いをしたかもしれないじゃない!!」

「ニィエット。これでも目には自信があるんだ、数え間違いは無いはずだよ」

「ぐぬぬぬぅ・・・・・・!」

 

 どれだけやったか、なんてことで喧嘩が出来る事は、余裕のある証拠だ。だが・・・・・・

 

「廊下でやるのは頂けないな。それに二人とも、考え方を変えて見ろ。数はどうあれ、深海棲艦を追い払った事には変わりは無いだろう?」

「まあ、そうだけど・・・・・・」

「なら、それで良いじゃ無いか。重要なのは“どれだけ”やったかではなく、“何の為に”やったか、だ」

 

 そう言って、昼頃夕立にしたのと同様に二人の頭を撫でてやる。

 

「何すんのよ! このクソ提督!!」

「か、か、軽々しく撫でんじゃないわよ!!」

 

 しかし、二人はそれが不快だったのか。手を払いのけられてしまった。・・・・・・ふむ、これは難しい物だな。

 ともあれこの件は一応の決着を見たので、曙達四人を夕食に誘ったところ響と初霜は快く了解してくれ、叢雲も応じてくれた。それで、曙なのだが・・・・・・

 

「別に行く気は無いんだけど、皆が行くなら私も行くわ。丁度空腹だったのは事実だし」

 

 態度はさておき、彼女も行く気はあったようだ。

 四人を連れ立って食道へ出向き、注文した品を取ってテーブルに着く。

 

「お前達は、この艦隊をどう思っている?」

「・・・・・・それじゃあ、私からで良いかな」

 

 夕食を突きながら、昨日と今日とで艦娘達に聞いている事を同様に彼女らにも問いかける。

 それを聞いて最初に答えたのは、意外にも響だった。彼女は最初の作戦で五月雨、多摩と共に参加した艦娘の一人だ。

 

「司令官が着任してから、パラオは変わった。少なくとも懲罰部隊呼ばわりされていた時よりは、確実にこの泊地は良い方向へと向かっている」

「そうですね。もうあれから、そんなに経つんですね」

 

 その答えに、同じく古参組である初霜も肯定する。

 記録によると、二人はレイテ戦役で原隊が壊滅した際に一時的に編入。そのままなし崩し的にパラオの一員となったと言う。

 ただ初霜については少し気になる点が一つ。彼女の所属していた部隊に関しては機密事項が含まれると言う事で詳細は良く判らなかったが、仮にも最前線に投入されたなら相応の精鋭だった事は想像が付く。その精鋭でも壊滅してしまった所に、戦役の一端が見え隠れしていた。

 

「磯風さん達との再会もまた叶いましたし、本当に充実しています。ありがとうございます」

「そう言われると、何だか気恥ずかしいな・・・・・・。叢雲と曙はどうだ?」

 

 同様に、叢雲等二人にも話を振ったところ、叢雲は『そうねぇ・・・・・・』と間を置いた後に答える。

 

「旅順で初めて会った時は『只者じゃない』とは思っていたけど、やっぱりその通りだったみたいだわ」

「そうだろうか?」

「それだけの事はしてきたでしょう? ま、それでも本土のお歴々に比べたらヒヨッコも良いところだけど」

 

 口調はあの時からずっと変わらない、突っ慳貪なもの。だがその表情は・・・・・・

 

「笑顔で言う事じゃないでしょ、ガリ逐艦」

「何よ。貧相なのはそっちも同じでしょ?」

「健康的な私と一緒にしないでよ!」

「はっ、どうだか・・・・・・」

 

 以前にラバウルで再会した時よりは、幾分か柔らかい物になっていた。それを曙に指摘され、今度は皮肉をぶつけている。

 

「曙はどうだ? 殿村閣下の所と比べると、窮屈な思いをさせているかもしれないが・・・・・・」

「別に、不足は無いわよ。前と変わらないし、気の合うのも居なくはないし」

 

 一方で曙から下された評価は可もなく不可もなし、と言った所だろうか。一方で恩義は感じているらしい。

 彼女と叢雲はあ号艦隊決戦の直前になって戦列に加わった駆逐艦だ。と言っても、叢雲とはそれ以前にも面識があった。

 兵学校を卒業し、最初の赴任先となった旅順軍港の警備部隊で初めて出会ったのだが・・・・・・これは追々語る機会もあるだろう。

 一方で曙は、熊野と共に亡き殿村閣下から託された艦娘だ。

 建造されてからそう時間は経っていないものの、沖ノ島、キス島と難易度の高い作戦に参加しており密度という点からしてみれば他の新人よりも有望と言える。

 

「でも拾ってくれた事には、感謝はするわ」

「そうか・・・・・・。すまない、あんな事をさせてしまって」

「川内達の事? ・・・・・・あれはしょうが無いわよ。もう手遅れだったし」

 

 彼女のこの一言に、場の空気が沈みかける。

 沖ノ島からの帰途。深海棲艦に身体を蝕まれていたとは言え、彼女はかつての仲間を撃った。向こうも望んでいたとは言え、このことは彼女も含め、艦娘達に大きな傷跡となって残っている。

 

「だからさ、もしアタシがああなったら遠慮無くやって」

「そんな事はさせないわ。私が、守ります。責任を持って、最後まで」

 

 そう喋っている曙に、初霜が途中から割り込んで来た。

 事彼女は、『守る』事に関してはこだわりを持っている。恐らく、艦艇時代の記憶がそうさせているのだろう。ならばこそ・・・・・・

 

「そうだな。そうならないよう、微力を尽くすとしよう」

「はいはい、気休めでも嬉しいわ」

「気休めじゃないさ、これは」

「ま、競争相手が居なくなるのは私も嫌だもの」

 

 『現在』と『未来』は変えられる。『過去』に引き摺られる様な事には、何としてもさせるわけには、いかない。

 

 

――――――

 

 

 夕食を済ませ、明日以降の予定の確認も問題なし。そろそろ休もうと思った時の事だった。

 間もなく日付も変わろうかと言う時刻なのだが、談話室から明かりと楽しく談笑する声が漏れてきている。

 開けっ放しになっている扉から中を見てみると、隼鷹と千歳が酒盛りをしていた。昼間、飛鷹は『昨日も』と言っていたが、まさか今日もやっていたのか・・・・・・?

 

「ああ、提督ぅ! お疲れさん!」

「こんばんは、提督。お仕事は終わったんですか?」

「まあ、そんなところだ」

 

 そうこうしている内に二人と目が合ったので、自分もその輪に加わる。

 

「それより飛鷹から聞いたぞ。昨日もしこたま飲んでいたらしいじゃないか」

「うぇっ!? の、飲んでなんかないよぉ・・・・・・」

「そうですよ。年がら年中お酒ばかりじゃ飽きてしまいます」

 

 昼間の事を話してやると、何か思い当たる節があるのか。盛大に目を泳がせる隼鷹と、不機嫌そうにむくれる千歳。周りに酒瓶が転がっている状況で言っても説得力が無いぞ。

 

「そんな事より提督。提督も何かお飲みになります?」

「・・・・・・少しなら」

 

 上機嫌で徳利を差し出してくる彼女に押され、手に取った猪口に注がれた酒を口にする。

 この喉が焼けるような刺激は、やはり苦手だ・・・・・・。

 

「それよりもさ、提督。飛鷹から聞いたよ? 昨日から艦隊の事聞いて回ってるんだろぉ?」

 

 猪口ではなく茶碗に注がれたラムを呷りながら、聞いてくる隼鷹。そうか、飛鷹とは同室だったな。彼女には少し同情してしまう。

 

「そうだが、それがどうかしたのか?」

「まあ、アタシとしては飛鷹とも会えたし、酒も旨いしで、文句なし。満点あげたいね、これは!」

「楽しんでいるようで、何よりだ」

 

 とは言え、千代田から聞いた話だと千歳共々、度々飲み過ぎる事が多々あると言う。まあ、酒が絡まなければ優秀な艦娘だ。だが今度そう言うことがあったら、禁酒令も視野に入れるか・・・・・・

 

「むむむっ!」

「どうした?」

「何だか知りませんけど、提督がお酒に対して良からぬ事を考えている気がします」

「・・・・・・知らないな。それよりも千歳。今の艦隊は、楽しいか?」

「そうですね。お酒も美味しいですし、戦果もそこそこ。ですけど、出来る事なら空母への改造は早めにしたいですね。そうすれば、もっとお役に立てると思います」

 

 彼女曰く、艤装の練度がここへ来る前の状態に戻りつつあるらしく、近い内に軽空母の改造が予定されている。艤装の複製とデータ取りが終われば、千代田も程なくできるだろう。

 

「ただいまー、っと。あれ、提督?」

「こんばんは」

 

 噂をすれば何とやら。今話題にしていた千代田が、談話室へと入ってきた。その手に携えた盆の上には、肴にするであろう、焼いた干物とだし巻き卵が載っている。

 その後から更に、扶桑と榛名が薬缶片手に続いて入室する。

 

「邪魔して居るぞ」

「どうしましょう。お酒とお料理、足りるかしら・・・・・・?」

「気にしなくて良い。少し摘まんだら失礼する」

 

 少し口が寂しくなったので、少々行儀は悪いがだし巻き卵を口に放り込む。卵の甘みと出汁の旨みが口いっぱいに広がっていく。なるほど、これは酒や飯の共には良さそうだ。

 

「美味いな、これは」

「本当ですか!?」

 

 感想を聞いたのか、榛名が花の咲いたような笑顔になる。と言う事は、これは榛名が作ったのか?

 

「ああ。出汁と卵の配分が丁度良い塩梅だ」

「そんな、榛名にはもったいないです・・・・・・」

「謙遜する事は無いわ。榛名さんのがんばりはよく見ていたもの」

 

 はにかむ榛名に、扶桑がさりげなく助け船を出す。

 二人は今の第四十四戦隊の切り札であり、パラオ艦隊にとっては双璧とも言える艦娘だ。

 扶桑はかつて、国内きっての精鋭である第十艦隊の総旗艦をしており、“仏の扶桑”と来たら彼女の事を指すほど、武勲と人望があった。

 だが数年前のレイテ戦役が全てを狂わせてしまう。妹である山城を喪ったことで、死に急いでいた所を当時の上官によってパラオへと送られている。それこそ、初めて会った時にはまるでこの世の全てを諦めているようにすら見えたが、製油所地帯の防衛に成功して以降は悲しみを乗り越えたのか。表情も明るくなり、元々のたおやかな気質が戻って来ている。

 一方で榛名は、恐らく唯一。深海棲艦の出現以降に“誕生”したであろう艦娘だ。絵に描いたような天真爛漫さで前衛部隊を引っ張っていく、扶桑とはまた違う人望を持っている。

 かつて単なる戦艦だった頃、呉事変で最期を迎えていただけに“護る”事に関しては初霜と同様に人一倍こだわっているのか。バシー島にて神通に庇われた時は、それこそ鬼神もかくやと言う戦いぶりを発揮したという。今はまだまだ無垢で未熟な部分も多いが、今後の成長が楽しみだ。

 

「話は変わるが、皆はこの艦隊の事をどう思っている?」

 

 さて、ここからが本題だ。合間合間を縫って艦娘達に聞いてきた事も、恐らく彼女達でお終いだろう。

 

「あ、じゃあ私からで良い?」

 

 まず最初に手を挙げたのは、千代田だ。彼女は千歳と同時に転属してきた艦娘で、雲龍が旗艦を務める第四戦隊の一員でもある。性格は柔和な千歳と比べて勝ち気で、気位も高いが、とても姉思いだ。

 

「私は、此所へ来て良かったと思ってる。最初は島流しだと思ってたけど、前の所属とは違って圧迫感? みたいなのはあまり感じないし」

「それはアタシも同意見かな。酒は旨いし、居心地は良い。艦隊だって、今や押しも押されもせぬ精鋭と来たらね。悪い気はしないよ」

 

 隼鷹も、千代田と概ね同意見らしく、そう言って椀を呷る。

 

「それにさ、提督。提督は男前で頭も良くて、聞いた話じゃ江田島を主席で卒業したって言うじゃ無いか? こう言う人の下で働けるのは、艦娘冥利に尽きるよ、うん」

 

 酒を呑みながらだが、褒めちぎられるのは悪い気はしない。しないのだが・・・・・・いまいち実感が掴めないな。

 

「特に鎮守府から移ってきた誰かさんと、ここで生まれたお嬢ちゃんは、ね。アタシの勘が正しければ、ありゃ提督に惚れたね」

「ぶふっ!?」

 

 だがここで酒の勢いか、それとも酔った振りしての悪巫山戯か。彼女の口から爆弾が転がり出てきた。それを聞いて、何故か扶桑が噴き出してしまう。

 

「大丈夫か?」

「けほっ、けほっ・・・・・・いっ、いえ、大丈夫です・・・・・・」

 

 一気飲みでもしていたのだろうか。心配そうに榛名が彼女の背中をさすってくれている。

 

「ま、恋路を邪魔して蹴られたくないからね、アタシはそんなとこかな。扶桑はどうよ?」

「私ですか?」

 

 落ち着いた所を見計らって、むせていた当の本人に隼鷹が話を振る。

 

「そうね・・・・・・言葉を飾る事に意味は無いわね。提督のお陰で、私はまた生きる意味が見出せたわ。このご恩は、一生掛けて返して行きたい。今ではそう思っているわ」

「自分は背中を小突いただけだ。これと言って他意は無いのだが・・・・・・」

「ま、ま、謙遜しなさんなって」

 

 そう謝意を述べる扶桑。そう面と向かって言われると、何やらこう、むずがゆいものがあるな。照れくさい、とも言うのだろうか。だが、悪い気はしない。隼鷹の言っている通り、誇れる事だろう。

 そして最後、榛名に話を振ろうとしたその時だった。

 

「・・・・・・ひっく」

 

誰かがしゃっくりをしたのは。

 最初は、隼鷹か千歳かと思ったのだが、二人もキョロキョロしているところを見るに違うようだ。なら、誰が・・・・・・

 

「あっ! 榛名ったら、私の湯飲みと間違えたわね!?」

 

 千歳が指摘した方を見ると、榛名が自分に寄りかかるような体勢に。しかも、顔が先ほどと違って真っ赤に紅潮している。傍らに置かれた湯飲みだが、榛名のと千歳のそれが重なるように置かれていた。

 

「このお茶、身体が熱くなりますね~・・・・・・ひっく」

「ったく、参ったねぇ。ほら榛名、提督に迷惑だから離れなって」

「い~や~で~す~」

 

 隼鷹が彼女を離そうとするが、榛名はがっちりと抱きついて来て言う事を聞かない。立ち上がって自分で動こうにも、彼女が甘えるように身体を擦り付けてきている所為でそれも難しい状態だ。

 

「はるなわぁ、ていとくがすきです~」

「好き、なのか? 自分が?」

「はい~。ていとくはぁ、やさしくて~、つよくてぇ、かっこよくて~。はるな、かんげきですぅ~。はるなはぁ、そんなていとくがだいすきです~」

「榛名、それってどういう・・・・・・?」

 

 千歳が事の真意を聞こうとした所、唐突に聞こえてくる寝息のような声。まさか・・・・・・

 

「うゅ~・・・・・・むにゃ~・・・・・・」

「ありゃま、まさか一杯で潰れるとは。しょうが無いか、提督頼める?」

「ああ、それは構わないが・・・・・・」

「理由なら、単純に男手の方が良いって事だけさね」

 

 眠りこけてしまった榛名を負ぶって談話室を辞し、揺らさないように気を遣いながら居住区にある彼女の部屋へと運び込む。風邪を引かないように布団に寝かせ、退出しようとした時だった。

 

「うぅ~・・・・・・」

「榛名?」

「はるなを・・・・・・おいてかないでください・・・・・・」

 

 彼女の手が、何かを求めるように空を切る。うわごとのように呟いたのも、きっと『榛名』だった頃の記憶がそうさせているのだろうか? 一瞬、彼女の寝顔が涙を流している様にも感じられた。

 ・・・・・・本来ならこう言うのは軍人として以前に、男として褒められた事では無いが、しょうが無い。

 

「大丈夫だ、俺は何処へも行かない。安心してくれ」

 

 落ち着くまで、側にいるとしようか。

 そしてこれは完全に余談なのだが、一晩中起きていた所為で執務中に舟を漕いでしまった。自分も、まだまだだな・・・・・・。

 

 




次回、『艦娘達から見た提督』


ある白露型曰く、『あの人の秘密、知りたくない?』





※現在活動報告にて。、第二回のアンケートを実施しております。今後行うかも知れない座談会形式での投稿にて使用しますので、質問等々ございましたら、返信コメントにてご一報ください。
詳細は私、レイキャシールのマイページからどうぞ。
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