名無しの英雄~パラオ艦隊戦記~   作:レイキャシール

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今回も前編と後編に分かれています。最新話リンクから来られた方はご注意ください。


第四章・第六話:北の才媛・2

――――――

 

 

「じゃあ、作戦を説明するよ」

 

 翌日。睦実は早速、艦娘達を執務室へ集め、作戦会議を開いていた。

 

「作戦目標は、該当海域内の深海棲艦の撃破及び掃討。なんだけど、今回はかなり難しいと思う」

 

 そう言って彼は、机の上に広げた海図へ戦力駒を置きながら説明していく。

 

「本来ならこう言う掃討戦は、哨戒や偵察を入念に行った上で一気にやるんだけど、今回は時間が無いから、瑞鶴の航空隊で索敵と撃滅を同時並行で行う必要がある。

 だから少し危険にはなるけど、瑞鶴と・・・・・・照月が索敵及びその補助。鳥海、朝霜、朧は機動戦力として、敵艦隊を見つけ次第無力化して」

「て、ことは、途中での支援はほぼ無しか・・・・・・」

「大丈夫よ、さっさと見つけてさっさと叩き潰してあげる!」

 

 前提条件からして、かなり難しい要素が多い作戦に、朧は頭を掻きながらぼやく。瑞鶴は自信満々と言った所なのだが、その隣で計算を巡らせている鳥海は、彼女のそれが逆に不安要素に思えてならなかった。

 

「瑞鶴の言ったように、今回は時間との勝負になる。皆、頑張って!」

「『了解!!』」

 

 だがそれを気にしすぎていては、出来る事も出来なくなる。そう考え、鳥海は今だけはその懸念を頭の隅へと押しやる。

 執務室を出てから駆け足で向かった格納庫では、既に準備を終えた高波と照月が艤装の最終確認を行っていた。

 

「電探・・・・・・いるか?」

「はい、お願いしますかもです!」

「わかった。照月は・・・・・・どうする?」

「電探と高射装置、後、念のため爆雷もお願いします」

「わかった」

 

 寡黙な中年の整備主任に武器の注文を付ける彼女達を横目に、鳥海はいつも通りの艤装を身体に取り付けていく。

 両腕に20.3サンチ汎用連装砲を取り付け、肩の部分には副砲兼対空砲の12.7サンチ連装高角砲。頭には通信と索敵用のアンテナ付きカチューシャを取り付け、両足には推進機能の付いた革靴。そして近接戦闘用の長刀と魚雷を、それぞれ背中と腰に。後の先読み(カウンター)用のグリーブアーマーを右の革靴の上から装着した。これで彼女の準備は完了だ。

 

「旗艦鳥海、先行して出撃します!」

 

 ドックの注水を待って、海面へと躍り出る鳥海。その後に続いて高波と照月が発進し、それから少し遅れて朧と朝霜、瑞鶴が追いついてくる。

 

《司令部より瑞鶴。手筈通りに始めて》

「瑞鶴より司令部、了解よ。偵察隊、発進開始!」

 

 泊地に残った睦実の指示を受け、黄色い尾羽の矢を弓につがえ、上空へと打ち出す。空中高く放たれた矢は十数機の二式艦偵へと変化し、方々へと散っていった。その一方で、電探を装備してきた高波と照月は電波窓に目をこらし、鳥海と朧は周辺を妖精達と共に目視で索敵を行う。

 それから待つ事数十分。何時でも動けるよう、機関部を暖めていたその時。待ちに待った知らせが来た。

 

「索敵五番機より入電、敵艦隊捕捉!!」

「一気に攻めます! 瑞鶴さん、援護を!!」

「合点承知!! 攻撃隊、発艦始め!」

 

 放っていた二式艦偵の一機から告げられた報告を受け、瑞鶴は指定された方角へ向けて再び矢を放つ。今度は制空のための零式艦戦に、天山と彗星を加えた航空撃滅用の編成だ。それに合わせるようにして、鳥海は朧と朝霜を率いて航空隊の後を追い始める。少しして、航空隊が翼を翻し、眼下に見た深海棲艦隊目がけて急降下するのが彼女の目に見えた。

 

「計算通り、見つけたわ・・・・・・! 全艦、攻撃開始!!」

 

 それを射程に収めるやいなや、鳥海は両腕の20.3サンチ連装砲を抜き撃ちで発砲する。巡航移動のため比較的安定しているとは言え、それでも移動しながらの射撃である。放たれた砲弾は当たらなかったが、敵に自分達の存在を知らしめるには充分だった。

 それによって相手が気を取られている内に、朧が海面を蹴って肉薄する。

 

「当たれッ!!」

 

彼女の両手に持たれた12.7サンチ連装砲が火を噴き、視界に入っていた軽巡ト級を怯ませる。そして相手が目標を見失っている隙に発射管を跳ね上げ、魚雷を射出。撃破して見せた。

 

「オラオラオラァ!!」

 

 一方で朝霜も負けじと、果敢に攻めかかる。左手に持った短刀でハ級を斬り付け、怯んだところに主砲を接射。脆い部分から砲弾が突き抜けていったハ級はそのまま沈んでいく。そして返す刀で背後から接近してきたチ級に斬撃を浴びせ、鳥海の射線へと追いやった。

 

「良い位置ね・・・・・・いただき!!」

 

 20.3サンチ連装砲が再び火を噴き、彼女の顔に被せられた仮面が弾き飛ばされる。顕わになったおどろおどろしい素顔に嫌悪感を鳥海は抱いたが、それも一瞬。第二射で首から上を粉砕した。

 

「妙だわ・・・・・・」

 

 三人の攻勢により深海棲艦隊の戦列は壊乱状態になり、着実に数を減らしてきている。作戦は順調に進んでいるかに見えたが、彼女はふとここで違和感に気付いた。

 

「戦艦クラスが一隻もいない・・・・・・?」

「重巡も全然いなかったぜ? どうなってんだ、鳥姉?」

 

 残りの一隻を撃沈し、合流してきた朝霜曰く、最上位の艦種も確認された限りでは軽巡ホ級の希少種程度。高火力のリ級やル級は殆ど確認されなかったと言う。

 

「鳥海さん、どうしますか?」

「・・・・・・戻りましょう。戻って、瑞鶴さん達と合流します」

 

 朧に問われしばしの思考の後、鳥海はそう判断した。だが、それと時を同じくして彼女の無線機から呼び出し音が発せられる。通話状態にすると、照月が上ずった声で状況を報告してきた。

 

《こちら照月! 敵に捕捉されました!!》

「えっ? そっちにも敵が!?」

《ル級とか、リ級とかが沢山・・・・・・きゃぁっ!!》

「照月ちゃん? 照月ちゃん!?」

 

 無線の向こう側から、爆発音と共に照月の声が途切れる。その直前に聞こえてきた言葉が、鳥海に最悪の想像をかき立てた。

 

「直ちに移動します!」

「「了解!」」

 

 

――――――

 

 

「照月さん!!」

 

 その頃の瑞鶴達はと言うと、索敵網をかいくぐってきた深海棲艦の主力部隊から猛攻を受けつつあった。何とか無線で鳥海にこの事を伝えられたものの、その最中に照月のすぐ近くにル級の砲撃が着弾。衝撃で彼女の足が鈍る。

 

「足を止めちゃ駄目・・・・・・動かないと・・・・・・!」

「だーっ、もう! まさかここまで数がいるだなんて!!」

 

 毒づきながらも瑞鶴は自衛用の矢を弓につがえ、突っ込んできた二級目がけて射かける。一つしか無い眼球に矢が突き刺さり、もだえて動きが止まったところに高波が発砲。砲弾の直撃を受け、海の藻屑と化した。

 

「長十センチ砲ちゃん、まだやれる?」

 

 戦友からの問いかけに、ヒレのような形の手を挙げて長十センチ砲は答えると、自らの判断で砲撃する。放たれた砲弾は丁度前に出ていたル級を掠め、周囲で水柱が上がった。

 それを見て、照月が照準を調整しようとしたその時だ。突如として彼女は身体に違和感を覚える。それが腹部に砲弾が命中した事による事だと気が付いた時には、遅すぎた。

 

「あぐっ・・・・・・!」

 

 そして、それを見逃してくれるほど深海棲艦は莫迦では無かった。艦隊全体を狙って放たれていた砲撃が、見る見るうちに照月に集中し始める。弾丸が貫通し、血が止めどなく流れ出す傷口を押さえながら、必死で反撃する照月。だが、照準がぶれて命中弾が目に見えて減り始めている。今は何とかやり過ごせてはいるが、いずれ再び被弾する。だが、不思議と照月は恐怖を感じていなかった。何故なら・・・・・・

 

「はぁあああっ!!」

「!?!?!?!」

 

既に援軍が、辿り着いているからだ。

 荒れ狂う波を飛び越えて、勢いよく飛び出した鳥海のつま先が、ル級の米神にめり込む。相手がたった三隻なら、軽巡級以下でも十分足止め出来るだろうと踏んで戦力を分けたのだが、その三隻の前に別働隊が返り討ちにあった事はこの時の彼女は知る由も無かった。

 そのまま転がるように鳥海は離れると、背中に担いでいた長刀を抜いて再びル級に飛びかかる。咄嗟に両腕を構え、彼女は攻撃を防ごうとする。だがその防御の隙間を潜る様に、隙間から刀身が飛び込んできた。銀色の刃はル級の胸を貫くばかりか、勢い余ってそのまま背中まで貫通。急所を串刺しにして事切れさせた。

 

「――! ―――!!」

「っ、あぁっ!!」

 

 それを見て仲間の仇だと言わんばかりに殴りかかって来たリ級の腕を、主砲で手甲のように受け止める鳥海。そしてそのまま空いている方の手を彼女の鳩尾に押し付け、接射。更にそれによって怯んだ瞬間を狙って渾身の力で殴りつけた。

 撃たれた上にぶん殴られ、後ずさるリ級。彼女は、怪しく光る黄色い瞳で焼け焦げた腹と、周りで戦っている同胞達を見やると、唐突に左腕を天に掲げた。その様子に鳥海は不信感を覚えた直後。空気が噴き出す様な音と共に何かが真上に射出され、上空で破裂して煙が広がる。それが深海棲艦の信号弾だと気付いた時には、彼らは早々に戦闘を切り上げ、次から次へと。まるで潜水艦の様に潜水し始めたのだ。朧と高波が追撃を試みるが、既に大半は海中へと姿を消しており、数隻の駆逐艦に命中弾を浴びせる事しか出来なかった。

 

「クソッ、逃げられちまう!」

「待ってください、深追いは危険です!!」

 

 追撃しようとする朝霜を制し、鳥海は被弾した照月の様子を窺う。腹には風穴を空けられはした物の、幸いにして砲弾は過貫通した事で損傷自体はそれほど深刻でもなさそうだった。

 

「上条少佐、照月さんが被弾しました。加えて、敵の戦力は想像以上に強大です。増援と、正式な掃討作戦の要請を具申します」

《解った。詳しい話は戻ってから聞かせて》

「了解しました。これより帰投します」

 

 睦実への通信を終え、鳥海は撤退を指示する。朝霜達が周囲を固める中で、鳥海は照月に肩を貸しながら移動し始めた。

 

「うぅ、だいぶやられちゃいました・・・・・・ごめんなさい」

「いいえ、謝らなければならないのはこっちです」

 

 その道すがら、謝意を表す照月に対し、鳥海は自らにも非がある事を零す。

 

「私が部隊を分けるのを思いついた段階で、各個撃破の危険は十分考えられた。もし私達の方にもリ級以上の深海棲艦が振り分けられていたら・・・・・・。これは完全に、私の計算ミスだわ」

「まあ、気にしすぎる事は無いんじゃ無い?」

 

が、そんな後ろ向きな空気に待ったを掛ける者が。瑞鶴だ。

 

「私だって偶には怪我するし、ミスだとか間違いだとかは誰にだって起こりうる。ほら、言うじゃ無い、“太公望も竿の誤り”って?」

「それを言うなら“弘法も筆の誤り”ですよ」

「・・・・・・とにかく、幸運の空母って呼ばれてた私だって一回沈んでいるんだから、大丈夫よ!」

 

 冷静に朧に突っ込まれ、若干表情を苦くするが、彼女は彼女なりに励まそうとしているのだろう。その様子に、鳥海は思わず顔をほころばせた。

 

「うふふ。やっぱり、“二回目”の人は説得力が違いますね」

「あーっ! レイテ帰りだからってひどーい!」

「ま、運だけが戦いじゃ無いからな」

「高波の記憶が正しければ朝霜は“三回目”だったかも・・・・・・」

「なっ!? そりゃないぜ、高波ねーちゃーん!」

 

 状況的には体勢の立て直しを図るための後退であり、本来はもっと緊張感が漂っている筈なのだが、傍から見ればとてもそうとは思えない空気。和気藹々、と言った表現がしっくりくるこの雰囲気が戻って来た事を、鳥海は内心嬉しく思っていた。

 

「さあ、戻ったら作戦の練り直しです。今度は確実に成功出来るよう、気を引き締めて行きましょう!」

「『「おー!!」』」

 

とは言え、場の空気が緩みすぎないよう、締めるところは締めているが。

 その後、帰還した鳥海達はすぐさま現状を睦実に報告。それを受け、第五艦隊司令部を通じて軍令部から正式に、掃討作戦の実行が指示される。

 更に、その作戦の実施前に霧島と木曾が戦線復帰を果たし、これまで溜め込んできた物を全て吐き出さんばかりに暴れ回った結果。敵戦力の実に一割強を第六十二戦隊が撃破すると言う大戦果を上げる事に成功したのだった。

 そして、それから二ヶ月ほど後。当初の目的だった繋ぎとしての役目を終え、鳥海がパラオへ帰る日がやってきた。

 

「二ヶ月、たった二ヶ月か・・・・・・俺としては、もうちょい長く居てくれても良かったんだがな」

「またまたぁ。『自分の仕事が無くなっちまうんじゃ』、なんて言って不安がっていたくせに」

「ま、そんな事も言ったか」

「鳥海さん、お元気でいて欲しいかも・・・・・・です!」

「今度来る時があったら、そん時は南の美味いモン頼むぜ!」

「朝霜は相変わらずね。鳥海さん、月並みですけどご武運を」

「はい。皆さんも、お元気で」

 

 感慨深く言う木曾を瑞鶴がおちょくるが平然と流されている一方で、高波は別れを惜しんで涙ぐんでいる。朧と朝霜はいつも通り、前者は一見淡々と。後者は冗談めかした事を言っている。

 

「鳥海」

「何でしょうか?」

「うん・・・・・・あの、えっと・・・・・・」

「どうしたのですかぁ、少佐?」

「私の計算なら、今がベストタイミングかと」

 

 すると睦実が、何やら言いたげな表情で近づいて来た。彼の後ろには、珍しくにやけている美桜と霧島の姿が。一体何を企んでいるのか。鳥海の頭に疑問符が浮かんでいると、彼は真剣な目つきで言葉を紡ぎ出す。彼女はそれを黙って聞き、そして、静かに答える。

 こうして、重巡洋艦鳥海の北での戦いは終わりを迎えた。まだ冷たさの残る海風を頬に受けながら、鳥海は船上で物思いに耽っていた。

 

「それにしても、『司令官さんと肩を並べられるくらい』、ですか・・・・・・。うふふ、我ながら楽しみですね」

 

 分かれる前に言った彼の決意が、一言一句全てに込められている事を感じ取った鳥海は、独りごちる。かつては才能だけのある未熟者にしか見えなかった少年が、一回り成長したように見えた事に、安堵しながら。

 

 




次回、『特型駆逐艦』。


ある駆逐艦曰く、「艦娘の強さは性能じゃ無いのよ」


(※後書き)

アクションシーンを長い事書いていなかった所為で、動き方を上手く構築出来ませんでした・・・。OTL



(追伸)活動報告にて、座談会の質問を受け付けております。詳しくは私、レイキャシールのユーザーページからご確認ください
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