名無しの英雄~パラオ艦隊戦記~   作:レイキャシール

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プライベートな用事と夏イベとが重なってしまい、このような時期になってしまった事を、お詫びします。

例にもよって今回も複数のパートに分けられておりますので、閲覧される際にはお気を付けください。

それでは、どうぞ。


第四章・第七話:特型駆逐艦・前編

 

☆★★☆

 

 

 駆逐艦、と言う艦種がある。

 その言葉の持つ意味合いと、その名を冠された艦達の役割は時代と共に変遷してきたものの、水上戦における最前衛から、大型船舶、艦船の護衛まで。多種多様な任務での活躍を期待されていると言う点では共通している。それは艦娘でも変わりなく、駆逐艦は前線における艦隊の顔だった。

 

「おや?」

「あら?」

「・・・・・・?」

 

 ある日のパラオ泊地。その一角にある演習場で、響と叢雲と曙が鉢合わせていた。

 艦娘の演習、と言われれば、一般的には模擬弾の使用を除けば概ね実戦を想定した演習が行われる事が多い。だがそれ以外にも演習というものはある。その内の一つが、白兵戦闘演習だ。

 艦娘は文字通り『艦』の能力を持つ『娘』。つまりは人型をしており、水上移動以外でもこうして体を動かさなければ直ぐに鈍ってしまう。そのため、今彼女達が居るような、地上の演習場も各拠点に概ね完備されているのだ。現に三人の服装は、それぞれの戦闘装束では無く、一般教練用の体操服である。

 

「奇遇だね。二人も自主練習?」

 

 若干の間を置いて、真っ先に口を開いたのは響だった。彼女の手には、訓練に用いられる木の棒―模擬短刀が二振り、握られている。

 

「まあ、そんなところかしら?」

「私も概ね似たようなモノよ」

 

 かく言う叢雲と曙も、目的はどうやら似たようなものらしい。片や叢雲は袋槍を担いでおり、曙は鈎型の棒―トンファーを持ってきていた。

 

「じゃあ、やるかい?」

「良いわよ。相手になったげる」

 

 準備運動と軽いランニングを終え、その一言と共に模擬短刀を逆手で持つ響。対して叢雲はつま先で袋槍を跳ね上げると、空中でそれをキャッチ。くるくると体全体を使って回した後に構え、曙もトンファーを左手で持つ。

 

「アンタ、左利きなの?」

「主砲持ちながらじゃ、左で持つでしょ普通は?」

「まあ、そうだねっ・・・・・・!」

 

そして真っ先に飛び出したのは、言い出しっぺとも言える響だ。

 踏み込んでの、模擬短刀での一撃に叢雲は一瞬反応が遅れる。だが、最前線で磨かれた戦闘の『勘』がそれを即座に修正。右手で槍を振り、石突きの部分で模擬短刀を受け止めて見せた。

 

「・・・・・・やるね。五月雨はこれでイチコロだったが」

「アンタねぇ・・・・・・不意討ちにも程があるじゃ無い、のっ!」

 

 今度は、叢雲の番だ。至近距離にいた響を押しのけ、袋槍で突く。教科書通りの動きだが、一撃一撃が首筋、胸、腹など急所を貫かんばかりの勢いで繰り出されるものだから恐ろしい。加えて、リーチの広さも存分に活かしている。これでは付けいる隙が無いだろう。

 

「私を忘れんじゃないわよっ!!」

 

相手がもう一人いる状態を除けば。

 いきなり二人の間に割って入ったのは、曙の右脚だ。

 まるで槍がもう一振り突き出されたかのように錯覚させる鋭さを持って、響か叢雲。どちらかの米神を狙ってさらに放たれる蹴り。軸足を狙おうにも、合間合間を縫って振り回されるトンファーがそれを妨げてくる。

 響が短刀を再び繰り出せば、曙はそれを捌いて弾き、叢雲は槍で薙いで追撃を許さない。

 叢雲が繰り出す槍捌きも、響は穂先を絶妙なタイミングで見切って躱し、曙に至っては柄を蹴り上げるという大胆な方法で防がれる。

 曙も蹴りとトンファーに加えて、空いている右手で掌底を繰り出すが、いずれとも体の伸びきった隙を突かれそうになり決定打を与えられない。完全な三つ巴の構図が、此所に出来上がっていた。

 

「こうなったら・・・・・・!」

「今ね!」

「・・・・・・!!」

 

 何合も何合も打ち合いながら全く変わらない状況を打破すべく。三人はそれぞれ反撃されるのを覚悟で仕掛けた。

 響は短刀を器用に逆手へと持ち替え、曙は足を振り上げ、叢雲は槍を引いて必殺の突きを放とうとする。そして、渾身の一撃が解き放たれ・・・・・・

 

《業務連絡、業務連絡。第一水雷班各位は、手空き次第司令部執務室へ出頭せよ。繰り返す、第一水雷班は、手空き次第執務室へ出頭せよ》

 

ようとした所で、業務連絡の放送が入った事で場の空気が別物にすり替わってしまう。

 

「・・・・・・興が冷めたわ。行きましょう」

「ったく、空気読んで欲しいわね」

「ダー」

 

 すっかり出鼻を挫かれてしまった三人は、ぼやきながらも演習場を後にする。汗を流して身だしなみを整え、別行動をしていた長良と初霜と合流して十五分ほどかけて執務室へと集まっていた。

 

「集まったようだな」

 

 部屋の中で横並びになる五人を前にして、黒髪に仏頂面をした彼女らの上官は言う。

 

「来て貰ったのは他でもない。お前達は例の、何も無い所でいきなり船が沈む噂は聞いた事はあるか?」

「それなら浦風から聞いている。爆雷の開発と増産にいそしんでいるらしいね」

「ああ、その事。私も以前、村雨と話したわ」

 

上官―パラオ泊地司令官の東郷徹心大佐のこの問いに対し、答えたのは響だ。曙も同様の回答をし、他の三人も首肯することでそれに続く。それを見て徹心は、科白の代わりに一枚の写真を引き出しから取り出して見せた。

 航空写真であろうそれはやや不鮮明ではあるものの、それが上空から海面を写したもので、何か黒いものが顔を出しているようにも見える。

 

「まさか、これって・・・・・・」

「危惧していた事が現実になった。これの正体については、現在第二水雷班が調査に出ているが、お前達も別方面で捜索に当たれ。場所は泊地から見て西南西、ジャカルタ周辺だ」

「了解、任せておいて司令官!」

 

 写真と後から取り出された渡航許可証を受け取り、執務室を辞した五人は埠頭から早速出撃していく。潜水艦の存在が予想されるため、皆の腰には爆雷を下げたベルトが巻かれていた。途中で泊地へ戻っていた第二水雷班の面々と情報を交換し、五人は夕方頃にインドネシアの都市、マナドへと到着。その日は現地で夜を明かし、翌朝になってから指示された海域へと到着した。

 

「それにしても潜水艦だなんて・・・・・・死滅すれば良いのに」

 

 出発する前の徹心の話を思い出し、不機嫌なのを隠そうともせず曙は答える。

 

「大体、私達沈められ過ぎだっての! 駆逐艦(デストロイヤー)が逆にデストロイされるなんて、冗談じゃ無いわよ! 出てきたら一匹残らずぶちのめしてやるんだから!!」

「解ったから地団駄踏むんじゃ無いわよ、ソナーが聞こえなくなるでしょ!!」

 

 他の三人が周囲を警戒する中で、怒鳴りながらも叢雲は泊地から持ってきたソナー―九三式水中聴音機に耳を凝らす。水中の音を拾う方式を採っているこのソナーは雑音に弱く、使用中は速度を極端に落とさないと行けないなどの欠点があるものの、仕組みは単純且つ安価なため、大量配備がしやすい。もっとも、これまで潜水艦の類いが存在しなかったため、これさえも普及が遅れている現状だが。

 

「・・・・・・・・・・・・?」

「叢雲、どうしたんだい?」

「しっ・・・・・・何か聞こえる」

 

 艤装から集音器を垂らしては収納し、収納してはまた垂らすのを繰り返していた最中。明らかに自然のものでは無い音が、微かにだが叢雲の耳に捕らえられた。ゆっくりと、今度は完全に停止し、集音器の先端部をより深く。肘まで海中に浸からせて音を拾う。

 

「小さいけど、爆音が聞こえるわ・・・・・・。多分、この近くでドンパチやってる」

「方角はわかりますか?」

「聞こえ方からして、三時の方角・・・・・・駆逐艦級が数隻に・・・・・・大型船舶が一隻だわ」

「駆逐艦か。ほっとくわけにもいかないな」

「良ぉし、そうと決まれば善は急げね! 皆、移動するよ!」

「『了解(よ)』」

 

 それを聞いて一目散に駆け出す長良に、叢雲達四人もそれに続く。できる限りの速度を出しながら巡航機動で走る事十数分。彼女達から見て前方から、汽笛の重低音が聞こえてきた。

 

「見つけた、あれだわ!」

 

更に全速力で飛ばし、遂に汽笛の主―大型の貨物船が先頭を行く初霜の視界に捕らえられた。

 経済性を一心に追い求めた結果、並みの軍艦が小舟のようにも見えるほどの巨大な船は、被弾したのか、動きがおぼついていない。それでもまだ沈んでいないのは、大きさ故の頑丈さだろうが、このままでは保ちそうに無かった。

 

「全艦全速! 敵と貨物船の間に入って、少しでも引き剥がす!!」

 

 射程内に捕らえたロ級目がけて、手に持った14サンチ砲を撃ち込んで牽制しつつ、長良は四人に指示を飛ばす。

 

「了解よ、蹴散らしてあげるわ!」

 

それを聞くや否や、真っ先に飛び出したのは曙だ。

 彼女に気付いたイ級やハ級が張り巡らす弾幕をかいくぐりつつ、12.7サンチ連装高角砲を発砲する。元々は巡洋艦以上の副砲として使われていたものを駆逐艦でも運用出来るよう改良したそれは、一発あたりの火力こそ変わらないが、対空砲故に火力投射量は通常の砲を上回っていた。

 

「逝けぇっ!!」

 

 弾幕に怯まずに突進してきたハ級の鼻先目がけて、曙は背中に下げていた棒―私物のトンファーで殴りつけ、怯んだところに再び発砲する。

 

「悪く無いわ・・・・・・沈めッ!!」

 

それによって体勢を崩された彼を待っていたのは、叢雲による槍の一撃だ。魚よろしく串刺しにされたハ級は、そのまま動かなくなる。

 それを見て、彼女は槍を振って別のハ級にそいつを投げつけた。仲間をぶつけられたそのハ級は、運の悪い事に弾薬が誘爆し、そのまま諸共爆沈する。

 

「予定にはなかったけど、私達の前に来た不幸を呪いなさいな!」

「やれやれ、ですね」

 

 それら一連の動きを視界の隅に収めながら、初霜は戦う。右手の単装砲と左手の連装砲を交互に撃ちながら絶妙な距離を保ち、不用意に接近してきた相手には連装砲に取り付けた銃剣で突く。極限まで洗練され、効率化された機動がそこにあった。

 

「よし、良いわ!」

「相変わらず芸術的だね。嫌いじゃ無い」

「響ちゃんも、(それ)一本で仕留めるなんて、凄いわ」

「不器用なだけさ。そっちの方が効率が良い」

 

 それからほどなくして、貨物船に追いすがっていた深海棲艦は一掃され、ひとまずの安全は確保された。その際、直接礼を言いたい旨を貨物船の船長から無線で告げられ、長良達はそれに応じる形で縄ばしごから船へと乗り移る。

 

「いやぁ、助かりました。一時はどうなる事かと思いましたが、私達は実に運が良い」

「困った時はお互い様ですよ。こっちも間に合って良かったです」

 

 船長室にて。金髪碧眼なでっぷりとした体躯の船長―本人曰く、アイルランドはベルファストの生まれ―が彼女達五人に、改めて謝意を述べ、長良が代表して返礼する。

 

「それにしても、船尾で何かがぶつかったような音が聞こえたかと思ったら、いきなりアビスシップに襲われるだなんて・・・・・・。今日はツイてないなぁ」

「!? 船長、今なんて!?」

「ななっ!?」

 

 が、その直後。船長がぽつりと呟いた一言に響は目の色を変えた。

 

「ああ、いや、乗組員から聞いた話なんですが、その時にガクンと速力が落ちて、応急処置をしようとしたら奴らが襲ってきたんです」

「やはりか・・・・・・!」

「え? 響、どういうことなの?」

 

彼女の考える事が解らないでいる長良に対し、それに得心が行ったのか、叢雲も眉間に皺を寄せて考え込んでいる。そして結論が出たのか、同様に至った初霜と曙も彼女に目配せした。

 

「恐らく、奴らは諦めていない。近い内にまた仕掛けてくる可能性がある」

「何ですって!?」

「船長、可能性がある以上離れるわけには行かなくなった。無線を借りても良いかい?」

「え、ええ。電信室へ案内させます」

「スパスィーバ。これで上役に報告出来る」

 

 そう決まるや否や、響は早速パラオへ報告するために電信室へと出向き、叢雲達は海図を見ながら次の襲撃地点の予想と分析を始める。その光景に、長良は若干の疎外感を覚えていた。

 

「・・・・・・旗艦は私なんだけどなぁ・・・・・・」

 

 

――――――

 

 

 光りの殆ど届かない、暗い昏い海の中。深層に住まう魚達が悠々と泳ぐ中で、白黒(モノトーン)の異形達が一塊に集まっていた。

 いずれも白い肌に黒い髪に、人魚のような下半身。顔にはマスクのような物を付け、背中に向かってホースのような代物で繋がっている。そしてマスクの付けられていない、髪の隙間からちらちら見える瞳は、青白く光っていた。

 

「ドウヤラ、イドウヲサイカイシタヨウダ」

「トイウコトハ、シッパイシタノネ?」

「ショセンハクチクカン。ツカイツブシノザコ」

「シカリ。シテ、ツギモシカケルノカ?」

「ソウダ。ワタシタチニモ、ヨウヤクキカイガメグッテキタ」

 

 白い手をわなわなと震わせながら、リーダー格の個体は曰う。

 

「ジュウジュンヨリモ、サキニヒトガタヲエナガラ、ミズニウケナイワタシタチハ、ヒキョウモノトサゲスマレテキタ。ダガ、モウヤツラニデカイカオハサセン。コレカラハキョホウデモ、コウクウキデモナイ。ワレワレノジダイダ」

「カンムスノ、ヤツラニ、オモイシラセテヤリマショウ。イッポウテキニウタレル、クルシミトゼツボウヲ」

「ウフフフ、ワタシノギョライ、ウズウズシチャウノ」

 

 海中という神秘的な雰囲気さえも思わせる場所で、異形達の口から語られる抱負、夢、野望。言っている事こそ千差万別だが、大なり小なり込められている感情は一つだ。

 

「ミズノナカニイルワレワレヲ、ヤツラハウテナイ。ソレガワタシタチノ、ブキダ」

 

 潜水艦級深海棲艦―後に“潜水カ級”、及び“潜水ヨ級”と呼ばれる存在達は、音も無く影のように追従する。その腕に、手負いの貨物船(エモノ)を確実に殺すための牙を携えて、虎視眈々と機会を窺いながら・・・・・・・・・・・・。

 

「スベテハ、ワレラノソウゾウシュサマノ、オンタメニ」

「『「ソウゾウシュサマノ、タメニ」』」

 

 

 

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