名無しの英雄~パラオ艦隊戦記~   作:レイキャシール

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もはや恒例となりましたが、今回も複数のパートに分けて投稿しております。

最新話リンクから来られた方は、ご注意ください。


第四章・第八話:特型駆逐艦・後編

☆★★☆

 

 

『幽霊の、正体見たり』

 

 長良達を送り出した翌日、響から送られて来た電文の内容だ。任務の中途で深海棲艦に襲われている貨物船に偶然出くわし、成り行きで護衛したところ情報を掴んだらしい。

 

「例の潜水艦・・・・・・ですか?」

「ああ。今後はより慎重に、艦隊を動かす必要が出てきそうだ。奴らは何処に潜んでいても可笑しくない」

 

 写しを持ってきた五月雨に対し、短く答える。確か彼女も、潜水艦には何かと因縁浅からぬ間柄だったと記録されていた。これに対して、思うところがあるのだろう。

 事実として、潜水艦は海戦に於いて厄介極まる艦種だ。潜水能力から来る隠密性、魚雷の攻撃性、そして何より対抗手段が限られる優位性。かつてナチスドイツが水上艦よりも潜水艦の生産を優先させ、それに業を煮やしたイギリス海軍が旧式とは言え戦艦まで船団護衛に付けたと言われるほど、それらの能力は絶大だ。その代償として『捕捉≒撃沈=死』の図式が成り立つほど乗る側も危険だが。

 

「長良達が帰還次第、情報をまとめてすぐに上層部へ送る。五月雨も、今後に備えてくれ」

「はいっ! 私、頑張ります!」

 

 今は彼女を含めた水雷戦隊の頑張りに、期待せざるを得ない。何せ相手は深海棲艦だ。これまでの対潜戦闘法が通じない可能性も、あるのだから。

 

 

★☆☆★

 

 

 一方その頃。長良達第一水雷班の面々は貨物船の行き先であるシンガポールを目指して移動を続けていたのだが、その最中、季節外れのスコールに見舞われていた。

 

「こんな時に雨模様とは、ツイてないわね」

「ああもう、こうなるんだったら煙突の防水加工ちゃんとしとくんだった・・・・・・」

 

 雨粒が煙突に入らないよう、雨除けの板を煙突に取り付けながら曙はぼやく。多少は入っても問題は無いのだが、念には念を、と言う事もある。彼女が手で支える中で、妖精達が工具片手に取り付け作業に勤しんでいた。

 

「あれ、どうしたの響?」

 

 そんな中で、響だけはいつもの表情を更に引き締めて海面を凝視していた。その様子を見て、長良が彼女に問う。

 

「いや、こうも雨粒が大きいと、視界は最悪だなと思って。もし私が奴らなら、夜かこの天気を狙うはずだ」

 

雨具代わりに帽子の上から被った笠、その淵から滴る雨水を払いながら響は答える。

 大粒の雨が海面を叩き、低気圧は風となって波を起こし、海を多少なりともうねらせる。奇襲を仕掛けるには絶好のシチュエーション。だからこそ、彼女はこの場にいる誰よりも警戒していた。なまじ前世で、姉妹艦を目の前で潜水艦に沈められた過去がある故に。

 

「確かに、これじゃ何処へでも隠れられるわね」

《FGの皆さん、聞こえますか? 私です》

「こちら長良です。何かありましたか?」

《グッドニュースです。先ほど現在の状況を目的地に報告した所、モレスビーから本国(オーストラリア)の水雷戦隊が援護に向かっているそうです》

「本当ですか? ありがとうございます!」

《お役に立てたようで何よりです。それでは、また。通信終わり》

 

そしてかく言う長良は、その潜水艦の所為で戦没した艦だ。朗らかな表情を押し殺し、獲物を狙う猛禽の目つきへと変える。

 降りしきる雨の中、五人と一隻は静かに。それでいて民間船舶で出せる目一杯の速度に合わせて行く。そんな中での、援軍の報せに長良は安堵していた。

 

「・・・・・・!? 初霜、左雷跡ッ!!」

 

 だが、その時だ。左翼側を警戒していた叢雲の視界に、明らかに雨粒によるもので無い波紋と、後方にいた初霜目がけて一直線に突き進む何かが映ったのは。

 

「ッ!?!?」

 

 咄嗟に身体を捻り、艤装の側面に付けられた防弾板を海面に差し込む初霜。飛んで来た何か―魚雷が接触し、派手な水しぶきが姿勢を低くしていた彼女の顔面を襲う。その衝撃に耐えながらも、彼女は左手の単装砲で魚雷の飛んで来た方角を撃った。撃ったのだが、必中距離に居るはずの敵は影も形も無く、砲弾は海面を叩くだけに終わる。

 

「敵襲!! 水雷班、対潜戦闘用意!!」

 

 こんな真似が出来るのは、確定で奴らしかない。そう直感するや否や、長良は巡航機動で海面を移動しつつ、腰の艤装に備えられた軌条から爆雷を投げ落としていく。

 ガラガラと金属音を立てながら爆雷達は海中へと飛び込み、時限信管で次々と爆発。海水がまるで太鼓の如く叩かれ、爆音を上げさせる。

 

「叢雲、状況は!?」

「圧搾音無し、まだ健在よ!」

 

 雑音が収まるのを待って、響は叢雲へ問う。だが当の彼女からは、否定的な答えしか返ってこない。状況は確実に悪化していた。

 

「・・・・・・十一時の方向、推進音!」

 

 雨音に混じって聞こえる音を頼りに索敵し、その方向へ向かって爆雷を投げ落とす。これまでの敵は水上を進む深海棲艦と、空母級の繰り出す艦載機のみと少なくとも『見える』敵だった。だが今回は違う。姿を見せる事なく、真綿で首を絞めるが如くじわじわと彼女らを追い詰めている。

 

「今度はどう!?」

「破裂音確認。一隻仕留めたわ!」

 

 曙が投げた九十四式爆雷が、その内の一体を仕留める事に成功する。だが・・・・・・

 

「!? 拙い!」

 

貨物船を狙っていたのは、それだけでは無かった。

 今度は雷跡が四つ。同一方向から一点目がけて突き進んでいく様が響の目に入る。向かう先は、貨物船の土手っ腹。彼女らが救援に入る前、船長曰く何かがぶつかったという場所だ。

 

「間に合えっ・・・・・・!」

 

 海面を蹴って距離を詰めつつ、機銃と主砲で魚雷の迎撃を図る。25ミリ弾と12.7サンチ砲弾が海面に突き刺さり、魚雷のいくつかはそれによって中途で破裂する。だが残った一本だけが弾幕をすり抜けようとしていた。

 

「ぐっ、うぅ・・・・・・!」

 

何と彼女は、あろう事か針路上に割り込んで自らを盾としたのだ。

 初霜がやった時と同様に防弾板を沈め、それに魚雷をぶつからせる事で防ごうとする。が、想像していた以上に強い衝撃に加えて体勢が拙かったのか、防弾板は吹き飛ばされ、魚雷管が押し潰されてしまう。それを知ってか知らずてか、貨物船から警笛のけたたましい音が発せられた。

 

「流石にこれは、恥ずかしいな・・・・・・」

「響ちゃん、大丈夫!?」

「問題ない。主機は無事だし、足も付いている。それで叢雲、確認出来たかい?」

 

 へし折れて使い物にならなくなった魚雷を引き抜きながら、響は初霜にそう答え、一方で叢雲に状況を問うた。

 

「少なくとも五隻は確実にいるわね。一隻はやったけど、まだ他に潜んでいるかも」

「冗談じゃ無いわよ、こんな・・・・・・」

「嘆いていても始まらないわ、気持ち切り替えて!」

 

 焦りを見せる叢雲と曙。旗艦である長良でさえも、その表情は芳しく無い。こうしている間にも雨脚は弱まる気配を見せず。敵にとっては格好の材料を与え続け、彼女達からしてみれば、少しずつ処刑台へ近づいている様な状態だ。

 

「けどどうするんですか? 爆雷しか対抗手段が無いのに・・・・・・」

「水中から引きずり出せれば、向こうの装甲は恐らく貧弱そのものだ。機銃でも方が付くと思う」

「引きずり出すって・・・・・・釣りでもやる気なの?」

「待って・・・・・・釣り?」

 

 ああでも無い、こうでも無いと意見が飛び交う中で、何かを閃いたのか。長良は顎に手をやりながら思考の海へと潜っていく。実際には数分足らず、だが本人からしてみれば長い時間が経ったかのように錯覚するほどの熟考。そして・・・・・・

 

「皆、聞いて」

 

天啓が、彼女に来た。

 

「私に良い考えがあるわ」

 

 

――――――

 

 

「フフフ、コンランシテル、コンランシテル・・・・・・!」

 

 一方の海中。潜水カ級達は、見るからに浮き足立つ長良達を見てほくそ笑んでいた。

 彼女らが潜んでいたのは、貨物船から僅か数十メートル。それこそ、魚雷運用における必中射程に潜んでいたのだ。その数は八隻と、叢雲が予想したよりも多い。

 灯台もと暗しとは言うが、天候を完全に利用して見せるだけでなく、能動的には動かずに雑音が発せられた時にだけ移動するという狡猾さのたまものでもあった。とは言えこの方法、非常に危険なのも明らかだ。実際問題、回避が遅れた間抜けが一体、爆雷の直撃を貰って海の藻屑と化している。

 

「コノチョウシデ、ドンドンヤッチャイマショウ」

「マアマテ。モウスコシダケ、イタブロウジャナイカ」

 

 けらけらと嘲笑うかの様な動きを見せ、余計な遊び心まで見せようと考える者まで出始めたその時。それは唐突に現れた。

 

「ン・・・・・・?」

 

 距離にして、およそ数メートル先。海面からわざとらしく垂れ下がった金属の塊―艦娘用の錨が二つ。これまたわざとらしく彼女達の視界を横切っていく。当初は単なる偶然と、最初に見つけたカ級は片付けようとした。だが同様の動きで二往復、三往復とされると否が応でも気になり始める。

 

「ネエ、アレ・・・・・・」

「ナンダ? ナンノツモリダ、アレハ?」

「ホオッテオケ。ドウセ、ワルアガキダ」

 

 他の個体達もあれの存在に気が付いたらしく、ざわつき始める者もいる一方で放置するべきと言う声も出る。最初に見つけたカ級―仮に、リーセンとしよう。彼女も、後者に合わせる形で無視を決め込もうとした、その時である。

 錨の内の一つが急激に向きを変え、彼女の入る所へと真っ直ぐに突き進んできた。

 

「ナ、ナニ!?」

「オイ、マテ!! イマウゴイタラ・・・・・・」

 

『このままではぶつかる』。そう判断したリーセンは、錨を避けようと慌てて動き出す。仲間が止める声も無視して、全力で泳ぐリーセン。その意味に気付いたのか、彼女だけでなく、同様に逃げ出す個体も現れ始めた。

 目指す先は、あらかじめ決めていた、二つ目の待ち伏せ地点。そこまで逃げれば、反撃の余地はある。そう思い始めたのも束の間。水音が響き、彼女の目の前に何かが沈んでいくのが見える。

 

「・・・・・・エ?」

 

その何かが爆雷で、自分達目がけてそれらが投げ込まれた事に気付いた時。リーセンの視界は光に包まれた。

 

――――――

 

 

「圧搾音確認、撃沈三!!」

「やったぁっ!」

 

 一方の水上。長良達第三水雷班はと言うと、叢雲から寄せられた敵艦撃沈の報せを聞いて喜んでいた。

 長良の考えた作戦はこうだ。まず囮役の響と曙が錨を降ろし、水中に留まる程度の長さで止めた状態でゆっくりと航行する。そうして動きがあったらすかさず叢雲の聴音機でそれを捉え、長良と初霜で爆雷を投擲、撃破すると言う単純なもの。

 深さに関しては本当の釣りよろしく、引っかけて引っ張り回す事を期して、半ば彼女の直感で決めていた。結局引っかける事は出来なかったものの、結果として狙いは的中。こうして撃沈に至っている。

 

「それにしても、まさか本当に釣りみたいな事をすることになるとはね」

「突拍子も無い所でクソ提督に似てきたわね」

「ふふん、もっと褒めても良いのよ?」

「はいはい、すごいわねー」

 

 先ほどまで爆雷を投げていた長良も、発案者として鼻高々と言った所だろうか。その様子に、叢雲と曙は若干呆れ気味だが、口調とは裏腹に喜色が浮かんでいる。

 

《連合艦隊、聞こえますか? こちらオーストラリア海軍ポート・モレスビー防衛艦隊、第十六水雷戦隊旗艦、巡洋艦フィジーです。これより、貴艦隊を援護します》

「こちら連合艦隊、第四十四戦隊の長良です。応援に感謝します!」

 

 さらに幸運な事に、ここで貨物船の目的地であるオーストラリアからの援軍到着を報せる通信が届く。雨で視界が曇る中、ようやく見えて来たユニオンジャックを見て、気を張り詰め通しだった長良は胸をなで下ろした。だからだろうか、この瞬間だけは完全に油断しきっていたのは。

 

「きゃぁっ!?」

 

 後方にいた叢雲が悲鳴を上げる。それと同時に起こる、水柱。魚雷が直撃し、彼女の体躯を大きく吹き飛ばしたのだ。

 

「叢雲! こん畜生っ!!」

 

 それを見て爆雷で即座に反撃を試みる曙。だが聴音機を持っていた叢雲は被雷したために身動きが全く取れなくなっている。一応、駆逐艦級の艤装には簡単なソナーが付いてはいるが、性能は本格的な装備には程遠いもの。余計な雑音ばかりで潜水艦の居所を掴むのはあまりにも難しすぎた。

 

「初霜は叢雲を連れて貨物船へ退避して!! 初霜と曙は順次反撃! そう遠くへは行けないはずよ!!」

「でもソナー無しでなんて・・・・・・!!」

「勘で何とかするわ。心配しないで!」

 

 後ろ髪を引かれながらも、初霜は無言で頷き、叢雲と共に後退していく。それと入れ替わるようにして、前方から来たのは赤い上着と黒いスカートを身につけた金髪の艦娘と、スカートにフリルの付いた、青と灰色のセーラー服の集団。前者が旗艦なのか、艤装の煙突横に付いたマストには王立海軍(ロイヤルネイビー)の旗と指揮官旗がはためいていた。

 

「到着が遅れました、フィジーです。そちらのフラグシップ・・・・・・ミス・ナガラはどちらでしょうか?」

「長良は私です。改めて、援護に感謝します」

「こちらこそ、到着が遅れました。状況を教えて頂けますか?」

「一人やられた。幸い轟沈はしなかったから、今は貨物船に退避して貰ってるわ」

 

 謝意を述べた長良に対し、やんわりと止めた上で説明を求めるフィジー。それを受けて、彼女は悔しそうな顔でこれまでに起きた事を事細かに説明していく。

 

「敵は潜水艦、でしたね。やはり持ってきて正解でしたか・・・・・・ともかく、後は私達にお任せを」

「でもこの視界じゃ、潜望鏡索敵は無理よ! それに向こうも警戒してるのか、動きを止めてる。見つかるはずが・・・・・・」

「そう悲観する事はありませんよ、ミス・アケボノ」

 

 仲間がやられた所為もあって、曙も普段の強気な態度が完全になりを潜めてしまっている。だがそれを見て尚、悲観的になる様子はフィジーにも、随伴の駆逐艦達にも見られなかった。

 

イギリス(わたしたち)にはイギリスの戦い方があります。Uボート狩りで育まれた、叡知と技術の結晶、ご覧に入れましょう。ファーニー!」

「はっ!」

ASW(アンチ・サブマリン・ウェポン)の使用を許可します」

「イエス・マイロード!」

「全艦は、フォーメーション・ウォールへ移行! 王立海軍の力を見せなさい!!」

「「『イエス・マイロード!!』」」

 

 早速彼女は、ハンチング帽を被った駆逐艦級の艦娘―ハント級Ⅰ型のファーニーの名を呼ぶ。上艦からの指示を受け、ファーニー等は横一列の体勢―日本で言うところの単横陣の体勢を取ると、背中に担いでいた箱のような物を盗りだした。

 その蓋を開けて中から取り出したのは、円筒型の物体が十数個束ねられた、装置のような物だ。それを両手で一人に一つずつ、合計で五基程が勢揃いする。

 

「何をする気なのかしら・・・・・・?」

 

 怪訝そうに曙が漏らす中、陣形の展開を確認したフィジーは手に持っていた棒のような物を複数。鎖に括り付けて放り投げていく。放物線を描きながら飛んだそれは水しぶきを上げながら海中へと没する。そしてその直後、長良の簡易ソナーが不自然な音を検知した。

 

「ねえ、今のは?」

「アクティブソナーを使いました。原理としては・・・・・・」

「いいえ、長くなりそうだから良いわ。でもこっちから音を出して大丈夫なの?」

「存外と大丈夫ですよ。潜水艦にとっては、捕捉された時点で戦略的敗北は免れませんから」

 

 長良の声を余所に二回、三回とアクティブソナーを作動させるフィジー。

 

「・・・・・・捉えたわ。ポイントマーク、エドワード! 深度40! ヘッジホッグスタンバイ!!」

「『「イエス・マイロード!!」』」

「ホールド、エイム・・・・・・ファイヤァッ!!」

「な、なななななっ!?」

 

そして都合四回目の作動で敵の影を捉えるや否や、即座に僚艦達に武器の使用を指示。ファーニーら駆逐艦は一斉に装置を腰だめに構え、今か今かと攻撃の指示を待つ中。彼女の振り下ろされた掌と共に、装置が火を噴いた。

 放物線を描きながら飛翔し、白煙と共に海へと落下していく筒達。それから数拍ほど経った、次の瞬間。海水が、爆ぜた。立ち上る水柱は大きさこそ爆雷と比べると幾分か小ぶりではあるものの、数はその比ではない。前者が単なる植木とするならば、これは林。文字通りの林立だ。その様を見て曙は目を白黒させ、長良も長良で驚きを禁じ得ないでいる。

 

「今のって、全部爆雷なの!?」

「用途は似ていますが、正確には違いますね。ヘッジホッグと言って、我が国の開発した対潜攻撃の切り札です。

 仕組みとしては広範囲に小爆弾を散布し、接触信管で起爆。一つでも反応すれば連鎖的に爆発するので、攻撃の成否の判別も容易。加えて一発辺りの炸薬の量は、爆雷と比べると少なく、ソナーに掛かる負担も大幅に軽くなります」

 

淡々と、だがその裏で自国の技術力を誇らしく説くフィジーを、響は何とも言えない表情で見つめていた。

 その後は残敵の捜索と周囲の安全確認を終え、フィジー等と共に合流予定だった座標へ向かった長良達。その際に護衛の引き継ぎと補給、簡単な修理を済ませ、一方で長良もそのままシンガポールまで貨物船を送り届ける事になり、さらにその足でポート・モレスビーへ向かい、潜水艦の詳細を伝える事となった。

 そのため響達第一駆逐班の面々は、一足先にパラオへの帰路に就いたのだが、行きと違って足取りは鉛のように重く、表情は暗く沈んでいる。

 

「・・・・・・・・・・・・ブローハ(ヘコむな)

「もう何度目よその台詞。何語か解らないけど、聞いていたらこっちまで鬱になってくるわ」

「でも、長良さんの作戦無しだと一隻がやっとだったのに、あの一回で簡単に全滅させられるのを見せられると・・・・・・技術の差って、こんなにも高く感じるんですね」

「確かにね。これじゃ、いくら練度を挙げても意味合いが薄いな・・・・・・」

「そうかしら?」

 

 先ほどからロシア語で同じことばかりぼやいている響に対し、曙は苦言を呈する。その一方で、彼女と同じ事を考えているのか。そう言いながら、項垂れる初霜。だが一方で叢雲の見解は、三人とは違うらしく、納得はしていないが少なくとも悪くは思っていない様だった。

 

「あいつらは機械に価値を見出しただけよ、日本(わたしたち)が数の差を練度で補おうとしたように。ただそれだけの事よ。米国(れんちゅう)の物量は青天井、使える物は何だって使う。そうでもしなければ戦いにすらならないわ」

「けどそれじゃあ、何も変わらない。あの時の私達と、何も・・・・・・」

「だからよ。戦いは、性能だけでするものじゃない」

 

 それに対し反論する響。彼女の口から続いて出てきた言の葉は、あまりにも無謀に思えたからだ。

 

「最後に問われるのは、どっちの『水雷魂』が強いか、よ。違うかしら?」

 

だが不思議と、胸の空くような感覚を、響は感じ取っていた。

 

「ふふっ。流石は、天下の特型駆逐艦だ。言う事の重みが違うな」

「何言ってんのよ。アンタも特型駆逐艦でしょうに」

「ていうか、初霜以外みんな特型じゃないの」

「でも初春型は、特型の小型高性能仕様が始まりでしたし、広義的に見れば特型だと思うわ」

「それなら、五月雨達も特型駆逐艦だね」

「いや、それはないわよ。あんなドジッ子と一緒なんて」

「ふふっ、それもそうね」

 

そして不思議と、これまでの重苦しい空気も、一連の他愛のない言い合いの中で雲散霧消していた。そのためか、疲れを感じさせない程度には足取りも軽くなっている。

 

「さて、それじゃあ先を急ぐとしようか。司令官には報告しなければならない事が山積みだ」

「了解、書類は手伝うわよ」

「それより帰ったら先に、ひとっ風呂浴びたいわね。雨と塩で身体がゴワゴワしてるったらないわ」

「多分提督も、それくらいの猶予は許可してくれますよ」

 

 特型駆逐艦と、その直系の後継艦。生まれた時期も、沈んだ時期も、甦った時期も違う四人。もちろん、艦娘となって、パラオへと配属されるまでの経緯も違う。だが彼女らにとって、そんな事など些細な事でしか無い。

 

 

 

目指すものは唯一つ、『勝利と生還』。それが四人の『水雷魂』なのだから。

 

 




「拙いのぉ・・・・・・控えめに言ぅても、ぶち拙いのぉ・・・・・・」


「一体何が拙いんですか、浦風」


「ふむ・・・・・・ここをこうして、こうだ」


「これが私の真骨頂! 勝利のカツカレーよぉっ!!」





「この勝負、磯風が貰ったぞ」


次回、『華麗なる金曜日』。

褐色の湖に沈む、無限の宝物達。果たしてそれは、誰の手によるか。
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