名無しの英雄~パラオ艦隊戦記~   作:レイキャシール

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今回も難産でした。それでは本作の最大の山場(としているつもり)の第五章、『AL/MI編』スタートです。


Q:またしてもこんなに投稿間隔が空いた理由を述べよ

A:艦これ二期移行とパソコン買い換えに初秋イベントと秋刀魚祭りが重なり、更にはファイプロ沼に引きずり込まれたため。


第五章・AL/MI編
第五章・プロローグ


☆☆☆☆

 

 

 吹上御所。それは、かつての江戸城。現在の皇居の中にある、謂わば本宅とも言える場所である。

 その吹上御所の中にある御前会議専用の会議室において。今上天皇臨席の下、政府と軍の最高幹部達による話し合いが行われていた。

 

「―以上の観点から、現状の防衛線を維持しつつ、領海内の制海権の堅持と、海上輸送路の維持。そして主力級艦娘、特に、戦艦の補充を急ぐべきであると、臣は愚考致します」

 

 恰幅の良い男―角川海軍大臣は、先ほどまで行っていた方針説明をそう締めくくった。

 連合艦隊の草創期から海軍に関わってきた彼は、極めて平均的だが、同時に右、左どちらにも偏らない中道的な思考の持ち主として。大東亜戦争直後の混乱期に海軍の立て直しに奔走した実績もある。それを評価され、現在のポストへと据えられていた。

 

「確かに、レイテで二隻。更に沖ノ島で一隻喪失しているからな。土佐、薩摩は外洋へ出せないのも痛い。陛下、内閣は海軍の提案を支持します」

「いや、待ち給え」

 

 彼の隣に座る首相も、これに賛同する。だがここで、待ったを掛けてきたのは反対側に座る痩せぎすの男―陸軍大臣の大沢だった。

 

「確かに失う物はあったが、それ以上に得てきたでは無いか」

 

 大沢はさらに続ける。

 

「飛行場姫を討ち果たした事で南方の制海権は確保され、更には沖ノ島でも多大な戦果を上げられている。どうして今更、及び腰にならねばならないのか?」

「論点をすげ替えないで頂きたいですな、大沢大臣。それとも陸軍の方々は、また世界を敵に回す積もりですか? 旧南部仏印は一時的な保護下と言う事で周辺各国には説明していますが、英国はともかく、米国がこのまま放っておいてくれる保障はありません。下手を打てば、今度こそ日本は地図から消されますぞ!」

大拔(おおぬき)総理、貴殿こそ話を逸らさないでくれ給え! とにかく陛下、陸軍は更なる進撃と、領域の拡張を求める次第でございます!」

「・・・・・・良いかね、お二人さん?」

 

 白熱する議場へ一石を投じるかの様に。大沢の隣に座る老年の男が口を開いた。

 ヘソまで届こうかという豊かな白い髭とはげ上がった頭。そして年の割にはがっしりとした体躯を紋付き袴で包んでいる男だ。

 

「野木枢密院議長は、何かお考えが?」

「それに付いてなのだが、お前さん方は深海棲艦(ヤツら)が何故南の方へ集中していたのかわかるかね?」

 

 男―野木は細い眼をさらに細くして続ける。

 

「昔の我々と同じじゃよ」

「そうか、資源ですか!」

「ああ、その通り。彼奴等が幾ら数を揃えるにしても、岩や木の洞から兵力を作れるわけでも、ましてや畑から捕れる訳でも無い。必ず、そのための素地が必要じゃ。それを理解していたからこそ、海軍は南方を重視した、違うかね?」

 

 彼の言う事は、角川と同じ。いや、それ以上の説得力を持って他の者達に入ってくる。

 元々は倒幕志士の一人として、そして政治家として,大日本帝国とそれを取り巻く情勢をつぶさに見てきたこの男は、それだけの経験をしてきたのだ。

 

「それに、政府の方で過度に戦意を煽る事を禁じた事を抜きにしても、国民は疲れておる。だが一方で、新種の敵が現れた以上は討たねばならぬ。それは陸海軍の共通認識じゃろう?」

「ええ、まぁ・・・・・・」

「仰るとおりで・・・・・・」

「だったら此処いらで、文句の付けようのない物を手に入れる事も、吝かでは無かろう。陛下のためにも、ここでもう一働きと行こうでは無いか」

 

 この一言が決定打となり、ある大規模作戦の実行が承認された。

 作戦名は、“第二次AL/MI作戦”。奇しくもかつての連合艦隊にとって、文字通り運命の分かれ道となった物と、同じものだった。

 

 

★★★★

 

 

 北の極海。無人になって久しい孤島、アクタン島。その洞窟の中で“清姫”改め、“北方棲姫”は眠りに就いていた。

 文字通り雪のように白い肌と、白い髪に白い服。その中で頭の角や襟元、手袋の飾りと、所々に黒を散りばめた小さな体躯を、まるで胎児のように丸めて小さな寝息を立てている。

 その北方棲姫の傍らに座するのは、一人の男だ。いや、正確には男では無いかも知れない。何せ、裾が床まで届くだろう長いローブを身に纏っているからだ。

 

「こうして眠っているのを見ると、まるで本当に童女のようだな・・・・・・」

 

 ふと男が振り返ると、そこには一人の女が立っていた。

 腰まで届く漆黒の髪に、深紅の瞳を携えたやや垂れ気味の双眸。そして女性らしい豊かな体つきを包んでいるのは黒いキャミソール風のドレスのみ。

 とても扇情的であろうこと請け合いだが、白い肌に額から生えた二本の角。そしてその身に纏う禍々しい覇気が、彼女の出路を在り在りと示している。

 人類種にとっての不倶戴天の敵。深海棲艦だ。

 

「ブリュンヒルト・・・・・・。私は・・・・・・」

(けい)がこれを気に掛けるのもわかる。卿の血を分けたも同然の存在だ。だが・・・・・・」

 

 “ブリュンヒルト”と呼ばれたその深海棲艦は、ローブの人物に対し続ける。

 

「若輩共が信奉している『あのお方』とやらの考えが解せん。何故この様な形で同朋を増やす」

 

 そう言って彼女は、そこらに転がっていた塊を蹴っ飛ばした。音を立てながら、塊は外光が差し込んでいる箇所へと転がっていく。光に照らされたその正体は、艦娘の死骸だった。

 金髪の、やや幼さも残る顔立ちが残っていたであろうその顔は、左上の部分が食い千切られ、恐怖と絶望に歪みきっている。

 これと同様の夥しい数の鉄屑と死骸の山が、洞窟の中に所狭しと積み重ねられた光景の所為で、北方棲姫の周りは凄惨そのものだ。

 

「切磋琢磨してこその生。それを一瞬で燃やし尽くしてこその生だ。それを・・・・・・」

「ブリュン」

 

 ぼやくブリュンヒルトを、ローブの人物は諫める。それも、たった一言聞いただけで、彼女は言葉を詰まらせた。

 

「今は『あの人』が『創造主』なのよ。あの人が居る限り、私達の未来は変わらないわ」

「それが例え、破滅であってもか・・・・・・“フレイヤ”」

「ええ。それが私の役目だから」

 

 ローブの人物。いやさ、フレイヤは毅然として言った。

 北の孤島に、異形が二人。その間には、得も言われぬ緊迫した空気が流れていく。

 

「・・・・・・負けだ。こうなった卿は梃子でも動かんことは、いい加減覚えたよ」

「ありがとう・・・・・・」

「大事にしてやるといい。次に目覚める頃には、戦果を贈るとしよう」

「ええ。お休みなさい」

 

 そう言って、その場を去って行くブリュンヒルト。彼女は、洞窟の入り口で待っていたヲ級に指示した。

 

「直参の戦力を直ぐに集めよ。それから、“バルバロッサ”にも言づてを頼む。久しぶりに、お前の力が必要だと」

「ハッ、オオセノ、ママニ。ソレカラ、トリスタンサマ、ベイオウルフサマ、サラマンダーサマ、ヨツンヘイムサマガ、オマチデス」

「わかった。直ぐに向かう」

 

 彼女がそのまま海へと出るのを見送ったブリュンヒルトは、その足で今度は島の反対側。先ほどまでいた洞窟の真後ろへと向かう。

 そこには、彼女と似たような姿をした複数の深海棲艦が。

 髪の短い者、ドレスの裾が長い者、髪を後頭部で一纏めにした者。そして何故か西洋風の兜を被った者もいる。

 

「こんな北の果てまで呼び出して、どういう了見かしらブリュンヒルト?」

「そう言うな、サラマンダー。卿も薄々感づいているのだろう?」

「例の、“協力者”とやらからの情報か?」

「その通りだ、トリスタン」

 

 後頭部で一纏めにした者―サラマンダーが若干苛立ちながらも言う。それを抑えながらブリュンヒルトは続け、ドレスの裾が長い者―トリスタンからの問いに答える。

 

「奴によれば、近い内に人間共が大規模な反攻作戦に打って出る。これは確定事項だ」

「場所は教えて貰いましたの? 山勘で向かわせて、こちらは空振り、むこうは大当たりとなったら目も当てられませんわ」

「それに関しても問題ない。最も可能性の高いのはアルフォンシーノ(ここ)と、ミッドウェーだ」

 

 髪の短い者―ベイオウルフの言う事も尤もではある。が、ブリュンヒルトはこれまでの経験からその可能性は既に排除していた。そして何より、『ミッドウェー』。これがまた曲者だった。

 太平洋の中間地点に浮かぶ島なのだが、かつてのミッドウェー海戦の舞台であり、深海棲艦達にとっては戦略上の要諦だ。ここを奪われる事は、少なくとも西部太平洋の制海権を丸ごと奪われる事に等しく、現在優勢に事を運んでいる東部太平洋、そして自分達の『根拠地』を危機にさらす事にも繋がりかねないのだ。

 

「だからこそ、芽は少しでも摘み取る。恐らくは、西から日本、東からアメリカの艦隊が向かってくるだろう。どちらか片方だけでも抑えれば、我らの優位は揺るがん」

「ではその役目は、吾が受けよう」

 

 そう言って今まで伏せていた目を見開いたのは、兜を被った者―ヨツンヘイムだ。

 

「吾の直参なら、足止めも効く。それに、そろそろ彼奴にも経験を積んで貰わねば」

「例の妹分・・・・・・確か、リューベックとか言いましたわね?」

「ああ。吾の見立てが正しければ、アレは別の進化を遂げるはずだ」

「では、決まりだな。残りの者は、各自で準備をするように」

 

 後は特に議題も無し。ブリュンヒルトは解散を指示し、ベイオウルフらも海へと戻っていく。そして彼女は、仲間達が去った後で一人呟いた。

 

「さて、問題は私達以外、『あのお方』とやらに与する連中だ。どうしたものか・・・・・・」

 

 寒空の下。彼女の呟きに答える者は、誰も居ない。

 九月某日。時流は、確実に動き始めていた。

 

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