名無しの英雄~パラオ艦隊戦記~   作:レイキャシール

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今回も複数話を同時に投稿しています。最新リンクから来られた方はお気をつけください。


第五章・第一話:集いし『十』・後編

――――――

 

 

「よう、東郷」

 

 会議が終わってからも、徹心は一人残って書類の整理をしていた所。後ろから秋満に声を掛けられた。

 

「これだけお歴々の並んだ会議は久しぶりで、お前も疲れただろう。どうだ、久しぶりに?」

「先輩、お言葉ですが、自分は酒は・・・・・・」

「そうじゃなくて、久しぶりに“間宮茶房”で甘味でもどうだ?」

 

そう言って、左手で杯を煽る仕草をする先輩に対し、後輩はもう何度目かも判らない遣り取りを思い出しつつ返す。が、向こうもその反応に慣れきっており、すぐさま別の案を提示してくる。

 

「先輩もお人が悪い、それならそうと仰ってください」

「これでも、苦労しているんでな。さっき吹雪を伝令に走らせたから、追っ付け赤城達も合流するだろうよ」

「懐かしいですね、その名前も」

「ま、積もる話もあるだろうが、そこはそれ。菓子を囲ってゆっくり話そうじゃないか」

 

 魅力的な提案に乗った徹心は、他の将官達が退席するのを待って秋満と共に会議室を後にした。

 

「しかしまさか、手広くマレー方面にまで陽動を行うとはな。椛山閣下も、大胆な事を考えられたものだ」

「戦力の分散は下策ですが、効率よく配置、運用できれば下策も上策となる。兵法の常です」

「博打になるか、保険になるかは壺振り次第、と言った所か・・・・・・おや、噂をすれば、だ」

 

 廊下を移動しながら先の会議の事を話していると、椛山と彼の秘書艦の金剛が歩いてくるのが見える。一見すると親子の様に見えるこの二人だが、見た目からは想像も出来ないほど、仲睦まじい様が見て取れた。

 

「Oh! 噂をすれば、ネー!」

「ん? おお、東郷に秋満か。ちょうど、貴様らの事について話していた所だ」

「やれやれ、お熱い様で何よりであります」

「はは、陸軍言葉で皮肉られるとは、私達も焼きが回ったかな?」

「No、No。私もテートクも、まだまだ現役デース!」

 

 秋満の皮肉に、朗らかな笑みを浮かべながら返す金剛。だがほんの一瞬だけ、徹心には彼女の、正確には彼女の足に違和感を覚える。

 

「金剛、今足が・・・・・・?」

「あ・・・・・・ああ~、気がつきましたカ~? 実は会議用にShoeを新調したんデース。まだちょっと慣れてないですが」

 

がそれも、彼女が明るい口調で説明した事で雲散する。取り越し苦労か、と思いつつも続ける徹心。

 

「それよりも閣下、ご質問したい事がございます。先ほどのあれは、どういうおつもりですか?」

 

それに対し、椛山は話すべきか逡巡するが、金剛はにっこりと頷くのを見て問題ないと判断したのだろう。彼は、意を決して口を開いた。

 

「うむ。これは、会議よりも前。司令長官同士の会議で決められた事だ。貴様のこれまでの功績を鑑みて、な」

「・・・・・・はい?」

 

『占部のジジイの悔しそうな顔が目に浮かぶわ』と笑い飛ばす椛山を余所に。徹心が一年以上前―パラオへの赴任を命じられた時と同じ反応をしたのも、ある意味無理からぬことであったかもしれない。

 日本が生んだ最初で最後の装甲空母であり、第二次マリアナ沖海戦では深海棲艦相手に大立ち回りを演じて見せた大鳳。

 艦娘作戦第一号―琉球決戦にて、連合艦隊復活の狼煙を上げた艦娘、大和。

 そしてかつての第十一艦隊総旗艦にして、第六次、第七次ソロモン海戦勝利の立役者、“金剛御前”こと、金剛。

 いずれも単体戦力としては日本、いや世界最高峰とも言える艦娘が何故一時的にとは言え自分の所に預けられるのか。

 

「閣下、理由の―」

「それなら、答えは一つ。“二の手”だ」

 

脳内目がけて疑問が大挙して押し寄せる中。場所を椛山の執務室へと移し、開口一番に『説明を求めます』と言おうとした徹心の言を遮って、椛山は説明を続ける。

 

「根拠の一つに、航空兵力がある。東郷、第四十四戦隊に所属する母艦級艦娘は?」

「それなら雲龍と千歳、千代田、飛鷹、隼鷹の五隻です」

「そうだ。だが、千歳と千代田はまだ空母への改装を済ませていない。実質、『航空』母艦と言えるのは三隻だけだろう?」

「・・・・・・仰るとおりです」

「第十一艦隊は言わずもがなだ、一航戦と二航戦がいる。勘の良い貴様の事だ、おおかたの想像はできているだろう」

「二重、そして三重の備え、ですか・・・・・・?」

「そうだ。加えて万が一敵がこちらの戦略目標を見抜いていた時に備え、陣容を補強し“どちらも本命”と錯覚させる。他にも大小問わずあるが、金剛達を東郷の元へ預ける主な理由はそんなところだ」

 

金剛の淹れた紅茶を口にしつつ、椛山はそう締めくくる。それを聞いていた徹心の方はこれまでに無いほどの重圧をその身に感じていた。

 旅順脱出から宿毛湾、横須賀からパラオへの転属に始まり、ル級の撃退にトラック艦隊救援。沖ノ島の敵艦隊撃滅、キス島救出作戦とこれまで彼の艦隊が関わった重要な作戦は、言ってしまえば場当たり的、もしくは上意下達の産物が大半を占めていた。第十一艦隊の次席幕僚だった大尉時代はそうでも無かったが、自分が最初から主体となって行動するのは実質これが初めてでもある。

 ましてや、連合艦隊において最も高名な三隻の艦娘を預けられると言う事は、即ち海軍の威信を背負うに等しい。艦隊司令官として強靱な精神を持つ徹心であっても、押し潰されそうな感覚を味わっているだろう。

 

「今、『命令であるならば、やり遂げましょう』とか考えてたな?」

「・・・・・・!」

「東郷、貴様は確かに優秀だ。明晰な頭脳、鋭い洞察力、艦娘や部下達を慮る人間性も、時には駒として見る冷徹さもある。だが何事も『命令』や『使命』―義務感で考えがちなのは、貴様の悪い癖だ」

 

まるでそれを見透かしているかの様な椛山の言葉が、針となって徹心に突き刺さる。刃の様に鋭いわけでは無いが、じわじわと広がっていくかの様な痛みを伴って。

 

「確かに、上官の『命令』を遵守し、国家国土国民の安寧を守るのが、帝国軍人としての『使命』ではある。だがあの時・・・・・・あ号艦隊決戦の後の演説で説いただろう?

『隣に居る人の背中を守ることは、そこから家族、友人、思い人を守る事へと繋がり、それが沢山繰り返されれば、やがては国家を、国民を守る事へと繋がる。』、と。

 あの言葉は、嘘とまでは行かずとも間違いだったとでも、言うつもりか?」

「閣下、もうそれくらいで・・・・・・」

「タカシの言う通りデース。いくらテッシンでも・・・・・・」

「二人は黙っていろ。私は此奴に、第二艦隊麾下第四十四戦隊司令官、東郷徹心に話をしている」

 

 重苦しい沈黙が執務室の中を満たしていき、その中心に据え付けられた徹心の顔は、見る見るうちに苦渋の色に染め上げられていく。表情こそいつも通りの、眉間に皺の寄った仏頂面だが、その内側は今にも崩れ落ちそうな程揺らいでいる事は、額に嫌な汗が浮かんでいる事からも明らかだ。

 

「閣下・・・・・・自分は決して・・・・・・」

「・・・・・・・・・・・・まあ、貴様も秋満と同様、まだまだ若造だ、一朝一夕に答えを出せとは言わん。偶には頭に何も浮かべず、直感だけで行動する事も重要、と言うことだ」

 

 カチリ、と時計の針が妙に大きく感じられる音を鳴らして動いたと同時に。椛山から発せられた覇気は一瞬にして霧散し、徹心も、側にいた秋満も金剛もその重圧から解き放たれる。

 

「さて、呼び立てて悪かったな、二人とも。今頃秘書艦は首を長くして待っているだろう、早く行ってやりなさい」

「はっ。では、失礼致します」

「うむ、東郷もまた後でな」

「・・・・・・はい」

 

 

――――――

 

 

 一方その頃。随行の艦娘達に宛がわれた控え室にて、扶桑は内心困惑していた。その最大の理由が・・・・・・

 

「んごがっ・・・・・・」

 

 部屋の一番奥の方。大口を開けてだらしのないイビキを掻く、褐色の肌をした女だった。場所を考えると、アレも艦娘なのだろう。

 

「何だか見ないうちに、変わった人が増えたわね・・・・・・」

「あれっ、扶桑? 扶桑だよね!?」

 

 そんな中、彼女の姿を認めたのか、部屋の奥から駆け寄ってくる者が。黒い髪はかなり短く切られ、本人の口調と合わさって明朗な印象を与える。それこそ、女性用に作られた第四種礼装でなければ美男子と見間違える程には。そして扶桑は彼・・・・・・もとい、彼女の事をよく知っていた。

 

「まあ、最上さん。貴女も来ていたのね」

「何年ぶりだろう!? うわぁ、本当に久しぶり! 提督にはもう会った?」

「提督って、西村提督に・・・・・・?」

「あ、いや、その・・・・・・うん」

 

 艦娘―最上との再開を喜んだのも束の間。かつての上官の名を出した所為で、扶桑の表情が途端に曇る。

 

「ゴメン。まさかあんなに思い詰めるだなんて、思ってもいなかったから・・・・・・」

「その事はもう良いのよ。私の中で、決着は着けたわ。それに今は、西村提督と同じくらい優秀な方の下で働けているんですもの」

「それって、例の?」

「東郷徹心大佐、でしたよね扶桑さん」

 

この言を聞いてか、後ろで本を読んでいた艦娘が歩み寄って来た。長い黒髪に丁寧な口調と、顔つきはやや垢抜けない点を除けば纏う雰囲気も含めて扶桑とうり二つの様にも見える“大和撫子”。

 第十一艦隊次席旗艦、赤城型正規空母級艦娘、赤城だ。

 

「お久しぶりです。立場は違いますが、また轡を並べられる事を光栄に思います」

「こちらこそ、二度も“仏の扶桑”と共に戦えるのは望外です。改めてまた、よろしくお願いします」

 

 互いに挨拶を済ませ、空いている席に座って会話に花を咲かせる三人。特に赤城と扶桑はかつてレイテ戦役の緒戦で共に戦った過去もあり、最上に至っては第十艦隊の元同僚だ。久しぶりに感じる懐かしさに、扶桑はまるで年頃の娘の様に、時に朗らかに。時に多少大げさな素振りを見せつつ談笑に興じていた。

 

「えっ? 提督は、第十一艦隊にもいらっしゃった事があるんですか?」

「ええ、そうですよ。椛山中将、今の第一艦隊の長官がまだ司令官だった頃、主席幕僚だった秋満提督の後輩として、四国から移ってきたのが東郷大佐だったんです」

 

話は次第に、扶桑の知らない徹心の過去へと踏み込んでいく。赤城はそれも、色々と話してくれていた。

 着任当初から、幕僚の一人としてその才能の片鱗を見せていたこと。急遽別働隊を指揮することになった際には、椛山の期待していた以上の成果を叩き出したこと。そして何より・・・・・・

 

「あの“旅順の英雄”と呼ばれるほどの人ですもの。年に似合わず軍人として、人として、とても錬られた人物だった事は良く覚えていました」

「確かにあの時の提督の目は、『不可能を可能にする』様な光を放っていたような気がします。私を救ってくれたのも、それから羽ばたかせてくれたのも、あの人が私を『信じてくれた』からだと思います」

「ねえ、扶桑」

「何かしら?」

「あのさ・・・・・・」

「失礼します! 赤城先輩はいらっしゃいますか?」

 

かつての同僚の活躍を誇らしく話す赤城に対して、扶桑は相づちを打ちながら時折自身の主観も交えつつ会話を繰り広げる。そんな中へ、扉を開けて一人の少女が控え室へと現れた。

 黒髪をひっつめにしており、年かさは十代半ばくらいだろうか。顔つきは・・・・・・よく言えば素朴、悪く言えば田舎臭さを感じさせる。服装は白と青のセーラー服に紺色のプリーツスカートを合わせ、襟元を留めているのは黒のリボンタイだ。

 

「吹雪さん・・・・・・」

「・・・・・・お久しぶりです、扶桑先輩。お元気そうで、何よりです」

 

 その姿を認めた赤城は、少女―吹雪を二人に紹介し、彼女も名乗る。最上も再会を喜んでいたが、扶桑だけはただならぬ顔で目の前の駆逐艦級艦娘を見つめていた。対する吹雪の視線も、複雑なものを含んでいた。

 

「秋満司令官から伝言です。『会議が終わったので、いつもの店で落ち合おう』、だそうです。それと扶桑先輩、東郷司令官は秋満司令官にお呼ばれしてるので、合流して欲しい、だそうです」

「解りました。では皆さん、私はこれで」

「うん、また後で。それにしても扶桑、どうしたの?」

 

吹雪と共に赤城がその場を辞した直後、扶桑は大きく溜息を吐いた。その様子を見て、最上が怪訝そうに彼女へと話しかける。

 

「最上さん、スリガオ海峡に行ったときの編成を覚えているかしら?」

「それって『最初』の? それとも、『二回目』の方?」

「『二回目』よ。確か私たち旧西村艦隊に、磯風さん、谷風さん、春雨さん、だったわね」

「大体そうだけど・・・・・・あ、思い出した。沈んではいないけど、戦線離脱した駆逐艦の中に吹雪がいたね確か」

「ええ・・・・・・」

 

 レイテ戦役の内の一海戦である“第二次スリガオ海峡海戦”。連合艦隊で参戦したのは、当時扶桑が率いていた第十艦隊―新西村艦隊と、臨時編入された二個駆逐班の計十五隻。最上の記憶が正しければ、後者の方に吹雪がいたと言う。

 

「やっぱり、山城が沈んで、扶桑が壊れたのがよっぽどショックだったのかなぁ・・・・・・。あの時はちょっと話しただけで、凄く憧れていたのが解ったし」

「私に?」

「うん。“仏の扶桑・閻魔の山城”と来れば、戦時就役して直ぐに沈んだり、あの戦争が始まる頃には二線級扱いされていた艦娘達からは、英雄みたいな存在だったんだよ。

 過去が恵まれなくとも、武勲を立てれば栄達できる。それを体現した艦娘としてね」

「そうだったの・・・・・・あの日私が折れなければ、吹雪さんも折れずに済んだのかしら・・・・・・? いいえ、これは今は問うべき事ではないわね」

 

『最後まで戦い抜けたとしても、山城が居なくては変わらない』

 

 その事を嘆き、悲しみ、絶望の末に総てを諦めかけていた。だがそれも、パラオへ転属した事で二度目の転機を迎える。今の彼女に、過去の呪縛はもう無くなっていた。

 

「・・・・・・良かった、やっぱり元気そうで。これでボクも、時雨達に良い土産話ができたよ。それじゃあ、また後で。今度はたぶん、作戦開始直後になるだろうけど」

「ええ、また」

 

そう言って去りゆく最上の後ろ姿を見送りながら、今一度扶桑は溜息を吐いた。あと少しで、揃ってスリガオを『越えられる』筈だった。だがあの日、ほんの僅かな歯車のズレで、それは叶わず、一人の艦娘の夢も疵付けてしまった。

 

〈でも、今は違う。私はもう・・・・・・二度と折れないわ。東郷提督の、あの人のためにも。それで命を落とす事になっても、二度と・・・・・・絶対に!〉

 

 

――――――

 

 

 控え室を出て秋満との待ち合わせに向かう最中。赤城と吹雪の間には、得も言われぬ気まずい雰囲気が漂っていた。原因の一端は、あの場で赤城と談笑していた扶桑にある。

 吹雪型、もとい特型駆逐艦はこれまでの常識を打ち破る画期的な駆逐艦だったが、実寸艦艇が就役した当初ならいざ知らず。艦娘としての吹雪型が世に出る頃には、彼女より後に就役した初春型や白露型に朝潮型。そして艦隊型駆逐艦の最終形態である陽炎・夕雲・秋月型がほぼ同時に戦線へと投入されている。

 それ故に、埋もれてしまった。最前線の苛烈な戦いに身を投じる機会を得られたのはごく一握り。だからだろう、扶桑と山城に憧れたのは。

 過去を考えれば、それこそ悲運としか言いようのない二人。だがそれを乗り越え、撥ね除けるために遮二無二に戦い、そして戦果を上げてきた。最上の言ったとおり、吹雪にとって扶桑は英雄だったのだ。

 それ故に、山城が轟沈して以来。壊れてしまった憧れの艦娘から、彼女は目を背けてしまった。レイテ戦役終結後、旅順軍港の警備部隊に配置されていたが、戦力の再建を図る第十一艦隊へ深雪と共に移籍を承諾したのは、それから数年ほど経った後である。その際に出会った赤城に、扶桑の影を見た吹雪は固く誓った。今度こそ、守り抜くと。

 

「吹雪さん? どうかしました?」

「はっ、はいっ!!」

 

その誓いが顔に出てしまっていたのか、心配そうに声を掛けられるまで、彼女は思考の海に沈んでいた事に気がつかなかった。

 

「良かったですね。扶桑さんも壮健で」

「はい・・・・・・あの、赤城先輩」

「何かしら?」

 

 歩きながらうつむき気味に、吹雪は赤城に問う。

 

「もし、赤城先輩が憧れている人が、その・・・・・・凋落してしまったら、どう思いますか・・・・・・?」

 

その台詞を聞いた途端。彼女の表情が少しだけ苦み走ったものになる。

 二月頃。第四十四戦隊の指令艦、“鞍馬”が補給のため横須賀へ立ち寄った時の出来事だ。

 そこで“鞍馬”は、単冠湾に出向していた駆逐艦不知火と、潜水艦伊8。そして、現地で逮捕された五人の軍旗違反者を下艦させている。その中に赤城にとって、いや全ての空母達にとって重要な人物がいた。

 軽空母鳳翔。実質世界初の“正規空母”であり、日本の空母達の“母”でもある。その彼女が逮捕されると言う事態に、赤城を始め横須賀に籍を置いている空母達は騒然となる。中には、『何かの間違いなんじゃないか』と軍令部と憲兵司令部に直談判しに行く剛の者も現れた。

 だがそれは“蝮の高峰”こと、軍令部査察部の高峰春斗によってあらゆる証拠と盤石の理論武装で全て否定される。特に、彼女がかつてのコネクションを使って様々な物品を不当に入手していた事が決定打となり、いつしか鳳翔を擁護する声は艦娘からも、鎮守府からも消えていった。

 

「・・・・・・もしその人に非が無ければ、立ち直る一助となっていたかもしれません。ですが―」

 

赤城の脳裏には、その時の鳳翔の顔が鮮明に焼き付いていた。絶望に彩られた、“母だったもの”の表情(かお)が。

 彼女は続ける。

 

「ですが、その人の意思の結果、そうなったのだとしたら・・・・・・身から出た錆びと、諦めます」

 

そう話した、もう一人の憧れの先輩。辛辣な言とは裏腹に、吹雪には目の前の彼女がとても悲しそうな顔に見えた。

 

 




「う~ん、何でぇ・・・・・・?」

「それが、それが“Burning love”、と言うものデース」

「―あのっ、提督!」




「今度の大規模作戦が終わったら―」




次回、『青い感情』


心があるから、苦しいんだ。
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