名無しの英雄~パラオ艦隊戦記~   作:レイキャシール

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予想以上に長くなってしまったので、今回は前半と後半の二つに分けます。


第六話:俊足対神速・前編

☆★★☆

 

 

 足柄がパラオに着任してから数日、徹心らパラオ艦隊は任務をこなす傍らで訓練に明け暮れていた。

 

「四時の方向、距離2500、砲撃用意っ!!」

「『「了解!」』」

 

 暫定的に旗艦となっている彼女の指示で、主砲を模擬戦用の標的に向ける五月雨達。重巡洋艦は過去の事例においても、複数の水雷戦隊を束ねることがあり、彼女もなかなかに様になっていた。

 

「第一戦速! 主砲、斉射三連、てーっ!!」

 

 号令一下、一斉に放たれる主砲。大小様々な口径の模擬弾が標的艇に命中し、そうなったことを示す白煙が上がる。

 

「だんちゃーく! きん、えん、きょうさ! めいちゅう7!」

「ふむ・・・・・・さすがは重巡、と言ったところか。この調子なら、良い勝負が出来そうだな」

「しつれいします!」

 

それを遠くから観察していた徹心の下に、妖精が伝令に現れた。

 

「しれいかんどのにごらいきゃく、であります!」

 

「了解した。応接室にて待つよう伝えてくれ」

「りょうかいであります!」

 

 

★☆☆★

 

 

 応接室にやってきた自分を待っていたのは、一人の艦娘だった。

 黒い髪をポニーテールにまとめ、額に巻かれた白い鉢巻きが快活そうな印象を与える。服装は白い袖無しセーラー服と、柿色のスカートに臙脂色のスカーフという、名取と同じ服装。と言うことは・・・・・・。

 

「初めまして。軽巡、長良です。よろしくお願いします!」

 

 やはり、長良型軽巡洋艦娘の一人だったか。しかし、奇妙な巡り合わせもあったものだな・・・・・・。

 

「パラオ泊地艦隊司令官の、東郷徹心だ。こちらこそ、よろしく頼む。それにしても、昨日の今日で名取に続いて、か・・・・・・」

「えっ、名取もここにいるんですか!?」

「ああ。先日、建造という形でこの艦隊に配属されている。確か今は、訓練に・・・・・・」

「本当ですか!? 早速会いに行ってきます!!」

「あっ、おい・・・・・・。行ってしまったか」

 

 自分が言い終わるのも待たずに、脱兎の如く飛び出していった長良。仕方なしに追いかけて訓練場に行くと案の定、彼女は名取に絡んでいた。

 

「名取~、久しぶり~!」

「ふぇえっ!? な、何で長良ちゃんがここにいるのー!?」

「何で、ってここに配属になったんだよ。ちょっとドジ踏んじゃって」

 

 長良のその台詞を聞いて、重要なことを思い出した自分は、彼女の持ってきた命令書を五月雨にとってこさせ、それに目を通す。

 

「えっと、『軽巡長良。右の者、艦娘運用に支障を来した罪により、パラオ泊地への懲罰転属を命ずる。内閣海軍大臣、角川義満。連合艦隊第二艦隊司令官、宿雁清司朗』。・・・・・・どうやらここは、本当に訳ありな艦娘の集まりの様だな・・・・・・」

 

 だが懲罰とは言え、他の拠点から転属してきた彼女の存在は、素直に歓迎できる。最初の内は勝ち目がないだろうと思っていたが、これなら少しは希望が見えてきたか・・・・・・。

 

 

――――――

 

 

 長良が合流してから更に数日後。演習の前日に余裕を持って指定された拠点へと移動し、自分はそこで持ってきた仕事の一部を、宛がわれた士官室で片付けていた時のことだった。

 この部屋に用事があるのか、都合三回、乾いたノックの音が室内に響き渡る。

 

「どうぞ。鍵は掛かっていませんよ」

「許可キタコレ! それでは、失礼をば」

 

 誰かもわからないので、とりあえず丁寧語で入室を促す。それを受けて、可愛らしい声で妙ちきりんな台詞を吐きつつ、ノックの主が部屋に入ってきた。

 桃色の髪を頭の両側面でまとめ、白と紺のセーラー服に身を包んだ、十三~十四位の少女だった。

 彼女の名は、(さざなみ)。綾波型駆逐艦娘の一人だ。

 自分が兵学校を卒業した後、最初の赴任先で故あって四人の駆逐艦娘を指揮したことがあるのだが、その内の一人が彼女だったのだ。

 

「お久しぶりです、ご主人様」

「元気そうだな、漣。かれこれ三年ぶりか・・・・・・。それと、自分は艦娘を、従者家臣の類いと見るような連中とは違うと、以前も言ったはずだが」

「テヘペロ♪」

「・・・・・・。吹雪や電は元気にしているか?」

 

 ここで話題を、他の艦娘のそれに切り替える。吹雪や電は真面目だったし、叢雲は態度こそ突っ慳貪(つっけんどん)だったが指示にはちゃんと従っていた。しかし、どうもこの漣という艦娘は掴み所がない様に思える。

 任務には忠実ではあるし、指揮した時もよく働いてくれた。上官に対する礼節も弁えているが、時折、奇妙奇天烈な言動をすることがあるのが玉に瑕。と、自分の目には映っている。

 

「他の面々は、人事異動で別のところですよ。確か、吹雪は大湊に移って、叢雲はトラック泊地勤務。電は、最近横須賀に栄転したとか」

「鎮守府勤務か。今度何か、祝いの品でも贈っておこうか」

「それが良いですよ、きっと。何より、あの子は可愛いですからねぇ。何というか、庇護欲を刺激されると言うか・・・・・・」

「・・・・・・部下を相手に劣情を催す様では、帝国軍人はやってられんさ。どちらか片方が触れ合いと思っていても、他方ではそう思われるとは限らないからな」

「相変わらずの堅物っぷりみたいで一安心しましたよ。では、そろそろ・・・・・・」

「もう行くのか?」

「ええ。私も、風祭水雷戦隊の一員ですので」

「そうか・・・・・・。お手柔らかに頼む」

「そこはそれ、風祭提督の匙加減(さじかげん)次第ですよ。それじゃあ、失礼しました。ノノ」

 

 そう言って、最後にまた変梃な単語を付けてから、漣は退室していった。さて、と・・・・・・。自分もそろそろ、作戦の最終打ち合わせに行かねばだな・・・・・・。

 

 

――――――

 

 

「ではこれより、パラオ泊地艦隊第一戦隊と、タウイタウイ泊地風祭艦隊、第二戦隊との演習を開始します! 互いに、礼!!」

「『『よろしくお願いします!!』』」

 

 演習海域は天気明朗に加えて波も穏やかで、まさに絶好の演習日和と言える今日、そのほぼ中央で、双方の艦娘が向き合っている。

 双方の間に立つ、銀色の結い上げられた髪が特徴的な陽炎型駆逐艦娘―確か、“野分(のわき)”、と言ったか―の音頭で一礼し、それぞれの配置へと分散していく艦娘達。

 今、自分たちがいるのはパラオでもなければ、風祭中佐のタウイタウイでもない。連合艦隊ラバウル基地。南方、および南西諸島関連の作戦を統括する、海軍の重要拠点だ。

 別の拠点の艦娘同士の演習の場合、言い方は悪いが、どちらか一方、あるいはその両方の妨害工作を防止するために、第三拠点で行うことが軍法で規定されており、自分達の場合は、それをラバウル基地ともう一つ、ブイン基地が担っているのだ。

 

「それにしても・・・・・・奇妙な縁も、あったものですわね」

 

ここでふと、風祭中佐が懐かしむように口を開く。

 

「神通だけでなく、漣とも知己の仲とは、世の中というのは狭いものですわね」

「ええ。時間があるときにでも、昔話をしようと思っています。それはそれとして、こちらにも新戦力も加わったんです。胸を借りるつもりでいましたが、勝ちに行かせていただきますよ」

「あら? 簡単には、負けるつもりはなくってよ」

 

 

☆★★☆

 

 

「久しぶりだね、神通っち」

 

 演習が始まる直前。私の向かいに立つ艦娘、北上さんが、私に声を掛けてきました。その隣には、蜂蜜色の髪をした艦娘が。もしかしなくとも、彼女が・・・・・・。

 

「えと、パラオに移ってから、足かけ二年くらいだっけ?」

「北上さんもお元気そうですね。もう、そんなに経ったんですか・・・・・・」

 

 私の方は、あまり変わっていないかもしれませんが、北上さんは二年前と比べて明らかに変わっていました。

 左手と両足に、魚雷発射管を増設。雷撃能力が劇的に上がったことが、見た目にも判りやすく訴えてきています。

 

「あ、あの・・・・・・お二人は知り合いなんですか?」

「知り合いも何も、阿武隈っち。以前の相棒だった神通っちだよ。話してなかったっけ? 紹介するけど、こっちは阿武隈っち。今の私の相方だよ」

「初めまして、神通です」

「阿武隈です・・・・・・。あ、あなたが・・・・・・」

「はい?」

「『風祭組の鉄砲玉』とあだ名されていた、神通さんですか」

「・・・・・・」

 

『鉄砲玉』、ですか・・・・・・。そんなつもりで戦っていた訳じゃないのに・・・・・・。

 

「あー、阿武隈っち。神通っちはそういうの気にする方だからさ、あまり触れないであげてね?」

「それでは、各戦隊は所定の位置に移動してください!!」

 

 話が弾んでいる内に、演習が始まりを告げる合図があったので、それぞれの持ち場へと分かれる私たち。久しぶりの戦いです。気を引き締めて行きましょう・・・・・・!

 

 

★☆☆★

 

 

「それでは、演習開始ッ!!」

 

 双方の艦隊が配置についてから数刻後。戦いの始まりを告げる信号弾が撃ち出され、海域の上空で炸裂する。

 

「てきかんたいはっけん! 8じのほうこう、そうたいきょり4000!」

「接敵までの推定時間は?」

「およそ、3ふん!」

「それじゃあみんな、打ち合わせ通りに、“例の陣形”で行くわよ!!」

「『「了解!!」』」

 

 パラオ側で参加しているのは足柄と、自ら志願した神通。他に参加しているのは、五月雨と長良。そして、名取と響の六人だ。

 その旗艦を任せられている、足柄の船員妖精が相手の艦隊を捕捉した旨が、各隊に通達される。彼女たちはそれを受けて、徹心から事前に指示されていた陣形に変更。敵艦隊に向かって真っ直ぐに突撃を開始した。

 

「ありゃま。突っ込んでくるよ、あの人達」

「げいげきしますか?」

「当然。じゃあま、単縦陣組んで、固定射撃体勢に移行。弾幕で歓迎しましょうかねぇ!」

 

 その様子は、風祭戦隊の方でも既に捉えており、北上の指示で隊列が組み直される。そして、突撃を続ける足柄達目がけて主砲が放たれた。

 縦方向に一直線に向かってくるパラオ側に対し、タウイタウイ側は横一列に並んでいる様に見える。この戦法は“T字戦”とも、“丁字戦”とも呼ばれるもので、片弦のみに全火力を指向できる艦隊、この場合はタウイタウイ側の方が一般に有利とされている。

 その状態で、駆逐艦や軽巡と言えども、すべての火力が突っ込んでくる側の艦隊、その先頭に突き刺さる上に、他の艦は前が邪魔で反撃しにくく、これは一方的な戦いになると、誰もが予想していた。

 しかし・・・・・・

 

「ふぎゅっ!」

「!?」

 

風祭戦隊の一人、駆逐艦浦波の顔面に模擬弾が命中。戦闘不能判定を受けたことで、その予想は崩れ去った。

 

「妖精ちゃん、敵さんの陣形は!?」

「そ、それが・・・・・・てきはふくじゅう・・・・・・いえ、たがいちがいにならんでいます!!」

「互い違い!?」

 

 船員妖精に問い詰めたところ、返ってきた答えに驚愕する北上。それもそのはず。パラオ艦隊がとっている陣形は、“海戦(・・・)の”陣形ではないのだから。

 

「互い違い、ってことは魚鱗陣形ってこと・・・・・・? 戦国時代じゃあるまいし・・・・・・」

「てきかんたい、せっしょくします!!」

「っ、散開して、各個に・・・・・・」

「遅いッ! 全然遅いッ!!」

「!?!?」

 

 北上が指示を出そうとした直前。パラオ艦隊はそれぞれ二手に分かれて風祭戦隊に襲い掛かる。具体的には、偶数番が右翼を。奇数番が左翼を狙っているのだが、これで風祭戦隊は左右に分断される形となってしまった。

 丁字戦のメリットは火力の一点集中にあるが、敵を撃破仕切れずに隊列を寸断、あるいは通過されると、今度は自分たちが不利になる。いわば利点がそのまま弱点にもなり得るのだ。もちろん、逆に包囲殲滅されるリスクもあるが、双方の数が同数である以上、現状でその心配はない。

 徹心は敢えて、海戦では常識外の戦術をとることで、練度の差を埋めにかかったのだ。これに関しては、足柄の火力を見せつけ、且つ風祭戦隊の一隻を行動不能に陥らせたことで、取り敢えずの成功を収めていた。

 

《これは・・・・・・末恐ろしいわね・・・・・・。各艦は固定射撃体勢を解除。敵をそのまま通過させた後、陣形を再編して反航戦に持ち込みなさい》

「旗艦了解、皆に伝えときますよ。・・・・・・さて、と。どうしたもんですかね・・・・・・」

 

 杜宇子の指示を聞いた後、ぼやきながらも移動する北上。さすがの彼女も、この展開は予想できなかったようだ。

 その後、双方がすれ違いざまに撃ち合う反航戦の状態となり、お互いに決定打を欠いたまま、戦線は早くも膠着するかに見えた。

 

《しょうがないわね。北上さん、島風さんを呼び出して》

「はいなー、お待ちを・・・・・・。変わりますよ」

 

 しかし、杜宇子が一人の駆逐艦娘を通信で呼び出したことが、状況を一変させる契機となった。

 

「なんですかー?」

《島風さん、調子はどう?》

「もう退屈ですよー。敵も味方も、みんな遅い艦ばかり、嫌になっちゃいます」

《そう・・・・・・。なら、今回だけは許可します。思いっきり掻き回してしまいなさい!》

「本当ですか!? じゃあ、行っきまーす!!」

 

 当の呼び出された本人、島風は戦隊の異端児として、杜宇子自身も持て余し気味だったが、唯一、その足の速さを活かした撹乱戦において戦果を挙げてきている。彼女は、それに賭けたのだ。

 

「てきかん1せき、とっしゅつしてきます!」

「好都合ね。弾幕を張りなさいな! 十字砲火で、今度はこっちが袋だたきにしてあげるわ!!」

 

 突出してきた島風は当然、パラオ艦隊の前に現れる事となる。それを見た足柄は、先ほどの意趣返しだと言わんばかりに、火力を集中するよう指示する。それによって撃ち出された砲弾の数々が、群れに迷い込んだ羊に襲い掛かる餓狼のごとく、島風へと殺到する。

 しかし、それらは当たることは叶わなかった。

 

「んなぁっ!?」

「嘘、躱された!?」

 

彼女はあろう事か、繰り出された攻撃全てを避けてみせたのだ。それも、信じられないまでの反応速度でだ。

 

「連装砲ちゃん、お願いね!」

「きゅー!」

 

 間髪を入れずに島風は、自身の艤装の一部であり、仲間でもある謎の生き物―連装砲ちゃんをけしかけ、砲撃させる。そしてその砲火が、攻撃を回避されたことで呆気にとられていた、長良を捉えた。

 

「くあっ!!」

 

 放たれた模擬弾は彼女の肩に命中し、その衝撃で手に持っていた主砲を取り落としてしまう。さらに怯んだ長良目がけて、今度は北上率いる本隊が追撃を仕掛けてきた。

 

「酸素魚雷、行きますよぉっ!」

 

 その際に北上の放った酸素魚雷が炸裂し、長良は大破判定を受けてしまう。

 

「くうっ・・・・・・足には自信があったのに・・・・・・。もっと鍛えておけば・・・・・・悔しいっ・・・・・・!」

島風(あれ)を放っておくと、厄介ね・・・・・・!」

 

 これではキリがないと判断した足柄は、残っている五月雨達に近接戦闘を指示。自らも魚雷を撃ちつつ、何とか組織的戦闘の維持を試みる。

 しかし、島風の突入が呼び水となって、戦線は完全に乱戦状態に持ち込まれてしまった。こうなってくると、個々の練度の高い風祭戦隊の方に分がある。通常艦艇にせよ艦娘にせよ、もとより水雷戦隊は乱戦において、その能力を発揮するのだから。

 

「密集して! 雷撃を警戒しつつ、各艦の連携を密に!!」

「島風っちが暴れてくれた事だし、一気にいっちゃいましょうかねぇ!!」

 

 足柄の檄が飛び、北上の号令一下、入り乱れる様にして戦い始める両者。

 砲撃と雷撃が交錯し、撃ち合いによって被弾していない艦娘は、双方共に皆無となりつつあったその最中だった。

 

「そこまで!! 現時刻をもって、昼戦段階を終了! 日没を待って、夜戦段階へと移行します! 撃沈、大破判定を受けた艦娘は、各自申告の上で編成から外れるように! 以上!!」

 

 海域上空に再び信号弾が打ち上げられ、審判を務めていた野分によって、前半戦が終了したことが周囲に知らされる。それを受けて、参加している艦娘達は、各々の提督が待つ場所へと一旦戻っていった。

 

 




後半へ続きます。
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