名無しの英雄~パラオ艦隊戦記~   作:レイキャシール

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あれやこれやと試行錯誤していたら元号が変わってしまいましたが、なんとか完成しました。

それでは、どうぞ。


第五章・第二話:青い感情

 

 

 赤道が直ぐ近くを通る都合上、時折接近する暴風雨を除けば、パラオは晴れ模様が多く、そして同時に暑い日も多い。そんなある昼下がり、いつもの様に駆逐艦達が沖合で射撃訓練に励んでいた。

 ウキの上に台座を組み、その更に上に円形の的が立てられた状態でそれらを砲や機銃で撃つ。実寸大の艦艇ではあり得ないほどの距離で、しかも互いに静止しているとは言え、揺れる波の上で命中させるのは意外と難しいものだ。

 

「う~ん・・・・・・何でぇ・・・・・・?」

 

現に彼女―白露型六番艦の五月雨は、連装砲の再装填をしながら首を捻っている。

 

「ん~、五月雨ちょっと調子悪いっぽい?」

「おっかしいなぁ。いつもはもうちょっと当たるんだけど・・・・・・」

「そりゃあ、提督さんがおらんけぇ。五月雨ちゃんとしては、調子が出ないからのぅ?」

「!?」

「提督さんがここへ来たとき、いの一番に盃もろうたって、妖精ちゃん達が話しとったけぇ。単なる噂じゃ、思うとったけど・・・・・・あながち間違いでもなさそうじゃな」

「提督とはそんな関係じゃ・・・・・・」

「えぇてえぇて。せっかく『娘』に生まれ変われたんじゃ、楽しまんと」

 

驚きのあまり射撃が明後日の方向へ飛び始めている五月雨に対して、浦風は余裕と言わんばかりに片手で主砲を発射。ほぼ全弾を的の中央付近に命中させてみせる。会話しながらである事を抜きにしても、波や風によるぶれを勘定に入れた完璧な射撃だった。

 

「ん~この感じ、素敵じゃぁ・・・・・・」

 

端から見ると危ないくらい、うっとりした顔で銃口から漂う硝煙を吹き消す浦風。その彼女を見ながら五月雨は自身と、ここ半年ほどで加わった同僚とを見比べていた。

 身長は頭半分ほど浦風の方が高く、手足の長さも体格も勝っている。そして何より、女としての肉体は圧倒的に彼女の方が格上だ。性格は明るく、青い髪に白中心の服装。主兵装は両手で二丁持ちと共通点は意外と多いが、こうして比べてみると劣っている事を思い知らされ、五月雨の心情は更に暗くなる。

 

「そー言えば、提督さん達。そろそろ帰ってくるっぽい?」

「あぁ、それなんじゃが。どうも新入りと一緒らしいのぉ」

「新入りっぽい?」

「ほうじゃ。何でも、次の作戦のためだとか何とか・・・・・・とにかく、帰ってきたら顔合わせは確定じゃな」

 

 空気を入れ替えようと、別の話題を振る夕立。だが浦風の口から出てきた言葉に、彼女は再び表情を暗くする。

 

〈提督・・・・・・もう私の事、どうでも良くなっちゃったのかな・・・・・・?〉

 

 

☆★★☆

 

 

『君は?』

『あ、失礼しました! 白露型駆逐艦六番艦、五月雨(さみだれ)って言います。よろしくお願いします!』

 

 最初抱いた印象は、何というか・・・・・・ちょっと怖そうに見えました。

 カミソリみたいに鋭い目をしていて、それでいて初めて見た時も、時間をおいてまた見た時も、提督は難しい顔をしていた。

 

『・・・・・・悪いことを聞いてしまったか。謝罪する』

『初霜、大丈夫か!?』

『皆、良く無事で戻ってくれた。ありがとう・・・・・・』

 

 でもそれは、頭の中で最良の選択を常に考えているからで、それを常に行動に移し、結果を残してきた。夕立ちゃん、春雨ちゃん、村雨ちゃん―旧二駆の皆はもちろん、神通さんも多摩さんも扶桑姉様達も提督の事を信頼してる。

 けどいつからだろう。提督を見てると、なんだか胸の辺りが熱くなり始めたのは。提督が他の艦娘や保住さん達女の人と話してると、なんだかもやもやするようになってきたのは。

 

「英国で生まれ、台湾沖から帰ってきた、帰国子女の金剛デース!! ヨロシクオネガイシマース!!」

「装甲空母の大鳳です。皆さん、よろしくお願いします!」

「大和型戦艦一番艦、大和です。作戦完了までの短い間ですが、パラオの一員としてお世話になります」

 

 提督と扶桑姉様が帰ってきたのは、あれから三日ほど経ってからだった。それも、新たに三人の艦娘を伴って。

 聞くと次の作戦のために一時編入となり、連携などを取りやすくするためにこうして同行してきたそうです。けどまさか司令部直属艦隊の皆さん、それもとっても強くて、皆が憧れる金剛さん達がいっぺんにパラオへ来るだなんて・・・・・・。

 

「綺麗な人ですね・・・・・・」

「カンゴーさんなら聞いた事あるっぽい。すっごく強かったって、ヒエーさんが言ってたっぽい・・・・・・」

「カンゴーじゃなくて、金剛でしょうに・・・・・・」

 

村雨ちゃん達が隣でひそひそ話しているけど、その声も私にはあまり入ってこない。

 

「はぁあ・・・・・・・・・・・・?」

 

 一通りの自己紹介を終え、後は各自での交流へと周りが移る中で、憂鬱な気持ちを吐息に込めて吐き出す。ふと前を見ると、カンゴー・・・・・・じゃなかった、金剛さんがつかつかと私の所へ歩いてくるのが見えた。

 

「ヘーイ、あなたが五月雨ですネー?」

「はっ、はいっ! よろしくお願いします!」

 

そう言って笑顔で、握手を求めてくる金剛さん。

 パラオへ移る前―大湊にいた頃。当時の新聞の一面を写真付きで飾っていたその人は、改めて近くで見ると、思っていたよりも小さく見えた。(大きいところは大きいですけど・・・・・・)

 この人も、提督の『昔』を知ってる人。そう考えると、また胸の辺りが・・・・・・

 

Hmm(うーん)・・・・・・何だか暗い顔をしていますが、どうかしましたカ?」

「なっ、なんでもないです・・・・・・」

「そうですカ。でも・・・・・・えいっ!」

「!?」

 

もやもやしてきたと思ったら、唐突に金剛さんは私の顔を両手で挟んできました。

 見た目に反して、ざらざらとした感触がほっぺたから伝わってくる。きっと、途方もないくらい努力して来たんだと思わされるほど。でも不思議と、不快感はあんまりなかったです。 -

 

「Bad conditionを吹き飛ばすには、Smileが一番! 『Sickness has born mentality』と言うくらいデース!!」

 

し、しっくねす・・・あ、もしかして『病は気から』、って言いたいんでしょうか? 帰国子女って、難しい言い回しを知ってるんですね・・・・・・

 

「それに、横須賀でテッシンも言ってたデース。『五月雨は突出した所こそないが、頼りになる艦娘だ』。悔しいですガー、それは事実みたいネー」

「えっ、提督が私を!?」

「ハイ!」

 

『それに・・・・・・』と、金剛さんは続ける。

 

「私達艦娘は、いつ別れが訪れても可笑しくないデース。ですから、伝えたいときに伝えたい事を伝える。それが一番大事だと思うワ」

「・・・・・・!」

 

 その台詞を言われた瞬間、私の体に電流の様な感覚が奔った。いつもは殆ど気にしない胸の鼓動が、まるで近くで太鼓でもたたいているみたいに大きく、強く聞こえてくる。提督の顔を思い浮かべると、何だか熱くなる様な・・・・・・・・・・・・これ、何なの・・・・・・?

 

「それが“Burning love”、と言うものデース」

「“ばーにんぐらぶ”ですか?」

「Yes! 大切な人のために、心を燃やして力に変える。私達艦娘はまだまだRiddleが多いですケド、少なくとも言える事は、テートクの為なら命だって掛けられる。“Love for Peace”、デース!!」

 

そう言って、弾けるような笑顔で答える金剛さん。『ラブ・フォー・ピース』・・・・・・何だかとっても、暖かいです。

 

「そうと決まれば、行動あるのみ! ヘーイ、テッシーン! 五月雨が何か言いたいことがあるみたいネー!」

「ふぇええっ!?」

 

 と思っていたら、なんといきなり金剛さんが提督を呼びつけてました。そしてその声に気づいた提督が、いつも通りの難しい顔をして近づいてくる。

 

「どうしたんだ、五月雨。何かあるのか?」

「えっ、あのっ、その・・・・・・」

 

 『ほら五月雨ェ、Cheer Up!』って、金剛さんの小声が聞こえてくる中、そう言って、目の前に立つ提督。

 初めて見たときと同じ、少し長い黒髪に鋭い目つきと、眉間に寄ったしわ。でもあの時と違って、違って見えた。なんて言えばいいのか・・・・・・男前、って言うのか。ともかく、普段通りの表情が心なしか輝いているように見えた。

 

「・・・・・・・・・・・・んっ。あのっ、提督!」

「何だ?」

「えっと、その・・・・・・お時間を、もらえますか!?」

「構わないが・・・・・・どうするんだ?」

「一緒に、来てもらえますか・・・・・・?」

 

 怪訝そうな顔をするあの人を連れて、やってきたのは泊地の正門前。守衛に立っている筈のお爺さんは・・・・・・またどこかへいなくなっている。

 

「まあ、いっか・・・・・・んんっ!」

 

 で、ここまで提督を連れ出したのはいいけれど・・・・・・どう切り出したらいいのか解らなくなってしまう。えっと、この場合・・・・・・

 

「つ、月が綺麗ですね!」

「・・・・・・まだ昼前だが」

「えっと、その・・・・・・毎日私に味噌汁を・・・・・・!」

「食事なら間に合っている。泊地の主計科要員の腕は確かだ」

「えぇっとぉ、あのぉ・・・・・・」

「・・・・・・・・・・・・」

 

って、違う違う! 何こんな時に何でぇ・・・・・・! 提督もだんだん不機嫌そうになってきてるし・・・・・・!

 

「・・・・・・そ、そう言えば、提督と初めて会ったのも、ここでしたね」

「・・・・・・そうだな。あの日も、似たような青空が広がっていたな。門も、建物も、艦娘も、最悪に近い状態だったのは今でも印象に残っている」

「そ、そのときはあの・・・・・・」

「まあ、今思えば状況が状況故にしかたがなかったと、思っている」

 

 頭の中が関係のないことで無茶苦茶になりかけたとき、ふっと発した一言に提督が返す。そこからは、自然と会話がつながり始めた。

 

「隼鷹さんがあの時酔っ払って―」

「浜風達の着任でも―」

 

 楽しかったこと、面白かったこと。辛かったこともひっくるめて、言の葉に乗せて話していく。ある程度の時間が経った頃合いを見計らって、私はいよいよ切り出した。

 

「提督、あのっ、そろそろ本題に入っても良いでしょうか!」

「? 今までのがそうじゃなかったのか?」

「そうじゃなくて、あの・・・・・・」

 

でもいざ言おうとすると、また言葉が出なくなる。喉に鉛で栓でもされた様な、重苦しい感覚。でも・・・・・・言わなきゃ。言わなかったら、きっと後悔するかもしれない。

 だから・・・・・・!!

 

「提督! 次の大規模作戦が終わったら、私・・・・・・はぇっ!?」

 

そう言おうとしたその時、提督の手が私の頭に乗っかってきた。視線を上にしてみると、そこにはいつもと違う、優しそうな顔をした提督が。

 

「本当に大事なことなら、今はまだとっておくと良い。決着がついたら、改めて聞こう」

「・・・・・・はいっ!」

 

 結局のところ、私は言いたいことを言えなかった。でも、今はまだ言うべきでないとも思った。今は、まだ・・・・・・。でも、必ずこの思いを伝えようと思う。いつか、かならず。

 

「提督!」

「何だ?」

「私、一生懸命、頑張ります!! 提督が提督じゃなくなっても、ずっと!!」

 

 

☆★☆★☆

 

 

「今回、集まってもらったのは他でもない。軍令部より、大海令六十五号、および大海指六〇〇号、“第二次AL/MI作戦”が発令された」

 

 大和さん、大鳳さん、そして金剛お姉様が泊地に編入となってからは、慣熟訓練や他の第二艦隊麾下の艦隊との折衝とで泊地はどこも大忙し。榛名も、大和さんや金剛お姉様と一緒に訓練したり、お話ししたりして、交流を深めていました。

 それから一ヶ月ほど経ったある日に、講堂に集まった泊地所属の艦娘全員に提督はそう告げた。大海令と号される作戦は、レイテ戦役以来、と扶桑さんは言います。

 

「これに先立ち、我が第四十四戦隊は準備が完了次第、直ちに泊地を出航。横須賀にて第十、第十一艦隊と合流し、その後大湊を経由して単冠湾泊地に集結、作戦の発動を待つ。詳細は追って伝える、以上だ。これまでにない熾烈な戦いとなるだろう、各員の奮起を期待する」

「『はいっ!!』」

 

 それにしても、一体いつからなんでしょうか・・・・・・・・・・・・

 

「提督と扶桑さんが話しているのを見ると、胸がモヤモヤしてくるんです。保住さん、榛名は、病気なんでしょうか?」

「って、相談があるって言ってきたかと思えば、それぇ?」

 

 提督のお話が終わった後。榛名は、パラオの整備主任でもある保住さんを訪ねていました。相談した内容を聞いて、困惑と呆れが混じった表情になる保住さん。口調も素が出てしまっているような気もします。

 

「それでえっと、胸がもやもやする、って話でしたっけ?」

「はい、そうです。提督の事も大好きですし、扶桑さんの事も同じくらい好きです。でも、二人が楽しそうに話しているのを見ると、なんだか変な気持ちになってくるんです」

「うーん・・・・・・そう言われても・・・・・・」

 

呑み終えた煙草を灰皿で揉み消しつつ、保住さんは言う。

 

「私は精神科医じゃないし、それ以前に単なる技術者だから答えようがないですよ」

「そうですか・・・・・・」

「ああ、でも。きっと良い傾向ですよ、それは」

「良い傾向、ですか?」

 

『そう』、と言いつつ二本目の煙草に火を着けようとして、途中で止めて保住さんは話し始める。

 

「艦娘とは『“艦”の力を持った“娘”』。いつどこから、どのような経緯を持って生まれたかはまだ解っていない事も多いです。でも最初の邂逅から十年余り。少しずつですが、解明されてきている事もあります。その精神は、人間のそれに近しい構造である、と言う仮説もその一つです」

 

彼女は、更に続ける。

 

「人間の精神に近い、と言うことは即ち感受する物事の優劣、好悪、多寡も人間に近いものになって・・・・・・」

「??????」

「・・・・・・・・・・・・まあ、要するに、病気じゃない。むしろ起こるべくして起こった、自然なことって訳。とりあえず、今説明できるのはこんなところかしら?」

 

『こういうのは変にため込まずに、はっきりと口に出すのも良いんじゃない?』。そう言って保住さんは、立ち去っていく。彼女が去った後、榛名はこれまであったことをじっくり顧みることにしました。

 建造されて、初めて榛名が会話したのも、保住さんでした。なので、榛名にとってはお姉さんみたいなものです。その後、提督に。東郷徹心大佐―その頃はまだ中佐でしたが―に出会って、響ちゃんとも再会して、たくさんの仲間達と戦ってきた。それまでたくさん迷惑をかけてきましたけれど、それも今では良い思い出です。

 沖ノ島では榛名の事を、提督は信頼して重要な役目を任せてくれました。北の海では霧島とも再会できて、今度は金剛お姉様も一緒。仲間も増えました。

 とっても嬉しいはずなのに、なぜだか胸がモヤモヤします。でも、それを口に出したら、楽しかった日々が壊れてしまうような・・・・・・すべてが終わってしまうような・・・・・・そんな気がするんです。

 

「・・・・・・榛名は、大丈夫です・・・・・・」

 

 だから今は、胸の中にしまっておきます。少なくとも、今だけ、は・・・・・・・・・・・・。

 

 

 




「―加えて、Jokerもありますし」

「ええ、最善を尽くします」


「―貴方はFGを・・・・・・艦娘達を、どう見ていますか?」


「またこう言う日が来てしまったの―」


「―こう言う時って、決まって何かが起るぜ―」






《今こそ本懐を遂げる時である!! 暁の水平線に、勝利を刻むのだ!!》



次回、『ミッドウェー』

悪夢の時間は終わりを告げるのか・・・・・・? それとも・・・・・・?
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