この作品の主人公、ジャベリンが所属するPMC『武器庫』は、一つの小さな自然保護区を持っている。そこには今時珍しい野生動物や比較的綺麗な湖、森林が存在する。武器庫はそんな自然保護区を極秘裏に管理していたりする。
というのも、あまりそこが知られてしまうと正規軍に手を出されかねないからだ。
今回の物語はその自然保護区に療養と称して配属された槍部隊副隊長『スピア』という男の一日から始まる。
俺の朝は早い。早朝五時には目を覚まし、欠伸を噛み殺しながら眠気覚ましのアーリーモーニング・ティーを飲むことから一日が始まる。今日は同じくこの自然保護区に勤めているジャパニーズから貰った茶葉で緑茶を作った。しっかりとした苦味が俺の意識を冴え渡らせてくれる。
「……これはジャベリンに送ろう」
緑茶を飲み干しつつ、洗面所で身だしなみを整えて今度は朝食の準備を行った。ここで外せないのがブレックファスト・ティー。茶葉はアッサム、ミルクティーで飲むつもりだ。今は急いでる訳でもないためパックではなく茶葉から淹れて飲むとしよう。
「今日は……サンドイッチだね」
茶葉を蒸らしている間に手早く朝食を作っていく。序でに昼食分のためにも多目に作っておく。手間を省くのは大事だ。
サンドイッチを作ったら今度は紅茶を淹れる。ちょっと高い所から淹れるのが美味しさの秘訣。俺の育ての親から教えて貰ったものだ。あまり意味を成さない行為じゃあるが、これは一種のおまじないに近い行為だ。
よい一日を過ごす為にってな。
これにミルクをたっぷり加えてミルクティーを作った。
「ふぅ……これが俺の求めていた日常だよ。ジャベリンと諜報部には感謝しないとな」
小鳥のさえずりが聞こえてくる。のんびりと紅茶を飲みつつサンドイッチを食み、最近弓部隊の奴等が作り始めた社内報を読んだ。今日は晴れが続くようだ。ニュースは別段面白い物でもなかった。ジャガーソン氏が延々とグリフィンで指揮官やってる娘の可愛さ自慢を語るコーナーは面白かったがな。主に暴走具合が。
社内報を読みながらサンドイッチを完食し、今度は仕事着へと着替えていく。といっても、私服の上から防弾ベストやらプロテクターやらを着けるだけではあるが。
装備を装着したら今度はガンラックに掛けてあるAK-12とMP412 REXを手に取った。MP412はレッグホルスターに、AK-12は肩に引っ提げて外へ出る。
目の前には一面の緑が広がった。空気は澄んで、水のせせらぎが聞こえてくる。とても綺麗だ。
「今日も一日、頑張るか」
一人、気合いを入れて歩き出した。
この自然保護区での任務は基本的に幾つかのルートを使って哨戒をするぐらいだ。今日俺が通るルートは川沿い、小さな池へと繋がるルートを上って行く。
俺の寝泊まりしている小屋から100m先にその川沿いのルートがある。
ちなみにこの川、とても綺麗ではあるのだが余り入りたいとは思っていない。何せ放射能による汚染が未だに残ってる。崩壊液じゃないことが唯一の救いじゃあるが、それでも気持ちのいいものとは言えない。
暫く歩けば池が見える。そこには絶滅危惧種となっている水鳥がちらほら。彼処に居る魚でも獲ってるのだろう。
「今日も怪しい影は無し……か」
周囲を見回して誰もいないことを確認する。そして腕時計を見て、そろそろお昼時であることが分かった。このまま川を下れば丁度いい時間になるだろう。
俺は通信機で異常がないことをHQへ伝えることにした。
「HQ、こちらスピア。異常なし、帰還する」
『了解、ご苦労だった。この後はのんびりと紅茶でも楽しんでこい、スピア』
通信機を切り、川の流れを眺めつつ小屋へと向かう。
さて、小屋に帰ったら残りのサンドイッチを食べながら作り置きのアイスティーでも飲んでゆっくりとしよう。
そんな事を考えながら少し湿った道を歩く。時折名前も分からないバッタが横切ったり、小鳥が俺を先導するように前を歩いたりと、自然の中だからこそ出来る体験を楽しんだ。
本当に、ジャベリン達は随分と良い場所へと俺を送ってくれた。今度は武器庫でお茶会でも開いて飛びきり美味い紅茶を飲ませてやろう。
「茶葉は何が良いかなぁ……」
お茶会で使う茶葉を考えていたら、もう小屋へとたどり着いた。俺はそのまま小屋の中へと入る。鍵を閉めていたことを忘れて。
「ただいま……ってまぁ誰も居ないよな」
「おかえりなさい、ちょっと勝手に冷蔵庫の紅茶頂いているわよ」
「あぁ、構わな………………」
数十秒。それが俺の固まった時間。何故彼女が居るのか、何故バレたのか、皆目検討がつかない。
俺の目の前に居るのは、白髪で目を閉じている戦術人形、『AK-12』。昔、とある調査任務で一緒に行動して以来、ずっっっっっっと目を付けられている。目的は分かりきっているのだけれども、一応彼女に何をしに来たのか聞いてみた。
「AK-12、なんで君が……」
「風の噂で貴方がここに居ることを聞いたのよ。持つべきは良い友人とも言うわね」
「………………」
これ確実に自分で調べたやつだ。どうせ「最近スピアを見掛けないわね……ちょっと何処に居るか調べてみましょう」とか言って探したんだろ。分かってるんだからな。
というか待てよ? 彼女が居るということはもう一人居るはずだ。もしかしなくてもあのAK-12信者が居ない筈がないだろう。あの戦術人形はくっつき虫っていうレベルで必ず彼女の隣に立っていた。
俺は思わず周囲を見渡す。何処に居るのかと。だが何処を見ても誰も居ない。ただAK-12が紅茶を澄まし顔で飲んでいるのみだ。あの紅茶は俺が一番好きな味の紅茶なのになんの躊躇いもなく飲んでいる。なんならスコーンも食べていた。
一先ずAK-12に彼女が何処に居るのか尋ねる。
「なぁAK-12、彼女が見当たらないのだが……」
「あら、AN-94なら貴方のすぐ近くに居るわよ。話し掛けようかどうか迷っているわ」
「!?」
AK-12の答えに俺は咄嗟に後ろを向いた。その瞬間、
「痛っ」
「づっ!?」
思い切り頭が当たった。
何で、こんな近くに……? 頭をさすりながら目の前の戦術人形、『AN-94』を見据える。彼女自身はそこまでダメージを受けてないようで、少し呆けているだけだった。
「えーっと……大丈夫か、スピア?」
「……あぁ大丈夫だとも。君たちが私の絶対防衛圏に入ってきたこと以外は」
この日ほど自分が信じる神を恨んだ事はない。
良い一日を過ごせるようにおまじないもしたのだがな……勘弁して欲しいものだ。
「あら非道いものね、昔は何の嫌味も無しに紅茶を振る舞ってくれたのに。ねぇ、AN-94?」
「いや、私は……別に」
「……はぁ、まぁいいさ。AN-94、とりあえず座ってくれ。何か出そう」
ただ、女性を邪険に扱う程俺も男は廃れてない。AN-94をAK-12の隣に座らせて、サンドイッチと濃いめの紅茶を作る。それに加えて、ストロベリージャムやブルーベリージャムも冷蔵庫から取り出し、人数分のスプーンを用意した。
「あら、それは?」
「ロシアン・ティーだよ、AK-12」
後ろからAK-12が覗き込んでくる。ちょっと顔が近いがそれでドギマギするほど俺はウブではない。うちの隊長と違ってな。
AK-12を軽くあしらいつつまた座らせて作った品々を目の前に出す。
「ロシアン・ティー……ね、そのジャム混ぜるのかしら?」
「ん?あぁ、それは自由だよ。聞く限りじゃ、ロシアン・ティーは元々濃いめの紅茶を飲みつつジャムを舐めるらしい。君らもどうだい?」
俺がそう提案すると、AK-12は手で拒否のサインを出し、AN-94は少し迷っていた。どうやら気になるようだ。
俺は少し見せ付けるように紅茶を飲み、ジャムを舐める。少し恥ずかしいが、俺としてもAN-94が舐めるところを見てみたいのだ。
「……私もやってみよう」
「お、そうか。ほら、やってみなさい」
「ん……」
スプーンを手に取ってストロベリージャムをひとすくい。AN-94はティーカップを手に取って、ふーふーと息を吹き掛けて紅茶を冷やす。
……彼女は猫舌なのだろうか?
そんな事を考えながら、彼女が紅茶を飲むのを眺めている。AK-12も興味深い様子で、まじまじとAN-94の方を見ていた。
「……んく」
彼女が紅茶を飲んだ。ちょっと顔をしかめてジャムをチロチロと舐めている。
……何だこの光景は。いや、その光景自体はいい。普通にロシアン・ティーを楽しんでいる光景である。ただ……ふむ、AN-94がそのジャムを舐めている様が危ない。色っぽいのだ。隣のAK-12が面白いものを見たような顔をしている。目は閉じたままだが。
少し、このままだと危ないか?
「あー、AN-94。そんな一寸ずつ舐める必要なんて無いぞ?」
「ん、そうなのか? なら遠慮なく……」
俺の言葉をAN-94は素直に受け入れてジャムをそのまま一口で食べた。どうやら相当甘いものをご所望だったようだ。
AK-12が何かつまらなそうな顔をしているが俺はそんな事知らない。
「相変わらず、貴方の紅茶は美味しいわね。持って帰りたいぐらい」
「そりゃどっちの意味だい? 場合によっては逃走の準備をしなきゃならないんだが……」
「あら、貴方なら分かりきってることじゃないのかしら?」
ふと、AK-12が意味深な事を言ってくる。俺は静かにレッグホルスターに手を掛けた。
目の前の彼女はティーカップ片手に余裕綽々としておりその手の内は見えない。隣で幸せそうにサンドイッチを食べているAN-94は兎も角、AK-12は……電子戦特化の戦術人形であるために、ちょっと尻尾を出せば直ぐに掴んでくる輩だ。油断なんて出来る訳がない。
俺は彼女を見据える。
「分かりきってる?」
「ええ」
「……どういうことだ」
「分からないのね、残念」
紅茶を一口飲み、そしてサンドイッチを食べるAK-12。彼女の意図が読めない。相変わらず俺を手玉に取ってくる人形だ。初めて出会った時、余りの美しさに口説いて紅茶をご馳走した時からこれだ。やってられない。
「仕方がないだろう、私がエスパーに見えるか?」
「いいえ全く。貴方は虫籠のなかに居る哀れなバッタのよう。そうでしょAN-94?」
「ん……あ、いや私は別に」
「ふぅん、意外ね」
変な例えをしないで頂きたい。AN-94も困惑してるだろ。
「そんなに分からないなら教えてあげましょう」
仕方なさそうに、そしてつまらないとでも思ったのか、AK-12がそう言う。
俺は再びMP412へと手を掛ける。彼女の返答次第では本当にここを放棄して外の車で逃げなければならなくなる。
汗が一粒頬を伝った。俺とAK-12の間には緊張感が漂っている。
「私達がここに来た理由、それは……」
「それは……?」
グリップを握る手に力が入ってきた。唇が乾いてくる。
あぁ、何というか。この二人に追いかけられるというのはとてつもなく怖いんだな。春田さんの方がよほど可愛らしいのだろう……。
AK-12は人差し指を口にあて、微笑みながら口を開く。
「それは…………」
「貴方の紅茶が飲みたかっただけよ」
ガタッ!
そんな音を出しながら俺はよろめいた。
そんなふざけた理由でここまでくるのか……。
念のため、本当なのかどうか再度確認を取っても、人形が嘘をつく事なんてないと言われて否定をされた。なまじ信憑性もあるから何も言えない。
「……はぁぁぁぁ、心配した俺が馬鹿だった」
「口調崩れてるわよ」
「おっとっと……いやそれはいいんだ。君達は本当に本当に紅茶を飲みに来ただけか?」
「そうよ。ねぇAN-94?」
「むぐ、そうですね」
サンドイッチを頬張るAN-94のセリフを聞いてより一層脱力する。
なんだ、ただのくたびれ儲けか……俺の緊張感を返せ。
「それとも、ソッチの方が良かったの?」
「いいや、俺は拐われるより拐う方だよ……」
「じゃあそうする?」
「勘弁してくれ……」
AK-12がからかうようにそう言うが、俺にそのセリフを返せる程の体力は残っていない。AN-94がちょっと顔を赤らめていたが宜しくない妄想をしているようだ。突っ込まないけど。
「それはそうとスピア、少しいいかしら?」
「今度はなんだよ全く……それ食べたら帰るのだろう? 俺は仕事があるんだ、これ以上居座られても困る」
突然の確認に何だか凄く危機感を感じたので一応釘を刺しておく。勿論これは嘘だ。仕事はもう終わってる。今日は半休なのだ。のんびりしたいんだ。タブレットで推理小説を読みながら優雅な午後を過ごしたいのである。
「今日、貴方のところに泊めさせて貰うわね」
「少し急用が」
「AN-94」
「了解。AK-12」
俺は逃げた。捕まった。
AN-94が羽交い締めしている。
俺は逃げたくて身体をよじるもAN-94の力が強くて逃げられない。
スピア は うごけない !
「クソッ!!こういう時だけちゃっかりと待機して!!何なんだAN-94!!」
「ごめんなさい、スピア。私はAK-12の命令が第一だから……」
「そんな申し訳ないような顔をしたら抵抗する気無くなるだろ!?もう少し冷徹になれないのか!!?」
AN-94によってずるずるとAK-12の下へと引き摺られて行く。
俺は一体どうなるだ、本当に、どうなるんだ……。
ドアが遠く感じる。俺の平穏が消え去る音がした。そして何故か神様の申し訳なさそうな顔が見えた。相当キているようだ。
「まだ一日は長いわよ、スピア。安心しなさい、紅茶のお礼は幾らでもするから」
「やめろ!!俺は、俺は自分で選んだ女性と一夜を共にしたいんだ!!」
「あら、初めて出会った時に私を口説いたじゃない。それが答えじゃなくて?」
「ヌ"ゥ"ッ!?」
「スピア、諦めよう」
「い、嫌だァァァァァアァア!!!!!!!許してくれ!!!後生だからァ!!!!!」
痛いところを突かれた上にみるみるうちに拘束される。
何で!?何でなんだ!!?
聞けども考えども答えは出ない。俺は何とも言えない気持ちで考えるのをやめた。
…………親愛なる槍部隊隊長と弓部隊諜報部へ。
お前達には後でスターゲイザーパイとウナギパイ、極めつけの油で煮たフィッシュアンドチップスを食わせてやるから待っていてくれ。
「そういえば貴方、AK-12を使ってるわね」
「あぁそうだが……」
「……ふふっ」
「その笑いは何なんだ……」
「そういえば戦術人形の半身である銃は、感覚共有が出来るそうよ」
「…………?」
この後は普通に何事もなく終わりました。何事もなく終わりました(大事なry
割と時間が掛かりました……仕方ないね……。
次回はジャベリンくんが保育園へ!彼に待ち受けるトラブルとは!?次回もお楽しみに!!
この作品への感想及び評価は執筆の糧になります。どうぞ、よろしくお願いいたします!!それではまたこんど!