さて今回は雨に追われて雨宿りをすることになった彼が、ある意味関係も深い戦術人形と出会います。さてそれは誰なのか……。
それではどうぞ!
358日目 曇のち雨
任務疲れで眠る朝。目覚ましを止めて二度寝を決めようとした時に、墓守が俺のところへやって来た。こんな朝早くに、そして態々こんな場所まで来るなんて珍しいなと思いながら用件を聞いた。
その用件ってのは単なるお使い、メモに書かれた物を集めてきて欲しいそうだ。自分で行けよとは思ってしまったが、彼曰く孤児院の子供の誕生日パーティーの準備をするようで自由に動けないんだとか。
流石にそれを言われたら俺も動かざるを得ないので大人しくそのお使いをする事にした。
そういえば今日は雨が降るらしい。ポチとG11…じゃなくてエルに洗濯物の取り込みを頼んでおこう。ついでに留守番もな。
しかし名前を付けたといえどもやはり染み付いた呼び方ってのは中々直らんな……日記の中ぐらいは名前で記すほうがいいのに。
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「…しくじったな」
どしゃ降りの商店街、荷物を両手に雨宿り。まさか傘を店に忘れるなんて思わなんだ。もしくは盗まれた疑惑もある。
しかしそんな事考えたって傘は帰ってこないので大人しく雨が上がるのを待つことにした。バケツをひっくり返したようなその雨は、恐らく二時間ぐらいもすれば小雨になるだろう。
「荷物置いとくか」
一先ず荷物を脇に置いた。幸い、屋根はそれなりに広くて、もう何人か入れる事は出来そうなぐらいである。
俺はおもむろに懐からライターと煙草を取り出し火を点けて、目一杯に吸った。果たして銘柄は何だったか、少なくともこの独特な味と吸い心地は、雨の日に吸うのならとても最適と言えたかも知れない。息苦しいこのじめついた空気、そして疼く左目の痛みを忘れることが出来そうだから。
「ふぅ……っ……」
とはいえやはり痛いものは痛い。我慢出来る程では有るけれど、たまに突き刺すような痛みがある。トラウマによる幻肢痛なのだろうが、治ってくれないものか。
……代理人。アイツは相当に俺の人生を狂わせた。いや、代理人ではないか? 蝶事件? いやそうなると全部これリフィトーフェンの仕業になるんだが。でもそれ以上に事件前にやって来た正規軍のお偉いさんも怪しいな……。名前何だったっけ、カーター? 覚えてねぇや。
「すぅ…………何だかなぁ」
思考がちょっと明後日の方向に飛んでいた。今あのお偉いさんは関係無いだろうに。俺のするべき事は代理人の破壊だ。
この前の任務で遭遇して以来、何となくだが、今なら面と向かって会話ぐらいは出来そうな気がする。その前に撃つがな。
しかし、一回リフィトーフェンを通して何かしらのアクションは起こした方が良さそうだ。うん、そうしよう。
「あら、ジャベリンじゃない」
「おや、416…久しぶりだな」
煙を燻らせながら行き交う人々を眺めていると、久しぶりに聞く声が耳に入ってきた。そちらへ顔を向ければ、水色のストレートヘアーにベレー帽、特徴的な涙のタトゥー。『HK416』が其処に居た。彼女は傘をさしてビニール袋を片手に持っている。
「久しぶり、貴方のお見舞い以来ね。雨宿りでもしてるの?」
「そうだな。傘を何処かに忘れたから、雨が止むまで待ってる」
「そう。隣、いい?」
「勿論」
隣に416が来るからと煙草の火を消そうとしたが、彼女は別に気にしないと言ったのでそのまま吸い続ける事にした。
「……」
「……」
雨の降る音だけが聞こえてくる。
隣の416は携帯で誰かに連絡を送り、また何事も無かったかのように雨が降り行く光景を眺め始めていた。その時、丁度煙草も吸い終わり、俺も彼女と同じようにする。
暫くの時間を過ごしていく内に、とある疑問が俺の頭を過った。何故416はここに居るんだ。
早速聞くことにしよう。
「なぁ416」
「何かしら」
「何で武器庫のとこに来てるんだ?」
「………45にG11の様子を見てこいって言われたのよ」
なるほどな。この際地味に間があったことは突っ込まないでおこう。しかしまぁ、45にせよ416にせよ世話焼きなものだ。少し位俺の事信用したっていいんじゃないか? 俺の部屋で未だ寝てるだろう眠り姫はちゃんと無事なんだけどな。
「貴方は時々一人で無茶しててんてこ舞いになってるでしょ」
「……心の声、漏れてた?」
「漏れてたわね」
「あー……気が抜けちまってるな」
あら、何時ものことじゃない。とからかう彼女。
俺は困ったもんだとそっぽを向いて、また雨に追われる人々を眺める。
行き交う人々の中には、ずぶ濡れで歩く人、相合い傘で歩くカップル、俺たちと同じように雨宿りをする人と、沢山居る。なまじ今日は休日だったせいで人も多かったようだ。
「……それにしても嫌な雨ね」
「だな」
「余り思い出したくないような記憶が蘇りそう」
「……そうだな」
隣の416がそんな事を言う。
俺は彼女の言葉を受けて、また代理人のことを思い出してしまった。あの夜の彼女の顔を。
一瞬苦虫を噛み潰しそうになったので、誤魔化すように2本目の煙草を吸おうと懐を探った。
「M16……アイツとの事だとか、この前の大規模作戦でのG11…ジャベリン、貴方とのことも」
「俺も?」
一旦懐を探る手を止める。
416は俺に対しても苦言を呈したいようだ……。
「貴方もよ。独り善がりで無茶をして命を落としかける、自分でどうにか出来るからって相談もなく馬鹿をする。全く馬鹿らしいものね」
「……耳が痛いな」
「あら、自覚はあるの? G11が時々文句言ってたわよ、“ジャベリンは任務から帰ってくる度に怪我をしてる。いい加減無茶はしないで欲しい”って」
「ぐっ……」
卑怯だ。ここでG11の事を出してくるなんて……いやアイツが心配するレベルって相当だな。
しかし自制するにしたって難しいというか……出来るなら俺だってG11やオスカー、ポチともうちょっと会話だってしたい。だけどやらないといけないことが多い。グリフィン関連の任務や武器庫を通じての依頼、後は……代理人関係。
……自分で言っておいて馬鹿らしい。まるで仕事を言い訳にするクソ野郎じゃないか。
俺は申し訳ない気持ちでいっぱいになった。
「……すまん」
「はぁ……ジャベリン、こっちを向きなさい」
「はい」
416の言われるがままに従ってそちらを見れば、其処にはきりりと真面目な顔をした彼女が居た。
「貴方が隊長をやってるからって、自分しか出来ない仕事だからって、何もかも背負う必要なんてないのよ。何時でも誰かに頼っていいの」
「まぁ…その通りだな」
「私やポチは勿論、G11や貴方の同僚達だってそうだし…あとはトンプソンに、不本意だけどM16。頼れるというのは事実だから。一人で無理をするなんて本当に止めて」
「っ…………」
彼女は厳しくとも優しく語りかけるように俺へ言う。
きっと雨が降ってるせいなのだろう、その一言一句、自らの胸に突き刺さってしまってとてもじゃないが苦しいものだった。
自覚があるというのも考えもので、俺は何も答えられずにただ無言で416の言葉に耳を傾けるしかなかった。
「俺は……俺はどうすれば?」
「……別に今すぐ答えを出す必要はないのだけれど」
彼女は俺へ微笑みかける。
「ただ、誰かに頼れば良いだけ。進み続けるんじゃなくて、一回立ち止まって仲間に頼ればいいのよ」
「一回……立ち止まる、か」
「そう、立ち止まる。貴方、詰まってようが窮地に立たされてようが逃げずに居続けてるじゃない」
「確かにな。いや、でも大体相手から来るというか……」
「例えそうだとしても、何時か折れる日が来てしまうわ」
「……」
脅しにも似た彼女の言葉に思わず閉口する。
416の言っていることは尤もだ。向かい来る風や水流に逆らってしまえば、どんな頑丈な木だろうと何時かは耐えきれなくなって折れる。しなって受け流すというのが最善とも言えるのかもしれない。何かで、誰かに補強してもらうのがいいのかもしれない。
「別に…一人で行き続ける必要なんてないんだな」
「頼れる存在は身近にいるもの。というか、貴方の隣にはポチが居るじゃない」
「あー、身近過ぎて逆に気づかなかった」
「ポチに怒られるわよ……」
そりゃ違いないと俺は笑った。
ふと、大通りを見れば雨は降っておらず、雲の合間から青空がちらりと見えた。どうやらそろそろ帰ることが出来るらしい。
荷物を持って416と共に武器庫へと向かう。そういえば墓守辺りに迎えを頼むことぐらいは出来たな。抜かった。
「ジャベリン」
「ん?」
「貴方にはまだ時間がある。だから、あまり急ぎすぎては駄目よ」
「……あぁ、お前も心配してくれてるからな。それに従うよ」
「そう、それでよろしい」
雨上がりの空気は何だか落ち着く香りがする。何もかもを洗い去ったような感じがして好きだ。雨は好きじゃないが雨上がりは好き、何とも天邪鬼のようでならないが、そこに突っ込みを入れるのは野暮だろう。
そういえば、416と話している最中は目の痛みは無かった。理由は知らない。偶然なのかもしれないが。
……案外、誰かと話すことが出来るのであれば、どんな雨だって悪くは無いのかもな。
「どうかしたかしら、ジャベリン」
「いんや、何にも」
「何よそれ」
空を見上げていた416を見て、そう思った。
しかし…俺も何時かこの雨を克服できる日が来るのだろうか?
その先は未だ見えることはない。だけど、今は誰かに支えて貰うことにしよう。
きっと答えは見つかるから。
416ヒロインだな……。なぁ代理人?
ここしばらくの予定としてはジャベリン君と関係のある戦術人形との仲を発展させていきたい所存。勿論代理人も。
さてさてやることはたくさんですがやっと話も中盤の終わりぐらい?見切り発車でやってたから中々風呂敷がたたみ難いものです。
感想及び評価は心の支えです。どうぞ、よろしくお願いします!それではまた今度!!