傭兵日記   作:サマシュ

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はい、今回はですね、いろいろ様作『喫茶鉄血』(https://syosetu.org/novel/178267/)とのコラボとなります。

番外編ですが、時間軸は雨宿り回の後となります。

さて、ジャベリンくんと因縁深い人形、代理人が営む喫茶店へと誘われた彼は何を思うのか……必見!
あ、今回九千文字あるのでご注意を…。




☆番外編 傭兵、異世界へ飛ぶってよ。

 

 

「ジャベリン、匿ってくれ」

 

「帰れ」

 

 

 ある日の昼下がり、俺は一人の男と対峙した。奴の名前はスピア。俺が率いる槍部隊の副隊長だ。

 その姿は酷く焦燥としており、明らかにトラブルを持ってきたことを理解させられた。

 だから俺は帰れと言う。理由なんて聞く訳ないだろ。ポチ、塩撒いとけ。塩。

 

 

≪はい≫

 

「そんな殺生なこと言わないでくれるか君達!!?俺は今世紀最大のピンチに襲われてるんだぞ!!?友人を見捨てるのか!!??」

 

「お前の今世紀なんて高々二週間程度じゃねぇか……はぁ、話だけ聞いてやる。入れ」

 

「恩に着る!!」

 

 

 しかし何時もの余裕のある口調とは打って変わって崩れた口調になっているのも引っ掛かった為、部屋に入れることにした。

 彼を椅子に座らせて紅茶を出す。

 

 

「んぐ……はあっ……ありがとうジャベリン」

 

「それで、何があった?」

 

「いや実は……とある少女に追いかけられてね…」

 

「よし話は終わりだ。帰れ」

 

「待て待て待て待て!!!詳しく話すから!!!後生だ!!!」

 

 

 席を立とうとした瞬間、すぐに肩を掴まれた。

 これ程までに彼を必死にさせる案件って一体何なのだろうか、より興味が沸いてきた。同時にかなりのトラブルの匂いも感じたがな!

 

「しゃあねぇな…」

 

「良かった……実はだね―――」

 

 

 スピアの長ったらしい話が始まった。

 彼の話を聞いた俺としては…結論から言うと心底下らない内容というか……かいつまんで話を纏めよう。

 

 まず初めに、どうやらスピアは買い物途中に道に迷った少女に出会ったそうだ。彼は親切心(えらく強調していた)で道案内をしてあげたという。行き先はグリフィンだったらしく、彼女が人形であって、その名前が『M200』ということも判明した。

 道中、色々と話しているうちにふとうちの会社の話になったそうだ。そこからM200の態度が一変。突然早口で何かを語りだしたかと思えば挙動不審になって、何を血迷ったか彼女はスピアを何処かへ連れていこうとしたようだ。

 流石にこれは危険だと感じたスピアはすぐに逃亡。勿論向こうは追い掛けて来たので必死になって逃げて今に至るという。

 

 まぁ、何だ、コイツらしいよなとしか感想は出ない。

 しかし目の前の野郎は実に深刻そうだ。

 

 

「なぁジャベリン、頼むから本当に助けてくれ……私は初めてなんだ……ここまでやられたのは」

 

「いやお前あの正規軍の人形二人組とかスプリングフィールドにもやられてんじゃん」

 

「……あれはノーカウントだ」

 

 

 いやカウントしろよ……という言葉が出るよりも先に、ドアのノック音が鳴り響く。

 スピアは「クソッ!!嗅ぎ付けられたか!!」ってクローゼットの中に潜り込んでしまった。一応俺はG17を尻ポケットに入れて、ポチと共に玄関へと近付き扉を開けた。

 

 

「こ、こんにちは……」

 

「……えーと、君は?」

 

 

 目の前に現れたのは一人の少女。恐らく彼女がM200だろう。

 …………はて、確かうちのマンションは一階ロビーで一度インターホンを鳴らさなければならなかったのだが。OKOK、この子不法侵入したな。丁重にお帰り頂こう。

 

 

「あの、その、M200……って言います。この部屋の真下の階の者でして……えぇっと、そちらのお部屋にスピ……クーパーさん……居ますか?」

 

 

 一瞬スピアって言い掛けたなこの子……しかしまさか同じマンションの住民だったか。うちのマンション人形率多くないか?

 これは困った、住民となれば話は別だ。あまり邪険に扱うのもよろしくないだろう。だが部屋に通すのはやるべきじゃない。

 

 

「住民の方でしたか…しかしクーパー……そのような方は居ませんね……うちは猫とこのダイナゲートと暮らしてるだけですので」

 

「そう……ですか。失礼しました」

 

 

 見るからに落ち込んでとぼとぼと帰る彼女。可哀想に見えてしまったがあの少女はスピアのストーカーみたいなモノなので同情はしない。一先ず扉の施錠とチェーンを掛けて部屋に戻る。

 部屋にはひょっこりと顔だけ出したスピアが待っていた。

 

 

「……居なくなったか?」

 

「何とかな。ただ暫くはお前、警戒したほうがいいんじゃないか?」

 

≪お引っ越しをお勧めします、スピアさん≫

 

「そうだね、引っ越すよ」

 

「そうしたほうがいいな、スピア」

 

「あぁ、こんな危険な所居『ガチャリ』……ジャベリン」

 

 

 ガチャリと、ドアの鍵が開く。勿論俺とポチは何もしていない。

 そう、勝手に開いてるんだ。外から誰かが開いている。

 

 

「やっぱり……居たんだ……へ、へへへ」

 

 

 そんな声が聞こえる。

 取り急ぎ装備を整え外に出る準備をした。

 

 

「窓からベランダ伝いで非常階段から逃げよう。ハンドガンは?」

 

「M9で頼む」

 

「了解、逃げるぞ。ポチ、お前も着いてきてくれ。オスカーは留守番」

 

≪ほ、ほいさっさ!≫

 

 

 にゃおんと言うオスカーの鳴き声と同時にベランダの窓を開いて俺たちは逃げ出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「迷ったな」

 

≪路地裏なんて走るからですよご主人≫

 

「いや、ポチ、ここは彼女から逃げおおせる事が出来たことに祝福をだね」

 

≪この状況作った元凶が何寝言言ってるんですか≫

 

「……辛辣だねポチは」

 

 

 恐ろしい人形から逃走を開始して一時間。俺達は街の路地裏を歩いていた。幸いにも新たな追跡者も現れず、暫しの休憩へと移ることに。

 ただ、新たなる問題として道に迷う事態が発生した。()()()携帯端末の電波は繋がらず、今俺達が何処に居るのかさえ全く分からない。

 

 

「兎に角、大通りに出よう」

 

≪了解です≫

 

「承った」

 

 

 まぁ、大通りに出れば何かと情報は手に入る。ここが何処なのかも、どの道を通ればマンションに戻れるのかも。

 二人と一匹揃って路地裏を抜ける。さっきまで暗い場所に居たせいか、とても眩しくて思わず目を瞑った。

 

 そろそろ慣れたかと思って薄目を開けると…………

 

 

「何処だここ?」

 

≪また迷子ですか≫

 

「ジーザス…」

 

 

 …………見慣れない風景が広がっていた。そこはこれでもかと人の往来があり、スーツ姿、学生服、私服と多種多様の人々が忙しなく歩いている。

 俺が一番に感じた違和感は、活気が有りすぎるというところだった。

 

 

「……まさか長距離のワープ?」

 

≪そんな訳無いじゃないですか。短距離ならともかく、そんな事起きたらきっと私達皆岩の中ですよ≫

 

「そうだぞジャベリン。そんな未だに実現も出来てない現象が起きるわけないだろうに」

 

 

 散々に言われるのを無視して取り敢えず進んで行く。服装がジーパンにジャケットという格好であるため他人の目を気にする必要は無いが、それでも俺達は異物であるという感覚が拭えなかった。

 空気が余りにも違い過ぎるし、見るもの耳に入るもの全てが知らないものばかりだった。

 

 

「スピア」

 

「何だい?」

 

「やっぱりここグリフィン本部近くの街じゃないぞ」

 

「……まぁ確かに。ただ人形達は歩いてたりしてるから少なくともグリフィンの管理区なのは間違いないと思うがね」

 

 

 彼の言葉を聞いてちょっとだけ辺りを見回してみた。確かに自分も見慣れてる姿の女性達がちらほらと見える。

 

 

「あぁ全く、頭が痛くなってきたぞ……」

 

≪一旦大通りから抜けますか?≫

 

「そうする。スピア、行こう」

 

「あっ」

 

「どうした?」

 

「いや何、凄く好みの女性が居てね……」

 

「……」

 

 

 コイツ逃げ切れたからって調子乗ってんな?

 

 

……………………………………

…………………………

……………

……

 

 

「ふぅ……」

 

「声掛ければ良かったな……」

 

「ポチ、電気ショック」

 

≪ほいさ≫

 

「ヒョッ!?」

 

 

 場所は変わって大通り外れの公園。何時もの軟派加減をより増幅させていたスピアにお仕置きをしつつ、この後どうしようかと悩み中。

 ベンチに座って公園を眺めているが、やはり、俺の知ってるモノと違うのだ。まず子供が多い、そして服も綺麗だ。うちの近くの公園じゃ子供なんてちらほら居る程度だし……本当に何処へ来てしまったのだろうか?

 

 

「ジャベリン、向こうに喫茶店があったよ。ティータイムと洒落込むかい?」

 

「……そうするか」

 

 

 いや、考えても仕方がない。

 電気ショックからもう復活したスピアの言うとおり、一旦頭を休めておくべきだろう。

 俺はベンチから立ち上がり、目の前に見えた喫茶店へと向かう。その喫茶店の看板には、『喫茶 鉄血』と記されていた。

 

 

「…………鉄血?」

 

≪どうかしましたかご主人≫

 

「いや、何でも…ない」

 

≪?≫

 

 

 胸がざわつく。変に不安な気持ちになる。

 いや、きっと気のせいだろう。ほら、前にイージス辺りが何かこういう心理的症状あるとか言ってたし。

 そうやって自分に言い聞かせながら、スピアが開けた扉をくぐって行った。ちらりと見回した店内は一人二人と客が居るが、随分と静かで落ち着けるような雰囲気だった。しかし未だに胸のざわつきが収まらない。それどころか一層強くなる。

 俺はカウンターへ視線を向けた。そこには…………。

 

 

 

 

 

「いらっしゃいませ、ようこそ喫茶鉄血へ。お好きな席にお掛けください」

 

 

 

 

「―――ッ!!!!」

 

「ジャベリン!?」

 

 

 考えるよりも先に手が出てしまった。

 懐に入れていたG17を、目の前の女性――――『代理人(エージェント)』へと、俺が…俺が“壊す”と決めた存在へ向けていた。

 店内が騒然とする中で、代理人はただ毅然とこちらに対応する。

 

 

「……お客様、店内での暴力行為はお控えくださいませ」

 

「代理人…()()()()()()()()()()()()。答えろ」

 

「お、おい、ジャベリン落ち着けって」

 

「スピア、隊長命令だ。黙れ」

 

「そんな横暴な……」

 

 

 淀みなく彼女の額へと銃口を向ける。

 当の本人は、まるでこの状況に慣れているように見えた。

 

 

「あぁ、成る程。そういう事でしたか」

 

「……何だと?」

 

「お客様、詳しいことはあちらのテーブル席でお話致しましょう。先ずはその拳銃をお下げくださいませ」

 

 

 彼女はいけしゃあしゃあと宣う。

 その言葉だけでも、俺がトリガーに掛けた指へ力を込める動機としては十分だった。

 

 

「ふざけっ……!」

 

≪ご主人!!!!≫

 

「っ…………ポチ」

 

≪貴方が冷静にならなくてどうするんですか?≫

 

「……あぁ分かったよ」

 

 

 しかし寸での所でポチに止められた。

 俺は銃を懐へしまい、代理人の言う通りにテーブル席へと座った。

 切迫した表情であろう俺とは対照的に、真正面に座るスピアはメニュー表を見ながらも、物珍しそうに辺りを見回している。相当目に入るもの全てが目新しいのだろう。

 

 俺達の座る席へ、代理人が寄ってきた。

 

 

「何かご注文は?」

 

「私は紅茶のホットで。ジャベリン、君は?」

 

「……ホットコーヒーを頼む」

 

「承りました」

 

「全く……一体どうしたんだジャベリン。君らしくない」

 

 

 カウンターへと戻っていく代理人を睨みつつ、スピアの疑問に耳を傾ける。

 そういえばコイツは俺がここまで彼女へと敵意を剥き出しにする理由を知らなかった筈だ。

 

 

「いや……何、俺の義眼関係だよ」

 

「おや、そういう事か。何だい、麗しのメイド様に片目を抉られたのかい?」

 

「……」

 

≪……ご主人≫

 

「ヴッ!」

 

 

 一先ず足を蹴っといた。

 コイツ理解するのは早いんだがたまにデリカシーの無いことを言いやがるからよろしくない。

 

 しかし……何故代理人はこんな喫茶店に居るのか。頭を悩ませども答えは出ない。もしかして俺達は異世界へ来てしまったのか? 代理人が……恐らく他の鉄血の奴らも平和に暮らす事が出来ている世界に。

 リフィトーフェンが聞いたらきっと大笑いするぞ。

 

 

「失礼します。ご注文のホットティーとホットコーヒーです」

 

「いたた……あぁ有り難うマスター」

 

「……なぁ代理人」

 

「言いたい事は理解しております。少々お待ちくださいませ」

 

 

 俺の言わんとしてることを知っているかのように遮った彼女は、またカウンターへと戻っていく。

 言葉を出せなかった俺は足元に居るポチが何故か居るダイナゲートと会話らしきことをしている様子を眺めながら待つことに。

 暫くすると、一束の新聞を持った代理人が戻ってきた。

 

 

「お待たせしました。少し、こちらの新聞をお読みください」

 

 

 彼女から新聞を受け取り、内容を読む。日付を見ると、ちょうど俺が鉄血工造から脱出後、蝶事件の翌日を記していた。勿論、蝶事件の事が書かれている筈なのだが……。

 

 

「…………何だこりゃあ」

 

「凄いな、蝶事件の記事が一つも見つからないぞ。ついでにE.L.I.D関連も」

 

≪ご主人!ここ私達の住んでる世界じゃ無さそうです!!≫

 

 

 その新聞のページを捲れども捲れども、記載されているのは天気予報やらローカルニュース、各界隈でのスキャンダルばかり。俺達にとって因縁深い、かの事件は一文字も無かった。

 

 

「は、ははは……マジかよ」

 

 

 頭の中で散らばっていたパズルのピースが急速に組み上がる。余りにも荒唐無稽で馬鹿馬鹿しい、そんな事態が発生してしまった。

 

 身体の力がずるずると抜けてきた。

 

 

「代理人……」

 

「はい」

 

「エスプレッソ……物凄く濃いめのやつ……追加注文で」

 

「承りました」

 

 

 何だか……何だか何もかも忘れてしまいたい気分だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「平行世界か……」

 

≪アインシュタインか誰かが平行世界の可能性を唱えてたと思われますが≫

 

「そうだな……うん」

 

「まぁまぁジャベリン。珍しい体験が出来たと思えば儲けモノじゃないか?」

 

「これ程までにお前のポジティブさを有り難いと思ったことがないんだが」

 

 

 多少の自己紹介後、コーヒーを飲み、心機一転して休憩中。

 今カウンターでコーヒーを淹れている代理人が言うには、俺達のような異世界からの来訪者というのはよく来るらしい。何処のSFだ。

 大体の来客はこの世界の平和加減には驚いているようで、俺達が特別……という訳でも無さそうだ。

 

 

「…………」

 

 

 俺は代理人を眺めた。

 手際よくコーヒーを淹れる彼女。その姿は俺の知っている、蝶事件前の代理人と重なって仕方がなかった。

 

 ……アイツの淹れた紅茶が飲みたいなんて思ってしまうほどに。

 

 

「……ジャベリンさん、どうかしましたか?」

 

「ん、あぁいや。ちょっとさっきのことを謝りたくて……」

 

「その事についてはお気になさらず。まぁ、変わりと言っては何ですが…あなた方の世界のお話をしてくれませんか?」

 

「それでいいなら喜んで」

 

 

 代理人の提案に従って、俺達は話を始める。

 蝶事件の事だとかポチが喋れる理由だとか。後はリフィトーフェンに武器庫の話、俺の世界の鉄血ハイエンドモデル達のこと。

 代理人も聞いてるうちに少々渋い顔になってきた。その気持ちは分かる。

 

 

「何といいますか……ジャベリンさん、貴方は随分と鉄血関係で苦労をしていますね」

 

「何せ現場に居たし現場に連れてかれたからな」

 

「そちらの私が随分と迷惑を掛けてしまい申し訳ありません。まさかそこまでバイオレンスな事を仕出かしてるとは」

 

「代理人が謝ることじゃない。これはうちの問題だし……」

 

 

 異世界の代理人に謝られるのも不思議な気分なもので、やっぱりアイツのやった事は相当なモノなのだろう。片目を抉り義眼を潰す。あぁそういえば、侵入者の時は腹に風穴を開けられたな……。

 

 そんな痛々しい思い出に浸っていると、喫茶店のドアが開いた。

 

 

「ただいまOちゃん。頼まれたもの買ってきたよ~」

 

「おや、おかえりなさいD」

 

「…………は?」

≪あれっ……代理人が二人?≫

 

 

 俺たちの目の前に現れたのはもう一人の代理人。隣の代理人とは違って雰囲気が明らかに違う。こう、ふわっとしたような。心なしか目つきも柔らかい。

 思わず俺とポチが固まった。

 

 

「あぁ、ジャベリンさんにポチさん。彼女は私のダミーですよ」

 

「えっ」

≪えっ≫

 

「あなた方の知っている“代理人”と比べてしまえば違和感を感じてしまうのも無理はないでしょう。D、この方達に自己紹介をお願いします」

 

「ん、いいよー」

 

 

 すたすたとこちらの席までやってくるDと呼ばれた代理人。その所作でさえ雰囲気が違う。

 彼女は、俺達の前に立つとにっこりと笑った。

 

 

「初めまして、私はOちゃん……じゃなくて、隣の彼女のダミーフレームです。Dって呼ばれてるので、どうぞよろしくお願いします」

 

「……ジャベリンだ。このダイナゲートはポチ、もう一人の野郎はスピアだ」

 

「よろしくお願いしますね、ジャベリンさん、スピアさん、ポチちゃん」

 

「ありがとうございます、D。休憩してていいですよ」

 

「はーい」

 

 

 何というか、眩しいぞこの代理人。ちょっとうちの世界の奴と交換してくれ。この代理人となら幾らでも和解出来る。

 そう思いながら休憩へ向かうDを見送る。

 スピアは何だか呆気に取られてるしポチは何故だか“わん”とか“くぅーん”としか言わなくなってる。バグってるな。それだけ衝撃的だったのだろう。

 

 本当、何でもアリとしか思えなくなったぞこの世界。

 

 

「あー、O……さん?」

 

「今は代理人で問題ありませんよ。どうかしましたか?」

 

「もしかしなくとも……さっきのDみたいな鉄血ハイエンドモデルも居るのか?」

 

「いえ、彼女のような事例は私のみです。ですが……貴方の知らない鉄血ハイエンドモデルは沢山居ますね」

 

 

 彼女の言葉を聞いて頭を抱えた。

 

 

「……嘘じゃないな?」

 

「嘘ではありません。因みに……今日はお休みなので出勤をしていませんが、この喫茶店でも何人か居ますね」

 

「マジかぁ……」

≪わん……≫

 

 

 相当平和なんだろうな。そうやって喫茶店で働けるぐらいには。俺はバグったポチを斜め45度で叩きつつぼやく。

 

 そんな時、俺は一つの疑問に至る。

 

 

「……うちの会社は?」

 

 

 そう、武器庫のことだ。武器庫は元の世界じゃそこそこ名の知れたPMCだった。もしかしたらこの世界にも在るかもしれないし、無いかもしれない。至急、目の前のスピアに調べるよう頼んでみる。

 

 

「スピア」

 

「君がそう言うと思って調べてたよ。ちょっと他人の電波タダ乗りしたけど

 

「ナイスだ、見せてくれ」

 

「良いよ。ほら」

 

 

 早速彼の携帯を見せてもらう。

 そこには、俺達の見知った会社があった。偶然にも電話番号住所も同じで。この世界の武器庫は警備に護衛、物資運送、諜報、軍事支援……軍事支援!?

 

 多少の突っ込み所はあったものの、何ら変わった点は無かった。多少規模が小さいがな。

 一先ず会社紹介を見てみるば、部隊は剣盾弓槍と、鎚部隊を除き存在していた。どうやら本当に人間だけの部隊として動いているようで、相変わらずこの世界でも異色染みてる。

 

 

「……俺達は居るんだろうか」

 

「居るだろうね。ほら、口コミにダイナゲートを連れたジャベリンっていう日系が率いる部隊は何でも引き受けてくれるからオススメなんて書かれてるぞ」

 

「激務具合は変わらないようだな、こりゃ」

 

「君や私は相変わらず女難でも起きてるんじゃないか?」

 

「勘弁してくれ」

 

 

 スピアの自虐とも取れるジョークに苦笑で返す。コイツは多分この世界でもAK-12とAN-94に追いかけ回されてる……かもしれない。スプリングフィールドは分からない。

 

 そうだな、余り口外したくはないがこんな平和な世界の俺はきっと家族も居て誰かに恋をしたりしてるのだろう……その惚れる相手は別として。

 もしかしたら人間かもしれない。もしかしたら人形かもしれない。仮に人形に惚れるなら、俺の知り合いで例を挙げると416とかトンプソンとかM16とか……そこら辺だ。

 G11……はもしかしてかもだろうし、代理人……認めたくはないが確実に惚れる。

 だって外見性格大体好みで、それにあのDって子だって中々……この話は止めておこう。時間もそろそろだし。

 

 

「スピア、そろそろ出よう」

 

「ん、あぁ了解……お金はどうする?」

 

「俺が払うよ。代理人、お会計頼めないか?」

 

「あぁその件ならお構い無く」

 

 

 俺は彼女へとそう言う。

 俺の台詞に対して代理人は微笑んだ。

 

 

「?」

 

「うちの慣例でして、異世界からのお客様は基本的にそちらの世界のお話をお代替わりとしております」

 

「そうか……随分と洒落てる事をしてくれるな、代理人。ありがとう」

 

「お気遣いなく」

 

 

 ただ何も残さないのは少しよろしくない。俺は財布を探って一枚の名刺をカウンターに置いた。

 

 

「これは?」

 

「うちの会社の名刺。何か困ったら槍部隊って所を頼ってくれ、幸いにも電話番号も何もかも同じさ」

 

「なるほど……そうですね、また機会があれば頼らせて頂きます」

 

「まぁここでやれるのは食品や備品の運送、後はお客としてくるしか出来なさそうだが……我が武器庫の誇る槍部隊をどうぞご贔屓に」

 

「ええ。ご来店ありがとうございました……それとジャベリンさん、これを」

 

「ん、コーヒー豆?」

 

「当店のオリジナルブレンドです。元の世界でも是非」

 

「あぁ、ありがとう」

 

 

 別れの言葉も良い具合に(そして宣伝も良い具合に)喫茶店を出た。

さて、どうやって帰ろうか。取り敢えずの方針をどうしようかとスピアたちと相談を始める。

 おおまかな目標としては元の世界に帰ること。別に此処に暫く居ても問題は無さそうだが、何処かの漫画よろしくこの世界の俺達に遭遇してパラドックス的な物が起きる可能性だってある。なので俺達は帰る。仕事もあるし。

問題はどうやって帰るのか、だ。

 

 

「うーむ、どうするスピア?」

 

「どうしたもこうしたも……まぁ始めに居たあの路地裏に向かうべきでは?」

 

「そうか……ポチは?」

 

≪私も同意見です≫

 

 

 案外早くやることが決まった。早速大通りへと歩を進める。

 暫く歩いていると、とある二人組と一匹のダイナゲートが目に留まる。地図を見ながらうんうんと唸っていた。

 

 ……あぁ、成る程な。俺達は静かに抜けるとしよう。

 

 

「おいスピア、お前のうっかりも此処に極めれりか?久々にここまで迷ったぞ?」

 

「ジャベリン、煽らないでくれるか!?僕はちゃんとしたルートで動いてるんだぞ!この荷物はあの公園近くの家に届ければいいんだからな!」

 

「本当にか?本当なのかぁ!?信じられるかポチ?」

 

≪キュイ…≫

 

「だろ~??」

 

 

 とんだ馬鹿騒ぎぶりというか、見た目は精悍な大人なんだが…この世界の平和さを染々と感じる。立ち振舞い的には実力は俺と堂々だろうけど落ち着きは余り無い。何処か社長を彷彿させる性格のように思える。

 

 この世界の“ジャベリン”は、目なんて抉られる事もなく、平和に生きていて安心した。ポチは喋れなくなってるが。

ふと、向こうの俺がこちらを向いたので、そそくさと退散する。

 

 

「……ん?」

 

「どうしたんだいジャベリン?」

 

「いや、さっき彼処の男に見られてたような……」

 

「おや、薔薇の香りかな?」

 

「うっせ……まぁいいか、さっさと行くぞ」

 

 

 ……幸いにもバレなかった。願うなら、何時までも幸せにしててくれ。きっとお前は答えを見つけてる。

 

 心の中で呟いて大通りに入り、路地裏へ向かう。幸運な事に場所は覚えていた。恐らくだが、俺達が通ったルートをまた通れば問題は無さそうだ。

 

 

「次は?」

 

≪右です≫

 

「OK……おっ、着いたぞ」

 

「やっとかい……疲れたよ全く」

 

 

 路地裏を抜けると、そこには見慣れた風景があった。少し寂れた住宅街、ちょっとだけ聞こえる子供の声。

 何となくノスタルジーに浸りながら隣のスピアに声を掛けた。

 

 

「……スピア」

 

「ん?」

 

「変な体験だったな」

 

「そうだね」

 

「ちょっと一本吸っていいか?」

 

「構わないよ」

 

 

 何となく煙草を吸いたくなったので、懐を探る……が、肝心の煙草とジッポライターがない。どうやらあの喫茶店に忘れてしまったようだ。

 しくじったな。あの高い煙草、最後のラスト一本だったのに。

 

 

「煙草……忘れちまった」

 

「ほう、私のうっかりが移ったかな?」

 

「うるせぇ」

 

 

 まぁ、いいか。良いものは見れたんだ、そこに何の未練もない。

 特にする事もないし、のんびりと帰るとしよう。

 

 

「スピアさぁ~ん何処ですかー?というか、ジャベリンさんも何処ですかー」

 

「……」

「……」

≪……≫

 

 

 予定変更。取り急ぎさっさと逃げるとしよう。

 

 俺達は走り出す。その最中、手に持っていたコーヒー豆入りの瓶を見る。あの世界は本当に幸せに満ち溢れていた。人々が前を向き、希望を見据えている。何とも眩しい、素晴らしい世界。

 

 俺があの世界へ行くことはもう無いのかもしれない。しかし衝撃的な体験だった。また突拍子もなく連れてかれたりとかされそう。

 

 まぁそれよりも早く逃げていこう。何処へ逃げようか。いや割とマジで。

 

 

「あっ!見つけました!!!」

 

「やべぇ!!!」

 

「ポチ!!!!スモーク!!!!」

 

≪承知!!≫

 

 

 ……この後、俺達がグリフィン本部に逃げ込むまで追いかけっこが終わらなかったのは言うまでもないし、この事件を経てM200がメンタルモデルの調整を行われたのは確約された運命だった。

 

 

 

 本当に、変な1日だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 








いろいろ様、そちらの作品へお邪魔させていただきこの場を以って感謝を申し上げます。どうぞ煮るなり焼くなり好きにしてください。

大陸版で色々と情報が公開されましたが、私は鉄血が動かせるというのに大変感動しております。皆も興奮していこうぜ(?)

それと補足ですが喫茶鉄血時空のジャベリンくんは傭兵日記時空とは違って片目を抉られてませんので、ある意味一番幸せなのでしょう。とはいえ基本的な部分は変わっていません。ですので好みも何も同じって感じですね。本名も『アレクシス・ナトリ』となっております。
傭兵日記蝶事件以前の彼を想像していただければ分かり易いかも…。

スピアくんも基本的なことは変わらず、一人称が『僕』となっているだけです。

外見はジャベリンくんは刈り上げの黒髪黒目の日系、スピアくんはオールバックの金髪に碧眼な感じと……。


この作品への感想および評価は心の支えです。どうぞ、よろしくお願いします。それでは!!

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