まぁそれはそれとしてお待たせしました。今回は佐賀茂様作『戦術人形とおじさんと』( https://syosetu.org/novel/204435/ )とのコラボとなっております。
社長に連れられたジャベリン君を待つ者は…?
それではどうぞ!
363日目 続き
気が付けばそこは見知らぬ異国の地でした……という訳ではなく、社長に連れられて荒野の中を走り抜けていた。周りには岩やらなんやらと自然が一つも見えない。何なんだここはと思いながら眺めていると、社長がブリッツオウルという人物について詳しく話し始めた。
聞けば、かのブリッツオウルという男は対E.L.I.D部隊の中で一番被害を最小限にした上で多くの化け物を屠って来た部隊だという。人的損失が目立った社長の率いていた部隊とは大違いと社長自身が言っていた。
性格は冷静で寡黙、どんな状況でも柔軟に対応できる人物らしい。社長とは大違いだ。
そういえばうちの剣部隊はその殆どが元々社長の部隊員だったな。クレイモアにツヴァイ、ムラマサと色々居たのを記憶している。となると、剣部隊の奴らって相当な修羅場を潜り抜けてきたのだろうか?あいつ等やべぇな。
まぁそんなことは置いておき、社長はこの前話した通り、ブリッツオウルとは戦友であったらしい。軍に居た頃は仕事の都合も相まってそんな話すことは無かったというが、仲は良かったとかなんとか。
久々の訪問にそのブリッツオウルはなんと思うのだろうか。ちょっとだけ気になる。まぁ社長の事だしどうせ何かしらやっちまうんだろうなぁ……俺が巻き込まれないことを祈るばかりだ。
そういえばどうやって彼を見つけたのだろう?スリンガーからの情報だけじゃ見つけるの大変そうだけど……えっ?クルーガー社長に業務提携を楯に聞き出した?
なにやってんだこの脳筋。
364日目 晴
本当にやらかしやがったなあの野郎。いきなりブリッツオウル……コピー指揮官とのマンツーマン教育なんて聞いてねぇぞ。しかも後で酒も持ってこさせるなんてひでぇ話だよ。その上俺が来ること自体忘れてる始末だし。
報連相をちゃんとしてくれ……本当、有能なのかそうじゃないのか分からんなこのおっさん。
しかし……あのブリッツオウルとの特訓か。彼、酒も入ってるし義足だしで大変そうに見えたが……大丈夫なのかな?
もしもの時は即刻止めるか。
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―――
―
「……」
周囲を壁に囲まれた室内、一般的にキルハウスと呼ばれる場所にて俺は拳銃片手に息を潜めていた。拳銃のマガジンにはペイント弾が入っており、殺傷性は皆無である。
俺は今、コピー指揮官との遭遇戦をしている。ルールは簡単、先に撃たれた方の負け。これは突然社長に稽古付けをしろと言われたコピー指揮官がじゃあ実力を図るために模擬戦でということで始まった。
しかしまぁ……普通酒飲ませた後やるもんじゃないだろうに。
「っと…集中」
まぁそんなくだらない事を考えるのは良いとして、周囲を警戒しないとな。
流石元正規軍の人間、しかも隊長であっただけに気配も物音も何一つ感じられない。こういう手合いというのは武器庫にはほぼ居なかった存在だ。何せそういった気配を消すことを得意としている奴が弓部隊の隊長副隊長、後は剣のムラマサぐらいだからな。
久しぶりに滾ってきた……が熱くなりすぎると隙を突かれる可能性があるから落ち着いていこう。
「……クリア」
部屋を抜けて開けた場所へ出てきた。ここを迂闊に出るのは悪手だろうと、脇に他のルートもあったのでそちらへと進んだ。
相変わらず物音一つ聞こえない、とても不気味という感じで、少し気持ちが張り詰めてしまう。だがここで緊張に呑まれてしまえば一瞬で終わってしまう。
俺が対峙している相手はそれだけ手練れということだ、油断も緊張のし過ぎも命取り。一先ず、安全は確保した。
「ふぅ…」
「えらい余裕そうだな、ジャベリン君」
「っ!?」
一息つこうとした瞬間、コピー指揮官の声が間近に聞こえた。俺は直ぐに身を隠して周囲を窺ったが誰も見えなかった。
「勘弁してくれ…」
一人ごちてまた物陰へと移動する。
声がした方向へと向かうにしても恐らく相手はもう何処かへ行った後だろう。ならばどうするべきだろうか。
大人しく相手の出方を待つ?いや流石に向こうから仕掛けてくることは考えられない。やるにしても陽動しかない。このまま向かえば攪乱も考えられる。だがしかし攻めるしかこちらに手は無さそうだ。
苦手なんだがな……仕方ない。
「よっと!」
俺はわざと身を乗り出して牽制射撃をしながら走り出した。
自らを餌にして相手を釣るという作戦だ。捨て身の戦法と言えばそれまでだが、相手は一人なのでどうとでもなる。
そして幸いにターゲットはこちらへと拳銃を構えていた。
「フッ!!」
「おぉ、そう来るか?」
奇跡的にというか、直感で弾を避けて応戦する。勿論当たる筈がないが、それでも相手の位置を割れたのは大儲けだ。
地面にヘッドスライディングをして横へ転がり、相手の方へ走り出す。向こうが撃ってこない辺り、すぐに撤退したのだろう。彼の居た所は案の定誰も居なかったが、左に曲がる道が続いている。
俺は警戒して中を覗かず、その道の出口へと先回りすることにした。
「しっかし…コピー指揮官凄いよなぁ」
残弾を確認して静かに先回りをする中、そうぼやいた。
あの人は確実に人を誘導させるのが上手いと断言できる。色々な場面を想定して様々な戦術を立案する。流石指揮官というかなんというか、もしかしたら俺のさっきの行動だって織り込み済みかもしれない。
なら余計に注意しないといけないかもな。
「にしても……また逃したな」
……非常に困ったことにまた見失った。
いやぁ不味い。とても不味い。ちょっと突撃しすぎたのは駄目だったか。足音が聞こえるが…姿は見えず。まんまと誘導に乗ってしまった。
コピー指揮官にとっては俺のようなタイプは御し易いに違いない。模擬戦だからって調子に乗りすぎた。後で怒られるぞこりゃあ……。
「……っ!!!」
どうしたものかと考えている矢先、丁度真後ろで音が聞こえた。
反射で構えるも誰も居らず、だが俺の真横に確かな影が見えたのでそっちへまた構えた。
「チェックメイトだ」
「!!」
目の前には、銃を構えたコピー指揮官が。この距離は確実に俺の体へと弾が直撃する。避けられない。
俺は迷わず引き金を引いた。そして、ほぼ同時に銃声が鳴り響いた。
…………………………………………………………
「よーし、じゃあ反省会始めるぞー」
「うむ」
「はい」
所変わってここは応接室。さっきの模擬戦からコピー指揮官の指導が始まった。因みに勝負結果はコピー指揮官の勝ち。俺の弾丸はギリギリの所を逸れてしまった。
ブリーフィングルーム等は機密保持と諸事情のため使えなかったので、仕方なく応接室でやることになり、俺は手帳を持ってメモを取る態勢に入った。隣の社長は酒を煽っていた。なんかムカつくなぁ……。
目の前のコピー指揮官は社長を一瞥した後に、俺に向き合う。
「まず…ジャベリン君の動き方なんだが……ビックリするぐらい突っ込んで行くな君は?」
「あー…まぁ職業柄自分が先陣切ってるからだと思う」
「君は隊長だろ?何故そうするんだ、現場指揮をする人間が先陣を切ったがために負傷して現場に混乱が生じてしまうのは駄目なんじゃないか?」
彼の言葉に少し返答に困った。
というのも、俺の部隊は基本単独か二人で行動するものだからこれと言って指揮系統がどうこうという問題が出てこないのである。二人で話して決める、一人で考えて決める。というのが多くて、部隊全員で行動することが無い。
「あぁブリッツオウル、言い忘れてたが…そいつの部隊は基本単独での任務が多いから指揮云々はあんまり意識出来てないと思うぞ」
「………マーカス、それを先に言え」
「ははは、年代物のワインで許せ」
なんて言おうか迷う俺に、社長の助け舟が入る。
社長…こういうところがあるから本当憎めないよなぁ。俺の仕事量を増やすのは許せんが。
目の前のコピー指揮官は社長のセリフに若干の呆れを示しつつ、俺へのアドバイスを続ける。
「兎に角、単独行動が多いとはいえ部隊全体で動くこともあるだろ。そして君は隊長だ、指揮を執る人間が先陣切ったがために死ぬなんて飛んだお笑い種だぞ。マーカスじゃないんだからそこはちゃんと考えてくれ」
「……」
「俺だって考えるぞ?」
「お前の場合は“殺してから考える”だろ」
彼の言っている事はよく分かる。指揮官が倒れたら、代わりに誰が現場を乱さず直ぐに指揮を執れるのか。それは人数が増えれば増えるほどにその問題は目立っていく。
例え訓練された部隊であろうとも混乱は伝播していくものだ。それが広がるほど部隊の動きは鈍り、ついには隊員の命を落としかねない。
コピー指揮官はその事を伝えたいのだろうか。
彼は話を続ける。
「何度も言うが猪突猛進は厳禁だぞ、ジャベリン君。相手が一人だろうと、もしかしたら罠を張っているかもしれない、仲間が待ち構えているかもしれない。そんな風に油断をせず色々な可能性を瞬時に模索するよう心掛けてみてくれ。いいな?」
「……了解」
「全てを運だけで乗り切るのには無理がある。戦略で機を制して、戦術で優位に立ち、技術で勝つ…戦いってのは如何に不利にならずに勝つか、不利になってもどうやって逆転させるのかが大切だと俺は思ってる。マーカスみたいに直情馬鹿やってると戦場じゃ生き残れないぞ」
コピー指揮官はそう言ってグラスに残っていたスコッチウィスキーを飲み干した。一旦この話は終わりにするようだ。
俺は社長の『別にいつも直情じゃないんだが…』というような顔を尻目にノートをまとめる。
この模擬戦においての反省すべきところと言えば、彼の言っていた通り突っ込みすぎているというところだろう。相手を釣るためにやった行為とは言え、迂闊過ぎた。しかもコピー指揮官は中々の手練れである訳で、選択を間違えた。
「……」
この前416から言われた、『一人で無茶をしてしまうのはやめろ』という言葉が脳裏を過る。今回ばかりはこの言葉が一番胸に刺さる。
考えてみれば俺も他人に心配をさせ過ぎてるのかもな。情けないもんだ。
「ジャベリン、いい勉強になったか?」
「お陰様で。いきなりとんでもない事しやがって」
「すまんすまん」
内容をまとめていると、社長が声を掛けてきた。
俺は彼へと悪態をつきつつも、まぁ、と一旦区切る。
「……アンタが俺のことを相当心配していることはよく分かった。ありがとう、ボス」
「……ほう」
社長が珍しいものでも見たような顔で俺を見る。そして俺が何だと言い切る前に、こちらのグラスへとなみなみスコッチウィスキーを注いできた。
おいこれコピー指揮官のだろ。目の前の彼が困惑してるっぽいぞ、待て。
「いつもは俺に悪態ばっかりついてるお前が珍しいもんでな!!ブリッツオウル!!!お前もグラスを出せ!!!もっと飲むぞ!!!」
「おいおい、そんなに飲んでいいのかマーカス」
「俺がこの程度で酔うと思うか?」
そう言ってコピー指揮官のグラスにも目いっぱい注ぐ社長。よく見れば手元にはもう一つの高そうなウィスキーが握られていた。
これはまさかかなり飲むことになるのでは……?という懸念は現実となるもので、現に社長はそのボトルも開けて飲み始めていた。
「いい飲みっぷりだな」
「あー…コピー指揮官…なんというか、すまない」
「いや、いつものマーカスで安心したよ」
ウィスキーを飲み干す勢いの社長を見ながらも、コピー指揮官は平然としており、静かにグラスを傾けていた。
流石社長の同期というか、慣れてる。ここにクルーガー社長も居たらさぞかしにぎやかになってそうだ。
俺は感慨深く思いながら少し氷の少ないスコッチを飲む。芳醇な香りとしっかりと感じる味を楽しんだ。
「ジャベリン、もっと飲んだらどうだ?」
そんな中で社長がまたどんどんグラスへと注いでくる。俺はやめろと手で制したが、そんな事どこ吹く風か、お構いなしに入れてくる。
いやちょっ…多っ。
「やめてくれないかボス!?」
「普段から飲まないんだろ?こういう時は飲むもんだ!!」
嫌な上司みたいなセリフ言いやがったぞこのおっさん!!!!
流石に身の危険を感じたので、俺はコピー指揮官へと助けを求めたが……。
「頼んだぞ、ジャベリン君」
死刑宣告にも似たことを言い渡された。
あっこの人面倒だからって俺に全部押し付けようとしてるな!!?
「後始末は俺がするよ」
「いやそういう話じゃ無くてですね!?」
俺のグラスには馬鹿みたいにウィスキーが注がれている。
社長の手は止まらない。俺が止めようとも止まらない。酒が次から次へと増えていく。
最終的に、俺はどうにもならないので考えるのを止めた。コピー指揮官には感謝するのと同時に、恨むこともすることにしよう。
たすけて。
私の頭が悪すぎて上手く動かせなかった悲しみ……。
何はともあれ、佐賀茂さんコピーおじさんを快く貸していただき、この場を以って感謝申し上げます!本当にありがとうございました!!!
それでは皆さん、感想および評価は心の支えです!どうぞよろしくお願いいたします。また今度!
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