さて今日は…ついに代理人が出て来ます。しかし今回は少し様子がおかしいようで?
それではどうぞ!
ここはリフィトーフェンの隠れ家。薪を燃やす暖炉の前で、この隠れ家の主“リフィトーフェン”がしかめっ面をして、通信機のホログラムへ映されたメイド服の女性と対峙していた。
「代理人……君は随分と私のシナリオ通りに動きたくないようだね?」
『えぇ、どうしても。というより、貴方のシナリオ何て知る訳ないではありませんか』
ホログラムに映されているメイド服の女性は『
そのお願いとは…………
「私に特注の素体を作らせろと言うのは正気か?」
『貴方が私を正気と言うのは些か首を傾げてしまう案件ですね』
「皮肉を言うんじゃなぁい!ええい全く、君はジャベリンの事となると何時もこうだ。どうしてこうなったのか君の電脳を一度確認してやりたいところだ!」
『一体誰のせいでしょう』
“自分用の特注ダミーを作って欲しい”
というものである。リフィトーフェンにとってダミー素体を作る事自体は容易だ。しかし代理人から提示された条件が、彼が決断を渋る要因となっていた。
「はぁ…何故私がジャベリンが十分制圧可能な義体を作った上であのプログラムが作動しないように細工をしなければならんのだ。全く面白みが無くなるじゃないか!!!」
『貴方のおふざけに付き合うつもりは一切ありません。それで、出来るのですか?』
「出来るとも!私は人形を愛するものだぞ?これぐらい何の造作もない!」
それは、義体の性能をわざと落とし、そして自身の技術の結晶とも呼べるモノを封じるという条件であった。
自身の研究物を愛し、そして出来る限り強くさせるのが大好きなリフィトーフェンにとってはなんとも度し難いものである。彼のように言うなら、『私の技術を有らん限りに詰め込んで何事にも対応可能で、あらゆる環境に適応できるものが作れないなんてこの世界を一度滅ぼさなければならない』ということだ。
本来なら代理人が提示した条件を突っぱねる事は出来るのだが、今の彼にはそれが出来ない。
『ならば作ってください。貴方はその隠れ家の場所がグリフィンや国家保安局に知れてしまうのは不都合でしょう?』
「迂闊に君をここに招き入れたのと隠れ家を複数用意しなかったのが失敗だったな。こんなもの作るのは非常に不愉快だが……私の生活が脅かされるのはもっと不愉快だ。やってやる」
リフィトーフェンは代理人に居場所を知られており、しかも彼女はその情報をグリフィンなり何なりと渡す手段を持っているのだ。
彼にとってこれは都合が悪すぎる。故に従わざるを得ないのである。
『ではそのように。明後日、そちらへ伺います』
代理人はそう言ったきり通信を切った。
リフィトーフェンは静寂に包まれた部屋に一人残される。暫く何もせずに暖炉で燃え盛る炎を眺めていたが、ふとした拍子に立ち上がった。
「…代理人め、無理難題を押し付けてきたものだな。仕方がないが、ジャベリンには少し苦労をして貰おう」
リフィトーフェンは珍しく困った顔を浮かべながら自身の作業室へと入っていく。
これは、少し騒動が起きそうだ。
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「久しぶりだなジャベリン」
「一体どうしたんだよ俺一人で会いに来いなんて。嫌な予感しかしねぇぞ?」
「安心したまえよ君。少なくとも、その予感は杞憂に終わるさ」
二日後、武器庫管理区にて、ここはとある喫茶店。そこにリフィトーフェンとジャベリンが二人向かい合っていた。ジャベリンは突然の呼び出しで、しかもリフィトーフェンがいつもの白衣姿でなく何処かの会社員を思わせるようなスーツ姿で現れたため、警戒していた。
だがリフィトーフェンはそんな事お構いなしのようである。
「安心しろって言われてもなぁ」
「君に会わせたい奴が居てね。そろそろ来そうだが」
ジャベリンが話を聞けと口を開こうとした丁度その時、喫茶店のドアが開いた。
ジャベリンはその時、リフィトーフェンの口角が上がるのを目撃し怪訝に思ったが、直ぐにどうしてこの男が笑っているかを理解する。
喫茶店のマスターがいらっしゃいと声を掛けた先に一人の女性が立っていたのだ。その女性はシニヨンの黒髪で、黒を基調としたパンツルックにグレーのロングコートを羽織っていた。
「……あの人か?」
「そうだとも」
ジャベリンは彼女に目を奪われてしまった。そして同時にその女性が此方へと歩いてきた為か緊張し始める。
リフィトーフェンはそんなジャベリンの様子を笑っていたが、隣に彼女が座って来た事を契機に真面目な顔に変わった。
「久しぶりですね、ジャベリン」
「……何処かで会いました?」
「ふふっ、忘れてしまったのですか?貴方はあんなにも私と愛を語り合ったではないですか」
「えっ?」
ジャベリンは混乱する。何せ見も知らぬ美女が自分のことを知っている上に愛していたというではないか。
ジャベリンは咄嗟に記憶を探り始める。
「マトモな状態になったからといって変にテンションを上げるなよ代理人」
「えっ!?」
ジャベリンが微笑む謎の美女を前に自身の記憶を掘り返していると、リフィトーフェンが呆れたように衝撃の事実を吐き出した。
目の前に居る謎の美女が代理人?そんな訳あるまいとジャベリンは考えたが、リフィトーフェンの今までに見たことも無いような表情と、隣の女性がよくよく見たら何処か見覚えのある面影があったのでその考えが揺らぐ。
「リフィトーフェン…お前薬でもやったのか?場合によっちゃうちの医療班紹介するけど」
「現実を直視したまえよ。私の隣に居るのはまごうことなき代理人だ。こいつがどうしても君に会いたいというのでね、特注品の義体を作らせた」
「……」
思わず頭を抱えるジャベリン。
お前それが有れば今までの俺が被った被害全て無くせたじゃないか…という言葉が喉から出かかったが、リフィトーフェンはそれを予期していたかのように補足する。
「一応言っておくが、この義体を作るよりかは本体を破壊したほうがコストも掛からず断然早い。それにこいつは今夜を以って廃棄予定のモノだ。量産なんてやらないしやりたくもない」
「そうかよ……で、そこの代理人は一体何の用なんだ?」
リフィトーフェンの言葉に心底呆れ、そして胡乱な目で代理人を睨むジャベリン。
当の謎の美女もとい代理人はその視線に臆することなく、平然としていた。
「貴方に会いたかっただけ。という理由じゃダメでしょうか?」
「随分とロマンチックな理由だなオイ。俺はお前とはまだ会いたくなかったよ」
「おや、告白の準備ですか?嬉しいですね」
「黙ってろ」
剣呑な空気が漂い始める中、カフェのマスターから紅茶とコーヒーが出される。取り敢えずは落ち着いてくれということだろう。リフィトーフェンは隣の微笑む代理人と目の前ですぐにでも拳銃を抜き出しそうな雰囲気のジャベリンへそれぞれ飲み物をすすめる。
「話が進まんぞ二人とも、少しは落ち着き給え。ジャベリン、残念だがこれは本当の話だ。こいつは君に会いに来た。理由は与り知らん」
「何でだよ。お前がこの義体作ったんだろ、目的は聞いてるんじゃないのか?」
「脅されて作られたんだ」
問いにお道化て答えるリフィトーフェン。ジャベリンは紅茶をぶっかけてやろうかというのをグッと堪えて、代理人の方を向き、不本意ながら質問を投げかけた。
「代理人……何で、お前はそんな事を」
「貴方に会うのに理由は必要でしょうか?」
「お前な……」
「すまないがジャベリン、一先ずは代理人の相手をしててくれ」
「はぁ!?」
更なる衝撃がジャベリンを襲う。
彼にとって、代理人というのは所謂天敵というものだ。そういった存在と今日一日過ごせと言われたジャベリンの心中は荒れるどころの話では無いだろう。
絶対にやりたくないというのが彼の本音であるが、それと同時にこのまま放置しておけば向こうが何を仕出かしてしまうのか未知数であった。その上危害を加えてくるという可能性も否めない。
「で、どうなんだ?」
「………………分かった」
「ふふっ、それでは行きましょう?」
だからなのか、ジャベリンは後に起こるであろう最悪なケースを防ぐためにも渋々といった態度で了承をした。
それを聞いた代理人は待ってましたと言わんばかりに彼の手を取って喫茶店の外へ出る。
残されたリフィトーフェンは会計を手早く済ませて彼女達へ続いた。
「……クソッ」
「ジャベリン、これも世界平和の為だ。それに今の彼女の身体は特殊だ。あのプログラムは発動してない」
「リフィトーフェン……お前マジで俺の苦労を全て水の泡にするの好きだな?」
「大丈夫だ、君の苦労が報われるよう私も調整する。それじゃあ楽しんでいってくれ、私は遠くから見守るよ」
リフィトーフェンはそう言って人混みへと消え去った。
ジャベリンはいつか彼を殴り飛ばすということを胸に抱きながらこちらの手をがっしりと掴む代理人を見る。
彼女の横顔は、とても嬉しそうだ。
「どうしてこうなったんだろうな……はぁ」
「これも全て私のお陰ですね」
「うるせぇ」
喜ぶ代理人と不服なジャベリン。二人の男女は街へ出る。
こうして世界を守るため(?)の奇妙なデートが始まったのだった。
代理人のデート回、始まります…さぁここからどうなるのか、楽しみですね!
これでやっと代理人のフラグも建築できます。私も本腰を入れないとですね。
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