傭兵日記   作:サマシュ

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「アーキテクト、私はAR小隊を狩ってくる」

「んー、いってらー」

「くれぐれも勝手に動くなよ?それで一昨日手ひどくやられたんだからな」

「分かってるって。あたしだって馬鹿じゃないし」

「……行ってくる」




「さぁてここにダミーちゃん置いていってやろっと……絶対リベンジするんだから」


不測は乗り越え、爆破は巻き込まれ。

 

 

「…………」

 

 

 水滴の滴る室内。アルバートにゆっくりしててくれと言われた俺は、少し落ち着きなく銃を弄っている。勿論先日メンテナンスしたばかりのSCARやM9はピカピカの新品さながらで今さら何か手を着けても意味をなさない。

 つまりそれほど自分自身が不安に迫られているということだ。正直なところ、今すぐにでも窓に張り付いて油断なく外を見ていたい。

 

 

『ご主人、敵が向かってきています……数は一個小隊ほどですね』

 

「おっおっ、来たか来たか~?」

 

 

 外に偵察へ出していたポチから連絡が入った。鉄血はどうやらこちらを潰しに来る気満々だそうだ。

 一粒の汗が頬を伝う。何とも言い難い不安な気持ちに包まれた。

 そんな俺とは正反対に楽観的なアルバートは、起爆スイッチらしきリモコンを片手に今か今かと窓を覗いていた。どうやら地雷か何かでも仕掛けていると見た。

 俺は銃を担ぎ、彼と同じく窓から外を見てみることにした。

 

 

「……おいおい、マンティコアまで居やがるぞ。ポチ、そろそろこっちに戻ってきてくれ」

 

『分かりました』

 

「はっはー、それだけ爆破しがいがあるってことよ」

 

「そうかい」

 

 

 銃のセーフティを外して何時でも撃てるようにしておく。

 窓の先で草木を踏みしめながら歩く鉄血の集団は、こちらへと真っ直ぐ近付いてきていた。

 俺はアルバートに視線を送る。

 

 

「まだだぜジャベリン」

 

「どのくらいまで近付かせるんだ?」

 

「この家から20メートルほどだよ」

 

「大丈夫か?全く不安だぜクソッタレ」

 

 

 俺の心配に親指を立てて応答するアルバート。

 任せとけということだろう。俺は肩を竦めてまた窓から外を見据える。鉄血の集団は目標地点まであと数メートルとなっていた。

 

 

「5メートル……」

 

 

 徐々に、徐々に奴らは近づいてくる。この先に罠があるなんて知らずに。

 念のために俺はトリガーに指を掛けて何時でも撃てるようにしておく。

 

 

「3……2……いぃち……ゼロ」

 

 

 かちりと音がした。その刹那、目の前が真っ白になった。

 

 

「うおっ!?!」

 

「ヒューッ!!良い威力だぜ!!!」

 

 

 爆風で窓が酷く揺れる。俺は耳をつんざく音に辟易しながら爆発地点に視線を向けた。

 そこはまだ土煙に覆われていたが、あの威力だ。せいぜい生きててもボロボロの状態だろう。一応状況確認のためにポチに通信を飛ばした。

 

 

「ポチ、お前の居るところから何か反応は感じられるか?」

 

『……今のところは何も。レーダーに影も形もありません』

 

「了解。この家屋の裏手から出るぞ」

 

 

 ポチの報告から脅威を排除できたことに胸をなでおろし、ポチとアルバートと共に外へ出た。

 確か回収地点はここから東へ5キロほど……遠いものだ。流石にジュピターが居るから仕方ないとはいえもう少しマシな位置に指定出来なかったのか。

 だが今更である。俺は目の前で雪だるまを作りだした呑気な救助対象に呆れながら司令部へと通信を繋げた。

 

 

「こちらジャベリン。対象を発見、保護した。これより回収地点へ向かうオーバー」

 

『分かった。今すぐ回収ヘリを向かわせる、急いで動いてくれ』

 

「了解。ジャベリンアウト」

 

 

 通信を切りアルバートを連れて回収地点へと急ぐ。今から歩いて一時間ほどか、多少の遭遇戦はあるだろうが出来る限り戦闘は避けておきたい。アルバートも多少の戦闘行為は出来るだろうが、今は非戦闘員として考えておいた方が良いだろう。

 

 

「ジャベリン、なんかハンドガンとかねぇの?護身用に持っときたいんだけど」

 

「撃てるのか?」

 

「俺だってグリフィンの職員だぜ?あんたほどじゃないが、使えるよ」

 

 

 そう言って片手をこちらへ差し出すアルバート。俺は少し不安に思ったが、無いよりはマシだろうということでレッグホルスターに収めていたM9を彼へ渡した。アルバートは早速M9をくるくると回したり撃つマネをしたりと、かなり自信ありげに遊んでいる。

 そんなアルバートを横目に、俺たちは廃村の中へと歩を進めて行った。

 

 

「ここまだ放棄されてから時間経って無さそうだな」

 

≪そうですね。足跡も幾らか残ってます≫

 

 

 ふとアルバートが何か引っかかるような物言いをして、ポチがそれを裏付けるような証拠を見つけた。

 確かに車輪の跡や丁度ポチと同じような足跡も見える。

 

 空気が途端に張り詰めた。

 

 

「……俺から離れるなよ?」

 

 

 俺はトリガーに指を掛けて何時でも撃てるように準備をした。そうして足を一歩進もうとした途端―――――――――――――

 

 

「伏せろジャベリン!!!!!」

「なっ!!?」

 

 

――――アルバートに体を抑え込まれた。何事かと状況を判断する間もなく爆音が聴覚を支配する。

 

 抜かった。敵はどうやら待ち構えていたらしい。それが俺達に対してなのか他の人形部隊に対してなのかは分からないが相当に殺す気であるらしい。

 兎に角ここを離れるのが最優先だ。確か左手方向に森があったはずなのでそこまで向かうしかない。

 

 

「アルバート!!ポチ!!!森へ向かうぞ着いてこい!!!」

 

「了解!!」

 

≪はい!!≫

 

 

 義眼の機能をアクティブにして森へ一直線に走る。廃村はすでに迫撃砲の嵐に蹂躙されており、爆炎や木材の破片が舞っていた。

 それを確認したのも束の間、森の中へ入る。今度こそは大丈夫だろうと思って俺は義眼の欺瞞機能を停止させた。そしてポチに周辺警戒をさせておき、司令部へと通信を繋げた。

 

 

「こちらジャベリン。応答してくれ、敵の待ち伏せにあって現在逃亡中。回収地点から2、3キロ離れた地点で攻撃に遭った。回収地点の変更は可能か?オーバー」

 

『こちら司令部、無人機の情報からそちらを確認。その森を北へ抜けた先に回収地点を再設定した。くれぐれも敵に見つからないようにしてくれ』

 

「了解。ジャベリンアウト…聞いてたな?行くぞ」

 

 

 俺たちはまた歩き出した。アルバートが多少文句を垂れていたがこればかりは仕方ない。

 暫く北へ進んでいると、アルバートがまた口を開いた。

 

 

「……なぁジャベリン」

 

「今度は何だよ」

 

「何か聞こえね?」

 

 

 ……言われてみれば聞こえる。

 もう少し耳を澄ますと、誰かが鼻歌を歌っているように聞こえた。

 

 

「……ポチ」

 

≪…鉄血ハイエンドモデルです。下級人形も何体か居ますね≫

 

「げぇっ…まさか」

 

「何か知ってるのかアルバート?」

 

 

 彼が何やら知っている様子。だがいかにも嫌そうな顔をしている辺り、余りいい思い出ではなさそうだ。

 だが今は情報が欲しい。俺は彼に話してくれるように促した。

 

 

「あー…実は「どっかーーーーーーーーーーん!!!!!!!!!!!!

 

 

 しかし彼が口を開いた瞬間、戦場には不似合いな元気いっぱいの声と爆発と共に煙に包まれた。

 これまた俺たちが何事かと混乱している内に、さっきの声がまた聞こえてくる。

 

 

爆発とは芸術だ!!!爆発とはロマンだ!!!爆発とは人生だ!!!私がやらずに誰がする!!!

 

 

 随分と愉快な語り口上が聞こえてくる。

 

 

あれは誰だ!?鳥か!?無人機か!?いーや、あたしだよ!!!!

 

 

 更なる爆発音が聞こえた。そして土煙も晴れてきた。

 

 

全てを破壊し全てを創る!!!!その身はまさしく建築士!!!!

 

 

 ドン!という効果音でも聞こえて来そうな決めポーズで彼女は現れた!

 

 

夢見てまじかるキルゼムオール!!!!粉砕爆砕大喝采!!!!!みんなのアーキテクトちゃんが華麗に登場ぉ!!!!!!!……なぁーんちゃってネ?」

 

「……なんだこれ」

 

≪いつにも増してまぁ……≫

 

 

 鉄血ハイエンドモデル『アーキテクト』。

 彼女は非常にハイテンションな状態で俺達の前に立ちふさがったのだった。

 

 

 

 







Twitterで落書き投稿してたらこんなに時間が……それはそうと私の推し人形を出すことが出来ました。とても嬉しい……。

さて次回はアーキテクトとの戦闘となります。割とこのお話は長くなりそうですが、のんびりゆるりとお付き合いしてくださいませ。

それではまた今度!!コメント、評価待ってます!!!

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