傭兵日記   作:サマシュ

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すみません一万文字行きました。加筆やらなんやらしてたら凄く書いてしまった……楽しかった……。

平和ですよ、どうぞ。







傭兵、お出掛けだってよ。

88日目 晴

 

気の遠くなるくらい晴れた今日、俺はM16と何処かへ出かける。何かを決めた訳でもなくただのんべんぶらりと。どうせ商店街やら大型ショッピングモールに行って、彼女と初めて会った時に約束した飲みのお誘いの消化がてら小粋なBAR、といってもあの草臥れたマスターの喫茶店にでも行って飲んでちょっと酔っぱらって帰るのだろう。

あ、そうだ。ついでにバイクも買おう。前から気になっていたのがあるからな。

ポチとオスカーには悪いがまたお留守番。お土産買ってやるから我慢してな。

 

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___________

 

____

 

 

「今日も良い天気なこったな」

 

気分が良くなるほど晴れた昼下がり、俺は草臥れたマスターのいる喫茶店へ向かっている。仕事もなく面倒事もなく、清々しい。上機嫌で最近咲き始めた花、桜だったか、それを眺めながらゆったりと歩いていたら、喫茶店に到着した。さてさて、M16はもう来てるかな。

 

 

「マスター、また来たぜ」

 

「おや、ジャベリンじゃないですか。いらっしゃいませ」

 

「すみません店間違えました」

 

 

俺は店を出る。うんうん、見間違いだろ。俺は決してヴィクトリアンメイドの服装をした代理人が居る喫茶店で待ち合わせをしていた訳じゃない。いつものシワだらけの服を着ている草臥れたおじさんマスターの居る喫茶店で待ち合わせをしてたんだ。これは夢だ。白昼夢でも見てたんだろ、起きろよ俺。寝惚けるなよ俺。しっかりするんだ俺。

一度深呼吸をして外にある狸の置物を見たあとに、再度目の前の喫茶店に入店する。

 

 

「マスター、居るか?」

 

「マスターなら奥で休憩していますよ。それよりなぜ一度出たのですかジャベリン?」

 

「クソォッ!!!」

 

 

……………………………………

………………………

……………

……

 

 

グリフィン本社周辺の商店街の外れ、そこにぽつんとあるレトロな雰囲気の喫茶店。そこを経営するマスターは草臥れたおじさんであり、一見とっつきにくい所があるように思われているが、実のところ人当たりが良く、トーク力も上々で多くの周辺住人の心を惹き付けて止まない。グリフィン本社に勤める戦術人形たちも例外でなく、昼休憩あたりになれば入り浸る人形もちらほらいるくらいだ。ある日の昼下がり、いつもならそのマスターが相変わらず食器を磨いているのだが、今は少し様相が違った。

 

 

「つまりだ、趣味程度に料理を学ぼうとしたら深みに嵌まってしまい、今は時間があるときにここで働いていると?」

 

「そういうことになりますね」

 

「嘘だろ……」

 

 

カウンター席で二人相対するは鉄血工造製のハイエンドモデルの戦術人形、『代理人(エージェント)』、片やグリフィンに雇われている傭兵、また民間軍事会社『武器庫(armoury)』にも雇われているおかしな立場の傭兵、コードネーム『ジャベリン』。ジャベリンという男は最早意味がわからないという風に頭を抱えて代理人を睨むが、どこ吹く風か、代理人は別に何の問題もないように他の客から注文された料理を作っている。彼女の手捌きは華麗で、いつまでも見ていたいほど素晴らしいものだった。

 

 

「それで、ご注文は?」

 

「あん?」

 

「ご注文は?まさか冷やかしで来たわけではないでしょう?」

 

「あー……ミルクティー、牛乳多めで」

 

「承りました」

 

 

料理を一通り終えて、今度は茶葉やケトルを取り出した。ウェイトレスが料理を持っていく。彼女は手慣れた手つきで紅茶を淹れだす。その光景は型に嵌まっていてなお様になっており、まるで大昔の貴族に仕えた優雅なメイドのようで、思わずジャベリンは嘆息する。周りからも同じく感心するようなため息が聞こえたため、皆彼女に見惚れているのだろう。

 

 

「全く……様になってるな」

 

「おや、そうですか?」

 

「そうだとも、戦術人形でもやめてメイド人形でもやったらどうだ?」

 

「ふふ、ご冗談を。どうぞ、ミルクティーです」

 

「何で満更でもなさそうなんだよ……どうも」

 

 

ジャベリンがミルクティーを受け取り、さっそく口をつける。口腔には紅茶の良い香りと、ミルクの滑らかな旨味が広がる。それでいてえぐみもなく、ただただ紅茶の香りと美味しさを堪能できるミルクティーであった。美味しい、とジャベリンは思わず呟く。それを聞いた代理人は静かに微笑む。

 

 

「お気に召されて何よりです」

 

「お前……店でも始めるのか?」

 

「それも吝かではありませんね。戦場を駆ける喫茶店の店主、なかなか面白いとは思いませんか?」

 

「どうだかな……いつかこの紅茶の淹れ方教えてくれ」

 

「構いませんよ、ふふふ」

 

 

二人の間に他を寄せ付けないような雰囲気が漂う。何人かは目を煌めかせ、何人かは黄色い悲鳴を小さく叫び、一人ほど写真を爆撮りしている。おそらく代理人を目当てにこの喫茶店に来ていたであろう男衆は嫉妬の視線をジャベリンに投げ掛ける。

視線を投げ掛けられた本人は悪寒を感じながらも平然としてミルクティーを堪能していた。

 

 

「ジャベリーン?居るかー?」

 

 

そんな中で、突然カランカランというベルの音と共に片目に眼帯を着けた女性、いや戦術人形のM16A1が入店してくる。彼女はどしどしと大股でジャベリンの隣まで歩いて行き、そのままどすんと隣に座る。目の前の代理人を一瞥したあと、彼女にコーヒーを頼んだ。

何だか視線がより強くなった気がする……。ジャベリンはそう思った。実際、ひそひそと話し声が聞こえるしカメラのシャッターを切る音なんてこれでもかと聞こえる。また烈火の如く熱い視線や寒気のする視線も増えた。

代理人とM16はそんな事に気付いていないのか全く気にしていない。代理人の手際のよさにM16が感心するように見入っている。

 

 

「ジャベリン、貴方も罪な男ですね」

 

「え?」

 

 

ふと、代理人からそんな言葉が漏れる。

 

 

「この前は416やペルシカリアさん、はたまたG11ちゃんをこの店に連れ込んでも居ましたが、今度は彼女を毒牙にかけようとは……」

 

「えっ」

 

「おっ?ジャベリンも隅に置けないねぇ、随分とプレイボーイなこったな、ええ?」

 

「いや、お前」

 

「ええ、ええ、あの時は随分とお楽しみでしたからねぇ……フフッ」

 

「その事もっと詳しく」

 

 

ジャベリンは直感する、これは自分を使って遊んでると。恐らく代理人もM16も彼に降り注がれている視線やら何やらに気がついていたのだろう。そうでなければここまであからさまな言い方はしないはずだ。

ひそひそとした声が大きくなってくる。黄色い悲鳴がこれでもかと聞こえてくる。男達の視線がさらに鋭くなる。シャッターを切る音がより多くなりその上メモをとっているのか鉛筆が走る音もしてきた。

 

これはヤバいと、ジャベリンは考えた。急いで自分とM16の分の代金を払い、驚く彼女を尻目にその手を引いて店を出ようとする。そこに代理人が一言。

 

 

 

 

 

 

 

 

「またのお越しをお待ちしております、ご主人様♪」

 

 

 

 

 

 

 

 

ドアを閉めた瞬間、怒号が聞こえた気がした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「酷い目にあった……」

 

「ははは。楽しかったぜ、ジャベリン」

 

「頼むから二度とやらないでくれ……」

 

 

代理人から爆弾発言を頂いた後、俺はM16の手を引いて一目散に喫茶店から離れた。現在は商店街を歩いており、隣のM16はさっきの事を思い出しては笑っている。やめてほしい……。

というか、代理人は何であんな事を言ったのか全くもって不明だ。お茶目でやったとしたら随分とイイ性格してると言いたくなる。いつか見返してやりてぇな……。どうしてやろうか。

 

そんな拙い復讐計画を考えながら歩いていたら、M16がふと足を止めた。おや、と思って彼女の視線の先を見れば、色々なものが陳列された店、所謂雑貨屋があった。M16は何かを考えるように見つめている。

 

 

「何か、気になるものでもあるのか?」

 

「ん?あぁ、ちょっと妹たちに何か買ってやりたくてな」

 

 

ここに来てまでか、そう思った。でも同時に妹想いということを嫌なほど分かってしまい、思わず苦笑する。

シスコンってのは大変だな……でもそれだけ想う相手が居るのは羨ましい。俺なんてせいぜいポチやオスカー、それとG11ぐらいかな?

槍部隊の奴らまぁ、想っていようとそうでなかろうと強かに生きてる奴らだし問題ない。

 

 

「とりあえず、入るか?」

 

「ん、そうだな」

 

 

とりあえず、お土産でも買ってやるか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

所変わってジャベリンたちから後方十メートルほど。電柱の影に三人の影がある。

 

 

「目標、雑貨店に入りました。オーバー」

 

「それ、やる必要あるの?」

 

「雰囲気って大切だよコルト」

 

「そうだけど……というか何でM16の尾行なんてするのよM4」

 

 

影の主はM16の妹分、M4、AR-15、SOPである。なぜこの三人がここに居るのかと言えば、ズバリ、数時間前に遡る。

 

 

 

ーー回想ーー

 

 

「~♪」

 

「随分と機嫌が良いですね、姉さん」

 

「おっ、M4か。聞いてくれ、ジャベリンと街に出ることになったんだ」

 

「……へぇ、そうなんですか」

 

「あぁ、この前の約束と埋め合わせもあるからな。結構楽しみなんだ」

 

「……気をつけてくださいね」

 

「分かってるさ。それじゃ、行ってくる」

 

「行ってらっしゃい、姉さん」

 

(……姉さんの顔、映画でよく見た今から男に会いに行く女の顔だった?何故?まさか、姉さんはジャベリンさんのことを……!?)

 

 

ーー回想終わりーー

 

 

「あの男らしい姉さんが……女の顔をしてたなんて……何なの……ジャベリンさん、答えてくださいよ?」

 

「ねぇ、帰って良いかしら?」

 

「駄目だよコルト、我らが小隊長様きっての願いだし。たとえ下らないことでも従ってあげなきゃ」

 

「SOP、貴方意外と酷いこと言うわね」

 

 

まあ、言うなればM4A1個人の私怨のようなものである。はっきり言って、このM4は微妙にシスコンとヤンデレを併発している。恐らくこの前のメンテナンスが原因なのだろう。

オイ責任者を出せ。単なる好奇心?ギルティ。

ちなみにAR-15とSOPは完全にとばっちり。だがSOPは暇なので拒否することもなく着いてきた。案外ノリノリである。

AR-15は至極面倒といった様子だ。何せ惰眠を貪っていた所を叩き起こされて連れられて来たのだ。無理はない。

 

なお、彼女達の他にもジャベリンたちを追いかける影があった。

 

 

「何で……何でジャベリンはあいつと一緒に……!?」

 

「お、落ち着いてよ416……女の子がしちゃいけない顔になってるよ?」

 

 

416とG11である。彼女たちもたまたま非番で買い出しに出掛けていたのだが、これもたまたまジャベリンとその隣を歩くM16を見かけ、今に至る。修羅の如く歯を噛み締めてジャベリンたちが入った雑貨店を見つめる416、そんな様子を気が気でないとG11。流石のG11もこれには眠気が吹き飛んで、どうにか416を抑えようとしていた。

 

 

「これでも落ち着いているわよ寝坊助……私は完璧よ……!!」

 

「それ鉄ポール握りつぶしながら言うことかなぁ……」

 

 

ギリギリと、阿修羅の如し416。ゆらゆらと、幽鬼の如しM4A1。

偶然にも二人の目が合う。暫しの沈黙。二人は近付き無言の握手。

 

 

悪魔の契約が結ばれた。

 

 

「ジャベリン……強く生きてね」

 

 

G11はそう独りごちた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「っ!?」

 

「どうしたジャベリン?」

 

「いや、何でもない」

 

 

殺気を感じた。気のせいであってほしい。

俺は今M16と雑貨屋で物色中だ。M16は案外ぱっぱと決めていたが、俺は結構悩んだ。ポチはステッカーとして、オスカーは首輪かな?槍部隊のやつらは……スピアは確か新しいケトルが欲しいなんて言ってたからそれにするとして、トライデントとランスがわからん。あいつら意外と自分から何かが欲しいなんて言わないからな。とりあえずトライデントには漫画キャラのキーホルダー、ランスにはフライパンでもあげよう。

それと……G11か……あと416、繋がりでUMP姉妹にも買ってやらなきゃなぁ……G11にはサメのステッカー、416には彼女の瞳と同じ色のネックレスあったしこれにしよう。UMP姉妹……何も思い付かない……。45は何だか猫っぽいし猫の置物にしとこう。9……9なぁ……無難に写真立て?これ渡して好きな写真を入れておくといいって言えばいいかな?

 

 

「随分悩んでるな」

 

「あぁ、けどもう決まったよ」

 

「お、そうか。なら早く買おうぜ」

 

「ん」

 

 

早速会計へと急ぐ。そういえばバイク買おうとしてたな、なんて思い出した。大きな袋に詰めて貰ったあと、俺が全部を運ぶ形になって店を出る。結構おもいな……何買ったんだ彼女。なんとなく聞いてみたら、

 

 

「んー……秘密、さ」

 

 

と言われた。ちょっと気になりはしたけど聞かないことにした。俺は彼女にバイク屋へ行っていいか尋ねてみたところ、快く承諾された。やったぜ。

 

俺たちは歩いていく。ふと後ろを見れば、能面のような顔をした女性二人が俺たちを見ていた。

 

…………うん、気のせいだろ、気のせい。

 

 

 

 

 

 

「ターゲット、雑貨屋から退店。何処かに行く模様、オーバー」

 

「こちらジェロニモ、目標はどうやらこの先にあるバイク屋にいくらしいわ。追いかけましょう、オーバー」

 

「了解。貴方の聴力には驚かされます。オーバー」

 

「私は完璧よ。ジェロニモ、アウト」

 

 

修羅が二人いる。ジャベリンのすぐ後ろには異様な雰囲気を放つ戦術人形たちが居た。あまりの凄味に彼女たちをナンパしようとする輩も居らず、そこだけ空白が出来ている。その後ろには呆れ顔のAR-15、最早彼女達に恐怖を覚えるG11、その様子を面白そうに見るSOPが居る。

 

 

「あのやり取り何なの……近くでやる意味あるの……?」

 

「多分無いと思うわ。G11だっけ?貴女別に着いてくる必要無かったと思うのだけれど」

 

「うぇ?確かにそうだけど……ジャベリンが何処にいくのか気になるし……」

 

「ふぅん……」

 

「コルト~、ジャベリンたち何するんだろうね~」

 

「呑気よねSOPは……恐らくまた何処かに行くんじゃないかしら?」

 

「へ~」

 

 

災難の時は近い。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「これにします」

 

「ありがとうございます」

 

 

俺たちは現在バイク屋に居る。店主と話しながらどのバイクを買うか吟味していた。俺が求めるバイクは、スピードが出て悪路も走行できるものだ。言うなればアドベンチャーバイクというものだろう。スピードを求めてしまうと自然と大型になっていくのだがそれは仕方ない。M16はクルーザータイプのバイクを興味ありげに眺めていた。

ええと、お値段やはり百万は行くよなぁ……一括は無理なので分割月一万でお願いしますね……。

 

 

「そういえばお客さん、いまキャンペーンやってましてね」

 

「キャンペーン?」

 

「そうそう。もう少しお金に色をつけてもらえばオプションを格安で取り付けるものでして……」

 

 

あらこれは商売上手。俺がチョロいなんて言わない。実際値段を確認すれば確かに安いのでそれにした。これにて終了。M16、出るぞ。

 

 

「ん?もう出るのか?」

 

「えらい惜しげだな。まさかお前もバイク気になるクチか?」

 

「まぁなー、昔映画でバイクに乗った人間がレバーアクションの銃で暴れてたやつ見てたからな」

 

「それ未来から主人公助けに来るやつだろ?」

 

「そうそう、なんだジャベリン知ってるんだな。今度一緒に観るか?」

 

「いいぞ」

 

 

そんな会話を交えている内に、空に暗い青色が広がり始める。薄暮の中俺たちは歩き始めた。この前約束していた、一緒に飲むということのために。向かう場所はあの草臥れたマスターの居る喫茶店。今は代理人がお手伝いをしてるし昼に酷い目にあったがもう大丈夫だろう。大丈夫だよな?

心配をしている内に喫茶店に到着して入店する。もうBARの準備は出来ているようで、マスターがグラスを拭いており、その近くで代理人が座ってカクテルを煽っていた。

 

 

「いらっしゃい」

 

「マスター、飲みに来たぜ」

 

「……君も随分な遊び人だねぇ」

 

「そういうわけじゃないから誤解しないでくれよ……」

 

 

とりあえず、俺たちは代理人から一席空けて座る。流石に昼の時のようにはならないようで、他の客は静かに飲んでる。

 

……見知った顔がこっちをずーっと見てるが気にしないでおこう。何でここに416たちが居るんだ……。

 

改めて、俺はマスターにテキーラの水割りを頼んだ。ここはカクテルとか色々有るんだが今一よく分からないので大体水割りを頼んでいる。M16はジャックダニエルをストレートで頼んでいた。

 

 

「相変わらず、そのお酒好きなんだな」

 

「ん、まあな。お前も飲むか?」

 

「止めとく、酔うと大変なんだ俺」

 

「ほほぉ……」

 

「お嬢さん、この人この前も別嬪さんと飲んでたけどまぁ凄い酔い方だったよ」

 

「それ本当か?」

 

 

マスターが余計なことをM16に吹き込む。おいやめろこいつ悪ノリが酷いんだぞ!!M16も興味深く聞くんじゃない、恥ずかしいだろ!あー!あーー!!!

 

何だか顔を抑えたくなる。助けを求めるように代理人に視線を送ればただただ優しく笑うだけで何もしてくれなかった。畜生やっぱりお前も楽しんでんな!!

マスターの口がよく回るようになる、それを聞くたびにM16は爆笑し、俺は突っ伏して出来るだけ赤面した顔を見せないようにするしかなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「目標、マスターを交えてM16姉さんと談笑中オーバー」

 

「こちらジェロニモ、対象の一席空いた方の女性にも注意されたし。オーバー」

 

「こちらM4、あの男は随分と多くの女性と関係を持ってますね昼ドラですか?オーバー」

 

「こちらジェロニモ、それは否定出来ないわ。そろそろ誰かから刺されるのでは?オーバー」

 

 

ジャベリン達が座っている席から少し離れたテーブル席にて、ブツブツと一時的な同盟を組んだM4と416が話していた。他にもAR-15やSOP、G11も居り、この三人は単純にマスターから出された料理に舌鼓をうっている。彼女たちは先回りをして喫茶店で待ち伏せをしていた。一先ず注文した料理を食べながら待っていたら、ジャベリンたちが入ってきて今に至る、というわけだ。

 

 

「M16じゃなくて私を誘いなさいよ……」

 

「仕方ないと思うんだけどなぁ……もういいや……」

 

 

歯噛みをする416に諦め気味のG11。M4はずっとM16を見ていて何だか恐ろしい。マスターは彼女らのそれに気が付いており、出来るだけ視界に入れないようにせっせと食器の手入れをしながらM16にジャベリンの恥ずかしい話をしている。

 

 

(なんで姉さんはそこまでその男に肩入れするの?何でそんなに楽しそうなの?何でそんな、そんな恋をするような乙女の顔を?なんでなんでなんでなんで……)

 

 

こっちはこっちでとんだ勘違いをしてる。補足をしておくと、別にM16はそういう顔にはなっておらず、純粋に楽しんでいるだけだ。

416やM4が嫉妬のような目線を向こうへ送り続けていると、ふとM16がこちらを向いた。

 

 

「っ!?気付かれた?」

 

「ね、姉さ……」

 

「…………」

 

 

にっかりと、こちらの反応を楽しんでいるような、またちょっと申し訳なさそうな、そんな風にぎこちなく彼女は笑った。

何かが切れる音がする。

 

 

「M4」

 

「行きますか」

 

「ちょ、二人ともどうしたの?」

 

 

AR-15が異変に気付いて二人を止めようとするがもう遅い。ドスドスとジャベリン達の所へ歩いて行き、両隣に座る。ジャベリンはもう勘弁してくれといった様子で、M16は面白そうに笑ってる。

 

 

「マスター、ウォッカ、ストレート」

 

「マスター、私はウィスキーのストレートで」

 

「え、あ、うん」

 

 

二人が酒を注文する。すぐに出されたそれを飲みきり、それぞれ隣の二人に絡み始めた。AR-15はもう面倒になって、あの二人が潰れるまで待っておく事にした。触らぬ神になんとやら、彼女の頭にはそんな言葉が思い浮かんだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「な、なぁ416、突然どうしたんだ?」

 

「うるひゃいわよ……黙ってわりゃひに付き合いなひゃい……」

 

「えぇ……」

 

 

突然416達が隣に座ってきた瞬間に酒を頼んでイッキ飲みしたかと思えばもう隣の416は出来上がっていた。ウォッカをストレートで飲むからだ。M4の方はM4の方で、M16に泣きながら絡んでる。酒弱すぎない?

大丈夫?俺今修羅場だね?言われなくても分かるわクソ。

 

 

「ね"ぇ"さ"ぁ"ん"!!な"ん"て"こ"ん"な"お"と"こ"と"い"る"ん"て"す"か"ぁ"!!!」

 

「約束したからだよM4ーよーしよしよし」

 

「ぐすん……」

 

 

M16はもう慣れた手つきで宥めてやがる……マスター助けて。

そうやって視線を投げ掛けるもマスターは申し訳なさそうに食器を拭いている。うーん辛い。

現実逃避をしていればそれを許さんばかりの416が絡んでくる。

 

 

「わりゃひだけをみなしゃい!!!」

 

「うぉおっ!?」

 

「あにゃたはにゃんでぇ……にゃんでわりゃひをさそわないのよ!!!……くぅ」

 

 

彼女が俺の顔をガッチリホールドをして喚いたかと思ったら寝てしまった。嵐だこれは……416に酒を飲ませるわけにはいかないぞ……。丁度M4も潰れている。それを見計らったのか、AR-15とG11がやって来た。彼女達が二人を連れて行こうとするが、M16がそれを止める。

 

 

「丁度いい時間だし、私がM4を運ぶよ。ジャベリンは416を運んでやってくれ」

 

「ん、あぁ、おう……マスター、会計。彼女たちのも頼む」

 

 

俺がマスターにお金を渡した後、416を背負って店を出る。ちょっとだけ代理人のほうを見やれば、ひらひらと手を振っていた。後で覚えておけよ……。

外に出る。春先の風は、まだ冷たい。俺たちは酔いを冷ますように夜道をのんびり帰る。

 

 

「あまり飲めなかったな」

 

「そうだな、だけど私は面白いものを聞けたから楽しかったぜ?」

 

「やめてくれ……」

 

「なになにー?何の話ー?」

 

「お、SOP。実はだな……」

 

「やめろ」

 

 

M16が俺の恥ずかしい話を嬉々として話し始める。俺が止めても止まらないのだろう。早々に諦めた。G11が眠そうだったので起こす意味でも手を繋いでやる。ちょっとだけ驚いたようだがすぐに元に戻る。

AR-15はSOPと一緒にM16の話を聞いている。やめて。

ふと、遠くを見れば桜がライトアップされていた。ここらの桜はここに逃げてきた日本人の末裔が桜を見たいがために品種改良を加えて作った品種だ。綺麗なものだな。そうやってボーッと眺めながら歩いていると、俺のマンションが近づいてくる。そろそろお別れか。

 

 

「M16、俺そろそろ別れる」

 

「ん、そうか」

 

「そそ。416たちを頼めるか?」

 

「んー、いや、お前の部屋に招待したらどうだ?」

 

「へ?」

 

 

M16がにやついてこちらを見ている。こいつ、終始俺で楽しんでるな……G11に聞いてみるか。

……問題ないらしい。仕方ない……連れて帰ろう。最後までM16を楽しませてやらなきゃな……。前の埋め合わせだってのにな、ははっ。

 

 

「……分かったよ。じゃあな」

 

「あぁ、楽しかったよジャベリン。あ、そうだ」

 

「ん?」

 

「“月が綺麗ですね”」

 

「は?月?」

 

「わからないか……反応が気になったんだがなぁ……まぁ冗談さ、じゃあな」

 

「ん?あ、おう。またな」

 

 

M16達と別れて帰路につく。暫くすると、G11が口を開いた。

 

 

「あの言葉、昔の日本での口説き文句だよ」

 

「えっ、そうなの?」

 

「うん。確か、I love youを変に和訳したもの……だったかな」

 

 

へぇ~G11は物知りだなぁ……それにしても何でM16は冗談であんなことを言ったんだろうなぁ……戦術人形とはいえ女性がそうやすやすと貴方を愛していますって言うもんかね?

 

 

「案外、冗談じゃないかもよ」

 

「洒落にならんな……仮にも仕事仲間だしあいつと出会ってそんな時間も経ってない。likeはあれど、loveは無いんじゃないかな?」

 

「だといいけど。そういえばジャベリンのお家って人を駄目にするソファーとかある?」

 

「ねぇよ」

 

「えー」

 

 

416を背負い、G11を連れて部屋に到着。オスカーが腹を空かしたのかこれでもかと鳴いている。ドアを開けて部屋に入り、416をソファーに寝かせて毛布をかける。G11はもう我が物顔でベッドに居るが、風呂に入るよう促す。ポチが近づいてきたのでとりあえずらくだのステッカーを貼った。満更でもなさそうだった。何故だ。

オスカーに餌をやり、その様子をボーッと見てたらもうG11が風呂から出てきた。裸で。急いで俺の服を着させる。ダボダボだが無いよりマシだ。服を着たG11はもうベッドに入り、寝始める。俺はそれに呆れながらも笑う。懐かしいな、そう思いながら風呂に入り、寝巻きに着替えてベッドに入る。添い寝の形になるが別に問題はないだろう。

俺は目を閉じて、そう思った。

明日は晴れやかに起きてぇな……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「M16、何故貴方はジャベリンにあんな言葉を?」

 

「ん?あー、まぁ、酒が回っててな、なんとなくさ」

 

「そう……」

 

「ねぇねぇ、さっきの月が綺麗ってどういうこと?」

 

「ええとなー、それはSOPがもう少し大人になってからだなー」

 

「えぇー何でさー、人形に大人も子供も関係ないじゃん!」

 

「肉体的じゃなくて、精神的にな?」

 

「ちぇっ、はーい」

 

(……まぁ、半分冗談、半分本気ってところだな。なんで私もこんな気持ちになってるのかはよく分からない……私らしくもないな、うん)

 

「よし、急いで帰ろう。今日は飲むぞー!」

 

「今日も、でしょう全く……」

 

 

 

 

 

 




416に塩を送る姉さんまじ姉御。
とりあえず言い訳をば……楽しかったんですよ……それだけです。
いや、他に言い様というかなんというか、まあ、いいでしょ!!!!(開き直り)

どうせ次の次がハードになるんでこれくらいふざけても問題ないはず……。

それでは、感想、評価は執筆の励みです。なのでどうぞ、遠慮なさらずください!!それでは!!!

3/30 ルビの入れ忘れがあったので追加

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