傭兵日記   作:サマシュ

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まさかここまで行けるなんて思いもしませんでした。今後とも傭兵日記を、ジャベリンくんとポチをよろしくお願いいたします。

今回は番外編……?みたいなものです。トンプソン姉貴とは次回です。オチなし山ナシですがのんびりとどーぞ。


番外編 傭兵と悪夢と

 

 

 

 

 

 

「はっ…はっ…はっ…」

 

 

全てが寝静まった真夜中、日本じゃ草木も眠る丑三つ時とも言うのだろうか、そんな時間帯に俺は目一杯両腕を振りながら路地裏を駆けていた。今の俺の走る姿なんて端から見れば随分と無様で、腰抜けで、滑稽な光景だっただろう。だけどそんな事を気にしていられるほど余裕は無かった。

 

俺は逃げている。ゴミ箱を倒し、壁にぶつかり、何度も転けながら俺は逃げている。もうどのくらい走っているのかわからない、この逃走がどれほど続くのか考えてはいられない。でも考えれば考えるだけその動かしている自らの足が止まりそうになってしまう。

「このまま止まれば楽になる」「いっそのこと諦めればこの苦しみから解放される」そんな甘い蠱惑的な言葉が脳内を支配していく。ふと足の回転が遅くなって行き、そこで立ち止まってしまいそうになった。

 

 

「クソがぁ……!!」

 

 

だけど俺は誰とはなしに悪態をついて歯を食い縛り、己の足をまた動かしていく。角を曲がり直線を走り暗い路地裏を駆け抜ける。息が荒くなろうと筋肉が悲鳴をあげようとバランスを崩して転けてしまおうと、泥水啜って拳を握りしめてまた走る。

まだ止まれない、止まりたくない。俺の背後から恐ろしいものが来てしまうから。走り続けないと捕まってしまう。もしも止まってしまえば、俺は……おれは……

 

 

 

 

 

 

あいつにころされる

 

 

 

 

 

 

「見つけましたよ、ジャベリン」

 

「あっ…」

 

突然、あの女が現れた。思わず俺は立ち止まってしまう。

 

 

「私から逃げるなんて、随分と悲しい事をしてくれますね……」

 

「あ、あぁぁ……」

 

 

俺は恐怖のあまりその場にへたりこんでしまった。情けない声が出てしまう、体が石のように固まってしまう。彼女が近付いてくるのに動けない。

いつの間にか彼女が俺へ馬乗りの状態へなっていた。

 

彼女の細く白い指が俺の左目へ伸びてきた。

 

 

「それに加えてこんないけないものをつけてしまって……これはお仕置きが必要ですね?」

 

「ひ……や、やめ……」

 

 

目の前の彼女は随分と愉しそうだった。

 

 

「こんなもの、抜いてあげましょう」

 

「ひっ……!!?!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ぐちゃり。

めのまえがまっかにそまった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ーーーーーーーーッ!!!!」

 

 

暗闇の中、俺はがばりと起き上がり、急いで左目を確認する。良かった、無くなってない。

 

 

「……あー…クソッタレ」

 

 

最悪な目覚めだ。また代理人に追いかけられる夢を見た。

 

俺は額を流れる嫌な汗を拭い、近くで寝ていたポチやオスカーを起こさないようにベッドから降りる。何時もならさっさと二度寝に入るのだが今日はどうにも眠れなさそうだった。あの悪夢が変に現実味を帯びていて、未だ脳内にこびりついている。もしもまた寝てしまったらその夢に縛られそうで怖かった。

無音に支配された室内、壁にかけてある時計を見てみると、針はまだ深夜としか言えない時間帯を指していた。俺はキッチンへ向かい冷蔵庫を開けて、中から水の入ったペットボトルを取り出す。コップに水を入れてそれを飲み、一息ついた。

 

 

「……トラウマってのは辛いな」

 

 

ふと、そう呟く。特に意味があって言ったわけでもないが、言うだけなら何も減るわけでもないから言った。気分が晴れる訳でもなく、いっそのことこのままシャワーでも浴びようかと思ったがそれはそれで気分が乗らない。

何とかあの悪夢への恐怖は治まったが完全に目が覚めてしまった。無理矢理にでも寝ないと明日に響くのだがどうにも駄目そうだ。洗面所の奥へしまっている睡眠薬でも飲もうかとも思ったが、あの薬は確か六年ぐらい前ものだ。効くのかどうか分かったものじゃなかった。

ただ朝までじっと待つというのも何となく嫌だ。さて、どうしよう。

 

 

「……散歩だな」

 

 

そうだ、散歩をしよう。幸い外は雨が降ってないように見える。気分転換に周辺を歩き回るのは最適と言えるだろう。

目的が決まればもう早い。俺はジーンズ生地のジャケットを羽織り、靴をスニーカーに履き替えて、ポチ達を起こさないよう静かに外へ出た。季節は初夏に入ったとはいえ風は冷たく、自分がジャケットを着てきた事に感謝をしながら、全てが静寂に包まれた住宅街へふらりと歩いていった。

 

真夜中の住宅街には街灯以外の明かりは無く、まるで人の気配がない。自分だけ誰もいない世界に置き去りにされてしまったのかと錯覚するほどだ。暫くブラブラと歩いていたら小さな公園を発見した。そこにはベンチとブランコ、滑り台があって、正にテンプレートな公園だ。

 

俺はその公園の街灯に照らされているベンチへ腰掛けて夜空を見上げる。軽く雲がかかっていたが、星が点々と見えた。

 

 

「……はぁ」

 

 

思わずため息をつく。それは星の美しさへの感嘆なのか、悪夢のせいで疲れていたから出てきたのか、それはわからない。俺は何だかもう少しだけ空を見上げていたかった。

 

 

「あら、ジャベリンじゃない」

 

「……416、どうしてここに居るんだ?」

 

 

ふと、久し振りに聞いた声が聞こえてきた。声のした方を向けば、ベレー帽を被り絹のような銀髪で涙のタトゥーを入れた女性、『HK416』がそこにいた。

彼女は俺の質問に「任務帰りよ」とだけ答えて俺の隣へ座る。任務帰りにしたって随分と遅いじゃないかなんて彼女へ意地の悪いことを聞いたが、

 

 

「何時もなら寝てるんだけど、今日はちょっと眠れないからそこら辺彷徨いていただけよ」

 

 

と返された。どうやら偶然彼女も寝ることが出来ずにいたらしい。…………そういえば人形はデータ整理の為にスリープ状態に確実になると聞いたのだが彼女の場合どうなるのだろうか……深くは考えないでおこう。

 

 

「そういえば、何で貴方こんなところで黄昏てたの?」

 

 

突然彼女がそんな事を聞いてくる。はて、どう答えたら良いものか……まあただ夢見が悪かっただけと伝えておこう。余計な心配をする必要はないさ。

 

 

「そう」

 

「……なんだよ」

 

 

416が半目で俺を見る。どうにも見透かされているような感覚に陥ってしまい、居心地が悪い。少しの間見つめられたが、彼女はため息をついて前を向いた。

 

 

「貴方は……そうね、他人を心配させたくない人間だったわね」

 

「よく分かってるじゃないか」

 

 

俺はそう皮肉げに返したが、彼女はどうにも快く思わなかったようで、肘で俺を突いてきた。

鈍い痛みが脇腹に走る。416へ抗議の目線を送るものの、彼女はそれを意に介していない。

地味に痛かったんだけどな。

 

 

「私だって、貴方のことが心配なのよ」

 

「えっ?」

 

「何?友人の体調を気にするのが可笑しいのかしら?」

 

「あ、いやそういうわけじゃないんだ……」

 

 

416が睨んでくる。

俺はあの何事にもストイックそうな416に友人扱いされている事にも驚いたが、それよりも俺が416にまで心配されている事に驚いている。俺はこれでも自己管理ぐらいはしっかりしている…………訳でもないか?あー、どうなんだこれは。というか今回の悪夢のせいで顔色悪くなってたかな。

 

俺がそうやって考え込み始めたところで、416が急に立ち上がった。帰るのか?と彼女へ聞けば「そうよ」と返される。

じゃあ俺も帰るかと腰を上げると、416が途中まで一緒に帰るかどうか聞いてきた。俺はそれを快諾して夜道を並んで歩いて行った。

 

未だ静寂に包まれている住宅街を歩いていく俺と416。特に話すこともなく歩いていたが、偶さかに416が呟いた。

 

 

「……たまには私を頼りなさいよ」

 

「……おう」

 

「貴方が倒れたら11や9が悲しむわ。だから本当にもしもの時は頼りなさい」

 

「分かったよ」

 

 

45は?という思考は記憶の片隅に。416の言った言葉を反芻させながら共に歩いていく。気がつけばもう俺の自宅があるマンションへ到着していた。

 

 

………………あれっ?

 

 

 

「あら?言い忘れてたかしら。私、といっても45も9も11も居るけどこのマンションに引っ越して来たのよ?」

 

「……は?」

 

 

思考が追い付かない。なんか最近G11が俺の家来る回数増えたなとかなんとか思ってたけど、そういうことだったの……?いや確かにこのマンション人が少ないから増えるのは嬉しいのだがお前達が来るのは予想外極まりないんだけど……えぇ?

 

呆然とする俺を尻目に416は手馴れた手つきでオートロックの暗証番号を入力して中へ入っていく。俺はそれに慌てて着いて行き、一緒にエレベーターへ乗った。俺は四階、416は六階のボタンを押していた。上の階の方でしたか……。

少ししてエレベーターが四階に到達。ドアが開き俺が出ようとしたら、416は、

 

 

「606号室、そこが私達の部屋よ。何かあったらそこに来なさい」

 

 

と言った。俺はそれに分かったとだけ言って彼女と別れた。

自分の部屋へ向かう途中、空が明るくなり始めていたことに気がつく。どうやら結構時間が潰せたようだ。意外と散歩というのも悪くなさそうだ。それに416と偶然会えたからな。面倒な事が増えそうな気もするが。

 

……また悪夢を見てしまった時は外に出てみるとしようか。

 

 

≪ご主人!!!何処行ってたんですか!!??!≫

 

 

あ、すまんポチ。

 

 

 

 

 

 





鉄血勢力圏のどこか。。。

「……良い夢を見ることができました」

「はぁ?代理人、お前何処かバグでも起きたのか?」

「そうかもしれませんね。夢想家、貴方には一生わからないでしょう」

「はっ!随分と気持ち悪いことを言うわねぇ?それで、その夢ってなんなのよ?」

「それは秘密、ですね」

「はぁ?訳がわからないわ」

「時には隠し事も必要ですので」

「あっそ。じゃあいいわ」

「……またいつか会いに行きますから、待っててください。ジャベリン」









オチなし山ナシだから……(?)
今回はジャベリンくん散歩をする回でした。彼の悪夢の描写とかしてなかったので書いた所存でございます。

さてここからは雑談。最近傭兵日記とは直接関係ないネタがポロポロと出てきてるんですよね。ダイナゲート視点のハイエンドモデル達の日常とかスピアくん視点の傭兵日記とか。でも同時進行となると昔それで失敗したからなかなか出来ない。
次に404小隊が引っ越した部屋、あれは忌み数字からやってます。存在しない部隊→無→6という感じですね。

この作品への感想及び評価は執筆の栄養分です。どうぞよろしくお願いいたします!それでは!

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