さて、ようやっとシーラさんがやって来ます。どうぞ!
309日目 晴
昨日の記憶がない。日記を読み直したら大体を察したが……なんだろうな、剣の奴がハンマー持って恥ずかしくないの??
そんな冗談はいいとして(悪寒がしたから)別の話題へ移るとしよう。流石にこれ以上殴られると記憶喪失起こしちまう。
今日は確かグリフィンの指揮官が模擬演習の為に武器庫へやってくる日だ。その人の名前は『シーラ=コリンズ』だったな。
R06地区に配属されている指揮官で、意外に珍しい女性の指揮官だ。ブートキャンプの時は男性の指揮官しか居なかったし……まぁたまたま暇な奴が野郎ばっかりだったってのもありそうだが、そんなに指揮官にならないものだろうか。
割かしグリフィンは待遇は他と比べりゃまだ良い方なんだが……いやこれは俺の主観か。武器庫と比べるな、あそこは元より可笑しいんだ。人間が戦場に立ち、人形が後方支援する。世間一般じゃあ普通は逆、というか前線も後方も人形が担当してるってのに、随分と前時代、懐古的、伊達と酔狂でやってるPMC、なんて周りから言われてんだぜ。
まぁそんな事はどうでも良い。丁度警備の奴らからコリンズ指揮官が来たと連絡が入った。社長とコリンズ指揮官に興味を持ったクレイモアと一緒に迎えるとしよう。ポチとオスカーはお留守番だ。
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「なぁクレイモア」
「なんだボス」
「目玉焼きは好きか?」
「好きだが?」
いやなに変な話始めてるんですかねお二方。お客さん出迎えるんでしょ?ちゃんとしっかりしてなきゃいけないだろうに。
早朝、といっても8時ぐらい。武器庫の駐車場にて三人で来客を待つ。今回のお客様は『シーラ=コリンズ』。R06地区の女性指揮官、元正規軍、暫くの空白期間を経てグリフィンに入社したらしい。その空白期間がどんなものなのか、そこはスリンガーも調べられなかったらしい。そんな彼女がここやって来る理由は、人形たちへの格闘技術をインストールするための共同模擬演習だ。戦術人形って銃の扱いを上手くするほうがよっぽど良いらしいが、そこのところはどうなのだろうか。
「使える手は多いほうがいいだろう、ジャベリン?」
突然、社長がそんなことを言う。確かにそうなのだが、基本的に戦術人形というのは銃さえ扱えれば十分である筈だ……あぁ待て、そういえばブートキャンプで人形達が俺達の組手とか見よう見まねでやってたりしてたな。それと似たようなものか?
それなら分かる。
でもそうであるとしてもまぁ、普通に手数を増やすためにこっちに申し入れをしてきたのだろう。
社長は俺に向かってにかりと笑う。
「まぁ、盛大に歓迎してやろうじゃあないか」
「それもそうだな……ところで社長」
「なんだ?」
「なんでクレイモアと取っ組み合ってんの?」
アホらしいことに、目の前で社長がクレイモアと殴りあっていた。それもとんでもねぇ音を出しながら。天を裂き地を割るような音が彼らから出ている。なんだこのワンマンアーミー同士の殴り合いは……と思いながら突然始まった大怪獣決戦を見る。コイツら何を思ってこんなことをしているのか訳が分からない。殴り合いが激しすぎてコンクリートが抉れてる待てお前らマジで待ってくれ。
「社長、クレイモア!!何があってこんなことになったんだよ!?」
俺が止めに入る。すると、ピタリと止まりこちらを見てくる。その顔は有り得ないものを見るような表情を浮かべていた。
クレイモアが口を開く。
「ジャベリン、これはとてもとても譲れない事があるのさ」
「そうだぞジャベリン。クレイモアは俺にとって絶対に譲れない所を易々と踏み越えやがったんだ……」
また殴り合いを再開する両名。いやその理由を教えろよと。その譲れない物が何なのか教えろお前ら!!
「「目玉焼きに何をかけるか」」
お前らバカなの?
ってまた殴り合いを始めるんじゃねぇ!!客が来るのに何て下らないことしてんだお前らは!!!!
「下らない訳がないだろう!?クレイモアの大馬鹿は目玉焼きにケチャップをかけるとか言っているんだぞ!?」
「ケチャップを愚弄するか、ボス!!!私はボスが目玉焼きにマヨネーズをかけることが理解できない!!というかボス!!アンタはイージスに高カロリーの食事は止められているだろう!!?」
「お前らなんでそんなイロモノかけてるの!!??」
目玉焼きには塩コショウじゃないのか!!?シンプルイズベストじゃないか!!!
ある意味ハラハラドキドキしながら二人の下らない喧嘩を見つめる俺。二人の破壊神は、留まることを知らない。殴り殴られ蹴り蹴られ。ノーガードで打ち合う度に爆音が鳴る。だが、その殴り合いも長く続く事はなく二人が何かに気がついて、急に向こう、車と複数人立っている地点まで動き出した。また何かするんじゃねぇかなコイツら。
いやまて何か悪い顔してるぞオイオイオイ!!
「社長ォ!!客が来るってのに何しようとしてんだオイィ!!!」
「いいじゃないか、ジャベリン。パフォーマンスには最適だぞ?」
さも当然のように言う社長。
いやそれ向こうの顔見て言えるのか!?
「まぁまぁ、問題ないさ。さぁようこそ武器庫へ、総合責任者のジョン・マーカスだ」
「わざわざお迎えありがとうございます。グリフィン管理R06地区全線基地のシーラ=コリンズです」
社長は俺のツッコミをガン無視。ちょっと本気で殴ろうかなこの野郎。
てか目の前の黒髪黒目のコリンズ指揮官が若干引き気味じゃないか?
「そんなに固くならなくてもいい。もっと楽でも構わないぞ、スイートキャンディ」
「…………」
社長が信愛の意味を込めてか、右手を差し出してコリンズ指揮官へ握手を求めた。それと同時に彼女の顔が強ばった瞬間を見た。
……社長、一応アンタはスリンガーを通して彼女の事は知っているはずなんだが。デリカシーっていうものがないのか?
「おっと…いや済まない。初対面の奴との挨拶での癖でな。クルーガーからお前の事は聞いていたんだが……安心してくれ、少なくともウチの野郎共はコナ掛けてくるような奴はいない」
「……お気遣い感謝するわ。お会いできて光栄よ、討伐者」
だが、彼女の反応に気が付いたのか社長が多少の嘘を混ぜながらも彼女へ謝罪する。偉いぞ社長、ちゃんと謝れたな。
それにしても社長のコードネーム知っていたんだな、コリンズ指揮官。社長、案外名前知られてるんだな……。あぁでも、コリンズ指揮官が正規軍に居た時に社長の活躍ぶりとかが伝わってても可笑しくはないよな。
「噂は前から聞いていたよ。色々と大変だったみたいだねスイートキャンディ」
「……ええ、お陰様で今はよろしくやれていますよ」
今度はクレイモアが彼女へ声を掛けた。だが未だに顔は固いままのコリンズ指揮官。
彼女、良い気はしないだろうなぁ……何せ元正規軍の奴らが目の前に二人も居るわけだし、やりにくいったらありゃしないだろう。
「社長も言っていたけど、そんな提携先だからって固くなる必要なんてないよ。あぁ補足するけど、あんたについて知ってるのは私とボスだけだ、安心しな」
すると、コリンズ指揮官の様子を見てなのか、クレイモアが微笑みながら彼女の肩へと手を置いた。クレイモアの言葉に、コリンズ指揮官も吹っ切れたような表情を浮かべていた。
珍しいな、クレイモアがあそこまで気を遣えるなんて。いつもあんな風に気を遣えるんだったら靡く男だって一人や二人出てくるだろうに。
コリンズ指揮官の変化を見たのと同時に社長が口を開いた。
「クレイモア、立ち話も結構だが、そろそろ彼女達を案内してやったほうがいいだろう?」
「了解、ボス。着いてきなアンタ達!」
そしてそれを皮切りにぞろぞろと皆動き出す。
俺は何とはなしに首に手を置き、独り言のように呟いた。
「……最初からそうして欲しかったんだけどなぁ」
偶々隣に居たコリンズ指揮官から憐れみのような目を向けられたのは気のせいだろう。
クレイモアから向けられた絶対零度の視線も気のせいなのだろう。馬鹿野郎俺は生きるぞ。
目玉焼きには塩コショウ。シンプルイズベスト。
因みに戦闘シーンは技量不足よりできません()
戦闘シーン見たい人は下記URLの『指揮官、傭兵と組手するってよ』で見てね!
URL: https://syosetu.org/novel/184136/
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