それではどーぞ。
「あだだだだだ!!? おいクソ社長! これから模擬戦なんだぞなにしやがあ"あ"ぁ"あ"!!?!!!!?」
「ほーらまだ行くぞよしいちにー、さんしー、ごーろーしーはー」
突然だが俺は社長にコブラツイストをかけられている。というのも、一通り自己紹介を終えたあとに社長とクレイモアの喧嘩についてちょっと指摘したら急に技をかけられたんだ。痛い。
やめろやめろと叫べどもどうにもこうにも止める気がない。
助けを求めようと向こうを見ても笑ってるだけで何もやってきてくれない。多分仲がいいんだろうなぁって思ってる。クソッタレ!!!
ただその拷問も長く続くわけではなかった。時間は大事だからな。
首を擦りながら模擬戦の準備をする。にしてもコリンズ指揮官、何故彼女も模擬戦に参加するのだろうか? そんな疑問を彼女へ投げ掛けた。
「人形に頼りっぱなしてのも性に合わないのよ。最近ちょっと鍛えなきゃなって思ってて」
「なるほど? まぁ守られっぱなしなのは確かに嫌だな」
ちょっと嘘っぽかったが、それはスルー。彼女にも話したくないことの一つや二つはあるだろうしな。
1号館から少し歩いて数分ほど。訓練所までやって来た。この訓練所は剣部隊がよく利用している所で、大分広い。
コリンズ指揮官がその広さに驚いていたが、まぁ無理もない。それとなんでこんな所を選んだのかといえば、もしかしたら社長とクレイモアが模擬戦に乱入してきそうな気がしてならなかったんだ。
「じゃあ怪我しない程度にやろうか」
「怪我しない程度? そんな甘っちょろいこと言ってて訓練になるの?」
今、俺はコリンズ指揮官と向き合っている。彼女は今タンクトップにミリタリーパンツと動きやすそうだ。俺もそんな感じではあるものの、向こうが身軽に見えてしまうのは何故だろうか。
「いや、客人に怪我させるのはな……」
目の前のコリンズ指揮官は割と滾っているのか、結構挑発的な事を言ってくる。なんでそんな事を言うのか聞いてみれば、
「溜まってるのよ」
とかなんとか。いや、言い方ァ!
どうやら存外に彼女は血の気が多い人間のようだ。ならそれに応えてやらなきゃならんよな。
渋い顔をしてしまうのを自覚しながら俺は構えた。コリンズ指揮官は不敵に笑っている。
「それじゃあ両者、準備はよろしいですか?」
審判役のコリンズ指揮官配下であるスプリングフィールドが手を上げる。そういえばスピアが彼女とやりあうらしいな。アイツの何とも言えない微妙な顔を忘れられない。ありゃ何か作為的なものを感じるって顔だった。
「勝って笑うか、負けて泣くか。どっちにしても大怪我は避けてくださいね?」
“勝って笑うか負けて泣くか”……ね。出来るなら盛大に笑い飛ばして勝ちたいもんだ。
「では、用意……」
気を引き締めてスプリングフィールドの腕が下がるのを待つ。
あれが下がった瞬間が勝負開始だ。少し足に力が入った。
「始めッ!!」
彼女の腕が振り下ろされ、戦いの火蓋が切られる。
俺とコリンズ指揮官は、互いに地を蹴った。
さぁ、俺も楽しんでいこう。
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………………………
……………
……
…
疲れた。
対戦結果は俺が勝ったのだが……危ういところが目立ってたな。特にコリンズ指揮官が渾身のカウンター……『外門頂肘』だったか? あれをマトモに食らってたら俺がやられてたと確信出来る。コリンズ指揮官はそれだけやり手だったのだ。元正規軍は伊達じゃあない。
にしても楽しかった。戦術人形との組手も良いもんだ。スプリングフィールドとスピアの戦いは見ものだった。スピアが彼女のカウンターを誘発させつつ蹴りを食らわせたり、逆にそのフェイントをスプリングフィールドが見切ったり……うん、ベストバウトじゃないかな。あとはパルチザンとトンプソンのステゴロかな?
因みに、この模擬戦が終わった後はまた軽い組手をしつつ、相手の良いところとか、癖とかを指摘する。なんてことをしてみた。互いにいい刺激になっただろうな。
俺はコリンズ指揮官へ投げ技をレクチャーしつつ、実戦形式でやってみた。
まぁ投げさせなかったけど。
「私は遺憾の意を表明するわ」
「何でだよ」
俺は悪くない。実戦形式なんだから投げさせる道理も無いだろうに。
組手も終わって、俺たちは武器庫の食堂で休憩をとっていた。目の前のコリンズ指揮官は……膨れっ面かなこりゃあ。如何にも私は不満がありますと顔に出ている。ここに来た時は結構キリッとしてたんだけどなんだこの……安心でもしたのかな。
初めはしっかりとしたキャリアウーマンのイメージだったのだが、今の状況を見るとどうにもそのイメージは間違いであったらしい。
「それに、俺が手加減してても訓練にならないだろ?」
「成功体験が無かったら人間モチベーション維持できないこと分かっててそれ言ってる!?」
ぐぬぬ……という台詞が似合いそうなくらいの顔になっているコリンズ指揮官。
これもう何言っても聞かなそうな気がするんだが……彼女は多分負けず嫌いなのだろう。
「まぁまぁ指揮官。また今度挑戦すればいいじゃないですか」
さてどうしたものかと考えていると、スプリングフィールドがコップをコリンズ指揮官の前に置きながら彼女を宥めていた。
コップの中にはアイスココアが入っている。
コリンズ指揮官は頬を膨らませながらもそれを口に含んだ。
瞬間、花が咲いたかと錯覚してしまうぐらいの顔に変わった。
……そういえば彼女の昔のあだ名は『スイートキャンディ』だったな。
「……なるほどね」
「……? 何、どうしたのよ」
「いや、なんでアンタが『スイートキャンディ』って呼ばれてるのか合点がいってな」
「ちょっと! それ私が子供っぽいとでも言いたい訳!?」
何というか、彼女はとびきり甘いお菓子が似合う女性だ。そんな気がしてならない。さっきの不機嫌顔が一転して年不相応の……まぁ失礼ながらそう思ってしまった。
「あ……スプリング?」
「お気付きでなかったんですか?」
今更気が付いたコリンズ指揮官。それを見てクスクスと笑うスプリングフィールド。仲がいいな、本当に。
ただ、コリンズ指揮官が頭を抱えてしまったので、ちょっとだけ助け船をいれてあげた……のだが、余り効果は無かったようだ。まだちょっとだけ膨れっ面になってる。
……そうだ、また今度会ったらとびきりの甘いロイヤルミルクティーでも振る舞ってみるかな。
そんなこんなで、食堂で時間を潰していたらもう彼女達が帰る時間となった。彼女達を駐車場へ案内していく途中、訓練場から爆発音が聞こえてきたので一応パイクとパルチザンに現場確認へと向かわせた。十中八九社長とクレイモアが暴れてるのだろうけど確認は大事だ。
「じゃあ、今日はありがとう。お陰で有意義な時間が過ごせたわ」
「こちらこそ。また機会があったら頼むよコリンズ指揮官」
「ええ。次は絶対にボコるから」
「ははっ」
その時はしっかりとガードでも固めておこう。
そんな軽口を交えつつ彼女達が車へ乗り込んでいくのを見守った。車が動き出し、みるみるうちに遠ざかっていく。
「……疲れたな」
ぽつりと、スピアがそんな事を言った。
確かにな。お前一番頑張ってたろうに。だけど安心するのはまだ早い。とんだ大仕事が残ってるぞ。
『隊長ー!!!社長とクレイモア隊長が大怪獣空中大決戦してます!!』
「……ほらな」
なんで空を飛んでいるんだあいつらは。亀の怪獣ごっこでもしてるのか。
車が見えなくなったのを確認して早足に訓練場へと急ぐ。時々叫び声聞こえるけどこれ本当にやばそうだぞ。
『アッ!社長が火を吹いた!?隊長!!現在鎚部隊と協力してますが止められません!!』
「剣部隊へ連絡しろ!!あと鎚部隊には下がらせろ!お前らもだ!!」
『copy!』
心の中で敬礼をコリンズ指揮官達の方へやる。もしも彼女たちとまた演習をするようなことが有れば今度は銃撃戦でもやってみたいもんだ。そして演習終わりにとびきりのティータイムでも提供してやろう。
『隊長ォ!!!クレイモア隊長が飛鳥文化アタックやってます!!』
「落ち着けパイク!!」
……まぁ、先にこっちを片付けないとな。頼むからここで暴れるんじゃなくてE.L.I.D討伐にでも行ってて欲しいもんだ。
笹の船様、そちらの作品とのコラボありがとうございました。ちゃんと描写出来ているのかは不安ですが、楽しんでくれたのでしたら幸いです。
さて、話を進める度に社長のギャグ度合いがおかしくなってくるのは何故だろう。
次回……どうしようかなあ。書きたいことが多過ぎて逆に何もできないやーつ。
ただ百話記念に何かはしたいですね……。
この作品への感想及び評価は心の支えです。どうぞ、よろしくお願いいたします!!それでは!!