転生ドズルがアイドルをプロデュースするようです   作:三毛猫提督

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ドズルP、いよいよ爆誕。
しかしイベントとの両立って難しいな・・・



02 ドズル、高木社長と出会う

 「・・・む。こ、ここは・・・」

 

 目が覚めると、彼は何処かのベンチに横になっていた。一瞬の眩しさに目がくらんだが、すぐにそれは日光であることが分かった。

 とりあえず動かない事には始まらないと思い、彼は周囲の散策をすることにした。

 

 

「ふむ・・・。ここは公園、だったか。そして・・・」

 彼は現状自らが把握できた状況をメモ帳―彼のズボンポケットにあった―に書き留める。

 

 1.ここはコロニーではなく地球、それも日本国である(最寄りのコンビニに置いてあった新聞が日本語かつ宇宙に関する記事が確認できた)

 2.宇宙世紀はまだ来ていない(上にある新聞の記事内に『西暦』とあった)

 3.現在時刻は午前九時を少し過ぎたあたりである(公園の時計で確認)

 

「ざっとこんなものか。次に所持品だが・・・」

 

 現在の手持ち

 メモ帳、ペンケース(ボールペンが三本)、財布(小銭が少しと千円札一枚)

 身分証明書(鹿山 丈とある)、少々使い古された紺色のカバン

 

「ふむふむ。最低限の行動は出来るな。最後に俺の格好だが・・・」

 

 上半身 紅白の縦ストライプ柄のTシャツ

 下半身 やや明るい青色のジーパン

 

「・・・これに関しては本当に最低限だな。センスの無さが垣間見える。センスに関しちゃ俺も大概だが、今は我慢するか・・・」

 

 現状が把握できた所で、彼は公園から出ることにした。何時までもこの格好で此処に留まるわけにもいかないし(ガタイの良さは変わっていなかった)、なにより怪しまれて警察沙汰にでもなったらたまったものではない。

 

 公園を出てしばらく歩くと視界が開け、運河に出た。そこを左に曲がりまたしばらく歩くと、やけに大規模な工事現場が見えてきた。見たところ大分大きな建物のようだが、軍事関係以外は疎い彼には全く見当がつかない。

 随分と大きなものを作っているなと思っていると、突然彼を呼ぶ声が聞こえた。はてと思って振り返ってみると、ブラウンのスーツに赤いネクタイ、眼鏡をかけた壮年の男性が彼を呼んでいたのだった。

 

「あー、そこでその工事現場を見ている君! そう君だよ、君! もし君が忙しくなければ、ちょっとこっちに来てくれないかね?」

 

 ・・・誰だ、このオッサンは?

 まず彼の最初の反応がそれであった。無理もない、見ず知らずの赤の他人に声を掛けるなど、よっぽどの変な奴やもしれない。だが、今の彼は忙しいわけでもなければ行くあてがあるわけでもない。

 それでいて呼び止めた男性を無視するのも可哀想ではあるので、彼はその男のもとに向かった。

 

 

「えっと・・・俺に何か御用でしょうか?」

 とりあえず相手に話しかける。だが、男はふむふむと頷きながらこちらの顔をジロジロと眺めているのみ。いよいよ変な奴に出会ってしまったと思いその場を立ち去ろうとしたその時、その男は突然声を上げた。

 

「なんといい面構えだ。ティンときた! 君、突然な話だが、わが社のプロデューサーにならないかね?」

 

 

 ・・・プ、プロデューサーだと?

 本当に突然な話に頭をトンカチかハンマーで殴られたような衝撃を受けたが、そこはかのドズルである。

 表向き平静を装いつつ、話の続きを聞くことにした。

 

 

「え、えっと・・・あまり詳しくはないんですが、そのプロデューサーというのは、所謂『アイドルをプロデュースする仕事』ってやつですよね?」

「その通り。わが社には今十三人のアイドルが所属しているのだが、実は担当していたプロデューサー君がアメリカに渡ってしまってね・・・。向こうの会長は私の兄なのでなんとか出来ないかと直談判したのだがね・・・」

(さらっと凄い内部事情カミングアウトしたぞ!?)と顔に出た彼を横目に、その男は話を続ける。

 

「いや、今いる子達は最悪何とかなるんだ。ある程度自分たちで回すことも出来ない訳じゃないからね」

「じゃ、じゃあある程度の人材を入れてそうすれば・・・」

「それが・・・このご時世、優秀なのもそこそこなのも皆大手に取られてしまうんだ。先程私は自分たちで回せる、と言ったがそれは短期の話。年単位ともなれば、とてもじゃないが余裕なんて生まれないんだ」

「・・・成程。要は人材難で人が入って来る見込みも薄いから俺をスカウトしたと?」

「それもある。だが、最大の目的があるんだ。それはね・・・」

 そこで彼は一旦口を止め、後ろの工事現場に視線を向けた。シートやら足場やらで一見分かりにくいが、よく見ると裏に『765ライブシアター』と書かれている。

 ・・・まさか。

 

「あれって劇場ですよね? まさかあの劇場に、関係が?」

「・・・そうなんだ。先述したプロデューサー君が渡米する少し前かな。今いる子達の後輩を育成し、共にトップへ導こうという計画が本社で持ち上がったんだ。軌道に乗り始めた矢先の話だったから、私も喜んで引き受けたんだがね・・・あ、申し遅れたね、私はこういう者だ」

 男はそう言って、懐から名刺を取り出した。受け取った名刺にはこう書かれている。

 

【765プロダクション社長 高木順二郎】

 

「本当にすまない。何せ急な話ではあるし、君自身もよく分からないまま私の話を聞いていたと思う。だが、私の目に間違いが無ければ、君はトップアイドルをプロデュース出来る逸材だと思っている。どうかね、私の話に乗ってくれないかね?」

「ふむ・・・」

 

 ありとあらゆる思考を巡らして、彼は考えを練った。

 冷静になって考えてみると、この話は危険なように思える。全く知識も経験もない芸能界に飛び込むのは、旧ザク一機で連邦艦隊に特攻を仕掛けるのと同じやもしれない。

 だが、今の彼には行くあてが無い。おまけに金銭的にも余裕がないので野宿生活を強いられるが、そんな生活は長くは続かないだろう。

 そして何より、転生前の約束の三つ目が脳裏をよぎったのである。

(幸せになる事、か・・・。普通に暮らしていたりしたらそれは難しいかもな。考えてみれば、俺が軍隊に入った時も強いパイロットを目指していたのであって、長官になるとは考えもしなかったものだ。それに・・・)

 

『兄さんは幸せになって欲しい』

 

(ガルマの願いは血ぬれの俺ではないだろう。人の幸せを願ったあいつの気持ち、無碍にはせぬ! よし・・・!)

 

「・・・考えは、まとまったかな」

「ああ・・・俺の名前は鹿山丈。高木殿、あなたとは長い付き合いになりそうだ」

 そう言って彼・・・転生ドズル改め、鹿山丈(かやま じょう)はニッと微笑み、左手を差し出した。

 その真意を悟った男・・・高木順二郎もまた、笑みを浮かべ、その左手を力強く握り返した。

 

「社長で構わないよ、鹿山君。こちらこそ、宜しく頼む!」

 

 こうして、ドズルは名前を変え、プロデューサーとなった。

 後に数多のアイドルをトップに導くことになるとは、この時の彼には予想もしえない。

 ただ一つ言うなら・・・

 

【この選択は、間違いではなかった】

 

 

 




その後の話
「ところで社長。申し訳ないが・・・」
「何だい?」
「衣食住を提供していただけないか? 行くあてもなくて・・・」
「ほう・・分かった。理由を聞いても?」
「・・・旅人だったもので(本当の話なんて言えない)」
「ああ・・・」


序章はほぼ今回で終わりです。
次回は一週間後くらいを目安に頑張ります(卯月並感)

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