4/24 一部微調整
「な、何でグリフィンの輸送ヘリがこんなところに!?」
「何で、って……そんなもの、普通に考えれば当然貴方を回収する為のはずでしょうに」
こいつは何を言っているんだ、とでも言いたげな女性の表情に、有り得ないとでも言わんばかりに青年は捲し立てる。
「んなわけあるかよ……ぐ、あの糞野郎は俺を始末する為にここに放り込んだんだぞ!?俺を見捨てる事はあれど、救助する為に戦力を差し向けるなんて!そもそも、あいつは通信で救援は無理だとほざいているし、いくら基地が近くても流石に間に合うはずがない!!」
腕の痛みを忘れたかのように一気に並べ立てた青年は、そこで歯を食いしばり接近しつつある輸送ヘリを睨み付ける。先程会話していた時とはうってかわって鋭い剣幕で喋る青年に、女性の方が若干引く。
「そ、それはそうかもしれませんが……予め、他の基地へ支援を要請していたのかもしれませんし」
「よしんば、っつ、そうだとしても、だ!あいつがそんな事をするとは思えねぇ!!何か、何か裏があるはず」
青年がそこまで口にしたところで、鉄血の人形達が一気に銃撃を開始した。どれも連射するものはおらず、一射一射を狙いをつけるかのように撃っていく。狙いを付けられた二機の輸送ヘリはその射撃を回避するかのように散開し、二手に別れながらも凄まじい速度で距離を詰めていく。
「うわ、俺が乗ってきたヘリと全然動きが違うんだけど。あの屑野郎、ヘリやあの人形ごと俺を葬るつもりだったんじゃあるまいな」
「ま、グリフィンにどんな思惑があろうとも、貴方は我々の基地へと連れていきますけどね。それこそ貴方の意志がどうであろうとも」
「……俺だって死にたい訳じゃねーよ。けどな、この子を連れていかんってのは俺自身が納得いかん」
青年が首を振ると、女性は呆れたように人間らしい仕草で肩を竦める。
「強情な方ですね。その人形を諦めれば少なくとも怪我の治療と身の安全を確保出来るというのに」
「強情なのはどっちだよ!そっちこそ、この子の修復をしてくれれば俺だってそっちに行くことも考えてるってのに」
「その人形を修理する事のメリットがございませんので」
自分の提案をバッサリと切り捨てられ、青年は舌打ちする。内心、目の前の女性に誘われたとき、
「そもそも人間、特に貴方は合理的に物事を考えなさすぎです。その人形を助けて、一体何があるというのですか」
「損とか得とかじゃねえよ」
吐き捨てるように返してから、青年は少女を見やる。その視線は、言葉の刺々しさに反して優しいものだった。
「自分の事を省みずに、俺の事を気にかけてくれた。その事へのただの恩返しだよ。何も求めちゃいない、この子の事を助けたいだけだ」
「やはり、理解は出来ません。お人好しが過ぎるかと」
女性は、先程と同じように冷たく返す。だが、
「……もし、貴方を連れて帰れたら。その『気持ち』も、少しは理解できるようになるのでしょうか」
「?」
小さく、聞こえないほどの声量で呟いた彼女の言葉を聞き返そうと、青年は口を開きかける。
だが、それは叶わなかった。
「ちょっ!?」
「な、輸送ヘリから直接……!?」
かなりの距離まで接近してきていた輸送ヘリの扉開く。接近し続ける二機のうち、片方のヘリのドアの陰から銃口が顔を覗かせ、青年と女性が驚く間もなく射撃を始めたのだ。次々に放たれた弾丸は、盾を持った人形達を次々と薙ぎ倒していく。
「へ、ヘリから機関銃で掃射とかマジかよ!?」
「銃の操者は、相当なやり手のようですね……面白い!」
「お、面白いってあんた……うわもう片方のも構えて、ってこっち狙ってる!?」
「ちぃっ!」
そして、もう一機のヘリからも銃身が姿を現した。機関銃のように乱射される事はなく、だがその弾丸は正確無比にゴーグルの人形を撃ち抜く。そして一発の射撃が、青年の頭上を掠める。女性が歯噛みしながら後方へと下がると、そのいた場所に弾丸が突き刺さる。
「……
青年は、確信した。
「あいつらは、助けるつもりなんて、最初からない」
青年の心の奥が、冷たい氷を押し付けられたかのように、固く硬くなるような感覚に襲われる。
「グリフィンは、皆殺しにするつもりなんだ」
強く、強く歯を噛み締める。
機関銃の弾が、大地を削りながら青年へと近づいていく。
「
青年の唇の端から、血が流れ出す。
伏せられた瞳から、一筋の雫が流れ落ちた。
「みんな、全部殺すつもりなんだ」
右手が、腰のポケットの筒へと伸びる。
取り出された筒の先端のピンが指で引き抜かれ、小さな筒は地面へと転がり落ちた。
「……ちくしょう」
小さな、小さな呻き声と共に。
地面の筒から、大量の煙が吹き出した。