一般人・イン・フロントライン   作:全緑小隊

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一般人・イグジット・フロントライン5

ソウガが視線を上げると、見覚えのない人物が新たに部屋の入り口へと姿を見せる。

医療関係の物とは別の白衣を纏い、薄桃色の髪に猫耳のように見えるナニカをつけた女性は、目の下に濃い隈を浮かべた顔を上気させて……否、入り口に寄り掛かりながら肩で息をしていた。

 

「か、かんべ、してよ……私、ほとんど、運動、してな」

「ペルシカ……さてはこの人形に置いてけぼりにされてダッシュする羽目になったな?」

「だ、だって……無視しようかな、とか思ったら、うちの子達に、『放置したら、コーヒー没収ですよ』って、脅されて」

「……意外に立場が弱いのだな」

「クルーガーさん、そこのなんか猫耳っぽいので萌えを狙ったけど雰囲気とかで台無しにしてるっぽい人は?」

「ソウガは意外と容赦ないね。まあ気持ちは分かるけどさ」

「酷い、酷いよ君達、こんなか弱い乙女にそんな暴言を……」

 

よよよ、とその場に崩れ落ちるフリを見せる女性に、ジト目の視線が無言で三対降り注ぐ。

 

「……せめて何か言ってよぉ!」

「ソウガ、彼女はペルシカリア……通称ペルシカだ。先程話に出たI.O.P.の中でも先進技術を主に扱う部門『16lab』の主任研究員だ。現在彼女(AAT-52)を預かっている責任者でもある」

「へー、よろしく」

「君らマジで容赦ないよねホント、泣くよ?乙女の涙撒き散らすよ?」

 

ピクピクと頬を引き攣らせながらも、ペルシカと呼ばれた女性は立ち上がる。

 

 

「……ま、とりあえず今クルーガーに紹介された通り、16labで好き勝手やらせてもらってるよ。あと、今日はI.O.P.の社長の代理も兼ねて来ているよ」

「社長の?」

「そ。今回のグリフィンで起きた件に関して、うちの社長とクルーガーとでまあ色々やり取りしててね。で、社内で揉んだ結果が丁度出たんだけど、運悪く急な用が出来ちゃってね。それで私に御鉢が回ってきたって訳」

 

そう言うと、咳払いをしてからペルシカは部屋の中を見回す。

 

「ソーガ、君にゃあんまし関係ない話で申し訳ないんだけどね。I.O.P.とグリフィンは業務提携を行っていてね、グリフィンの戦術指揮官への戦術人形の提供からメンテナンス、装備開発を一手に引き受けているんだ。代わりに指揮官の方で不要となった人形は例外を除き、I.O.P.に返却しなきゃいけない契約となっている。だけど、今回のAAT-52の件は明らかに契約違反なんだ」

 

ペルシカがそう告げると、名前を出されたAAT-52の表情が硬くなる。

 

「敵地での作戦の末の行方不明や損壊による回収不能とかであればまだ話は分かる。けれども、T地区指揮官はAAT-52を単独で基地から間近とも言えるエリアへ出撃させた挙げ句、ダメージを受けて行動不能となった事を知りながらそれを放置、捜索の努力も一切見せなかった」

「会社員としても人間としてもぐうの音も出ないほどの屑だな」

 

バッサリと切り捨てたソウガに全くだよ、とペルシカは同意する。次いで、クルーガーが厳しい表情で口を開いた。

 

「そこで、I.O.P.の社長と私とで協議を重ねたのだ。人形を使い捨てたのは指揮官の独断と言えども、我々グリフィン側にも管理不行き届きの責任はある。勿論君の件もあるしな」

「しかも、AAT-52の件以外にも彼の指揮官に配属されてる人形のうち複数体が行方不明になっている事も新たに分かった。その件に関しては調査を進めてるところだけど、一先ずは今回の件に関しての結論だね。クルーガー、よろしく」

 

 

そういうと、クルーガーは頷いてソウガの左肩を指差した。

 

「うむ。まずソウガ、君の左腕に関してはグリフィンが費用拠出の上、I.O.P.への義肢作成を依頼した。戦地から引き上げられて来たとき、弾丸の衝撃で被弾部分の骨が木っ端微塵になってただけではなく、傷口が埃塗れになっていた。このままでは菌や毒素が全身に回ってしまう、そこで医師やI.O.P.側とも相談の上、迅速に肩の被弾口から切断させてもらった。中々話し出せず済まなかったな」

「あ、あー……そっか、俺廃墟の中でぶっ倒れたんだったけか。いや大丈夫、むしろ俺の行動が迷惑かけたようで、ごめんなさい」

 

気絶する直前の事を思い返しながらソウガは頭を掻く。あのタイミングでは思考もろくに働いていない状況とはいえ、よくよく考えてみればとんでもない場所へと逃げ込んでしまったものだ、とソウガは軽く反省した。

 

「いや、気にしてはいないよ。君の腕の作成を引き受けたのは、一応I.O.P.側としても君に感謝してるからだよ。君の身の上話はクルーガーから多少なりとも聞かせて貰ったよ、事情も知らないにも関わらずAAT-52を見捨てる判断を一切せずにいてくれたそうじゃないか」

「そうそう、ソウガは私の命の恩人なんだから。これぐらいの事はされてしかるべきだよ」

 

ニコリ、とAAT-52がソウガに笑いかける。その様子を見てどこから取り出したのか、ペルシカはノートサイズの端末を取り出して何かを調べ出す。そしてどうやら面白いモノを見たのか、一瞬薄くニヤリと笑うとその端末を仕舞ってから喋り出した。

 

「とは言っても、勿論それだけじゃないけどね。ソウガには義肢を取り付けてから数日、I.O.P.でちょっとした実験に協力してもらうよ」

「じ、実験?嫌な響きだな……何をさせるんだよ」

「大丈夫、実験とは言っても大したもんじゃないよ。ぶっちゃけた話、今回作る義肢の動作試験とかがメインだからね。人間に義肢を取り付けるのは無くも無いんだけど、I.O.P.じゃあまりそこのところのデータが集まってなくてね。そういう意味では実験台に近いものだけど、協力して欲しいんだ」

「んー、まあそういう事なら良いよ」

 

 

ソウガが頷くと、満足そうにペルシカは微笑んだ。それを見てから、クルーガーが口を開く。

 

「I.O.P.での実験が終わった後に関しては、君さえ良ければわが社にて君を雇おうと思っているのだが、どうかね」

「俺を?良いのかよ、身元不詳どころかこれと言った技能は何もないぞ?いくら戦場に出た経験があるからってまた戦場送りは嫌だぞ」

 

ソウガが表情を曇らせると、対照的にクルーガーは破顔してみせた。

 

「ハッハッハ、心配する事はないぞソウガ。それは完全なイレギュラーだ、グリフィンは本来人間の指揮官と戦術人形による部隊が戦力だからな。勿論最悪の事態を想定して指揮官だけでなく後方要員も銃の使い方は習ってもらうが、基本的に人間が最前線に赴く事はまずないと言っていい。

それに、何も必ずしも戦術指揮官になれと言うつもりはない。グリフィンとしてはそれがベストではあるが、勿論個々の適性というものがあるからな。指揮官に向かない者や意思のない者を無理やり据える事はしないよ。勿論、どの部門であろうと君の立場、身元は私が証明しよう」

 

はっきりと言い切ったクルーガーに、ソウガは目を丸くした。いくらグリフィン側に多少なりとも非があるとは言え、失った左腕の義肢の費用から仕事まで提供してくれるというのだ、青年には渡りに船、破格とも言える内容だった。

 

「そ、そりゃ滅茶苦茶嬉しいし、願ったり叶ったりだけど」

「む、何か不満点でも?君への迷惑料とAAT-52を保護してくれた事を加味すればこれでも足りないぐらいでは、と思うがね」

「いやいや十分だよ!これ以上何かしてもらったら逆に疑うわ!こちとら頼れるモノも何もねーし、喜んで身を寄せさせてもらうよ」

「よかったね、ソーガ!」

 

心から喜びを見せるAAT-52に、ソウガも笑顔を向けた。

 

「あぁ。AATも、本当にありがとうな。AATがいなかったら本当にどうなってた事か」

「そんなことないよ、私だってソーガがいなかったら絶対にここにはいないよ?ほんとありがとう」

「そんな事……」

 

 

 

 

 

二人で会話を続けるソウガとAAT-52を余所に、ペルシカは声には出さずクルーガーを手招きで廊下へと出るように伝える。クルーガーはちらりと二人に視線を向けた後、その手招きに応じて部屋の外へと出た。

 

「何かね」

「いやね……彼の件」

 

先程の会話とは打って変わって、ヒソヒソとペルシカは喋り出した。

 

「昏睡中の脳波とか、切って貰った腕を数日間調べてみたけれど、やはり特異性は何も見受けられないね、むしろ凡人とすら言えるレベルだよ。ただし、先程彼と会話中のAAT-52を調べたところ、普通の人と会話した時に比べて擬似感情にポジティブ方向に対してかなりの数値上昇が見受けられた。他指揮官に配属の同型人形と比較しても、MVPを取った時以上の上がり幅だ。いくら彼が助けたとは言え、この点は明らかに異様と言える」

「なるほどな。彼には人形の戦意高揚に長けている可能性がある、と言うことだな」

「そこはI.O.P.にいる間に詳しくデータ採取するよ。確か彼は今は亡き極東の出身と言ったね?しかも四十年以上も過去の。もしかすると何らかの関係があるのかもね」

「ふむ……何れにせよ、AAT-52は彼と一緒に行動させた方が良さそうだな」

「それは同感。万が一彼が戦術指揮官にならない場合でも、民生用人形に改修してしまえばいい。いや、その方が面白いデータが取れるかもね?」

「そこは彼次第だ、我々が強要すべきではない」

「ふーん……随分と、彼に入れ込むんだね?」

「ま、ソウガに対してはそれなりの負い目もあるからな。それと……若いなりに、覚悟を決めた目をしていた。磨けば光る、そんな気がしてな」

「なるほどね、まあそういう事にしておくよ。

 

 

ちなみに、首大丈夫だった?」

「……医者には捻挫一歩手前と診断されたよ、巴投げされて受け身も取れない状態でそれは奇跡的と言われた」

「な、なるほど」

「というか、AAT-52の突撃を腹に食らった彼の方が心配なのだが」

「……普通に笑ってるよね。やっぱりどこかおかしいのかも」

「ギャグ補正が高いのでは?」

「いやギャグ補正てあんたね」




長くなりましたが、これにて序章完結となります。
いや、導入部分にどれだけ時間掛けてるのかと、ほんと構成力の無さが悲しいです。

はてさて、主人公はこれからどんな生活を送るのか。
果たして安全に暮らす事は出来るのか!?
今後のソウガ君の活躍にご期待下さい(なお題名)
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