ほんと皆さんの評価や感想に支えられていると実感しております。まだまだ拙い文ではございますが、これからもよろしくお願いします!
「うーん、ほんと久々に帰ってこれたよ……皆元気かなぁ」
「まさかまたここに来るとはなぁ。戦場に送り込まれた直後はともかく、切り捨てられたって分かった時は俺にとってある種最大の脅威でしかなかったし」
「まあそう言ってくれるな。これからは暫くここが君の家みたいなものだ、慣れてくれねば困る」
「そりゃ分かってっけどさ」
ため息混じりにガリガリと頭を掻きながら二人に遅れてソウガも車から降り、トランクから盾を下ろす。頭では理解しようとしているものの、あの強烈な経験は青年の中で深く刻まれてしまい簡単に覆せるものではなくなっていた。
「大丈夫だよソーガ!何かあったら私が何とかするから!」
「お、おうよ」
ふんす、と鼻息を鳴らしながら両手を胸の前で握り締めるAATにやや引きつつも青年は頷き、ふとそこで側のクルーガーを見やる。
「そう言えばかなり今更だけどさ。流石に他者の面前では敬語使った方がいいよな?」
「本当に今更レベルだよねそれ」
「流石に君自身の評判に関わるだろうからな、使っておくに越した事はないだろうが……ソーガ、君は敬語を使えるのか?」
「そりゃまあ、普通程度には」
疑いの目を向けるクルーガーに、ソウガは軽く咳払いをする。
「先程は失礼致しましたクルーガー社長。私も社会人です、きちんと覚悟を決めて臨みます。では、大変恐縮ですが内部の案内をお願い出来ますか?」
「ほう……」
「うわ、似合わないね」
「うるせい!これでも七年は会社勤めしてんだ、これくらいなら出来るわ!それにクルーガー社長も、確か一番最初病院でお会いした際に少しだけですが敬語でお話をした気がするんですけど!?」
AATのツッコミに思わずソウガも声を張り上げる。青年にとってあまり、どころかほとんど良い思い出のない会社員生活ではあったが、人並みに敬語を使えるようになったのは数少ない利点だったようだ。
「それぐらい出来れば言葉遣いは問題無いだろう。まあそこまで固くなくてもですますさえ出来れば良いだろうがな。あと、別に他者の前でなければ言葉遣いは特に気にはしない」
「ふぅ、了解」
「一応言っとくけど私には敬語いらないからね?」
「……そんなに似合わんか?」
重ねてAATにそんな事を言われ、流石のソウガも頬をひくつかせる。だが、彼女には特段青年を揶揄するつもりはなかったようで。
「だって、私にとってソーガは命の恩人であって、私はソーガの専属人形なんだもん。ご主人様みたいなもんだよ?」
「命の恩人にご主人様、って……俺はそんなつもりは」
「うん、無いのは知ってるよ」
怪訝な表情のソウガに、AATはニコリと笑いかける。
「ほんとなら私がソーガに敬語とか使ったりするべきだと思うけどさ、きっと嫌がるでしょ。だから私相手だったら普通の言葉遣いでいいよ?」
「……そっか。サンキューな」
「その代わりに私もタメ口でお話させてね!」
「……それは別に全然良いけどよ、締まらんなお前」
「二人とも、そろそろ行くぞ」
「あ、すみません!」
「りょーかいっと」
このままでは一向に話が進まない気配を察したのか、クルーガーが先導して基地へと入っていく。それに続く形で、AATとソウガも建物の中に入った。
「一先ずソーガ、君には現在代行でこの基地の管理を行っている者に会ってもらう。その者への情報の引き継ぎ等は既に行っている」
「代行……って、後任の指揮官が決まっている訳じゃないのか?」
無機質なコンクリート張りの廊下を歩きながらソウガが質問をぶつける。途中数人ほど清掃員姿の作業者達とすれ違ったが、社長たるクルーガーがいるからか彼に挨拶はするものの、青年には一瞥をくれるだけで特に声を掛けられることも無かった。
「うむ……現状、グリフィンとしてはS地区の方に経験者を割いていてな。可能であれば指揮経験豊富な人材をここにも充てたかったが」
「あー、ぶっちゃけ今んとこそんな余裕はないと。だから俺を指揮官見習いにして養成し、ゆくゆくは正式にここの指揮官として採用しようって事か……え、待ってそれ割りと責任重大じゃね?俺そんな覚悟出来ていねぇよ」
思わぬ重責の発覚にソウガは頭を抱える。指揮官見習いという立ち位置に軽くOKを出していたが、最終的にはこの基地において最大の権限を持つ立場に据えられるという事なのだ。流石の青年もそこまでの考えは及ばなかったようだ。
「故に見習いとしたのだ。最初からそのような大きな権限をずぶの素人に持たせる程こちらも能無しではないし、いきなりその責を君に負わせるのは酷すぎる。それに指揮もしたことの無い人間が、鉄血ハイエンドの運用する部隊相手に戦術人形達を指示したところで……結果は目に見えているからな」
「そりゃまあな。って、鉄血ハイエンドってなんだ?人形とはまた別の存在がいるのか?」
やや窘めるような口振りのクルーガーの言葉に胸を撫で下ろした所で、ソウガの中で聞き覚えのない単語に疑問点が浮上する。
「いや、人形は人形なのだがな。鉄血の人形達の上位個体……通称
「ハイエンド、モデル……」
クルーガーから説明を受けて思わず呟いたソウガの脳裏に、一体の人形の姿が浮かぶ。
エプロンドレスとヘッドドレスを纏い、頭部の左右に団子状に髪を結ったその姿。
エプロンを捲ったかと思えば、その下から現れる四本のアームに銃。
冷たく酷薄な笑みを浮かべ、彼を己の側へと誘おうとしたその言葉。
「……っ、ぐぅ……!」
突如、青年の肩が、腕が、鈍い痛みを発する。義肢を接続している肩口だけではない、痛覚の存在しない腕が、肘が、掌が。
弾丸で貫かれた場所を思い出させるが如く、痛みは弱まる事も強まる事もなく青年を苛む。
「そ、ソーガ!?」
「っ、だ、いじょうぶ。ちょっと、肩が痛いだけだ」
ソウガは額に汗を浮かべながらも、青年を気遣うAATに何とか笑みを返す。その様子を黙ってみていたクルーガーだったが、やや目を瞑った後に口を開く。
「ソウガ、君の想像は正しい。君があの場で邂逅した鉄血人形は、正しくハイエンドモデルだ。個体名は
「……エージェント、か」
クルーガーの告げた名を、ソウガは噛み締める。自分が戦った鉄血の部隊を指揮したと思われると同時に、己の腕を破壊した存在。
「出来れば、二度と会いたくはないもんだな。今度は普通に殺されそうだし」
苦笑いと同時に、青年はそう小さく呟いた。