まあいつまた火を吹くかわからないのが辛いですがががががが
「どうぞ」
「入るぞ」
「……待てよ、この部屋って、確か」
暫く基地の中を歩き続けた後、とある部屋の前で立ち止まるとクルーガーはドアをノックする。ドアや廊下の見た目に何となく既視感をソウガが感じている間に、中から女性の声で返事が返ってきた。それを確認し、クルーガーを先頭にソウガとAATは部屋へと入っていく。
「お疲れ様です、クルーガーさん」
「うむ、ご苦労」
「うぎぇぁー……やっぱあの部屋か」
「どしたの、ソーガ?」
「いや、何でもない……まあ個人的にちょっと、な」
ややひきつった表情のソウガを心配そうにAATが見つめるが、ソウガは軽く首を振り少女に返す。何という事はない、この部屋は正に青年が前指揮官に戦場送りを命じられたその場所だった。まともに良い印象を抱いていない青年にとっては、この部屋は勘弁してほしいところだったろう。
部屋の中には、多数の資料を机上に並べて何かを確認している鼠色の髪をシュシュで束ねた片眼鏡の女性と、パソコン相手ににらめっこをしているオレンジの髪をこちらは赤いリボンで縛り、サングラスを頭に乗せた少女の二人がいた。
「ソーガ、紹介する。こちらはヘリアントス上級代行官、彼女が先程の話にあったこの基地の現在の代理責任者だ」
「初めまして、ヘリアントスだ。呼びにくいだろうからヘリアンとでも呼んでくれればいい。貴官がソーガ・タケーチだな、話は聞いている。噂とは大分違った風体だが……いや何でもない、よろしく頼む」
「こちらこそよろしくお願いします、ヘリアントスさん。……あの、失礼ですが噂とは一体?」
厳しめな表情を少し崩しながら握手を求めるヘリアンに応じつつ、ソウガは質問をする。どこか、そして何故か、目の前の女性は青年を見て安心したように肩の力を抜いたように見えたからだ。
「何、大したことのない与太話だ、気にすることはない。軍人や傭兵ならともかく鉄血人形の部隊と交戦して生存した民間人の記録がほとんど無い中で、戦闘経験一切皆無の一般人が鉄血ハイエンドモデル相手に生き延びたともなれば、尾鰭の付いた話は出回っても仕方ないからな」
「そ、それは聞きたいような、あまり聞きたくないような」
「あ、私知ってますよそれ!」
と、そこで今度はオレンジ色の髪の少女が顔を上げる。ソウガをちらりと見た後に、思い出すように視線を虚空へと彷徨わせる。
「例えば弾丸を弾くほどに強靭な肉体の持ち主だったとか、腕がマシンガンになってて鉄血人形を全て薙ぎ倒したとか、空から降下した瞬間に周りの物を全て吹き飛ばしたとか!」
「一体どんな化け物みたいな人間が来るのかと戦々恐々としていたが、まあ普通の人間のようで良かったよ」
「いや、それもうどこからどう見ても一般人じゃないですよね?
というかそんな人間がいると思ってたんですか」
「相当な重量の装甲鎧を纏っての降下、鉄血人形の攻撃の悉くを弾き返したその盾、廃墟から持ち出したAAT-52のマシンガン……なるほど、それぞれ微妙に事実が混ざってはいるな」
「うんうん、ちゃんと私の武器を使って倒せたんだね、良かった良かった」
軽く笑いながら少女のとんでも噂について解説したクルーガーと何故か胸を張ってどや顔をしているAATに、勘弁してくれよとソウガは項垂れる。ただ装備を使って戦っていただけのはずが、どこをどう取り違えればそんな有り得ない人間兵器が生まれるというのか、青年は俄には信じられなかった。
そしてそんな人間が来ると割りと真面目に考えていたらしいヘリアンの事はもっと信じられなかった。
「あ、あははは。あ、私はカリーナって言います。後方幕僚を担当してます……えーっと、簡単に言うと指揮官様を補佐する参謀とでも思って下さい。気軽にカリンって呼んでください、よろしくお願いします指揮官様!」
「あ、こちらこそよろしく。えっと、私はまだ指揮官見習いでまだ正式に決まった訳ではないので、普通に名前で呼んでいただいて構いませんよ。むしろその方が気楽ですので」
苦笑いしつつ手を差し出した少女に握手しながらソウガは注文をつける。ただでさえ指揮官という全く経験のない上官ポジションで慣れないのに見習いの段階で様付けは勘弁してくれよ、と内心青年は呟いた。
「ありゃ、そうなんですか。ならソーガさん、でしたっけ?良かった合ってた、ソーガさんも敬語じゃなくて良いですよ。聞いた話だと私より年上のようですし」
「とは言いますが、カリーナさんの方が先輩ですからね。現状は立場もカリーナさんの方が上ですし、最初はこの口調でやらせてください」
肩を竦めながらカリーナの提案を退けるソウガに、カリーナは可愛らしく頬を膨らませる。
「むぅー、話には聞いていましたけどかなりの頑固者なんですね。そんな人にはショップで融通なんてしてあげませんよーだ!」
「ショップ?」
「カリーナは補給物資の管理も担当している。その流れで、基地の人間に様々な品の販売を担当しているんだ」
「日用品から嗜好品、趣味の発掘に夜の御供までお任せあれ!という訳でソーガさん、何か買いますか!?」
「いきなりだなおい……。まあ確かに、私は着の身着のままでいる訳ですし、それはとても有難いで、す……って、ちょっと待って」
ヘリアンの解説に胸を張るカリーナに引き気味ながら、財布を取り出したソウガの動きが固まる。
「どうかしたか?中身は調べた後に必ずそのまま戻すようにと指示をしていた筈だが、まさか抜かれているのか?」
「あー、いや、そのー……中身は無事、なんですけども」
顔色を剣呑な物に変えたクルーガーに否定しつつ、青年はかなり言いづらそうに言葉を続けた。
「えーと、今って2061年って言ってましたよね」
「そうだな」
「自分、一応クレジットカードを持ってはいるんですけども、そのですね、期限が……」
「なるほど、私達からしたら遥か昔に切れているから使えない、と」
「まあそもそも日本が消滅している時点でその会社も消えているから、どのみち駄目なんですけどね」
ヘリアンの言葉に皮肉気味に笑いながら返すソウガに、カリーナは首を傾げながら問いかける。
「それでも、財布の中にはお札も何枚か見えていましたよね?」
「まあ確かに現金も持ってはいますよ?持ってますけど……日本が滅んでいる現在、
「あっ」
「あー、その」
「……ソーガ。その、非常に言いにくいのだが」
既に諦め気味の青年の問い掛けに、三人の表情が曇る。どう言ったものか、と考えあぐねる彼等を尻目に。
「うん、使えるはずないよね」
「そりゃそうだよねチクショー!!」
あっさりとAATがトドメを刺した。