ごちゃまぜドルフロ短編集   作:なぁのいも

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 ベースはいつもの彼ですけど、あのシリーズに入れちゃうと凄い齟齬が発生するのでこっちで……


自称恋愛も完璧な戦術人形416のドキュメンタリー『完璧なる私の指揮官籠絡作戦』

皆さんはHK416と言う戦術人形をご存じであろうか?

 

銀髪碧眼、スタイル抜群、頭脳明晰の三拍子が揃った完璧な戦術人形である。彼女は完璧なだけには収まらず、日々完璧より更に完璧になるように研鑽しているのだ。

 

そんな彼女は最近指揮官にお熱。所謂、ほの字なのである。

 

彼女が指揮官に惚れた理由は色々とある。例えば、自分の完璧さを深く理解してくれていたり、ヤツラを越えるための方法を一緒に考えてくれたり、完璧な作戦を立案してくれたり、彼女が間違っている箇所があれば臆さずに伝えてくれたり――とにかく完璧な彼女が好きになら無い理由が無いのだ。完璧な彼女が指揮官の事になると小一時間話し込む位なのだから間違いない。

 

完璧な416。そんな彼女が、ついに指揮官を籠絡するために動き出したのだ。

 

名付けて、『完璧なる私の指揮官籠絡作戦』。

 

プランはこうだ。

 

指揮官に朝の挨拶をして好印象を持たせる

朝の作戦を完璧にこなして指揮官に実力を認めさせる

昼食に誘い親睦を深める

夕方の作戦をこなして416は外せない存在だと認識させる

夜のお世話をして自分のスタイルと気配りの完璧さを認めさせる

指揮官「やっぱり君は完璧だった!誓約をして欲しい416!」

二人は幸せなキスをして終了

 

完璧。完璧すぎる作戦である。

 

これを見事に遂行されたあかつきには、指揮官は416にゾッコンだろう。我ながら完璧な作戦を思い付いた416は、1日ニヤニヤとしていたため、色んな人形からキモいとの誉め言葉を頂いた位に完璧だ。

 

今回の物語は、彼女が完璧な作戦を完璧に遂行する様子をただただ描いたドキュメンタリーである。

 

果たして彼女の作戦は無事遂行されるのだろうか?

 

 

 

 

 

 

 

 

挨拶は大事。かつて東の島国にあったという古の書物に記載されていたであろう言葉。

 

そんな名言の通り、朝の挨拶というのはコミュニケーションのきっかけとなるので、とても重要なものである。

 

日課である朝のトレーニングをこなし、掻いた汗をシャワーで流し、簡単にメイクを済ませた416は準備万端。食堂にて朝食を食べ終えた指揮官が、これからこれから通るであろうルートも完璧に予測してある。そのルート上で待ち伏せて、416は指揮官に挨拶をするつもりなのだ。

 

416の完璧な予測の通り、指揮官がやってきた。このまま何気なく出会ったふりをして、「指揮官、おはようございます」と、完璧な微笑と共に挨拶をして、指揮官に好印象を与えつつハートを掴むという算段だ。

 

指揮官との距離は残り10m。416も歩くことで距離を縮めお互いの距離が2mになった。緊張で口を引き絞っていた416が、朝の挨拶を言うために口を開く。

 

「しき――」

 

「おはよう416」

 

が、それより先に指揮官が挨拶をして来た。まだ眠気が抜けきってないようで、普段以上に柔和な笑みを浮かべる指揮官が。

 

確かに指揮官は普段からよく笑ってる印象はある。だけど、今浮かべる彼の微笑みには馴染みが無くて、416の胸は驚愕と困惑と喜びによって大きく跳ねて、

 

「し、しししき、おおおはよはは――」

 

熱暴走を起こしたように顔を真っ赤にし、発声機が不調を起こしたかのように言葉が詰まってしまう。

 

おかしな416を見て指揮官は首を傾げながらも、

 

「無理はしなくていいんだからな?不調なら工廠にいっていいからな?」

 

と宥め、彼女の頭を帽子越しにポンと叩いて、彼女の横を通りすぎる。

 

排熱の限界を迎えた416は、顔から真っ白な煙を吹き出しながら強制冷却を行うのであった。

 

 

 

 基地において416は重要な戦力だ。最適化と改良が進んだARとして重宝されている。

 

残念ながら隊長を任せられることは少ないが、隊に置いて頼れる参謀、相談役として欠かせない存在。

更に彼女は、彼女だけが使える技能によって莫大な戦果をあげることだってよくあることだ。

 

朝のミーティングが終わり、指揮官の命令通りに戦地に赴いき、鉄血を蹴散らして本日も莫大な戦果をあげたお手柄な416。

作戦の報告書を指揮官に手渡し、自分の有用性・必要性・完璧さを指揮官にアピールする腹積もり――だったのだが、

 

「……45、頼めるかしら」

 

416は苦虫を噛み潰したような顔付きで、同じ隊の隊長を務める45へ書類を手渡そうとする。

 

「なんでよ……」

 

訝しむように416をジロジロと見てくる45。

 

それもその筈、前日の416は

 

「明日の報告書は私が指揮官に渡すわ」

 

と意気込んでいたのだから。

 

腐れ縁である45は、友人(?)の恋を煽り囃し立てながらも応援しているのだから、416から切っ掛けとなるものを突き返されるのは不審に思うのも仕方ないだろう。

 

仕方あるまい。416は朝の挨拶に失敗し、そのことを指揮官から宥められたことで生まれた恥ずかしさが引いてくれないので、指揮官の顔をまともに見ることが出来なさそうなのだ。

 

そのことを思い出したせいで頬に赤みが差す416。そんな彼女の様子に、45は何かを察したように、或いは面白い玩具を見つけたかのようにニタニタと意地の悪い笑みを浮かべると、

 

「ふ~ん。完璧じゃなかったの、作戦は?」

 

「私は完璧よ……」

 

渋い表情で決め台詞を口にする416。そんな彼女にはぁ……と一つため息をつくと、45は416の手に持った書類をぶんどる。

 

「まぁ、いいよ。だけど、私が指揮官に気に入られても知らないから」

 

ヒラヒラと手を降って司令室へと向かう45の後ろ姿を、416は悔しさと無念さを受け入れるように拳を震わせて見送るのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 戦闘以外の仕事をこなしているうちに、昼になってしまった416。

 

 彼女は朝の作戦の失敗を、この昼食の時間で巻き返すために動こうとしていた。

 具体的には、指揮官に『一緒に昼食を食べませんか?』と誘い、昼食中に話し込むことで、疑似的に二人だけの空間を作り出し、他の戦術人形を寄せ付けないようにし、その光景を見せつけるようにして牽制をかけると同時に指揮官との親睦を深めようとする完璧な作戦だ。

 

 416は指揮官を誘うために朝のお仕事は早めに終わらせてある。指揮官の通るルートも把握済み。後は偶然を装って指揮官と鉢合わせ、食事に誘うのみ。

 

 しかし、416は悩んでいた。完璧な彼女は誘い文句も完璧でなければいけないからだ。

 

『指揮官、私と昼食をとりませんか?』

 

『指揮官、一緒に昼食を食べませんか?』

 

 と言ったシンプルなモノから。

 

『指揮官、私と完璧なランチを堪能しませんか?』

 

 と言った、自分の個性を活かした誘い文句を考え、どれがいいのかと迷っていた。

 

 少しでも彼に良い印象を与えようと言葉を選ぶ416。

 

 そのうち、指揮官からの返答も予測し始め、その後の展開もシミュレートすることに夢中になっている間に、

 

「指揮官、一緒にお昼御飯食べようよ!」

 

「おっ、9か。じゃあ、一緒に食べようか」

 

 9が指揮官を誘って食堂に向かったことに、シミュレーションの世界に旅立った416は気づかず置いてけぼりとなり、ついでに昼食も摂れずに昼の時間を終えてしまったのであった。

 

 

 

 

 

 挽回のチャンスは段々と無くなって来ている。

 

 416は自分の立てたパーフェクトなプランが思い通りに進まない鬱憤を、午後の任務で交戦した鉄血の人形達を板金行きコースにする事で発散するついでに、また莫大な戦果を挙げたのだ。

 

 そして、今度こそ自分から報告することで、朝に自分から出来なかった分を取り戻そうとしていた。

 

 416の中にあるのは焦りの感情。自分の立てた完璧な計画が、最初に躓いたことでなだれ込むように失敗し続けていることへの焦燥。

 

 416の苦悩を察してか、彼女のことを経由せずに指揮官へと報告書を渡そうとした45の手から書類を取り上げ、汗ばんだ顔と髪を伝って滴る汗と共に指揮官の待つ司令室へと向かう416。

 

 彼女の中には、今朝の挨拶で失敗した恥ずかしさなど微塵も残っていなかった。あるのは期待。今度こそ、自分の戦果を指揮官に認められるだろうと言う喜び。

 

「指揮官っ!」

 

 肩で息をしながら薄暗い司令室に入るとそこには、

 

「お帰り。お疲れ416」

 

 労いの言葉と溜まった疲れを癒してくれるような笑顔を向けてくれる指揮官と

 

「くー……くー……」

 

 椅子に座る彼の膝を枕に、猫のように丸まって寝入ってるG11の姿が。

 

 彼の膝の上が余りにも寝心地がいいのか、涎を垂らして頬を擦りつけながら眠りこけている。

 

 その瞬間、416の感情の海は大時化となり、指揮官の膝上という416すら体験した事が無い聖域を堪能、独り占めするG11への嫉妬という大波で理性の防波堤を奪い去った。

 

 ――私には出来ないことを、どうしてコイツはいとも簡単に出来るのよ!!!

 

 そんな羨ましさと理不尽さを孕んだ嫉妬の大波が、彼女の思考回路を汚染した。416は、指揮官に無言で書類を手渡す。彼から称賛されることを散々望んでいたのにも関わらず。

 

 嫉妬の緑を大きく見開いてG11の首根っこを掴む416。

 

「帰るわよ」

 

 息苦しさで『ふわぁ……』と気の抜けた声をあげて目覚めるG11。彼女の目が完全に覚めた頃には、416と彼女の身体は司令室から完全に出て、司令室の扉が閉まる寸前のこと。

 

「あっ……待ってよ!あたしまだ寝足り――」

 

 肩を怒らせてG11のを引きずる416。G11の言おうとした言葉が閉まる扉に遮られて、指揮官はG11の言葉を最後まで聞くは出来なかった。

 

 

 

 

 

 

 

 416は更に焦っていた。

 

 夕方の作戦報告にてアピールする事も(個人的な感情を優先して)失敗し、残る作戦はあと一つになってしまったから。あんなに完璧であった作戦が、五つの完璧な作戦が、残りたった一つになってしまったのだ。

 

 最後の作戦とは、指揮官の夜のお世話をして、自分の完璧さ知らしめること。

 

 つまり、指揮官の背中を流してあげることだ。決してイヤらしい意味はありなどしないのだ!!

 

 416は指揮官の背中を流すことで、自らのグラマラスなスタイルを見せつけ、気遣いの細やかさもアピールすることで、指揮官を視覚から心まで虜にする総仕上げ、になる筈だった作戦だ。

 

 そう、本来なら仕上げになる筈の作戦だったのだ。段階をちゃんと踏めていない時点で本来なら中止するべきなのかも知れないが、彼女の作戦に中止の二文字は無い。だから作戦は続行する。それに終わり良ければ総て良しと言う言葉もある。これが成功すれば、今までのミスなど帳消しに等しいのだから。

 

 指揮官が入浴する時間帯は、戦術人形や基地の人員ほぼ全てが入浴を終えた時間帯。その時間に入浴施設を指揮官の権限でロックをかけて、一人で堪能することはリサーチ済み。

 

 彼が入浴する時間帯になり、416は予め製造を頼んでおいた45お手製の偽造カードキーを使って脱衣所に潜入。こそこそと中を伺うと、綺麗に畳まれた服が入った籠が一つだけ。間違いなく指揮官だろう。416のリサーチは完璧だ。

 

 彼の籠の隣の籠に自らの衣服を投入する416。彼女自体の入浴は、戦術人形達の入浴の時間に終えている。風呂場で指揮官から汗臭いと言われる心配は無し。416に抜かりはない。

 

 一応持ってきた水着に着替え、その上からタオルを巻いて準備は万端。タオルの上からでも豊かな膨らみがわかる魅力的な416ロールの完成だ。

 

 曇りガラスで出来た入り口に手をかける416。果たして指揮官はどんなリアクションをとるのだろうか。驚愕?それとも身体に見とれて――

 

 入り口をスライドさせて侵入しようとした所で―—

 

 自動的に戸が開いた。否、この戸は自動じゃないので勝手に開くことは無い。開いた理由はただ一つ。

 

「あー……タオル忘れた……」

 

 反対側から力がかけられたからだ。

 

 戸を開けたのは勿論、指揮官。その指揮官が、一糸纏わぬ指揮官が416と対面した。

 

「うん……?うん!?オワァ416!!」

 

 相当驚いたのか、指揮官は普段は見せないようなオーバーなリアクションをとる指揮官。

 

 そんな驚きの表情を向けられた416はと言うと、爪先から頭の天辺まで赤くしてプルプルとバイブレーション機能でもついたかのように震えていた。

 

 だって、今目の前に居るのは、何一つ身に付けて無い。タオルすら巻いてない指揮官。

 

 416の目に映るのは、トレーニングを欠かして無いのか良く鍛えられた筋肉の鎧を纏う指揮官の肉体と色っぽく水蒸気に濡れた髪。それと、指揮官の下半身に装備された、それはそれは立派なジュピター――

 

 覚悟を決めてない状態で指揮官のジュピターを拝んだことで処理限界を迎えたのか。

 

「きゅー…………」

 

「よ、416-!!!」

 

 可愛らしい悲鳴をあげて416のOSはシャットダウンしてしまった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 次に416が目を覚ましたのは、反発力の強い安物のベッドのスプリングに廃部を悲鳴をあげた状態。

 

 416が居る宿舎のベッドも余り質は良くないが、ここまで酷いものでは無い。

 

「うん……」

 

 薄らとグリーンの瞳を開く416。彼女の目が捉える光の量はごくごく少ない。

 

 上半身を持ち上げて光源を探してみると、そこにはカーテンの隙間から差し込む月の光。それが、彼女が今いる部屋にある数少ない光源。

 

 ぐるりと周囲を見渡す416。周囲にあるのは、タンスとクローゼットと姿見と、ハンガーにかけられたグリフィン支給の赤を基調とした制服。

 

 その制服を見た瞬間、416は今いる部屋の主が誰なのかを理解。自分が居た部屋の扉を開けるとそこには、

 

「すー……」

 

 シーツを床に直接敷き、縮こまるように丸めた身体を薄手のタオルケットに包んで眠っている家主――指揮官が。

 

 その瞬間、416は何故自分が彼の部屋に居るのかを理解した。自分が見る覚悟を決めてないときに彼のジュピターを見てしまった為に画像処理が間に合わなくなってシャットダウンしてしまったのだと。

 

「……」

 

 指揮官は倒れてしまった416を介抱していたのだろう。他の人員に任せればいいのに、彼の事だ。他の人員が休みの時間に余計な仕事を増やしたく無かったんだろう。自分の入浴も切り上げて、私室に連れてきて介抱してくれたのだろう。

 

 416は自分の服の中を見てみる。下着類は付けて無いが、あの時着ていた水着を着たままになっていて、その上にいつもの服を着た状態をなっている。彼なりに配慮した結果、という事だろう。

 

 指揮官は――自分の身体の事をどう思ってくれたのだろうか。彼の事だ。そう簡単に肌を見せるなと怒ってくるかも知れない。この指揮官は貞操観念が強いから。

 

 416は寝室から先程まで自分の身体を温めてくれていた布団を持ってくると、彼の隣に寝そべり、二人の身体を覆うようにして包む。

 

 目と鼻の先にあるのは、寝入った指揮官。皆、中々見ることのできないレアな姿。

 

 そんなレアな彼を毎日拝むことが出来るようになるのだろうか。それは416の努力にかかっている。

 

「指揮官」

 

 今日は沢山失敗した。あれもこれも、色んな不幸と指揮官が完璧すぎるのが悪い。416はそう思い込むことにした。

 

 でも、失敗ばかりではいられない。失敗で終るのは『HK416』という戦術人形らしくないのだから。

 

「明日は負けません」

 

 そう、自分にも、眠る指揮官にも決意を表明して、明日こそは指揮官を篭絡出来るように、作戦を実行できるように決心して、彼女もスリープモードへと入っていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 以上が今回のドキュメンタリーの内容である。

 

 彼女の完璧さが遺憾なく発揮された内容だと思われる。

 

 今回は色んな要因と運悪く遭遇して作戦は失敗したが、次は完璧にこなしてくれるだろう。

 

 これからの416の『完璧なる指揮官籠絡術』に乞うご期待!

 

 完璧な彼女が全力で指揮官を追い求める姿が、それこそが『完璧な指揮官籠絡術』なのだから――


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