ごちゃまぜドルフロ短編集   作:なぁのいも

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『スオミ、モシン・ナガン』スオミが飲酒してモシン・ナガンに本音を言うだけの話

グリフィン基地には主な飲食スペースが二つある。

 

一つは食堂。昼と夜の時間帯には人間、人形問わず溢れかえる位になるメインの飲食スペース。

 

もう一つは戦術人形スプリングフィールドが経営を任されているカフェスペース。食堂よりも多少値段は高いが、食堂と違って営業時間が長いため時間帯問わず客が入る人気の飲食スペースだ。こちらは、主に戦術人形にとっての憩いの場となっている。

 

そんな風にスプリングフィールドの経営するカフェスペースは昼も夜も憩いの場となっているのだが、夜になるとカフェからバーへと変わる特徴がある。こうなると、見かけ年齢が低い戦術人形は製造時の制約によって飲酒が出来なくなる者もいるが、今度は飲酒の出来る戦術人形達の集う場となり、昼間とは違った人気を博している。

 

今は夜の時間帯。スプリングフィールドの経営するのはカフェでなくバーとなっている時間帯。そのテーブル席に腰掛けているのは、

 

「もう!聞いてますか!!」

 

常温のビールを片手に対面に座る戦術人形を頬を膨らませて可愛らしく睨む彼女の祖国の名を冠している戦術人形、KP-31ことスオミと、

 

「はいはい。聞いているわよ」

 

と、グラスに入ったウォッカを呷りつつ、彼女の話に耳を傾けているのは、モシン・ナガン。

 

モシン・ナガンはスオミとって因縁深い国が生産している銃ではあるのだが、

 

「なら、良かったです。高潔で野蛮な人」

 

と、百年ほど前に彼女達を愛用した人物の関係からか、同国の銃でもモシン・ナガンにはある程度心を開いている様子だ。もっとも、彼女の

モシン・ナガンへの愛称は矛盾に満ちたもの言えるのだが、それはスオミなりに譲歩し、受け入れた結果だろう。この愛称で呼ばれるモシン・ナガンは、最初こそ戸惑ったが彼女の心境も理解をできることと、付き合いが長いためにもう慣れている様子である。

 

スオミは何処か安心した様子でグラスに口をつけ、チビチビとビールに口に含む。そんなちょっとした仕草の愛らしさが、彼女が色な基地で人気を誇ってる理由なのだろうかと、モシン・ナガンはスオミにならって、チビチビとウォッカを口に含みながら考える。

 

「あなたも大変なのね。副官なのに」

 

「そうですよ。私にも色々と悩みはあるんです。副官で一番指揮官の側に居ますけど!」

 

スオミはこの基地で指揮官の副官を務める戦術人形だ。何でも、指揮官の元に初めて着任した高性能機で、彼も彼女の誠実(音楽に関しての事と某国への応対の仕方はそうであるかは判断しかねるが……)なキャラクターと期待に応えようとする努力家な側面を良く評価していて、彼女を副官に起き続けてるわけだ。

 

因みにモシン・ナガンはこの基地に初めて着任したライフルで、彼女も彼にとっては馴染み深い存在だ。

 

話を戻そう。この戦術人形にとって一番重要な人物である指揮官を支えているスオミはとある悩みを抱えているのであった。

 

それは、

 

「指揮官が、私の好意に気づいてくれないんですよ!」

 

彼女が彼に抱いている恋愛感情に対するものであった。

 

その一言と共にスオミは手に持ってたグラスを傾け、黄金色の液体を飲み干す。

 

「お代わり!!」

 

アルコールが入ってメンタルが揺らぎ気が強くなったのか、いつもの囁くような物静かな口調ではなく、溌剌とした口調でアルバイトのWA2000に注文するスオミ。

 

「あ、アンタ……早すぎない?十分で五杯目よ?!」

 

人形によってはアルコールの摂取量の限度がある。その限度を超えたら、自分のに与えられたキャラクターとはかけ離れた行動をとったり、突然怒り出したり、寝始めたりする。人間に当てはめるとしたら、泥酔状態というやつだ。

 

あまりのハイペースさにWAもその状態にならないか心配したらしい。

 

「いいから、ジャンジャン持ってきてください!!」

 

「はぁ……わかったわよ……」

 

微かに顔を赤くしたスオミがWAにグラスを突き出す。その様子からまだ大丈夫であること、ここで断ったら相当面倒なことになると判断して、WAはグラスを受け取って厨房に入り、そそくさと常温のビールを注いで、スオミに手渡した。

 

「ありがとうございます!」

「……気をつけるのよ」

「わかってます!」

 

ふにゃりと浮かべられたスオミの笑顔。アルコールが入っても滲まないそれを直視して、WAも自然と微笑み返すと、ほかのテーブルからの注文を受け付けに戻った。

 

「どこまで話しましたっけ?」

「……指揮官が好意に気づいてくれないってところね」

「……そうです!気づいてくれないんです!」

 

モシン・ナガンの言葉にその通りだと言わんばかりに指を指して反応するスオミ。祖国に関すること以外では比較的大人しい彼女が、こんなに激しいリアクションを取るのだと知る者はどれだけいることだろう。……結構居そうである。

 

「私、頑張ってアピールしてるんですよ!」

「ふむふむ」

「水着を買ってきて指揮官に見せてみたり」

「あれね。すごく愛らしかったわ」

「クリスマスの時もお洋服を見繕ってみたり」

「あの服、可愛かったわねぇ。指揮官も妖精みたいだって褒めてたわね」

「それで、私の祖国の音楽を紹介してみたり」

「あれはちょっとやりすぎね……」

「他にも……指揮官のお膝に座ってみたり」

「あなた、結構大胆なことしてたのね」

「指揮官のために歌を歌ってみてあげたり」

「うん。あなたの歌声凄く透き通ってるものね」

「他にも……お料理を作ってあげたりとか、指揮官のために一生懸命お仕事を頑張ったり……」

「昔から、頑張ってるものね」

「なのになのに……」

 

スオミは手に持っていたグラスを傾けて一気にまた中身を飲み干してーー

 

「どうして気づいてくれないのですか指揮官!!」

 

溜まりに溜まったその思いを一息に吐き出した。

 

「ひっぐ……うぅ……」

 

その一言が、彼女の我慢の決壊を促すものだったらしい。スオミはテーブルに顔を伏せて小さく肩を震わせて、静かに涙を流した。妖精の奏でるメロディーのような、可憐な声を震わせて。

 

「よしよし、あなたの頑張りは、私がよくわかってるから……」

 

机に伏して静かに涙を零すスオミの頭に手を置いて、モシン・ナガンは彼女を慰める。

 

何を隠そうモシン・ナガンが彼女へとアドバイスをした事が多々あるからだ。いつの日かは覚えてないが、今のようにバーにてスオミの相談に乗ったのがそのきっかけだ。

 

『私、指揮官が好きなのですけど、どうすればいいのでしょうか?』

 

と、ストレートに相談されたことは、記録階層の中にキチンと残っている。

 

モシン・ナガンは何故自分に?とも思ったが、スオミと彼女のとある関係上、ある意味で言えば深く親近感を覚える者同士であるので、他の誰よりも相談しやすかったのだろう。

 

そこから、モシン・ナガンはスオミに助言を与えた。一緒に出かけてみては?おめかしをしてみては?SOPやG41達のように甘えてみるのも良いかもしれない。

 

まるで、スオミの姉になったかのように親身に相談に乗ったのだ。

 

けれど、それら全ては身を結ばなかったようで、スオミは今はこうしてーー

 

撫でられているうちに落ち着いたのと、人間のように泣き疲れたのか、スオミは感情の処理が間に合わなくなって鼻から換気することで内部の冷却を始め、あらゆる処理を最小限に出来るスリープモードに移行。

 

「大好きです……指揮官……」

 

その言葉を何とか残して。モシン・ナガンはWAを呼び止めてお手拭きを受け取ると、彼女の顔を拭う。このままだと折角の可愛い顔が台無しであると、彼女のことを思いやりながら。

 

そして、スオミの顔を再び綺麗にしてやった後に、モシン・ナガンは背後を振り向く。

 

「で、わかったでしょ?この子には素直にぶつけないとダメだって」

 

独りごちたかのようなモシン・ナガン。けれど、それはたしかに誰かへの、『特定の人物』へと投げかけた言葉。その証拠に、彼女の背後の壁が歪み、ノイズが走り、剥がれ落ち、

 

「……みたいだな」

 

モシン・ナガンの意見を肯定するような低い男声が。

 

壁が剥がれ、否、壁に沿うようにして展開していた光学迷彩マントの電源を落として、その中から現れたのは、指揮官。スオミの意中の相手だ。

 

「まさか……あそこまで気づかれてないとは……」

「まぁ、その……この子、堅物で生真面目だから……。で、いい加減理解したでしょ」

「……まぁ、な」

 

肩を落として重く息を吐く指揮官と、指揮官に哀れみの目を向けつつ、スオミの上質な糸のように手触りのよい髪を撫でるモシン・ナガン。

 

指揮官はモシン・ナガンの指示を受けて、バーの中で待機していたのだ。彼女から手渡された高性能装備、光学迷彩を使って。

 

スオミから重要な言葉が出るだろうから、そこで待機して話を聞いていて欲しいと。盗み聞きするような真似は出来ないと、当初は断った指揮官であるが、スオミの本心を聞いて欲しいと言われーースオミを好いていた彼は断れなくなってしまい、モシン・ナガンの言葉を飲んで、潜伏してた訳だ。

 

それからの流れは、お察しの通り。スオミの悩みは想い人であった指揮官に全て聞かれ、指揮官はスオミの本心を知ることになった。

 

「……結構アピールしてたつもりだが」

「まぁその……心中お察しするわ……」

 

指揮官がスオミと違うのは、指揮官はスオミの想いに気づいてたという事。

 

だから、彼女のお願いに付き合ったり、彼女のためにヘヴィメタルの勉強をしたり、他の子よりも優先してプレゼントをあげたり、挙げ句の果てには彼女の誕生日と言える日には薔薇の花束を贈ったりと、他所から見れば猛烈にアタックしていたのだが、

 

『ありがとうございます!嬉しいです!』

 

スオミのその一言で全てが終わってしまい、指揮官は『本当にスオミは自分のことが好きなのだろうか?』と疑心暗鬼に駆られる結果となってしまったのだ。スオミからの好意を受け取るたびに、そう思うループに入ってしまい、スオミからのアピールが『そういうアピールでなく、妹が兄に戯れるようなものなのでは?』と考えるようになって、自信を失い、今のような面倒くさい事態に陥ることになったのだ。

 

スオミという戦術人形は真面目で誠実な良い性格をしてるのだが、いかんせん固すぎた。指揮官のアピールを普段のような褒め言葉や自分のことを気を遣って言ってるのかと捉えて、先程のような微笑みとお礼だけで終わる結果ばかりとなってしまったのである。

そんな二人の膠着状態を打開するために、モシン・ナガンはまだ考えを直させるのが楽な指揮官にスオミの本心を聞かせる事にしたのだ。

 

彼女の目論見は無事成功。指揮官は顎に手を置いて「なるほどなぁ……」と小さく頷いて納得しながら、スオミの性格を改めて再認識し、モシン・ナガンの言葉を噛み締めている様子。

 

モシン・ナガンはウォッカが注がれたグラスを傾けて口腔を冷却し、指揮官に視線を投げかける。

 

「やるべきこと、わかったでしょ?」

「あぁ、やってみせるよ。準備は整ってるから」

 

その言葉にモシン・ナガンは満足したように首を縦に振った。

 

「じゃ、頑張りなさいね。こういう堅物には素直に真っ直ぐが一番よ」

 

「ははっ、だな。……やってみせるさ」

 

指揮官はテーブルの上に伏して眠っているスオミを背負うと、

 

「ありがとう。これは私からの気持ちだ」

 

そう言って、二人が飲んだ金額より明らかに多い枚数の紙幣を置いて、バーから立ち去っていった。

 

「ふぅ〜。これでキューピットごっこもおしまい、になるのかしら」

 

どこか寂しそうに無色透明な液体が入ったグラスを揺らすモシン・ナガン。本当に亀の歩みの如き進展ではあったが、スオミから指揮官と何があったのかを聞くのは楽しみにしていたところはある。

 

指揮官とスオミが結ばれたら、彼女から二人の仲についての話を聞く機会が減ってしまうかもしれない。

 

でも、それで良いのだ。

 

モシン・ナガンにとってかけがえのない同志達が結ばれるのだから。

 

モシン・ナガンは指揮官が机に置いていった、紙幣に目をやる。この紙幣は、二人のことを祝うためのお酒を買う資金にすることを決めて。

 

明日、二人の関係がどうなるかはモシン・ナガンには正確に予想がつかない。彼女には未来のことを予測するモジュールは無いから。

 

でも、指揮官が言った準備が整っているという言葉を信じれば、擬似的に未来予測をすることは可能だ。

 

「んふふ〜♪仲良くやりなさいよ〜♪」

 

モシン・ナガンは透明なグラスに指揮官とスオミが寄り添っている姿を投影しながら、二人が迎え入れるだろう良き未来を思って頬を緩ませたのであった。

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