私は大変に臆病なので、   作:たぬき0401

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次で一区切りつけます。
あれです、筆者出産のためとかいうやつです。
急がないと執筆途中で出産とかになるから早くしようね、がんばれ私。


なんでもない日おめでとう

 私は大変に臆病なので、何かを祝われることが苦手だった。

 一度味わってしまうと次を期待してしまう。その次がくる保証はないのに、それを期待することなんてばかげている。期待して、楽しみに待って、それが叶わなかったときのことを考えたくない。

 だから最初から期待なんてしないで、何もないまま、変わらない日々を過ごしていたい。なんでもない日をこなすだけの人生でありたい。

 

 

 書類仕事は好きじゃない。戦前とは変わって媒体こそデジタル化されたが、結局文字を読んで処理をすることは変わらないので、目が疲れる。

「あー……」

 一度画面から目を離して椅子の背もたれに身体を預けた。首を傾けるとバキバキ音がする。聞くところによるとこの行動はあまり身体によくないらしいのだが、音がすると少し肩が軽くなった気がするから別にいいのだ。

「すごい音だね」

 副官を任せているVectorがこちらに視線もよこさず声をかけてくる。

「どうしても肩に力が入ってしまって」

「ものすごく低い確率で首の神経が傷つくらしいけど」

「それ気にすると朝起きてベッドから降りるときに右足から出るか左足から出るかにも躊躇することになりそうだ」

「ところで眼鏡なんて持ってたっけ」

「あぁこれ?」

 かけていた眼鏡を外してVectorに見せてやった。これをかけると視界がほんのり黄色がかる。

「パソコン用の眼鏡だよ。青色の光を軽減して目への負担を減らすんだ」

「へぇ。買ったの?」

「総務の人からもらたんだ。誕生日だからって」

「え? 誕生日?」

「うん。来週なんだけど、総務の人来週休みらしいからさ。早めにって」

 別に気を遣ってもらう必要なんてないのだ。まあもらってしまったものはありがたく使わせていただくが。

「ふぅん、指揮官誕生日あったんだ」

「そりゃあるよ。Vectorにも製造日あるでしょ?」

「あるけど。そうか、指揮官生まれてたんだ」

「なんだそりゃ」

 妙な物言いに思わず笑ってしまった。もしかしたら人形からすると誕生日があるというのは妙な感覚なのかもしれない。そもそも人形における誕生日とはどの日付になるんだろうか?

 彼女らには製造日に加えて開発終了日、起動日、出荷日等々我々の手元にやってくるまで様々な記念日を迎える。一般的な家庭向けの人形はオーナーの手元で起動された日を誕生日とされるようだけれど、戦術人形、特にVectorはどれをその日だと認識しているのか気になるところではある。

「Vectorの誕生日ってどの日に設定してる?」

「決めてないよ。意味ないし」

 だろうと思った。彼女らしい考え方だ。がっかり半分、安心半分。

 仮に決めていたとしても、多分教えてもらえなかっただろう。むしろ今こうして素直に言ってきたことに驚いてるくらいだ。

「まぁもし決めたら教えてよ。食事にでも行こう」

「だから意味ないって言ってるじゃん」

「わかってるけどさ」

 こうして口に出しておくくらいなら罰は当たらないはずだ。

 

 

---

 

 

*司令部カフェ

「ようボス。私がトップバッターで悪いな。こうやってメッセージ送るってのもなかなか珍しいけどまあ聞いてくれ。ボスのことは結構気に入ってるぜ。歴代のオーナーの中でもかなり上位だ。まあトップのやつはもう死んじまってるんだがな、その内ボスなら超えられるかもしれない。いつだったか正規軍に一泡吹かせたことがあったよな? あのときボスが出した指示、未だにメモリーから引っ張り出すくらいにしびれたぜ。『正規軍の皆さんに負傷者が出るような恥をかかせないように可及的速やかに我々の手で本戦場最大の脅威を排除しろ』なんて大人しい顔しながらよく言ったな。あの時は帰ってベッドでお相手してもいいと思ったぜ。おいおいVector怖い顔するなって、ジョークだジョーク。今後とも頼むぜボス。ハッピーバースデー」

 

 

「次が私ですか? 指揮官お誕生日おめでとうございます。大きくなりましたね、なんて私が言うのもおかしいですが。今までいろいろな戦場を経験されてずいぶん立派になられたと思いますわ。最初の頃とは顔つきが違いますし。ここに来たばかりの時は、こんな子供になんてことをと思いましたけれど、もうそんなことも感じません。勲章もいただける、一人前の指揮官になられました。私も、私にメモリーをくれた方もあなたの成長を喜んでいますよ。これからもまた厳しい作戦に直面すると思いますが、精いっぱいお手伝いいたしますね。今度いらしたらケーキを出してさしあげますから、楽しみにしていてくださいね」

 

 

「はいはい! 次あたしー! 指揮官お誕生日おめでとう。ここの基地に来てから毎日楽しいしみんな優しいし指揮官は特に優しいしいいことばっかりだよ。最初指揮官が拾ってくれたことは嬉しかったんだけど、それよりもっと嬉しかったのはS05地区の隔離施設が襲撃されたときに助けに来てくれたことなんだ。あのときまた見捨てられちゃうかなってちょっと思ったんだけど、M4が指揮官を信じるって言ってくれて、だから信じられて、指揮官もそれに応えてくれてすっごく嬉しかったなー。だからね、ありがとうってずーっと言いたかったんだ。今になっちゃったうえへへ遅くなってごめんね。この前パフェ作ったの楽しかったからまたやろうね! 約束だよー」

 

 

「私がここだと最後なわけね? Vectorはいいの? あぁ、そう。そうね、スプリングフィールドが言う通りあんた顔つき変わったわ。決心ができたっていうかなんて言うか、前はもっとぼんやりした顔してたし頼りなかったから。本当は指揮官に向いてないって思うのよ? 軍人でもないし身体も弱いしすぐ怪我するし身内に甘いし気も弱いし。むしろ向いてる要素を探すほうが大変なくらいよ。でもあんたがここで築き上げた功績だけは評価するわ。それは本物だもの。部下から好かれるっていうのは大事な要素なんじゃない? 私? 私は別に好きでも嫌いでもないわよ。ちょっとスコーピオンなんで笑うの。トンプソンもやめなさいよ! まったく……あんた本当に愛されてるわね。とにかく、その、誕生日おめでとう。私をこの基地に受け入れてくれたことは感謝してるわ。ここでの生活は本部よりいいから」

 

 

*司令部AR小隊宿舎

「もうしゃべってもいいのですか? あ、撮影始まってるんですね。指揮官、RO635です。お誕生日おめでとうございます。日付はデータベースを参照して知っていたのですが、こういう形でお祝いできること嬉しく思っています。指揮官には大変よくしていただいて感謝の言葉もありません。私のためにペルシカさんとも定期的にやり取りをしてくださってありがとうございます。それに、家族のように接してもらえていることが嬉しいです。多分、人間の家族における兄や姉は指揮官のような人なのでしょうね。もちろんM16も私にとっては姉のようなものですが、指揮官は格別に近しく感じます。そういえば以前お話ししていたスクラップブックですが、私の友人についてまとめていただけますか? 私にとって大切な存在を指揮官に知ってもらいたいのです。よろしくお願いします」

 

 

「お姉ちゃんは今日いないから私でここは最後かな? 指揮官ハッピーバースデー! いつも外から帰ってきたときにだっこしてくれてありがとう。あんまりわがまま言っちゃいけないってお姉ちゃんたちに言われてたけど指揮官はいいよって言ってくれてとっても嬉しかったよ。あと鉄血のパーツいつも見てくれてありがとう。あれ見せても喜んでくれるの工廠の人だけだから寂しかったんだ。指揮官が見て写真撮ってノートにまとめてくれてるのみんなに自慢したいくらい嬉しい! さっきすごくきれいな骨格拾ってきたから報告に行くとき見せるね。このメッセージ受け取る時にはもう見せちゃってるからここで言っても意味ないかな? また工廠に遊びにおいでよ。みんな指揮官が来てくれると喜ぶし、お菓子ももらえると思うよ。それじゃ指揮官またねー」

 

 

*司令部通信室

「こんにちは指揮官様、お誕生日おめでとうございます。もう、教えてくださればいいのに。水臭いですよ。まあでも指揮官様照れ屋ですからね、内緒にしておきたかったんですよね。どうせVectorさんにも話してなかったんでしょう? ほらやっぱり。そういうのはだめですよって私が言っても聞きませんもんね、叱られて覚えてください。私たちだってお祝いしたいんですから。えーっと、そうですね、お誕生日おめでとうございます。指揮官様との付き合いは短いですが密度がすごいですよね。一緒にお仕事したり、お話したり、秘密の片棒担がせていただいたりもしました。ここでお友達ができるなんて思ってもいなかったので、すごく幸せですよ。これからも後方支援頑張りますから、末永くよろしくお願いしますね。もちろん、お買い物はいつでも歓迎ですわ。今月はお誕生月価格にいたしますのでたくさん買っていってください。もちろん誓約用の指輪だって、やだなぁVectorさん冗談ですよあはは」

 

 

「やぁ指揮官君。今日は女子会なんだんよ、ほら例の君の話ばかりする君が嫌がるアレ。まあ君の誕生日は知っていたんだけど、どうせ君は祝われるの嫌がるだろうからこっそり贈り物をしようと思ってもう送ってあるんだ。いやがらせじゃないよ、君だって人間なんだから祝われることには慣れないと。まあ君の苦虫を噛み潰したような顔も見たいのだけどね。誕生日おめでとう。君の誕生は祝福されるべきだよ。なかなか面白い人間だし、仕事にも慣れてきて頼りにできる。稀有な存在だって保証してあげる。君にはうちの子達のことでいろいろ苦労かけてるけど、これからも苦労してもらうことになると思う。それは申し訳ないことだけど、君なら乗り越えられるし私だって君の上司だって君のために尽力してくれるさ。君はそれだけ大切な存在だから、もっと祝われることに慣れて、そろそろ名誉欲にも目覚めたらどうだい? 今後も期待してるよ」

 

 

「む、私か、そうか……こほん、指揮官、誕生日おめでとう。貴官の昨今の活躍は目を見張るものがある。勲章を与えられたこと、上司として大変鼻が高い。それでその、そうだな、貴官の成長にも感謝している。よくぞここまでの困難を乗り越えてくれた。クルーガーさんも貴官を評価している。誇りに思ってくれ。む、硬いか? んんん困ったな……なに? そういうとこが合コンの負け犬たる所以? カリーナ! 余計なことを言うんじゃない! しかしそうだな、これは指揮官に対する祝いの言葉だったな……うーん、貴官は私を怖かったり接しにくかったり思っているか? 貴官はたまに我慢強すぎるところがあるから気にしている。貴官がなんでも自分でやってみようとすることは尊いことだ。だがもっと私を頼ってくれて構わないから貴官の苦労を私にも分けてくれ。それも上司の仕事、また私が貴官のためにしてやれることだ。これからもよろしく頼むぞ。ではまたな」

 

 

*不明

「はろはろ指揮官、聞こえてる? あ、大丈夫そう。45姉いいよ」

「そう? ありがと、9。お久しぶり指揮官。なんか誕生日のお祝いメッセージとってるらしいって聞いたからちょっと小細工させてもらったよ。私達みたいのに祝われて嬉しい? それとも鬱陶しい? まああなたなら手放しに喜ぶんでしょうね。脳天気でいいことで。どうして死に向かってるのに祝うんだろうね? 指揮官もう成長を喜ばれる年でもないでしょうに」

「45、これはお祝いなんだから。憎まれ口だけ入れるつもり?」

「そんなんじゃないよ。416は真面目だね、そんなにあの指揮官が気に入った? まあ416だけじゃないよ、9もG11も指揮官のことは気に入ってる。よかったね、点数高いよ。私? 私はもちろん指揮官のこと大好きよ? 人形は人間のよきパートナーだからねーしきかーん? こんな言い方するとあなたは嫌そうな顔するんでしょうね。聞いたよ、この前くっだらない理由で肋骨折ったんだってね。その前はぼんやりしてて肺に穴あけたんだっけ? あんまり不用意に怪我して私に鼻の骨を折られないように気をつけることね」

「45は素直に心配って言えばいいのに」

「G11、余計なこと言うと補給減らすわよ。まあ私はそんな物騒なことしないけど、あなたが味方な限りは。とりあえず、そうね、今後何かの作戦で困るようなことがあったら手助けしてあげてもいいからそのときはまた一緒にお仕事しましょうね、優秀な指揮官サマ。ハッピーバースデー」

 

 

*どこか

「テステス、入ってるかこれ? や、指揮官。ごめんなこんなことになっちゃって。ROは困ってないか? SOPⅡは泣いてないか? 今となっては確認できないな……聞きたくないだろうけど、どうしてもM4を助けたくて。多分帰れそうにない。指揮官はどんな顔するかな、困る? それとも泣く? どっちにしろそんな顔させたくなかった。指揮官が私達を、M4を諦めなかったこと、それからAR-15が生きてると信じてくれてること、いつだって帰りを待っててくれてること、全部嬉しかった。あそこは私の帰る場所だって本当に思ってた。帰りたいよ、でも帰れない。私のことは諦めてくれ、本当にすまない。ROとSOPⅡ、M4をよろしく。AR-15を見つけ出してみんなでS09地区に凱旋してほしい。最後に、誕生日おめでとう。私のキャビネットにラッピングされたとっておきがあるから、それがプレゼントだ。今までありがとう。来年も祝いたかったよ。さようなら」

 

 

---

 

 

 キャビネットから発掘されたのは案の定ジャック・ダニエルだった。彼女らしい。

「ごめん指揮官、あたし、こんなつもりじゃ」

 指揮官はいつかのように血色が悪く、また眠れなくなっている。あたしがいるから辛うじて眠っているようなものだけど、眠りは浅くすぐに目覚めてしまうようだ。

「んーん、大丈夫だよ。サプライズでこんなの作ってくれてすごく嬉しい。何よりVectorが他のみんなとコミュニケーションを取ろうとしてくれたことが一番嬉しい」

「大げさ」

「そうかな? まあでも、なんか厄介な奴からのも入ってるけど。どこかで盗聴でもされてるのかな……」

 指揮官は小声で何やらぶつぶつ言っている。あたしも最後の二つはとってない。正確には、最後の一人に録画するようにとカメラを渡したのだけれど、そのカメラは戻ってこなかった。

 指揮官が死に物狂いで探して入手したドローンに目的の物と渡していたメモリーカードがくっつけられていただけで、他は何もなかった。

「戦場では何も見つからなかった」

「そうか……じゃあ生きてるよ。何も見つからないなら生きてる」

「諦めないの?」

「まさか、そんなこと無理だ」

 ははは、と笑う指揮官はいつもより覇気がなくて、ここ数日の心労がうかがえる。本当に、馬鹿な人。かわいそうな人。優しい人。

「楽になればいいのに」

「いや、文句言ってやらないといけなくてさ」

「何を?」

 指揮官はラッピングを外したジャック・ダニエルをあたしに見せた。

「多分、私が生まれた年に作られたのをよこすつもりだったんだろうけど、これそれより一年前なんだ」

「あ」

「間違えてるって、文句言ってやらないと」

 そう言ってまたジャック・ダニエルをキャビネットに戻した。これを片付けるつもりなはいみたい。

「そんなに簡単に諦めてもらえるなんて思わないでほしいな」

「うん。指揮官頑固だからね」

「意志が固いって言ってよ」

 そうやって指揮官はへらっと笑って見せてきた。目の下の隈が少し頼りない。

 M16が帰ってこなかった、ただそれだけの話。

「ねえ指揮官」

「ん?」

「誕生日おめでとう」

「ありがとう」

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