指揮官の日常   作:けんろん

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指揮官の日常 その2

05:40

 

身体を揺さぶられ起床。

どうやらUMP9が起こしてくれたようだ。

おはよう指揮官♪と、水を入れたコップを差し出された。

ありがたい。

二日酔いの身体に染み渡る。

 

…待て、なぜ彼女がここに?

 

 

06:05

 

今朝のランニングは56-1式がお伴してくれた。

なんでも運動後の方が、美味しく食事できるのだと。

昨日深酒したことを知っていたらしく、軽めのジョギングと柔軟体操を組んでくれた。

柔軟時は無意識なのか遠慮なく体を密着させてくる。

素数の勉強が役立った。

 

 

06:40

 

シャワーを浴びに一度私室へ。

見慣れたツインテの姿はすでになく、いた痕跡も残していないあたり彼女の潜入能力の高さが伺える。

本当に9はいたのだろうか。

 

ちょっと怖くなってきた。

 

 

07:00

 

朝食をとりに食堂へ。

いつものオムレツモーニングセットを頼むと、今日の副官であるHK416が席を確保していた。

食べずに待っていてくれたようだ。

 

 

07:30

 

朝食を済ませ、軽い見廻りを始める。

基地は警備体制が万全なため本来見回りなど必要ないのだが、人形達の様子を見て回るのは指揮官として重要なことなのだ。

もしかしたら叩き起こされるも睡魔に負け廊下で二度寝をしているG11がいるかもしれない。

 

 

07:39

 

…勘弁してくれ。

 

 

08:00

 

寝坊助をUMP45に預けた416が司令室に戻り、本日の業務を開始する。

なんだかんだ言って見捨てないあたり、面倒見がいいのだろう。

指揮官は何もしなくていいのよ、と全ての書類を持っていこうとするのは面倒見がいいというレベルを超えている気はするが。

 

 

09:00

 

M1895が後方支援の報告に来た。

流石は年長者。

成果は大成功と言えるだろう。

ついちびっ子達にやるように頭を撫でると、子ども扱いするなと怒る素振りを見せる。

すかさず手を振り払わないあたり、まんざらでもないらしい。

 

 

10:00

 

416の優秀さは流石と言うべきか。

山のようにあった書類を、指揮官が確認すべきもの、サインすべきもの、サイン不要なものと分けて持ってきてくれる。

これはよりサインマシーンとしての性能がレベルアップしそうだ。

ただ、たまにサイン不要類の中に『副官希望申請書』や『新規人形受け入れ承諾書』などが混ざっていることもあるので、念のため全て目を通すようにはしている。

 

余談だが、416は可愛らしい猫がプリントされたペンを使っている。

かわいい。

 

…反応が見たくてわざと声に出したが、ピクリと反応しただけで仕事に戻ってしまった。

耳が真っ赤になっているところが見れただけでも、戦果は上々である。

 

 

12:00

 

昼食をとりに食堂へ向かうと、しきかーん♪と猫撫で声で45が近寄りナチュラルに腕を組んできた。

懐いてくれるのは嬉しいが、416に見せつけるようにわざとするのはやめていただきたい。

視線が痛い。

 

お返しとばかりに416にあーんしてもらったのは役得と言わざるを得ないが、おかげで45が頼んだ激辛麻婆も一口食べるハメになった。

こんなにも辛いものを食すなど、きっとストレスを溜め込んでいるに違いない。

もう少し休暇を増やしてやろう。

 

 

14:00

 

おかしくなった味覚が元に戻り始めた頃、ようやく書類仕事に終わりが見えてきた。

 

FNCに後方支援を要請する代わりにロリポップキャンディが3つほど消えたが、持ち帰ってくれる資源に比べれば安いものだ。

 

 

15:00

 

一通り業務を終え自由にしていい旨を伝えると、416は訓練へと向かった。

完璧主義なだけあって、訓練と整備は欠かせないらしい。

本当に頭が下がる。

 

入れ替わりでやってきたカリーナに通信連絡を任せ、司令室を出る。

 

 

15:30

 

指揮官は見た。

WA2000が野良猫におやつを与えているところを。

自称殺しのためだけに作られた戦術人形は、ツンケンした普段からは想像もつかないほど素直な笑顔で猫とじゃれあっていた。

本来ならば許可なく生物等を飼うことは許されず、それは餌付けも含まれる。

が、いいものが見れたのでよしとしよう。

 

本格的にペットを飼うことを検討しなければ。

 

 

16:00

 

中庭のベンチにG11が寝ていた。

風邪をひくぞと声をかけようとして、思いとどまる。

そういえば人形は風邪などひくのだろうか。

少し考えた挙句、416にまたどやされるという理由で起こすことにした。

 

…起きない。

その上なぜか隣に座り一緒に寝る体勢となってしまったが、まぁたまにはいいだろう。

 

これで同罪…とのつぶやきが聞こえる頃には睡魔に逆らえなくなっていた。

 

 

16:50

 

訓練を終えた416にこっぴどく叱られた。

G11は共に訓練する予定だったらしい。

指揮官ともあろう者が風邪でも引かれては困る、との理由で同じくお叱りを受けたが、上官の理不尽な暴言よりは性根優しいお叱りに心が和んだ。

 

 

17:00

 

416に引きずられていったG11を見送り、バッテリーの確認に宿舎へ向かう。

 

関係ないが、たまに私室のシャツや下着類が勝手に新品に交換されているのはなぜなのだろう。

カリーナが気を利かせて新調してくれているのだろうか。

だが守銭奴、もとい節約家の彼女がまだ十分使える消耗品を勝手に新調するだろうか。

今度聞いてみよう。

 

 

18:00

 

今夜は自分以外とは食事をするな、と脅迫めいた勢いで言われたため他の誘いを断り食堂で待っていると、416が食事を運んできた。

夕食を作ってくれたらしい。

メニューはカレー。

彼女は料理もほとんど完璧だった。

ほどよい辛味にコクのある旨味が合わさり食が進む。

 

416がおかわりを注ぎに行った時に、精力剤と銘打った空のビンがちらりと見えた。

かすかに感じた妙な味はもしかしたらあれを入れたからかもしれない。

そんなに疲れているように見えたのか。

416の配慮は嬉しいが、トップが疲れを見せるなど士気に関わる。

気を付けなければ。

 

 

19:00

 

私室に戻るとシャワー室に

“故障中につき使用禁止”との注意書きが。

どういうことだ。

今朝までは普通に使えたはず。

カリーナが何か知っているだろうか、と踵を返した瞬間いつの間にか隣にいたG36に

水道関連の故障だそうですので、恐れ入りますが大浴場の方へ。

と食い気味に言われてしまった。

いつからいたのか、なぜ急に壊れたのか、気配を消して隣に立つのはやめてほしいここは戦場じゃないんだぞ、

などと言いたいことはいろいろあったが、人は本当に驚くと声が出ないものだ。

 

 

19:10

 

大浴場の入り口、男と書かれた扉には

“男性のみ!人形立ち入り禁止!!”と書いてある張り紙を

 

…していたはずなのだが。

見るも無残に破り捨てられている。

いったい何が気に入らないのか。

男性用スペースを独り占めしていることか。

 

とりあえずタオルだけはつけてくれ。

 

 

19:30

 

『タオルを巻いたまま湯船に浸かるのはマナー違反』と、誰も言うことを聞いてくれない。

戦場ではあんなに忠実に従ってくれるのに、と思ったが先刻自分で言いかけたことを思い出した。

ここは戦場ではないのだ。

銭湯マナー講座を開いたのは一〇〇式らしい。

ぜひ男性風呂に入り込むこともマナー違反だと教えていただきたい。

 

ただ、Vectorが澄ました顔でタオルを頭に乗っけていた場面を見られたことは、一〇〇式の数多くの功績の一つとして数えられるだろう。

 

 

21:00

 

風呂から上がり、司令室で報告書をまとめていると、FALとFive-sevenが訪ねてきた。

バーに行くので1杯付き合ってほしいとのこと。

毎晩飲むのもどうかと思い断ろうとしたが、彼女ら2人からの誘いは珍しいため、少しだけ付き合うことにした。

まぁあの呑んだくれコンビがいないのなら大丈夫だろう。

 

 

22:00

 

結論から言えば、かなり飲んだ。

いや呑まされたと言うべきか。

FALと57は本当に軽く1、2杯嗜む程度だったが、2人して隣席から間合いを詰めひたすらにじっとこちらを見つめるのだ。

まるでその目先のものを肴に酒を楽しむように。

会話をしようにも向こうにその気がないのか、すぐに途切れてしまう。

おかげで間が持たず、何杯飲んだかよく覚えていない。

顔が熱いのはきっと酒のせいだ。

 

 

23:00

 

416が迎えにやってきた。

FALと57は満足したのか、お代を払い帰っていった。

そういえば報告書がまだ終わっていない。

その件でまた叱られるかと思ったが、彼女はただ迎えにきただけらしい。

たしかに今日の副官である416には念のため、バーに行くことは伝えていた。

心配して来てくれたようだ。

 

 

23:30

 

仕事が少し残っているが、酔った頭ではろくな作業にならないと判断し、ベッドに入る。

今日もいろいろあったが、皆が穏やかに過ごせるならばそれに越したことはない。

 

戦場に身を投じる彼女らは、想像もつかないほど過酷な思いをしているだろう。

ならばそれを強いている者として、

彼女らが少しでも心穏やかに楽しく笑って過ごしてくれるように、

戦場を日常とする彼女らが、そんな日々をも日常として受け入れてくれるように、

どんな苦労でも惜しまずやっていこう。

そう再確認するように一日を振り返りながら、明日への眠りにつく。

 

 

だから私室まで付き添ってくれた416がそのままベッドにまで入り込んできたことも、きっと些細な問題に過ぎないのだ。

 

 

彼女らにとって優しい日常が、少しでも長く続くことを祈るばかりである。

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