+途中だれかと喋っているような描写がありますが、自分会議です。多重人格とかではないです。脳内悪魔と脳内天使が言い争っているような、そういうやつです。
10日後
朝起きて、お腹が「ぐ~ぎゅるるる」と鳴った。
お腹空いた。喉もカラカラだ。
寝起きだし顔を洗うついでにシャワーでも浴びるとするか。
顔と頭の泡を洗い流して、タオルで拭いて目を開けて自分の裸を見る。
正確には自分の物ではなく、1日目に人生を奪った「田中耕一」氏の体なわけだが。
毎日何気なく見ていたから気づかなかったが明らかに変わっている。20代後半とは思えないほど、ひょろひょろがりがりだったのが、今はしっかり筋肉がついているような健康体に戻っている。
鏡がないからわからないけど、顔のしわも少なくなってるし、薄くなっていた頭髪も蘇っているような…。
食事は栄養バランスなんてくそくらえと言わんばかりの茶色主体の若者飯だったし、食事によって健康を取り戻したというわけではないはず。
メモリかな…? ドーパントに変身したことで、文字通りドーピングを受けているのかもしれないな。
副作用が怖いんですけど?!
井坂先生はああいってたけど、純正化していないメモリを使い続けたらああなるんだよ?!
僕はドライバー使ってるから大丈夫と思ってたけど、メモリの影響と思しき者がこうして現れた以上、楽観していられない。そういえば、今日までの日々の行動を振り返って見れば、僕は………おかしくないか?
シャワーの温度を下げ、冷水を頭から浴びる。
なんで人喰いを当たり前のように受け入れてるんだ? なんで罪もない一般人を面白半分で殺しているんだ? なんで生命を弄ぶような真似をして、良心が欠片も傷んでいないんだ?
僕のモラルはどこに行ったんだ。ここに来るまでに持っていたはずの良識を僕はどこに置いて来てしまったんだ?
僕は…善性の人間だったはずだ。
嘘をつくことは稀にあったけど、思い当たる罪といったらそれくらいで、悪い事なんてしたことなくて、普通に、道を踏み外すことなく生きてきたはずだ。
メモリのせいでおかしくなったというのは事実だろうけど、そんな言い訳じゃ耐えられない。殺人犯が何を悲劇のヒロインぶっているのだろうか、このゲス野郎。今だって自分に酔ってるだけなんだろう? 自分の罪を後悔する僕かっこいいとか思ってるんだろう? このくそ野郎が、死んでしまえ。クソが。
じゃあどうしろって言うんだよ。
うっせーばーか! 後悔とかするんじゃねーよ! お前もうどう取り繕ってもクズ野郎なんだからクズはクズらしく悪を成して、その果てにヒーローに倒されろや! そんでもってみじめったらしく命乞いして無様な最期を遂げろ! それが最悪の最良だボケ!
……………。
……………。
何をすればいい。
いや、何を目的に据えればいい。
力を振るいたいというのは目的じゃない、欲望だ。誰かに見てもらいたいし恐れられたい、「すごい! 」といってもらいたし、怪人に変わってびっくりさせてみたい。みんなに僕のことを知ってもらって、恐れられ、興味を持たれ、憧れられる、そんな存在になってみたい。
仲間が欲しい。一緒に暴れる相棒が欲しい。僕の力のことを暴露して、受け入れてくれる誰かが欲しい。
ここまで全部欲望でしかないけどね。
目的に据えるのはまず、生きることだ。
生きること。
この世界には命の危険が転がっている。人外連中に捕まったら命はない。そう考えるのが賢明だ。何度も何度も頭に刻み込んでいるはずなのに、僕はそれを忘れて無謀な行動をとってしまう。
保健所に襲撃をかけたことがそうだ。あの時、スパイダー・ドーパントになって移動することは無謀な行動でしかなかった。
もし、移動中に気配を察知されて、攻撃されて捕まっていたらアウトだった。僕が今ここにいられるのは、運がよかっただけだ。
生きるためには?
“力”について知らなければならない。僕の力、というか体質……『生きたガイアメモリ製造機』である僕の体は、力は感知されるものなのか。
それを知る必要がある。
感知されるものであったなら、引きこもる必要がある。誰にも、人外にも見つからない場所に。
兵藤一誠のように、勝手に危険因子とみなされ、殺される可能性がある。
………………………。
もういいだろう。
いい加減寒くなってきた。震えてきた。
こんなのは茶番だろう?
結局自分の行動を正当化するための善いわけだろう? みっともない。それでも主人公かよ。
違う僕は主人公じゃない。
そうかよ、でもそう思っていた方が頭のいいタイプに思えるから、慎重に悩んでいるふりをしているだけだろう?
違う。
違わない。兵藤一誠の家に行って、転生者がいなかった時点で僕は自分を主人公だと自惚れたんだ。そして、自分は主人公だから何でもやれると調子に乗った。どんなことをしてもどんな悪を為しても世界が自分を許してくれると考えたんだ。
違う。そんなことは考えてない。
違わない。僕は僕が主人公だと思ってる。浮かれてる。馬鹿にしてる。この世界に生きる人間は全員自分の玩具だと考えてる。軽んじている、だからそんな平気な風でいられる。
……………。
自分が願うことはなんでも叶うと思ってる。自分は死なないし負けない。主人公である自分は間違わないし捕まらないし、苦しまないと思ってる。
うん。
でも違うだろ? 僕が主人公であるはずないだろ?
なんで、
人殺しで、人喰いで、そんなタブーを犯した人間が主人公で、人気が出るわけないだろう。
そういう主人公もたくさんいるだろ。
たくさんいる。たくさんいるな。でもその主人公たちほどの魅力が僕にあると思うか?
ない。
ないだろ。あるはずがない。主人公だっていうなら、主人公力の前に人間力で劣ってるよ、僕は。
僕は主人公がもっているであろう強さも、男気も、情熱も、愛も、爽やかさも、冷静さも、勇気も、機転も、優しさも、頼りがいも、賢明さも、才能もない。
努力家でも、仲間思いでも、ひょうきんでも、型破りでも、熱血でも、ダンディでもない。
うん。僕には身の丈に合わない力と馬鹿みたいな欲望しかない。
そうだ。メタ的に考えて、こんな主人公らしくなく、裏主人公らしくもないこんな奴を物語の主軸に据えるはずがない。
人気が出ないから。主人公のはずがない。じゃあ僕は結局何?
考えたくない。主人公以外の何かだろ。でも、それが何なのかは考えたくない。
僕はどうすればいい。
僕が望むまま、自由にやれ。主人公だとかそうじゃないとか、そんな考えは忘れてしまえ。ここに来る前はそんなこと考えてなかっただろ?
じゃあ今まで考えてたのは何だったんだよ。
茶番以外のなんでもないだろ。時間つぶし暇つぶしだよ。シャワー浴びるときは無駄なこと考えるだろ。
体を拭いて、シャツパン姿でアイスをかじる。
ぐだぐだ考えても無駄だということが分かった。目的だのなんだの、主人公だのなんだの、馬鹿なのに考えるからいけないんだ。
考えたところで、明日隕石が降ってきて死ぬかもしれないし、唐突に正体と力がばれて殺されるかもしれないし、もうどうでもいい。関係ない。
したいことをすればいい。
今自分がしたいことに全力で取り組んで、「今日は良い日だった。明日も楽しい一日でありますように」と眠ることができたらそれでいい。
――「今が楽しけりゃ、それでいいじゃん!」
だ。
今までそうやって生きてきたんだから、世界が変わろうと、力を得ようと、生き方はそう簡単に変えられるもんじゃないよな。
当面の目標は“裏駒王”を作ること。ガイアメモリの実験に使うとか、いざという時の避難場所とか、後付けの理由はたくさんあるけど、作りたいから作る。完成させたいから作る、ってのが一番の理由なんだよな。ちいせぇなー。
ビースト・ドーパント登場回で、尾藤さんが言ってたな。
――『薄っぺらい男の人生は痛ぇ。今にデカいもん失うぞ』
だったか。翔太郎は薄っぺらい所もハーフボイルドな所もかっこいい男だったけど、僕はだめだな………。
薄っぺらくて、空っぽで、誇れるものも何もない。失うものも………今は
まっ! 頭空っぽの方が夢詰め込めるっていうし! 薄っぺらでもこれから分厚くなっていけばいい! 空っぽでも、穴をこれから埋めていけばいい!
誰かに誇れる自分になるために、誇れることを成し遂げていけばいい!
すべてはこれからだ!
「ロード」
【変身】
“裏駒王”へ。
ロード達のエサ場に向かう。
うむ。肉山がほぼほぼ消えておる。早いな。
これでは生産が追い付かぬ。四六時中“裏駒王”に張り付くわけにもいかないしな。
これだけ喰って、どれだけ街を広げたのか、成果を確認してくるとするか。
「
【変身】
バード・ドーパント。
飛ぶ。
街を空から見降ろす。
すげぇ。たった一日でここまで…。強化アダプターと休憩なし全力労働おそるべし。
ともあれ、このままではエサが足りなくなる。実際、燃料不足で死んでるロード・ドーパントも1人2人…。
…………………………。
よし、自動化しよう!
脳改造で絶対服従の部下を生産できるようになった以上、僕がやらなきゃいけない理由はないし。「仲間を頼れ」とは多くの作品で主人公が仲間から言われていることだ。僕は主人公じゃないけど、それに従うとしよう。
街の中央に塔を建て、最上階からオートメーションでエサや作業員*1を生産できるように。
まず、最上階。生産プラント。
ジーン・ドーパント(脳改造済み)とオールド・ドーパント(脳改造済み)を配置する。ジーンで遺伝子組み換え受精卵づくりをして、オールドでそれを成人まで大きくする。
一般作業員がそれを次の工程に運ぶ。
調整した脳改造に関する知識と経験、技術を持たせた作業員が運ばれてきた者に脳改造を施し、メモリー・ドーパント(脳改造済み作業員)が記憶転写をする。それで作業員一体完成。
がちゃこん がちゃこん と機械的には生産できないが、とりあえずまぁうまく動いて生まれてくれている。そして作業員を生み出すのとは別に、エサになる肉塊を生むレーンも作成。
下に運んで、生産塔の横に肉山として積み上げればよかろう。
生み出した作業員は、どうするかなー…とりあえず作ってみたものの仕事が……………。
よし! 花壇の世話でもしてもらおう! この街には色がなくてならん。彩が足りないのだ。僕の街が、そんな殺風景じゃ寂しくて、情けない。花があればそれもまぎれるだろう。
他に仕事……。ロードの元まで、エサをもっていく役割とか…? 食糧生産係(ジーン・オールド・メモリー)の予備とか、街のゴミ処理係とか。
あとは命令思いつくまで「待機」で。
にぎやかになってくるな、この街も。
僕だけの街、僕だけのための街。僕のためだけに働く人形たち。たのしいなぁたのしいなぁ。わくわくするなぁ。いつか誰かを招いたとき、「馬鹿な…! 駒王町の裏にこんな巨大な街を…?! 」とか驚いてくれるかなぁ。そういうこと想像するとわくわくしてたまらないなぁ。
今日もたくさん働いたね!
僕、お疲れ様!
自転車に乗って、しゃーっ!
たこ焼き買って、牛乳買って帰る!
帰宅!
即シャワー。(外の穢れを家の中に持ち込むのはNG)
いただきます!
………味が薄いな。マヨネーズとたこやきソース追加、追いマヨ&ソースビーム!
どびゅっ、びゅるるる。
ぶっかけ。
…………変な妄想しちゃった。うっかりうっかり。
改めていただきます! …ん~♪ マーベラス! ヤミー!
ごちそうさまでした。
歯を磨いて、テレビ見て、おやすみ~。………。
「今日は良い日だった。明日も楽しい一日でありますように」
おやすみなさい。
タイトル元ネタは本編43・44話「Oの連鎖/老人探偵・シュラウドの告白」。
子ども(老婆)そっちのけで喧嘩する母親が印象深かった。