恐怖だった。
これが痴漢に遭う被害者の気持ちか…と夢の出来事ながら恐ろしく思った。
4日目
最悪だ。最悪の目覚めだ。
おはようございます………。口の中に人肉の感触と味が、残っている気がする。うぉえっ…。
夢を見ていたようではあるけど、ノートを見ればわかる。僕、我を忘れちゃったのか。暴走しちゃったのか。しちゃったのね…。
いや、人殺しはもう特に何でもないけど、もしも見つかっていたら大変だったぞ、大騒ぎだ。まだ人外にこっちの攻撃が通じるか増え命な内に討伐対象にされるわけにはいかんぜ。
考えないとな…。暴走しない方法、あるいは暴走しても問題ない方法。
メモリの汚染は感じないし、僕は僕だと自覚できている。凶暴性も短慮さも、出てきた様子はない。ドライバーがフィルターとして働かなかったわけじゃないよな。単にメモリの仕様ということか…?
とりあえず何か口に入れよう。味が気持ち悪い。
…レンチンのハンバーグか。これでいいとしよう。いただきます。
ごちそうさまでした。
おいしかった。自分で作るよりもはるかに。
歯を磨き、朝シャンしてさて、うーん…どうするか…。“道”を作らないわけにはいかないしー…んー…。人喰いはリスクが高すぎるよな。人が消えれば失踪届とかが出る。警察が捜査を始めて、おかしな事件だと判明すれば、それはきっと人外どもに回される。はぐれ悪魔の件みたいに。
どこぞに出張して人喰いをしたり拉致したり…駄目だな。残留思念からここを探知とか、あるかもしれない。外国に行っても、その地域の神々が出てくる可能性も? うぼぁー………。
………………。
ひらめいた! あ、いや、唐突にひらめいた。
ジーンで動物を人間にすればいいんじゃないか!
と。無理? かもしれない。でもアイデアとしては、意外といけんじゃね? と思うのよ。可能か不可能かで言えば多分可能。
善は急げ、悪も急げ。今日の予定決まったな。
早速ネットで近郊の保健所を検索して…と。あ、どうせなら夜の方がいいか。なら、実験の方を先にやろう。
大丈夫、大丈夫。僕は大丈夫。『絶対大丈夫だよ』
ありがとうありがとう。本当にありがとう。勇気が湧いてきた。きっと大丈夫。
…。
ドライバーを巻く。
ロードメモリを起動する。
【変身】
道を作るんじゃない。昨日作った道に、繋げる。自然に、メモリが教えてくれるやり方をなぞって、開く。“裏駒王”への道を。
やってきました、異空間。“裏駒王”まだまだ小さいけど、これから拡張していって僕だけの街にすればいい。今は、昨日作った分を使って実験を行うとしよう。
では、スタート。
まずは『マグマ』。
【変身】
マグマ・ドーパント。
力がみなぎる…! 魂が燃える…! 俺のマグマが、ほとばしる!
マジで、これは! すげぇ!
拳を握ると溢れたマグマが噴き出し地面を溶かす。思いついて、手のひらを前に、突き出した手に力を込めて、放つ!
!
マグマ出た!!
溶岩的な!? ヤベぇ! テンション上がるッ!
溶岩に触れてみても、熱さを感じない。道は煙をあげてドロドロになっているというのに、僕の体は熱を微塵も感じていない。
すごいな、ドーパント。
そしてここでもう一本。氷河期の記憶を内包する『アイスエイジ』を挿すことで、どれほどのパワーを手にできるのか…。
気になるねぇ、気になるねぇ。
高熱と低温、プラスとマイナス。対極の属性の相乗効果、どうなるかな! わくわくするよ。
さながら「半冷半熱」轟焦凍。
あるいは進化怪獣ラゴラスエヴォ!
いや? マグマと
ともかく、冷凍攻撃とマグマ攻撃ができるロマンの塊みたいなドーパントになれるはず!
さあ、実験を始めようか!
………。
………え?
いや、え…? は?
メモリ…は? メモリが、溶けた………?
意識飛んでた。破壊の痕が凄いな。また僕暴走したのか。これも制御できるようにならなくっちゃあな…。
じゃなくて、……はあ。
変身を解いて探してみると、それっぽい機械部品の残骸があった。ほぼ融解していてこれはダメだと一目で分かる。
うっかりしてた。
これが、特典的なものなら、神様パワーで守られていて、壊れることなんてないだろうって、過信していた。
………ジョーカーやサイクロン、アクセルといったライダーサイドのメモリが壊れないから、僕もそうだと勝手に思ってた。ドーパントメモリとか大抵砕けてるじゃん。脆くはないけど普通のUSBメモリ程度には脆いよ! 当たり前じゃん! 溶岩に耐えられるわけないじゃん! 馬鹿かっ!
…こんなうっかりで、メモリを一本失うことになるなんて。
ああ、ちくしょう。
アイスエイジメモリ…ウェザーで代用できないこともないけど…あああああ! 僕の馬鹿野郎!
んん?
これ、え? アイスエイジメモリ…?
…………………。
……………………。え? え?…え?
やっぱり。
念じたら2本目3本目のアイスエイジメモリが出てきた。残そうと思えば残り、戻そうと思えば僕の体にズブズブ戻っていった。
出せるだけ出そうとしたら数えきれないくらい出てきた。これは…。
僕はこれが、僕に起こった諸々が神様転生とかなら、ガイアメモリが特典として与えられた超常のアイテムだと思っていた。
でも違った。たぶん。
多分だけど、僕は、物語の終盤に地球の巫女となった若菜姫みたく『生きたガイアメモリ製造機』になっている。………たぶん。
僕の力は「ガイアメモリをその身の内から生み出すこと」。
Living_Connector_Setting_Operation_Gunとガイアメモリ強化アダプターはいくつでも生み出せたけどドライバーは一個しか生み出せなかった。これは「使えるのはお前だけだからな」ということなのかも。
危険だ。もしもこの力…というか体質? が誰かに知られたら…。怖い、何とかしなくては。利用されないための力を、早く身につけないと…!
それはともかく、ドライバーオーン。
左手にマグマメモリ。右手にアイスエイジメモリ。
………。
【変身】
※※ 脳内音声 ※※
ボトルバーン!
ボトルキーン!
クローズマグマ!
グリスブリザード!
《Are you ready? 》
変身!
極熱筋肉! クローズマグマ!
激凍心火!グリスブリザード!
アーチャチャチャチャチャチャチャチャチャアチャー!!
ガキガキガキガキガッキーン!
※※ 脳内音声 ※※
…っ………っ!
あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛。
これは、すごい。光と闇が合わさり最強に見える。もとい、マグマと氷河が交わり最強に感じる。
力が溢れてたまらないのに、頭はスッと冷えて熱が広がっていかない。…これはすごい。
めだ箱のくじ姉の作った過負荷『
とりあえず、我を忘れたように暴れてみた。
すごいことになった。昨日の頑張りと尊い犠牲が水の泡だ。でも後悔はない。気持ち良かったから。楽しかったから。この、「力を振るってみたい欲求」に僕は勝てるだろうか…。
無理だ。
僕は、早く人に向けてこの力を振るいたいと思っている。思ってしまっている。
焼いて、溶かして、凍らせて、砕いてしまいたいと…そう思っている。
力の誘惑ってのは抗いがたい。でも、我慢だ。
被害を出せば、騒ぎを起こせば………駄目だ。落ち着け、落ち着け、郷秋敏。クールに、クールになれ。
そういえば今何時だ?
夜10時?! お昼食べてないよ!
部屋に戻る。リンゴを切って、食べる。電車…駄目だな。車…持ってない。
変身していくしかないか。
ドライバーを巻く。
インビジブル。と、
もう一本。
『
【変身】
変身完了、インビジブル=スパイダードーパント。
GPSで、調べておいた保健所の方角を確かめる。
あっちか。
指パッチンで透明に。
行ってきます。
鍵をかけ、糸を出す。
電柱に巻き付け…反動をつけて………っ!
タイトル元ネタは本編21・22話「還ってきたT/女には向かないメロディ・死なない男」です。