Triplets-トリップレッツ-   作:水狐舞楽

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❮登場人物紹介❯
名前は本名で記載。【 】はニックネーム。〖 〗は人間界の時の偽名。

○氷山(こおりやま)マイナーレ【マイ】〖小林麻里菜(こばやし まりな)〗・・・主人公。父が施した封印が解け、額の第三の目が開眼する。性格は、普段は謙虚でおとなしいが、いじめなどの悪いことは許せないので、自分から注意することがある。妖怪姿は金髪に空色の渦目。

○レン・・・マイの弟。施設で暮らしていた時に病気で死ぬ。

○パット・・・マイの妹。レンと同じく施設で暮らしていた時に病気で死ぬ。


⒉ 過去

「何か疲れたし、もう寝よう。」

 時刻は10時半で、麻里菜が寝なくてはいけない時刻を30分過ぎています。とりあえず、階段と洗面台の電気を消しました。

「ふぁぁ、眠い……。」

 麻里菜が目を擦ったその時。

 ガタッ

「!」

 麻里菜の右足に何か物がぶつかり、蹴飛ばしてしまいました。

 床に転がっていった音を聞くと、どうやら木でできた物のようです。それは廊下を転がり、麻里菜の部屋のドアにぶつかりました。

「何だろう……。」

 麻里菜はかがんで、木でできた物を拾ってみました。

 暗闇では見えないので、ドアを開け、電気をつけました。自分のベッドに座ると、木でできたものを膝の上に置きました。

「…木箱?」

 オルゴールの小箱くらいの大きさで、ふたがついている箱です。ふたには、細かい雪の結晶の彫刻がされていました。

 ふたを開けようとしましたが、開きません。思い切り力をいれても、びくともしません。

 麻里菜の親指に、くっきりと赤く跡がついたその時、箱がぼんやりと光り、とある声がしました。

『アナタハ、誰?』

「えっ、私?……って、箱がしゃべった!」

 麻里菜は思わず、箱を床に放り投げてしまいました。箱からの声は、耳に聞こえるものではなく、頭に響いてくる声でした。

『イテテテテ。』

「わっ、ごめんなさい。えっと…私の名前は小林麻里菜。」

 麻里菜は箱を拾ってから名乗ります。

『小林…麻里菜。トスルト、アナタハ、奇跡ノ子?』

「『奇跡の子』って?」

『額ニ第三ノ目ヲ持ツ、三ツ子ノコト。』

 麻里菜はその言葉にはっとしました。

「額に第三の目を持つ…そういえば。さっきの私、おでこに目があったよね?そのこと?」

『ダッタラ、コノ箱ノ封印ヲ解ケルカモシレナイ。』

「封印を解く?どうやって?」

『箱ノクボミニ、アナタノ第三ノ目ヲ押シツケテ。』

 箱のふたと本体の境目に、指で押しつぶしたようなくぼみがあります。麻里菜が箱を開けようとしたときに、親指をかけたところです。

「えっ、目を?……ここに?」

 麻里菜は戸惑います。

「第三の目を直接?」

『ソウ。封印ヲ解イテ、直接押シツケル。』

 麻里菜は氷のシートを外し、第三の目を開眼させました。再び空色の渦目に金髪の姿になった麻里菜は、左手で前髪を上げ、右手に箱を持って、言われたとおり、くぼみに目を押しつけました。

 一瞬、第三の目辺りで冷気を感じました。

 カチャ

「開…いた?」

 麻里菜はふたに手をかけます。すると、ふたが勝手に開いて、中から部屋中を射るような光が飛び出しました。

「うわっ!」

『ヤット会エタ。』

 光を放っていたのは、箱の中の小さな巻物でした。光がおさまると、麻里菜は巻物を取り出します。

『本当ニ奇跡ノ子ガイタナンテ。ソレナラ、コノ巻物ヲ読ンデ。』

「うん……。」

 麻里菜は藍色の巻物のひもを解いて広げました。

「何これ。何て書いてあるか分からない。」

 文字を見る限り、時代劇に出て来そうな崩した文字で、どう見ても楷書ではありません。

『ソウダッタ。現代ノ言葉ニ直サナイト。』

 巻物が再び光りました。書いてある文字がそのまま光って、形を変えていきます。

 光が消えると、巻物には見慣れた「文字」がありました。

「これで読める!」

 巻物にはこのようなことが記されていました。

 

 これが書かれた後、奇跡は起こる。

 もののけの世と魔法使いの世はひとつになる。

 もののけの世の王と魔法使いの世の王は婚約し、その間に生まれた子供は三つ子。即ち奇跡の子である。

 長子の名はマイナーレ。

 人間の世に移り住み、妖の力によって

 再びもののけと魔法使いの世に戻り、天地を舞う。

 

 巻物はここで破られていました。

 麻里菜は巻物にあった名前を反芻しました。

「マイナーレ?マイ…ナーレ。」

 ふと、記憶の回路がつながりました。

「そうよ、私の名前は…マイナーレ!」

『アナタハ、氷山マイナーレ ダッタノネ。』

「氷山?」

『アナタノ父上様ノ苗字。』

「私は……、氷山マイナーレ。氷山マイナーレ!」

 マイナーレの額の目が熱くなりました。自分の真の名前を唱えて、妖力が完全に解放したのです。

 今度、マイナーレは箱のふたを裏返してみました。ふたにも墨で書かれた文章がつづってありますが、こちらも文字が読めません。

『デハ、コチラモ。』

 巻物は自ら発した光の一部を、ふたの裏側に飛ばしました。文字が光って読める字に変わると、このように書いてありました。

 

 もののけと魔法使いとの間に生まれた長子は

 失われた妖の力を解放し

 もののけと魔法使いの世を繋げ

 世の安定に努める

 

「何かを予言しているみたい。私のことなのかな。」

『アナタノコト。遥カ昔カラ、言イ伝エラレテイル。』

「そうなの?私を、いや、『奇跡の子』の誕生を予言した人がいたのね。『奇跡』かぁ。」

 マイナーレはため息交じりにつぶやきます。

「でも、どうしたら…?もののけと魔法使いの世を繋げるっていっても……。」

 すると、巻物はこんなことを言い出しました。

『ナラバ、記憶ヲ戻スシカナイネ。』

「記憶を戻す?」

 巻物はマイナーレの問いかけには答えずに言います。

『覚悟ハ イイネ?』

「ちょっ…、覚悟って……」

『アナタノ記憶ガ戻レバ、言葉ノ意味ガ分カル。デモ、アナタガ耐エラレルカ。』

「耐える?そんなひどい話?……でも、教えて。知らなきゃいけない気がする。」

 巻物は光をまとうと、マイナーレの頭に飛び込みました。

「うぅっ!」

 

 

「レンユイ、かわいい三つ子だよ。」

 私の傍らで、誰かが言った。おそらく、私の父だ。

 でも、返事はなかった。私は誰かの上に乗せられているのだが、『誰か』は冷たい。

「君の命と引き換えに生まれた三つ子。何てかわいいんだ。」

 何か、別れを惜しむようにも聞こえる。

「僕に託された使命、それは、この子たちの第三の目を封じること。もうすぐ、君に会いに行くから。」

 そう言うと、眩しい光を感じた。あの後、父の声を聞くことはなかった。

 

「また第三の目を持つ子が生まれただと!?今度は3人も!今すぐ人間界に送ってしまえ!」

「国王、それはやりすぎでは……?」

 怒り狂う国王を執事がなだめている。

「言い伝えを知らないのか!?『額に第三の目を持つ子が生まれたならば、世界は滅びる』と言われているのだ!私では責任を負えん!」

 国王は手を前に出すと、人間界への道を作った。

 私は、そんな国王の言葉を聞き逃さなかった。

「本意ではないが、すまない。」

 

 私たち3人は施設で暮らしている。3人だけの言葉である程度の会話はできる。

「レン、パット、お腹痛いの?」

 レンとパットがお腹をおさえたので、私は尋ねた。その時、私は施設の人に抱えられてしまった。

「こっちに来ちゃだめよ。お腹が痛いのうつるから。」

 レンとパットは隔離されていた。2人が熱を出してからのことだった。

 私の部屋はしっかり掃除されている。隔離されている2人の部屋は薄暗くて汚い。

 2人はろくに食べ物を口にしていないようで、げっそりと痩せ細っていた。

 私は決めた。

「あれ?まりなちゃん、食べないの?」

 私は2人の食べ物を確保するため、昼と夜ごはんの離乳食を一切食べなかった。

「あとで」

 こう言うと、施設の人は離乳食の器にラップをかけておいてくれる。

 そして、施設の人の昼食休憩や夕食休憩の時に、こっそり部屋から抜け出し、2人に、残した離乳食を食べさせる。

 時には「おかゆ」と言うと、施設の人が持ってきてくれたりする。もちろん、レンとパットにあげるためのものだ。

 しかし、その甲斐なく、レンとパットは日に日に顔色が悪くなる一方だった。

「姉ちゃん。どうして食べさせてくれるの?」

 レンが私に聞いてきた。

「だって、何も食べてないんでしょ?死んじゃうよ。」

 今度はパットが訴えてきた。

「お姉ちゃん、うぅ、気持ち悪いよ。出ちゃいそう。」

「大丈夫?」

 私はパットを部屋の隅に座らせ、背中をさすった。すぐに吐いてしまった。

 薄暗い中でもわかる。パットの苦しそうな顔が。泣く力さえない。

 ふと、レンを見るとレンが口をおさえている。どうやら、食べ物をも受け付けなくなってしまったようだ。

 私はレンに駆け寄り、レンにも背中をさすってあげる。レンもパットと同じ結果だった。

 

 その日の夜、夕食休憩の時にも2人を見に行った。

 2人は起き上がれなかった。

 レンがやっとのことで顔をこちらに向けた。

「姉ちゃん。いつもありがとう。」

 パットもこちらを向き、手をのばしてきた。

「お姉ちゃん。」

 私は2人の目から何かを悟った。2人の間に入ってしゃがみ、2人の手をとった。

「もう会えないかも。」

 パットの言葉に私の目には涙が浮かぶ。

「会えないって、……死んじゃうの?」

「かもね。」

 レンがつぶやく。

「そんな。早くここを出て、おいしいものいっぱい食べようよ…。」

 私の握っている手に力が入った。

「食べたかったね。でも、ムリかな。」

 私の涙腺が壊れた。止めどなく溢れてくる。

「元気でね。」

 パットが私の目をしっかり見た。

「ありがとう。」

 レンも私の目をしっかり見た。

 2人の目から光が消え、苦しそうに上下していた胸の動きが止まった。

「レン…パット…?」

 私は握っていた2人の手を置いた。涙を拭うと、2人の手を再び握った。

 その手はすでに冷たかった。

「うそ……レン、パット、目を開けて……。」

 私は声をあげて泣いた。私が握っていても2人の手は冷たく、硬くなっていく。

 泣き声に気づいた施設の人が部屋に来て私を引き離すと、施設の人は2人を見て慌ただしく部屋を出ていった。

 その人が別の人を連れてくると、別の人は「ふぅん。」と言った。

「後で片付けておく。さっさと供養を済ませとけ。」

 別の人は部屋を出た。

 命令された人は2人の顔に白い布を被せると、手を合わせた。私も真似をする。

 30秒くらい経つと、その人は手を合わせるのを止めた。そして、私を抱っこして、頭を撫でられた。

「まりなちゃん、分かってるんだ。そうだよね、そうだよね。」

「おきる?」

 私は2人を指さす。

 その人は首を横に振り、かすれ声で言った。

「れんとくんとみはるちゃんにバイバイ、しようね。」

 それが最後に見た2人の姿だった。

(ここの人は、具合が悪くなった人をほったらかしにする。だから、レンとパットは死んだんだ!マイもいつ、そうなるかわからない。ここを出たい。)

 私は悔しさの反面、自分も同じ立場になるかもしれないという恐怖心があった。

 その頃、里親希望の夫婦が施設を訪れた。小林さんと言うらしい。私は夫婦の前に出された。

「この子がまりなちゃんなのね。」

 この夫婦は2年前、待望の赤ちゃんを授かり出産したものの、生まれて1週間後、赤ちゃんの容体が急変し、亡くなったという。その赤ちゃんの名前は『麻里菜』だった。

「どうしてかしら。あの子と顔がよく似ているわ。まるであの子と双子のようね。」

「ほんとだ。麻里菜とそっくり。年も同じようだし。」

「そうね。この子の里親になりたい。」

 私はこの夫婦と一緒に暮らすことになった。

「名前は、麻里菜でいい?あの子と同じで。」

「ああ。俺もそう思ってた。」

 2人は顔を合わせてうなずいた。

「よろしくね、麻里菜ちゃん。」

 新しいお母さんが私の頭を撫でると、新しいお父さんは私を抱き上げ、たかいたかいをしてくれた。

 なぜだろう。私の名前は「マイナーレ」のはず。レンとパットにはあだ名の「マイ」とも呼ばれたこともあったが、どうして「まりな」になったのか。

 お母さんが聞く。

「あの…この子の『まりな』という名前って、この子の親がつけた名前なのですか?」

 施設の人は目線を上に上げた。

「えっと、確か、名前が分からなかったので、私たちがつけました。」

 そう言うと、渋い顔をする。

「実は、麻里菜ちゃんにはもう2人、きょうだいがいたんです。その2人から呼ばれていたのが『まりな』と聞こえただけです。」

 それ以上は語りたくないのか、「もう2人のその後」については言葉を慎んだ。

 

 そして、ここを去る日。

 私はお父さんに抱っこされて、久しぶりに施設の門を出た。

(もう、こんなお家とはお別れ。レンとパットの分まで生きてやる。)

 新しい家に着くと、私は布団の上に寝かされた。こんなきれいな家は初めて見た。

 最初からこんなところに住みたかった。

 そういうことにしてしまいたい。私のありったけの妖力で。

「麻里菜ちゃん、ちょっと待っててね。」

 お母さんが目を離した隙に、私は両手を握り、レンとパットとおしゃべりしたあの言葉でこう言った。

「思い出を、変えて。」

 

 私は全てを忘れた。

 私に関わった人の記憶も、書類も全て改造した。

 お父さんとお母さんの記憶の中には、『娘が生まれてすぐに亡くなった』ことは消えてなくなった。そうした方が都合がよかった。

 私は「小林家」の実の長女となったのだ。

 年相応ではなかった言動は、普通の人間と同じくらいの能力になり、もはや魔法使いの父と妖怪の母との子であることすら感じないほどだった。

 

 これで幸せになれるはず……。




次話は『3.再会』です。
記憶を取り戻したマイは、記憶の中にあった『レンとパット』に会いたいと思うが、すでに2人は死んでいて、会うのは難しいのですが……。
そんな中、奇跡が起こる!


ぜひ、評価と感想をお書きください!私へのアドバイスも書いていただけると嬉しいです。

マイナーレの過去を知った感想!

  • すごいなぁ。自分じゃできないな…。
  • ていうか、コイツの知能ヤバくね!?
  • 涙が……止まらない……。
  • こんな奴より自分の方が凄いぜ!
  • その他
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