名前は本名で記載。【 】はニックネーム。〖 〗は人間界の時の偽名。
○氷山(こおりやま)マイナーレ【マイ】〖小林麻里菜(こばやし まりな)〗・・・主人公。父が施した封印が解け、額の第三の目が開眼する。性格は、普段は謙虚でおとなしいが、いじめなどの悪いことは許せないので、自分から注意することがある。妖怪姿は金髪に空色の渦目。
○氷山レナード【レン】・・・マイの弟。施設で暮らしていた時に病気で死ぬが、転生して妖魔界で暮らしていた。(彼について、詳しくは『トリシアシリーズ』をお読みください。)妖怪姿は金髪に鶸(ひわ)色の渦目。
○氷山パトリシア【ミア、トリシア、パット】・・・マイの妹。レンと同じく施設で暮らしていた時に病気で死ぬが、転生して妖魔界で暮らしていた。(彼女について、詳しくは『トリシアシリーズ』をお読みください。)妖怪姿は金髪に薄紅色の渦目。
「はっ、これが……。私の消えていた記憶?…うっ…!」
マイナーレは顔を歪めました。ズキズキと頭痛がします。
『急ニ記憶ガ戻ッタカラ、脳ニ負担ガカカッテイルカモ知レナイ。』
巻物はそう告げると、マイナーレを心配するように淡く光ります。
「レンとパット。もう二度と会えないんだよね。でも、会いたいな。無理だと思うけど。」
2人の無残な姿が目に浮かびます。だから余計に会いたくなるのです。
マイナーレの頬に、一粒の涙が伝いました。
『泣イテル。ヤッパリ会イタインダネ。』
巻物が光ったり消えたりしています。
「見透かされた。バレたか。」
その時、
「姉ちゃん。」
ふいに男の子の声がしました。
「お姉ちゃん。」
次は女の子の声がしました。
「えっ?」
マイナーレは振り向きましたが、誰もいません。しかし、マイナーレには声の主が誰だかは分かっていました。
声変わりしたその男の子の声は、初めて聞く声のはずでした。でも、懐かしいと思うのです。あの時の名残が残る声は、レン、すなわちマイナーレの弟のレナードのものでした。
女の子の声も成長により、少しばかり低くなっていましたが、それでもなお、平均的な女の子の声よりは高いでしょう。あの時からほぼ変わっていません。その声は、パット、すなわちマイナーレの妹のパトリシアのものでした。
「もしかして……レンとパット?」
「そうだよ。」
2人は同時に言いました。
「い……生きてたの……?」
マイナーレは涙を浮かべて聞きました。
「ああ。正確に言えば、『生き返った』ということだな。『妖魔界』っていう世界に住んでるんだ。」
「そう。お互い違う世界にいるの。お姉ちゃんに会いたい。」
マイナーレも思わず「私も!」と答えましたが、すぐにうつむきました。
「でも……どうやって……。」
すると、巻物がまばゆい光を放ちました。光が巻物から離れ、ゆっくりとマイナーレの目の前に来ました。マイナーレは両手でその光を受けると、光は姿を変え始めました。
「わぁ……。」
どうやら、レナードとパトリシアには、マイナーレの姿が見えるようです。
「ペンダント?」
マイナーレは光から姿を変えたペンダントを持ちました。雪の結晶のペンダントで、中央には青いサファイアが埋め込まれています。ひもは革ひものようで、首にかけられるようになっています。
と、ペンダントのサファイアの部分が青く光り、ペンダントが話し始めました。その声は巻物と同じ声でした。
『妖魔界ト人間界トノ道ヲ開ケバ、2人ニ会エル。』
「えぇっ、レンとパットがいる世界と私がいる世界の間に道があるってことかな?その道を開くって、どうすれば……?」
マイナーレがつぶやくと、レナードの声がします。
「姉ちゃんならできる。そうだろ、パット?」
「うん。私もそう思う。私たちに流れている妖怪と魔法使いの血があればきっと。」
「妖怪と魔法使いの血……。」
その言葉を聞いて、胸がざわざわしたマイナーレは髪の毛を指に掛けます。ブロンドの髪が、ペンダントの光を受けて、薄く青色に光っています。
「ということは、さっきの力を使うの?」
あの時、手に舞いだした冷気。恐怖心がありつつも、それをうまいこと使って、第三の目の封印に成功したのです。
『ヤリ方ハ、アナタノ本能ガ教エテクレル。』
マイナーレはペンダントを握ると、雪の結晶の部分を胸に当てました。
目を閉じると、額の第三の目が、かあっと熱くなりました。
「分かったよ、サフィー。」
『サフィー?』
「あなたの新しい名前!」
マイナーレはそう言うと、サフィーを掲げます。
「我は奇跡の子なり。我の力を使い、道を開けたまえ。」
マイナーレは言って初めて、自ら発した言葉にはっとしました。
そうするのもつかの間、サフィーから吹雪が舞い上がり、頭上に黒々とした大きな穴が開きました。
「これが妖魔界と人間界を繋ぐ道か……。」
マイナーレは見上げて、困惑します。
穴の中はいかにも険しそうでした。
「道はできたけど、このままじゃあ……。命がいくつあってもそっちには行けなさそうだな。」
レナードの声がして、続いて「うーん」と考えているような声もしました。
マイナーレは再びペンダントを胸に当てて、目を閉じます。
マイナーレが目を開けた時には、サフィーはすでに穴の中に投げ込まれていました。
青い光の尾を引きながら飛んでいくサフィーは、それが通った所から、穴の中を明るくなだらかな道に変えました。
「レン、あの光は!」
パトリシアはレナードに聞きます。
そして、パトリシアがその光をつかみました。
「今、姉ちゃんが投げ込んだペンダントだ。」
レナードはパトリシアの手の中のものを見ます。
「ってことは…、行ける!」
2人は言ったと同時に、穴に吸い込まれました。
マイナーレは呆然と立ち尽くしています。自分にこんな力があったことに驚き、おののきました。
すると、マイナーレの後ろで声がしました。
「マイ姉ちゃん。」
「マイお姉ちゃん。」
マイナーレは後ろを振り返ると、そこにはあの2人が立っていました。
レナードとパトリシアです。2人ともマイナーレと似た姿をしています。
レナードは金髪のミディアムで、鶸色の渦目をもっています。
パトリシアは金髪のポニーテールで、薄紅色の渦目をしています。
そして2人とも、額に第三の目がありました。
「うそ……。」
マイナーレの視界が涙でぼやけます。
「レン……パット……。久しぶり。会いたかったよ……。」
マイナーレは感極まり、思わず、2人に抱きついてしまいました。
「お姉…ちゃん…。」
パトリシアも泣いていました。レナードは歯をくいしばって、泣くのをこらえています。
「生きててくれてよかった。」
マイナーレがそう言ってレナードの頭を撫でたとたん、レナードがこらえきれずに、とうとう涙を流しました。
「そんなこと言われたら、昔のことを思い出しちゃうじゃねえかよ。」
「そうだよ、もう。」
パトリシアも同じ意見のようです。
「ほら、お姉ちゃんのペンダント。」
3人は抱いていた腕を解くと、パトリシアはペンダントを渡しました。
マイナーレは涙を拭うと、サフィーを首にかけ、ローテーブルの前に座りました。
「じゃあ、2人とも座って。」
マイナーレは促すと、2人はマイナーレの両隣に座りました。円いローテーブルなので、あまり「隣」は関係ないのですが。
「あのさ、生き返ったってどういうこと?」
マイナーレはさっきから、そのことを知りたいと思っていました。
「冥界の王からもう一度、命をくれたの。それもとんだ偶然。ね、レン?」
「何で急に名前で呼ぶんだよ。まっ、別に今までもそうだったからいいけどさ。」
レナードはわざとらしく咳払いをすると、仕切り直しました。
「本当はお姉ちゃんが住んでいる人間界に、人間として生き返りたかったんだけど、両親が人間じゃなかったからできなかったんだ。それで両親が生前住んでいた、妖魔界に住むことになったんだけど、そこからが大変だった。」
「うん。本当に辛かった。」
レナードとパトリシアは思い出すのも苦しいようで、マイナーレはおろおろします。
「……えぇっと、レンは、ヴィントールの資産家・デル・ハイトの娘のダニアの子として生活していて、レンが生まれる前に、アムリオンの南街区に引っ越していてパットと仲がよかったんだけど、両親が貴族に賄賂を渡さなかっただけで牢屋に入れられ、生きて出てきたのはレンだけだった、だっけ?その後、パットと支えあって生活していたけど、戦争が始まると食べ物を求めて行ったところで貴族に捕まり、そこをアンリと言う人に助けられて、その人に魔法を教えてもらい、今はオニキス・ドラゴンのダシールと一緒に、竜騎士として奮闘中…って言いたかった?」
レナードは言葉をなくします。
「パットは、南街区生まれの平民として生活していて、近所のレンと幼なじみ。もともとは両親と妹がいたけど、馬車にひき逃げされて家族を失い、レンと共に生活していて、戦争が始まって食べ物を求めていたところをレンと一緒に貴族に捕まり、アンリと言う人に助けられて、レンと魔法を学び、アムリオン1の名医・ソリスの弟子となって医学を勉強し、魔法医になったんだよね。動物と心を交わす能力が目覚め、それを生かして、人間、動物、妖精など構わず診察し、たくさんの命を救ってきて、今や有名人……と言ったところかな。」
パトリシアは凍りつきました。
「どうして、そんな詳しいことまで。」
「そして。」
マイナーレは続けます。
「2人とダッシュは過去に行き、歴史を変えた。貴族による圧政もなくなり、レンとパットの家族も救えた。歴史を変えたことにより、レンは正式な騎士にになり、パットは魔法学校を卒業することからやり直しにはなったけど、歴史を変える前よりは断然に幸せな日々になった……って言ったらいいのかな?」
「さすがにそれの経験者でも、ここまですらすら言えない。」
レナードは額に手を当てます。
「あっ、それ、レンの癖だ。」
「げっ、それも知ってるのかよ。」
レナードは慌てて額から手を離します。
「癖と言ったらパットも……。」
レナードに横目で見られたパトリシアは、無言でレンの足を踏んづけます。
「間違いない。やっぱ『パット』だね。」
「えっ?」
パトリシアはマイナーレに聞きます。
「あのさ、それもパットの癖。レンやダッシュにからかわれると、無言で足を踏んづけるやつ。歴史が変わる前の幼いパットは頭っ突きだったけど。」
すると、2人はマイナーレに問いただすように詰めよります。
「怪しい。幼い頃まで詳しく知ってるの、歴史を変えてからは2人だけなんだけどな。」
マイナーレは落ち着いているような顔を作りました。
「やっぱりそうだったんだ。何かの縁かも。」
マイナーレはそっと部屋を出て1階に降りると、リビングに忍び込みます。妖怪姿なので足音1つ立てずに、ランドセルから本を取り出すことに成功しました。もともとランドセルのふたが開いていたことがよかったようです。その本は、「魔法医トリシアの冒険カルテ 竜の騎士と伝説の名医」です。
急ぎつつ慎重にリビングを出ると、部屋に戻りました。マイナーレは妖怪の力が凄まじいものだと、改めて思い知りました。
本のブックカバーを外して2人に見せます。
「これ、見てよ。」
「!」
レナードとパトリシアは口をあんぐり開けました。
「ちょっと待ってよ、これ、私じゃん!」
「隣にいるのは俺だ。」
2人は表紙を指差して、ついにマイナーレから本を奪い取りました。
パトリシアの本をめくる手が止まりません。
「これは…7年前のアムリオンに行って、貴族の反乱を防いだ、あの時のことだ。」
「ああ、最後の最後までダッシュに邪魔されたな、トリシア……、今はパットでいいのか。」
マイナーレはレナードの言葉に反応しました。
「あっ、今の台詞、この本と2人の関係性を示す、決定的な証拠となりました!やっぱり2人とも、この本のトリシアとレンだったんだ。あぁ、2人がヒロインとヒーローだったなんて!」
レナードは苦笑いをします。
「俺がパットのことをトリシアって言ったことだろ?て言うか、俺、ヒーローじゃないし。この本を見た限りじゃあ、パットが主人公だしね。」
「7年前に行ったとき、仮面の神っていう闇の魔法の使い手にとどめを指したのは、この私。別に、私が主人公で間違ってないでしょ?」
パトリシアは胸を張ります。
レナードはパトリシアを横目で見ながら、ため息をつきました。
マイナーレはそのやり取りが夢のようでもありますが、違和感がありました。
それは、この2人が実の弟と妹だということです。
「もしかして、あの人、人間界で私たちの話を書くために、アンリ先生に頼んでちょくちょくこっちに来てたんだ!『南房秀久』って自分で名乗ってたし。」
パトリシアは原作の方と面識があるようです。
レナードは原作の『レン』と同一人物で、パトリシアは原作の『トリシア』と同一人物だというのです。
マイナーレは言います。
「きっと、私がこの本に導かれたのも何かの縁か、運命だったのかな。」
「縁でも運命でもなく、元からそういう結果だったんだよね!」
パトリシアは満面の笑みで言いましたが、レナードがまた、額に手を当てて、
「だから、そういうのを『運命』って言うんだよ。」
と言います。
マイナーレはパトリシアの前に置かれた本を引き寄せました。
「あのさ、レンとパットってこれ持ってる?」
マイナーレは床に横たわるようにして置いてある、巻物を取りました。
「持ってるよ、でも、俺のもパットのも、端が破れてるんだ。」
「あっ、さっき目の前に急に出てきたやつだ!持ってる、持ってる。」
2人はポケットから巻物を取り出して広げると、テーブルに置きました。
「みんな破れてるところが違うな…。姉ちゃんのは左端、俺のは両側、パットのは右端……。」
レナードは腕を組んで3つの巻物とにらめっこします。
それを聞いたマイナーレが即答します。
「それって、こういうことじゃない?」
マイナーレが巻物を一直線に並べました。右から、マイナーレの巻物、レナードの巻物、そしてパトリシアの巻物の順に。
破れ目が全て一致しました。
「ってことはよ」
レナードはマイナーレとパトリシアに目配せをしました。
「元は巻物が1つだったんだ!」
パトリシアはそう言うと自慢げになります。
「そういうこと。誰かが破ったんだろうな。」
レナードはパトリシアを見てうなずきます。
「でも……誰が、何のために破ったのかな……。」
マイナーレが言ったとたん、冷たい空気が3人の間を通りすぎました。
「……破らなきゃいけない出来事があったってことだな。」
「目的がなければ、普通、そんなことはしないもんね。」
パトリシアはあごに指を当てます。
「……ねぇ、妖魔界で『奇跡の子』について何か情報はないの?」
マイナーレが聞くと、パトリシアは当たり前だというような顔をして、うなずきます。
「あるよ。人間界には?」
「ないよ。もし、あったらオカルトの方で有名だろうし。今はネットがあるから、もっと有名になってるって。」
そのやり取りを聞いていたレナードは、2人に提案をすることにしました。
「妖魔界に行って調べてみるか。」
「人間界で暮らしてたお姉ちゃんを妖魔界に連れていくの?大丈夫なの?」
パトリシアは怪訝そうです。
「大丈夫だよ。どうやら、私には両方の世界を行き来できる力があるらしいから。巻物に書いてあった。すぐに戻ってくれば大丈夫だと思うよ。」
マイナーレ自身、それが本当なのか自信はありませんが、自分の中に流れる血がそう告げているのです。
「あと、1つお願いがあるんだけど。」
レナードとパトリシアはマイナーレに目で促します。
「私のこと、あだ名で呼んでいいから。だって、生まれたのは同じ日なんだし、上下関係もないに等しいでしょ?」
「まあ、そうだな。今までパットとも兄妹とは思ってなかったから、な?近所の幼なじみぐらいにしか。」
「うん。じゃあ、今まで通り『レン』でいいかな。お姉ちゃんは……『マイ』かな?」
「いいよ、『マイ』で。私だって、2人が弟と妹なんていう実感ないし。むしろ、『お姉ちゃん』の方が気持ち悪い感じ。」
マイは苦笑します。すると、レンがパトリシアに尋ねます。
「じゃあ、パットはどう呼んでほしいんだよ。」
「うーん、『パット』だとなぁ、私だけカタカナ3文字だよね。じゃあ、『ミア』はどう?」
「えっ、ミア?」
マイとレンはパトリシアを凝視します。
「だって、マイは英語でM-a-i でしょ?aとiを入れ換えると……?」
パトリシアは手のひらに指で書きながら説明します。
「入れ換えると、M-i-a ……ミア……そういうことね!」
「へへー、どう?頭いいでしょ?」
パトリシアはまたも自慢げになりました。
「自分で言うな。」
レンはため息をつきます。
「じゃあ、『ミア』にするか。仕方ねえな、本人がそう望んでんだから。」
「私はいいニックネームだと思うけど。何か、ニックネームが全員2文字で、私たちの一体感が強くなった気がするね。」
マイはミアに微笑むと、真剣な顔になります。
「じゃあ、妖魔界、行こうか。」
「そうだな。」
「うん。」
レンとミアはうなずいて立ち上がります。
いつの間にか、人間界と妖魔界を繋ぐ道は閉じていました。
マイも続いて立ち上がると、サフィーを首から外して左手に持つと、それを掲げました。
またもや、勝手に言葉が口からこぼれます。
「我は奇跡の子なり。我の力を使い、道を開けたまえ。」
再び、黒い穴が頭上に現れました。
マイがサフィーを道に投げ入れると、3人はその穴に吸い込まれました。
次話は『⒋妖魔界』です。
妖魔界に渡った三つ子は、マイが妖魔界で馴染めるように服を買ってあげます。しかし、その前にハプニングが!医師兼獣医師のミアが本領を発揮します!
その後はレンとミアの友達や恩師などなど、マイにはたくさんの人との出会いが待っていました。
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