名前は本名で記載。【 】はニックネーム。〖 〗は人間界の時の偽名。
○氷山(こおりやま)マイナーレ【マイ】〖小林麻里菜(こばやし まりな)〗・・・主人公。父が施した封印が解け、額の第三の目が開眼する。性格は、普段は謙虚でおとなしいが、いじめなどの悪いことは許せないので、自分から注意することがある。妖怪姿は金髪に空色の渦目。
○氷山レナード【レン】・・・マイの弟。施設で暮らしていた時に病気で死ぬが、転生して妖魔界で暮らしていた。(彼について、詳しくは『トリシアシリーズ』をお読みください。)妖怪姿は金髪に鶸(ひわ)色の渦目。
○氷山パトリシア【ミア、トリシア、パット】・・・マイの妹。レンと同じく施設で暮らしていた時に病気で死ぬが、転生して妖魔界で暮らしていた。(彼女について、詳しくは『トリシアシリーズ』をお読みください。)妖怪姿は金髪に薄紅色の渦目。
○ アムレディア・ド・アムリオン【アム】・・・アムリオン王国第一王女。
○ アンリ・・・宮廷魔法使いと魔法学校『星見の塔』の創立者。レンとミアの魔法の師匠でもあり、恩師でもある。
「そう言えば、まだ診療所見てないよね?」
昼食を終えた三つ子は『三本足のアライグマ』亭をあとにしました。
ミアの質問にうなずいたマイは、
「ここの隣でしょ?」
と、2階建ての小さな建物を指さします。
「やっぱり知ってるんだ。」
レンは半分呆れたような顔をしました。
白いレンガで舗装された小道を抜けると、ツギハギだらけの診療所の目の前までやってきました。
「『トリシアの診療所 患者は人・動物を問いません』。この看板も本当にあるんだね。」
ドアの横に掛けられた看板。これこそ、ここの代名詞です。人間はもちろん、犬、猫、妖精、ドラゴンまでもミアが1人で診るのです。
ミアがドアを開けました。すると、
『トリシアー!おかえり!』
青い毛むくじゃらの生き物がミアに飛び乗りました。
「ただいま、ポム。って、また何か盗み食いしたでしょ!」
ポムの口の周りにジャムがくっついています。
『うん、お腹がすいたから台所のクッキー食べたよ。全部食べた。』
「ちょっと、それ今日のおやつにしようと思ってたのに!私のイチゴジャムクッキーがー!」
「えっと、なんて言ってるの?」
ポムの言っていることが、マイには分かりません。ただ、ピィピィという鳴き声にしか聞こえないのです。
「私のクッキー勝手に食べたんだって!しかも全部!だいたいおやつはポムに食べられちゃうの。」
実は、ミアは他の誰もが持っていない能力(チカラ)があります。それは『どんな動物とも心を交わすことができる能力』です。それを活かして、ミアは医師 兼 獣医師をしています。
ポムはドラゴンの子供ですが、その割に体が丸っこく、翼も小さなものなので飛ぶことができません。ミアが獣医師になる前に初めて手当てした動物が、このポムなのです。
『ねぇ、この女の子誰?』
「お姉ちゃんのマイナーレ。あと、レンのお姉ちゃんでもある。」
『お姉ちゃんいたの!?』
ポムとマイの目が合います。ミアの通訳でマイはポムが驚いているのがわかりました。
『……トリシアとレンのお姉ちゃん。うん、あれ、どういうこと?2人は……えっ、でも……。』
「あー、説明しないとね。私たちのこと。」
そう言ってミアは待合室の長椅子に座ると、ポムを膝の上に乗せました。マイとレンもミアの両隣に座りました。
ミアが説明できないマイの境遇や、レンが説明したところはミアが代わりに通訳しました。
ポムは素直に受け入れたようでした。
『そうだったんだ。妖怪とかよく分からないけど。じゃあ変化(へんげ)とかできるの?』
マイはうなずきます。レンとミアに目配せをし、3人同時に額のシートを剥がしました。
ポムはミアの膝から飛び降り、後ずさりしてしまいました。
『トリシアもレンも、ずいぶん変わっちゃったね。......でも、かっこいいよ。』
「ポム、ホントに?怖くない?」
『ちょっと怖いけど。』
ミアの通訳を聞いたマイは、ホッと一息つきました。
「あと、私のこと、『トリシア』じゃなくて『ミア』って呼んでほしいの。」
ピィ、と返事したポムは、マイの足元のにおいを嗅ぎ始めました。
『これがマイのにおい。うん、ミアより優しそうなにおいがする。』
「ポム、何だって?」
ミアがポムのほっぺをつねるところを見たレンは、「何言ってるか分かっちゃうのも大変だな。」と苦笑します。
ミアの怒りが収まったところで、診療所の中を案内してもらいました。
診察室や調剤室、入院患者用の部屋も見せてもらいました。
「診療所だけど入院もできるんだね。」
「短期間ならね。10人までならできるよ。」
診療所の1階は仕事場、2階が居住地のようです。
2階に上がると、皿洗いをしている女性がいました。
「マルテさん、ただいま!」
「おかえり…って、あなたがマイさんね!」
マルテは診療所で働いてる、家政婦 兼 看護師のような人です。ミア自身は普通に家事ができますが、忙しい時にはマルテに頼むことがあるそうです。
ミアがマルテの子どもを治療し、助けたことへの恩返しとして、マルテは自らここで働いているのです。
手を拭いたマルテがマイに握手を求めました。
「はじめまして、氷山マイナーレです。よろしくお願いします。」
「さっき、トリシア先生とレン先生が人間界に行く前に、話は聞いたから大丈夫よ。」
「レン先生?」
マイは頭をレンの方に向けます。
「あ、あぁ。」
レンがわざとらしく咳払いをしました。
「薬剤師やってるんだよ。実は。」
「そうなの!?」
「治癒魔法はミアほどできないから、何か代わりになるものがあればって思ってさ。それで薬のプロになった。」
「たまにトリシア先生、調合間違えて診療所吹き飛んでたけど、レン先生が薬剤師になってからはなくなったわね。」
「!」
マルテにからかわれたミアはぐうの音も出ず、それを見てマイとレンは大爆笑。
「そうだ、マルテさん。これから私のことを『ミア』って呼んでください。」
「ミア?『パトリシア』の名残がないけど。」
「えっと、半分妖怪・半分魔女、医師 兼 獣医師としての自覚を持つための、ちょっとしたイメチェンです。」
ふふっと笑ったマルテは、「分かりました、ミア先生!」と言ってミアの肩を叩きました。
「あっ、見回りにいかなくちゃ。」
レンは仕事に戻るようです。
「午後からの診療、ちょっと今日は休んでいいかなぁ。妖力が目覚めて疲れちゃった。」
レンを送り、ミアがあくびをして自室に行くと、マルテに尋ねられました。
「マイさんは、これからこっちに住むのですか。」
これはマイも考えていたことでした。
「いえ、私は人間界に帰ろうと思います。両親が心配しますし。星見の塔には人間界から通うことにします。」
「人間界の学校もあるのに?」
「そこはアンリさんと話し合って、なんとかしてもらいます。」
「そうね、アンリさんならなんとかしてくれそう。」
マルテは納得した様子で、皿洗いを再開しました。
そうと決まれば、もう帰らなくてはなりません。人間界に何時間もいないので、親が捜しているかもしれないからです。
そこで、レンとミアには置き手紙をすることにしました。
『レンとミアへ
両親が心配するから人間界に帰るね。
星見の塔は、人間界から毎日通おうと思う。
2人とも忙しいみたいだから、これからのことはまた今度話そうね。
また明日。マイより』
マイはミアの自室に入りました。すぅ、すぅ、と寝息を立てて寝ているミアを見て、マイは気づきました。
「そっか、レンとミアは2回も人間界とこっちを行き来してるんだもんね。1回通っただけの私でもこんなに疲れたのに。」
医学関係であろう本が積まれている机に、手紙を起きました。ミアの頭をそっと撫でると、部屋を出ました。
「ではマルテさん、また明日。」
手を振ってにこやかに返すマルテを確認してから、マイはペンダントのサフィーを外します。
「我は奇跡の子なり。我の力を使い、道を開けたまえ。」
天井に現れた黒い穴にサフィーを投げ入れ、マイは穴に吸い込まれました。
次の日、マイは星見の塔に入学しました。途中入学だったので、さっそく授業です。
「はい、今日は基礎である、魔力を集中させる練習をするよ。」
途中入学と行っても、先週から新学年が始まったばかりなので、マイはあまり遅れを取らずに済みました。
「まずはお手本を。」
アンリは手刀を作って構えると、一瞬で人差し指と中指の間に火花を散らせました。
「おお。」
声を漏らす生徒たち。
「魔力が集中すると、エネルギーが集まって高温になる。コツは、指に自分の意識を集中させること。こうすれば――」
アンリはまた火花を散らしてみせます。
「さあ、みんなもやってごらん。」
生徒たちは難しそうだと思ったのか、嫌な顔をしました。が、1人だけ反応が違いました。
「先生、これでいいですか。」
マイでした。
「マイ、すごい!」
「えっ、もう1回見せてくれよ!」
「もしかして予習してきたの?」
マイの周りには人垣ができました。
「予習はしてないよ。身近に魔法使いがいるからかな。」
「身近に?誰?」
「南街区で診療所をやってるトリシアと、魔法竜騎士のレンだよ。2人は私の妹と弟なんだ。」
「あの2人のお姉ちゃん!?マジで!」
授業そっちのけで質問をする生徒たちに、アンリは手を叩きます。
「はいはい、質問タイムは授業が終わってから。席に着きなさい。」
返事をして、生徒たちは自分の席で、魔力を集中させる練習をしました。
初めての魔法科の授業が終わった後、マイは王城の広間にいました。さっきキャットから「授業が終わったら私のところに来るように。」と伝言を受けたのです。
「あの、何の御用でしょうか。」
マイはできる限りの敬語で尋ねます。
「これは私の勘でしかないんだけど、あなたってこの世界に来る前から、私たちのことを知っているのではと思って。」
マイの心臓の鼓動が速くなります。
「昨日初めて会った時、どうやらあそこにいた全員を知っているようだったわ。」
「どうしてそれを。」
「簡単よ。時々人間界から来る作家を名乗るあの人、あの人の本を読んでいるのでしょう?」
「はい……。」
アムは納得したようにうなずくと、召使いから本を受け取りました。
「これは、王立図書館の一般人は立ち入ることができないところに保管されている本よ。ここを見て。」
マイは玉座に歩いていき、アムが指をさすところを見ました。
8月3日、アムリオン国王子のハクト殿下と沢白国王女のレンユイ殿下の間に三つ子がお生まれになった。程なくしてレンユイ殿下は崩御あらせられた。生まれた三つ子の額には第3の目があったため、民は奇跡の子の誕生を喜んだ。しかし、言い伝えにより、ハクト殿下は宝具を使われて第3の目を封印なさった。それにより、ハクト殿下も崩御あらせられた。三つ子は忌まわしき存在として、沢白国王によって人間界へと流された。
そして、挿絵の写真に、ハクトとレンユイが写っていた。
「2人が、私の両親……。」
レンにそっくりなハクト、マイとミアにそっくりなレンユイが、にこやかに微笑んでいる。
「あの、言い伝えって何だったのですか。」
「それは……『第3の目を額に持つ者が現れた時、世界は滅ぶ』。」
ゴクッと、マイは唾を飲み込みました。滅ぶって……。
「あと、ハクト様は私の母方の伯父よ。私たち、いとこなの。」
い、いとこ!?
「じゃあ、改めてよろしくね、マイ。」
「よ、よろしくお願いいたします。」
アムから差し出された手を、マイは両手で握り返しました。そして、アムは少しかがんでマイをハグしました。
「!」
「あら、人間界にはこういう挨拶はないのかしら。」
本のことをレンやミアに伝えるため、本は1週間貸してもらえることになりました。
マイは朝から夕方まで小学校で授業を受け、夕食を食べて睡眠をとり、夜中から明け方まで星見の塔で魔法を習う、という多忙な生活を送りました。
小学校では毎回のテストで100点を取り、星見の塔では成績優秀でどんどん飛び級していきました。
そんな生活を続けて約1年。マイは平均で3年かかる魔法科を、たったの1年で卒業しようとしていました。
「今日はみんな分かっている通り、卒業試験だ。みんなの健闘を祈っているよ。」
アンリはそう言って、教室を出ていきます。代わりに入ってきたのはレンでした。卒業試験のお手伝いに呼ばれた、なんて言ってたっけ。
周りは教科書やノート、参考書を見て最終確認をしていますが、マイはしませんでした。
「直前に詰め込んだものは、実力ではない。」
レンはアンリから教えられたことを、今日の朝、マイに伝えてくれました。
「これから問題用紙と解答用紙を配ります。配られた人から、解答用紙に名前を書いてください。」
レンとマイの目が合います。
(頑張れよ。)
レンは声を出さず、そう口を動かしました。マイはうなずきます。
「始め!」
レンの合図で、みんなは一斉に問題用紙を開きました。
午前は筆記テスト、午後は実技テストで、マイは筆記テストを満点で合格していました。
合格者のみ、掲示板に受験番号が書いてあるのです。
「マイ、筆記合格おめでとう!」
筆記テストの採点を手伝ったレンが、マイに歩いてきました。
「よし、じゃあ実技に行ってくるね。」
「うん、マイならできるよ。」
親指を立てたレンに、マイは同じように返すと、星見の塔の中に入っていきました。
「これから実技テストを始めるよ。」
会議室のようなところに集められた生徒たち。
「実技テストは、僕が作った魔法の世界の中に入って、受けてもらう。そこでは色々な試練が待ち受けている。そして、ここに戻って来られれば合格だよ。」
壁に沿ってワープホールのようなものが並んでおり、生徒たちは、自分専用のワープホールの前に立ちます。
「行ってらっしゃい。」
アンリが言った途端、ワープホールに吸い込まれました。
ここはどこ。一体、どこにいるの。
見渡す限り真っ黒な世界に、マイは寒気がしました。
「闇を見通す黄金の目、スール・ドゥ・カット。」
マイは『ネコ目』の呪文を唱えました。
周りが見えるようになったマイは驚愕しました。
ボロボロの床に朽ち果てた柱。あちこちにクモの巣が張っています。家具もありますが、今にも崩れそうです。
どうやらここは廃墟のようでした。
「ここからどうすれば……。」
すると。
「う……うっ……誰か……。」
「きゃっ!」
突然の声に、マイは叫んで飛び上がりました。
「誰か……助けて……。」
向こうのチェストがガタッと揺れます。
マイはそこに駆けていき、チェストの下を覗くと、人影を見つけました。
「今すぐ助けます!持ちあげろ、フレアゲルト・テュース!」
呪文に加えて人力も使って、チェストを退かしました。
チェストの下敷きになっていたのは、人ではなく、妖精のアールヴのようです。
「助けていただき、ありがとうございます。私はリュドミラと申します。あなたのお名前は?」
「私は氷山マイナーレです。」
「マイナーレさん、ここを出ましょう。」
リュドミラは立ち上がりますが、よろよろとくずおれます。
「はっ!リュドミラさん、怪我は?」
「足をやられたみたいです。」
確かに右足に深い傷があります。よく見ると、なぜか金属の破片がついていました。
「もしかして……鉄?」
リュドミラの顔色がどんどん悪くなっています。
鉄はアールヴにとって、魂を傷つける恐ろしいものなのです。
本当はミアに頼んで手当てしてもらいたいのですが、ここには自分しかいません。
やるしかない。
「ウォート・スコール・ヴェ・ティフール・エッシュ。」
水流と浄化の魔旋律を組み合わせた呪文です。水流で鉄の破片を除き、浄化で傷口を清潔にします。マイは傷口を痛めないよう、慎重に魔力をコントロールしました。
「傷が深いから……トゥレン・ファイ・アル・アッシュ!」
マイは強めの治癒魔法を使いました。魔力をだいぶ消費する魔旋律なので、短時間に何回も使えません。
傷口が塞がると、マイはリュドミラの額に手を当てます。
「熱がある……。」
鉄に触れたことからくる熱は、本来いくつもの薬草を練って作った薬を使わなくてはなりませんが、薬草はどこにもなく、作り方も分かりません。
「熱を下げるだけでも……アデル・シェール!」
そこで、自分で作った頭痛を治す魔法をかけました。解熱の魔法でもあります。
熱が引いてくるのを感じたリュドミラは、足首を確認して、マイの手を握りました。
「鉄に触れて助かるなんて、思いもしなかったわ。本当にありがとう。」
その後、リュドミラはこうなった経緯を説明してくれました。
「私は密猟者に捕まって、手は紐で、足は鉄の輪で縛りつけられたの。鉄に触れてしまったから意識を失い、気がつけばここにいたわ。近くにあったチェストの角を使って紐を切って、深い傷を作って腐食した鉄もようやく壊したの。でもその瞬間にこれが倒れてきて、鉄の破片を残したまま下敷きになってしまって。」
リュドミラは、マイの手をとりました。
「本当に命の恩人よ。ありがとう。」
立ち上がったリュドミラは、「早くここから出ましょう。」と言って、マイの手を引きます。小走りをするリュドミラは出口を知っているようです。
向こうにいっそう眩しい光が見えました。
「よし、出口だ!」
しかし――。
「なぜここから出られた、いや、なぜ死んでいないのだ、リュドミラ。」
出口には悪そうな目つきの妖精が立っています。
「あなたは……ブルベガーのガイ・カーリン、メイヴさん。」
メイヴは、黒髪ロングのストレートに、羽飾りがたくさん着いた黒いドレスを着ています。
「人間のお嬢ちゃん、あたしの名前を知っているんだねぇ。」
リュドミラはアールヴと呼ばれる光の妖精ですが、メイヴはブルベガーと呼ばれる闇の妖精なのです。リュドミラはアールヴの世話役の1人、メイヴはブルベガーの女王です。『ガイ・カーリン』は妖精の言葉で『女王』という意味です。
「あなたが私をさらったのですか。」
「あたしはしてないよ。ただ、あんたを連れていきたいって言う人間がいたから、私は妖精の森に入らせてやっただけさ。アールヴの重要人がいなくなれば、あたしにとって、とてもいいことだからねぇ。」
マイは、アールヴはブルベガーを嫌っていることを思い出しました。しかし『あの本』の話では、妖精同士仲良くするのを約束していたはずです。
しかも『殺す』なんて、あの時よりも関係が悪くなっている……。
「お嬢ちゃんに助けてもらったんだろ。その子から魔力を感じるからねぇ。そうなら、お嬢ちゃんも放っておくわけにはいかないか。」
マイを見るメイヴの目つきが変わりました。次の瞬間、メイヴの手には、金属の鎖がありました。
「こんなもんしかないけど、まぁ、鉄だからいいよな。」
マイはサッと離れて距離をとりました。
「我らを守れ、マギニーム・ガドール!」
見えない壁で自分とリュドミラを囲みました。
「なるほどねぇ。」
メイヴは鎖に紫色のもやをまとわせると、鎖をマイに向かって放ちました。鎖は見えない壁を突き破ります。
「壁が!このままじゃ!」
今度は、鎖がリュドミラに向かって伸びています。
「クリス・グルーアッシュ!」
瞬間移動の呪文で、マイはリュドミラの前に立ち塞がります。
鎖は案の定見えない壁を突き破り、マイの顔に向かって飛んできます。マイは目をつぶりました。
鎖はマイの額に当たりました。そこに手を触れます。
ねちょ……
「!」
目を開けると、メイヴが腰を抜かし、怯えた様子でこちらを見ていました。
「こ、こっちを見るな……。」
第3の目が開眼していたのです。
マイは空色の渦目でメイヴを見たまま、歩みを進めます。
「私は、あなたを殺すようなことはしません。妖精同士、仲良くするって約束したんじゃないですか?」
その言葉に、リュドミラが何かに気づきました。
「マイナーレさんって、もしかしてトリシアと――」
「トリシアは、私の妹です。」
トリシアの名を聞いたメイヴの顔が強ばります。
「トリシアとステラを呼びますよ。命の恩人のトリシアを裏切るつもりですか。」
すると、メイヴはなぜか高笑いをしました。
「お嬢ちゃん、これは実技テストなんだよねぇ。あたしはリュドミラを殺したりはしない。」
「でも、リュドミラさんの足に鉄の輪が!」
「あれは人間がしたことだ。あたしはそんなこと指示していない。」
マイは唖然としています。
リュドミラがマイの隣に立ちました。
「我々妖精は今も仲良くやっていますよ。私はアンリから頼まれて、仲が悪くなっているという設定で、演技をしろと言われました。」
「いくつか魔法を使わせて、トラブルを解決したら、ここから出してもいいってな。まさか、そこに悪い人間が絡んでくるとはな。」
メイヴはマイの頭をくしゃくしゃと撫でます。
「まぁ、リュドミラを救ってくれてありがとうな。悪い人間は、仲が悪くなったとか、そういうのを聞きつけるのが早いんだ。」
「マイさん、これはお礼に。」
リュドミラがポケットから何かを取り出して、マイの手に握らせました。
「ブレスレット……?」
手を開くと、赤・茶・緑・青・黄・紫・桃の7色の玉が順番に並ぶブレスレットがありました。
「これは、魔法の分類を色で表したものですね。」
マイたちが使う魔法は、火・地・風・水・光・闇・時の7種類があります。
1つだけ1回り大きな、透明の玉がありました。
「その透明のやつは、使った魔法に反応して光るんだ。」
と、メイヴ。
「それじゃあ、フォーギル・シェン!」
マイはブレスレットをつけると、鎖に向かって解呪の魔法をかけました。透明の玉が黄色に光って、紫色のもやを吹き飛ばします。
「あのね、マイナーレさん。そのブレスレットは元々、あなたのお父さんのハクトが使っていたものなの。魔力を増幅する効果があるわ。」
「あと、あんたがつけてる雪の結晶のペンダントも、ハクトのものさ。ハクトはあたしら妖精にとって、子どもみたいな人だったからな。」
マイの胸に込み上げるものがありました。
「マイナーレさんがその姿にならなければ、ハクトのお子さんで、奇跡の子だとは分かりませんでした。お父さんの形見として、大切にしてくださいね。」
「はい、言われなくても。」
マイはサフィーを胸に押し当てます。
「トリシアによろしくお伝えください。」
「分かりました。あと、次に彼女と会う時は『ミア』って呼んであげてください。何か知り合いに、そう呼んでくれと強制しているので。」
メイヴが初めて笑顔になりました。
「おや、アンリのところに帰る時が来たみたいだな。」
周りの景色が歪み始めました。
「そうみたいですね。では、また会う日まで。」
マイはにっこり微笑むと、光の粒となって消えました。
「……んー、ここは?」
まだ焦点が結びませんが、ここは診療所のようです。
「マイ!やっと起きたんだね!」
ミアが涙ぐんだ顔で覗き込んでいます。
「あれ、私は実技テストを受けて……。あっ、ブレスレットは?」
「手首に、ちゃんとあるよ。もう2日間も寝てたんだから。」
「そんなに!」
マイはカバッと起き上がりました。空が茜色に染まっています。
「アンリ先生から聞いてびっくりしたよ。リュドミラとメイヴのところに行ったんだってね。帰ってきた途端に、変化したまま気を失ったらしいの。負担をかけすぎたって謝ってきたけど。」
「帰ってきたってことは、合格したみたいだけどな。」
レンが白衣姿でマイのそばに来ました。
「それで、妖精の森で何をしたんだ?」
マイは2人にあのことを話しました。
「魔法だけで、鉄に触れたリュドミラを助けたの!」
ミアはやれやれと首を振ります。
「ホントは、薬草とか使って治さなきゃいけないのは分かってるよ。でも、しょうがないじゃん?」
「いやいや、それほどの怪我を治すには、相当な魔力が必要だし、コントロールも難しい。俺はもちろん、医者のミアでさえ魔力切れになるさ。」
ミアは音を立てて息を吸うと、「マイの魔力が末恐ろしい。」と言って目をそらしました。
「しかも、マイの手首のブレスレット。あれで魔力を増幅できるから……。」
遠慮気味に、レンがブレスレットを指さします。
「そっか……って、ええっ!!」
後ずさりするミアを見て、マイは自分に秘めていた力の大きさを、ようやく自覚したのでした。
また半年ぶりの更新になってしまいました。すみません!
スピリッツの方を優先して更新していたので、こっちは全然書いていませんでした……。
色んなことを書きたかったので、1話ごとの文字数は過去最高です笑
今回が長かった分、次の話は結構短くなると思います。