名前は本名で記載。【 】はニックネーム。〖 〗は人間界の時の偽名。
○氷山(こおりやま)マイナーレ【マイ】〖小林麻里菜(こばやし まりな)〗・・・主人公。父が施した封印が解け、額の第三の目が開眼する。性格は、普段は謙虚でおとなしいが、いじめなどの悪いことは許せないので、自分から注意することがある。妖怪姿は金髪に空色の渦目。
○氷山レナード【レン】・・・マイの弟。施設で暮らしていた時に病気で死ぬが、転生して妖魔界で暮らしていた。(彼について、詳しくは『トリシアシリーズ』をお読みください。)妖怪姿は金髪に鶸(ひわ)色の渦目。
○氷山パトリシア【ミア、トリシア、パット】・・・マイの妹。レンと同じく施設で暮らしていた時に病気で死ぬが、転生して妖魔界で暮らしていた。(彼女について、詳しくは『トリシアシリーズ』をお読みください。)妖怪姿は金髪に薄紅色の渦目。
次の日。
診療所の2階のマイの自室から、うなっている声が聞こえました。
「よく頑張ったね、マイ。峠は越えたよ。」
切れたあごは縫われ、上から白い絆創膏が貼られています。左上腕には痛々しく包帯が巻かれています。
「ここまでえぐられると、全治するには半年はかかるよ。でも、妖力のおかげで自然に治りかけてるし、感染症にもなってない。」
骨まで見えるかなり深い傷でした。普通なら動物に噛まれると感染症のリスクがあるので、縫合ができません。しかし、マイに妖怪の血が流れていることで、どんなに深い傷でも自然治癒で治るのです。
「私のイバラの傷も、一晩で元通り。」
ミアはマイに自分の手首を見せました。
「絶対にマイとミアだけは傷つけたくなかったのに。」
レンは、マイの手を自身の両手で挟むようにして握りました。
「大丈夫。」
レンの手を払いのけるマイ。
「怪我なら心配しないで。ミアがいるから。」
「マイ……。俺があの呪いを見破れていたら、2人を傷つけずに済んだのに。本当にごめんなさい。」
「レン、泣かないで。」
マイは右手でレンの涙を拭い、その手をレンの頬に添わせました。痛みに顔を歪めながらも、マイはできる限りの笑顔を作ります。
あのペンダントをつけた直後から、診療所で目を覚ますまでの間、レンの記憶はぽっかりとなくなっています。
目を覚まして、マイの姿を見た時の慌てようといったら、大変なものでした。その後、ミアから話を聞いて、レンは大きなショックを受けたのです。
一週間後、マイの怪我は驚異的な早さで完治しました。おまけに、マイは妖力と魔力を練り合わせた、『妖魔力』という新しい力を作り上げました。
その夜。
マイが妖魔力で作った防音室から、かすかに楽器の音が聞こえます。中にはマイとミアがいて、それぞれクラリネットとフルートを吹いています。
コンコン、ガチャ。
「お、デュエットで練習中?俺も混ぜてよ。」
ドアから覗くレンの手にはトランペット。
ミアはフルートから口を離します。
「あれ、もう1人は?」
「ここにいるよー!」
ドアを支えるレンの腕の下から、黒髪を2つに結んだ女の子が顔を出しました。
「快気祝いに、今日は思いっきし暴れちゃおうかな!あ、爆音すぎて私の耳が死ぬわ。」
口を開けて笑うその女の子の手には、ドラムスティックがあります。
「よし、4人揃ったね。」
レンと女の子のチューニングが終わるのを待って、マイが言いました。
「明日は、みんなの前での演奏。妖魔界で1番になった私たちは、それ相応の演奏をしないといけないよ。」
マイの表情はいつになく厳しくなります。
他の3人も、厳しい表情でうなずき返します。
「『妖魔クァルテット』の名に恥じぬ演奏……か。」
そうつぶやいてから、女の子は三つ子を見すえました。
「発表前の最後の合わせだから、細かいところまでしっかりこだわろう。『妖魔吹奏楽団』の始まりにふさわしい演奏、してやろうじゃないの!」
「「「オーーーー!!」」」
女の子がスティックの握られた拳を上げると、三つ子はかけ声とともに楽器を斜め上に上げました。
「ここか。」
診療所の屋根に、誰かが静かに降り立ちました。
ポニーテールにされた長い銀髪の髪を、風になびかせています。髪が月明かりで鈍く光っていました。
「奇跡の子、私を恐れろ。あんたらは私に使われる運命なのだ。」
その人は薄く笑うと、「まずはお前だ。」と言って印を結び、人差し指と中指を額に当てました。
「天兵来たりて、我を助け、符神を作らせよ。」
宙に浮かんだ、人の形をした光る和紙に向かって、その人は素早く指を動かしました。
和紙の中心に、小さく黒い星が浮かびます。
「万鬼伏蔵せよ。急急如律令。」
和紙に向かって呪文を唱えます。
「はぁっ!」
気を送ると、和紙は意志を持ったように飛んでいき、診療所の壁をすり抜け、防音室の壁もすり抜けて、誰かに貼りつきました。
「この呪符の効果が切れる頃、お前に災いが訪れるだろう。フッフッフッフ……。」
その人は一瞬でいなくなりました。この言葉を残して。
「あの程度の呪いも見破れないとはな。」