なるかも!なるかはわからない!
第一章:中層の現実は数の暴力
日が輝く。
メインストリートには多くの人達が街路を行き交い、徐々に賑わいを膨らませていた。
「こんな朝早くからすまんなぁ、ファイたん。押しかけるような真似してしまって」
「ま、構わないわよ。いつもは一人だし、たまにはこうして誰かと朝食っていうのもいいわ」
二柱の女神が歓談がてら朝の食事を取っていた。
「ファイたん。ドチビのとこのこの情報、何か知っとるか?」
「ん?ふふっ、なに、ヘスティアのことが気になるの?」
「気になってるちゅうかなぁ……最近調子乗っとるからのぉ、ドチビのくせに。天狗になって
あの無駄にでかい胸を張られたら、腹立たしいちゅうかなんちゅうか……」
ぶつぶつと不満を口にするロキに、ヘファイストスは笑みを漏らした。
「私の子が一人、ヘスティアの子とパーティを組んでいるわ。今日、中層に向かうみたいよ」
「えっ、うちのとこだけやなくて、ドチビのとこにも鍛冶師貸しとったん?」
「直接契約を結んだのよ、【リトル・ルーキー一と。うちの子は存外に気に入っているらしいわ、ヘスティアの子のこと」
どこか微笑ましそうな声音を滲ませながら、ヘファイストスはゆっくりと料理を口に運んだ。
「それに個人的に興味のある子もいるしね」
「興味のある子ってどないなやつなんや?」
「「必中の一矢」って子よ」
「それドチビの所やないかい」
「あの子に少し鍛治を教えた事があってね」
「それでどうやったん?」
「ん?ん〜、、ないしょ」
「たはぁ〜ファイたん酷いわぁ」
両女神が微笑ましい雑談をしていた。
___________________________
至るところに灰色の岩石が転がっている。周囲を囲む壁も、床も、天井も岩盤で形成されていた。
視界に広がるダンジョン13階層……最初の死線とも呼ばれる「中層」を前に、俺はそう思った。
「なるほどこれは厄介な地形だな」
「話には聞いていましたが、今までの階層より光源が乏しいですね」
既に大刀を装備しているヴェルフと、早速地形へ目を走らせるリリがそれぞれ口にする。
「上層」の12階層から伸びた下り坂を歩き抜くと、僕達を待ち受けていたのはずっと奥まで続いている岩石の一本道だった。「ルーム」に繋がっている通路の一種と捉えていいだろう。曲がりくねっているわけでもないのに先が見えないほど長いものは初めて見るけど。
他にも、壁の隅には井戸のようにぽっかりと空いた縦穴――下の階層に繋がる落とし穴――
なんかもある。燐光の頼りない明るさといい、これら全て上層ではありえなかった光景だ。
「2階層はルームとルームを繋ぐ通路が長いのが特徴です。安全に戦闘を行うためにも、まずリリ達は迅速に最初のルームへ到達しなければなりません」
リリの説明を聞きながら、俺とヴェルフ、ベルは確認し合うように頷いた。
見た以り13層の通路は上層より幅が広いけれど、基本的に、こういった通り道に陣取って戦闘するのは下策だ。
この階層から魔法を使うモンスターが出てくるので一掃されて全滅なんてなともある。
「それにしても、やっぱり派手だよな、コレ」
「サラマンダー・ウールのことですか?」
そう今回の探索は魔法対策にサラマンダー・ウールを着ている。
(まぁこのメンバーなら滅多なことがない限り大丈夫だとは思うんだがなぁ)
すると前から二つの影が。
「いきなりか」
そう呟き臨戦態勢に入る。
薄い燐光に照らされる影は二つ。通路の奥から完全に現れ、モンスターの姿があらわになる。
ごつごつとした体皮は黒一色だった。その中でも両の眼は爛々と真っ赤に輝きいていた。
犬、と言うには少々体がたくまし過ぎるきらいがある四足獣、ヘルハウンド。
狼とも違った凶暴な顔付きを盛大に歪ませながら、二頭のモンスターは唸り声を上げていた。
「なぁ、この距離はどうなんだ? 詰めた方がいいのか?」
ヴェルフの言いたい事はわかる。相手の射程がわからないなら無闇に叩かない方がいい。鍛治師だが要所は掴んでるらしい。
「ヘルハウンドの射程距離は甘く見ない方がいい、ってアドバイザーの人には言われたけど、、」
「なら、、叩くぞッ!」
前言撤回こいつは馬鹿だ。
(ここでマインドを消費するのは悪手だな)
そう思った俺は弓を大きくした形態を常時にした。
矢を番えて必殺の瞬間を待つ。
ベルとヴェルフが一体を処理した瞬間もう一体の口から火の粉が見えた。
(今だッ!)
ヒュッ、、ストン
「ギャンッ!?」
頭蓋骨を貫いた。
「よし、幸先は良さそうだな?」
「まぁこの程度ならまだ当分は大丈夫だろうな」
「そうだね、いい感じだったよ」
戦闘を終え、一息つく。
「まだ来るみたいだぞ」
「!」
俺の声にベルはすぐ反応した。
奥からやってきたのは、うさぎの外見をしきた三匹のモンスターだった。
「あれは、、、ベル様!?
「違うよっ!?」
全力でベルが否定しているが、まぁ外見は似てると思ってしまう。
「三対四だな」
「まずは右からやるか」
「う、うん」
まだまだ中層は続く。
「息つく暇もないとはこの事か、、」
アルミラージの鳴き声が四方八方から聞こえる。
(弓で処理しようにも複数の敵を相手を倒すには魔法を使わなきゃいけないからな、、、まぁ迷ってる暇は無いか)
「トレー「いけません!押し付けられました!」
「ちっ最悪なタイミングだな」
モンスターの群れに襲われた時他の冒険者に擦りつける事をパスパレードと言う。
「行くぞお前ら!迷ってる暇なんてねぇ!」
そう喝を飛ばし一斉に走り出す。
だが、、
(不味いな追いつかれる!)
すると横のベルが止まった。
「先行って!」
「っ!?ベル様」
「おい、ベル!」
そう言われ全力で逃げる。確かに心配だが俺かベルだったら断然ベルの方が退却戦は得意だ。逃げ足が速く一人での生存能力に一番長けているのがベルだからだ。
がしかしベルの撃ち漏らしが一匹こちらに向かって突撃してきた。
「大丈夫かお前ら!?」
「は、はい」
「なんとか、な、、畜生め」
腕を抑えて苦笑いを浮かべるヴェルフ。
{さっきの突撃がかすったのか、、傷はそこそこ深いが大丈夫だろう)
そんな事を思っていた矢先。
「まだ来るぞ!」
通路の奥から新手がやってきた。
「挟み撃ちだな」
「気が滅入るどころじゃないな、、、」
アルミラージやらヘルハウンドやらが両通路を塞ぐ。
「中層は敵が集まるのが速いな」
「は、ははっ」
三人が苦笑いを浮かべている。
「ベル様、ヴェルフ様、シロウ様、リリは逃げるのを上策とします。このままだと消耗戦になりかねません」
「反対はしないけどな、この状況どうする?」
「まぁ片道を強引に突破しなきゃダメだろうな」
「ええ、それが最良かと」
その意見に全員が頷き了承した。
「それじゃ」
「おう」
「行こう!」
そう言って俺たちは気合を入れ生存の道を慎重に選ぶ。
だがダンジョンは狡猾だった俺たちが弱るのを虎視眈々と待っている。
ピキリ、と。
疲労が貯まった俺たちの耳に届く。音源は天井、亀裂がどんどん広がる。
次の瞬間数十匹ものバッドバットが産まれ落ちた。
「ギィィィイイイイイイイ!!」
モンスターが生まれ落ちた事で穴だらけになった天井は安定を失い。
崩落した。
「「「「!?」」」」
俺たちは我武者羅に地を蹴り逃げ出す。頭上から殺人的な岩雨が降って来る。
「はぁ、はぁ、はぁ」
ようやく収まった頃。全員の生存を確認するがヴェルフは負傷しリリは体力の限界が近いかのように激しく息を乱していた。ベルと俺はまだ余力を残している。
(まだ大丈夫だな)
だが次の瞬間、、、
ヘルハウンドの群れが現れた。
全てのヘルハウンドが低い体勢から口内に熱を溜めている。
皆の状態を確認したからわかるが。
(離脱、不可能!?)
そうこれが中層なのだとこの時俺は、俺たちは実感した。