この作品は五千字を目安にしていますが、これが短いのか長いのかよく分からぬのですよね。
「我が名はめぐみん! アークウィザードを生業とし、最強の攻撃魔法、爆裂魔法を操る者……!」
めぐみん、そう名乗った彼女を一言で表すのなら――『魔女』という言葉以外に見つからない。
とんがり帽子に黒装束、手に杖を持った姿は御伽噺に出てくる魔女の姿に他ならない。……魔女、と聞くとどうしても僕の脳裏にはソファーに寝転がりながら行儀悪くピザを食べるどこぞの魔女の姿が思い浮かんでしまうのだけど。
「……冷やかしに来たのか?」
「ち、ちがわい!」
白い目で少女を眺めながらカズマがそう言うが、無理もない。
小柄で華奢な彼女の年齢は、僕らよりも下――見た限りでは十二~十三歳程度だ。この世界ではそう珍しい事ではないとはいえ、芝居がかった所作での件の自己紹介は冷やかしだと思われても仕方ないのかもしれない。僕も正直そう思う。
カズマたちから探りを入れられないための隠れ蓑が僕の主な目的だが、戦力増強も兼ねての人材スカウトだ。
アクアによって書かれた求人は上級職限定……それを見て来たという事は驚くべき事に彼女も上級職、それも彼女の言葉が真実なら魔法使いの上級職であるアークウィザードだ。大幅な戦力強化には違いない。――が、それなら何故僕らのところへ来た?
自分の美醜の感覚が正常であるならば、彼女は幼いがかなり可愛らしい顔立ちをしている。先程の奇怪な自己紹介も、自身を強く見せようとしての事なら可愛げもある。しかも上級職だ。
この年齢で、既にアークウィザードともなれば相当の才能の持ち主と見て間違いないだろう。パーティーに加入すれば大幅な戦力強化になるだろう。
死と隣り合わせの冒険者家業。リスクを減らすために戦力となる者は一人でも多くいた方がいいに決まっている。
「……その赤い瞳。貴女、もしかして紅魔族?」
と、彼女の顔をじっと見ていたアクアが問う。
……紅魔族? 種族名だろうか?
昨日装備を整えるついでに行った情報収集では聞かなかった名称だ。
「いかにも。我は紅魔族随一の魔法の使い手、めぐみん! 我が必殺の魔法は山をも崩し、岩をも砕く……! ……という、優秀な魔法使いはいりませんか? ……そして図々しいお願いなのですが、もう三日も何も食べていないのです。できれば、面接の前に何か食べさせてもらえませんか……?」
彼女――もうめぐみんでいいか。めぐみんはそう言って切なそうな表情でこちらを見つめてきた。
キュー、と彼女の腹から空腹を訴える鳴き声が聞こえる。
……なんだろうな。警戒するのも馬鹿馬鹿しくなってくる。
「……とりあえず、座ったら? ご飯なら奢るから」
「なんと……! 見た目だけでなく心まで美しいとはこれこそまさに天使……お隣よろしいですか?」
「どうぞ」
椅子を引いてめぐみんが座れるようにしてから店員に適当に軽食をいくつか注文する。
昨日僕がギルドに来た時真っ先に出迎えてくれた店員が今度も愛想よく注文を取りに来てくれた。愛想も良く、他の冒険者たちからの評判もよさそうな彼女とは、今後も仲良くしていた方が得かもしれない。
店員と言う立場でなら冒険者たちの愚痴を聞いて思いがけない情報を持っていたりする事もあったりする、かもしれない。
「……ところで、その眼帯はどうしたんだ? 怪我しているならこいつに治してもらったらどうだ? 一応、アークプリーストだから大抵の傷は治せるらしいぞ」
「一応とは何かしら、失礼ね。私はれっきとしたアークプリーストよ! カードにもそう書いてあるじゃない!」
「フッ……これは、我が強大なる魔力を抑えるマジックアイテム……もしこれが外されるような事があれば……この世に大いなる混沌と災いが訪れるであろう……」
それは普通に暗殺要件ではないだろうか。
内心首を傾げた僕とは違って、カズマはそこはかとなく感心したような眼差しをめぐみんに送った。
「へえ、封印みたいなものか」
「まあ嘘ですけど。単にオシャレで着けているただの眼帯……あっ、あっ、ごめんなさい、止めて下さい引っ張らないで下さい!」
「……ええとね、ライ。説明するとね、紅魔族は生まれつき高い知力と強い魔力を持ってて、大抵は魔法使いのエキスパートになる素質を秘めてるの。それでね、彼女たち紅魔族はその名の通り赤い目と、それぞれ変な名前を持っているの」
「……まあ、確かに変わった名前ではあるな」
名前のおかしさでは僕も人を言える立場ではないのだが。
それはともかく、アクアの説明によれば紅魔族であるめぐみんはやはり相当優秀な魔法使いらしい。
ますます他の冒険者パーティーではなく僕らのような初心者駆け出しパーティーに入ろうとしたのかが分からない。性格を加味しても放って置くような人材ではないと思うのだが。
何者かからの間諜だったり……は、ないか。うん。ないな。
「変な名前とは失礼な。私から言わせれば、街の人たちの名前の方が変なのです」
「その辺りは文化の違いだろう。気にするような事じゃない。……ちなみに、ご両親のお名前は?」
「母はゆいゆい。父はひょいざぶろー」
「……こ、個性的な名前だね」
「無理して褒めようとしなくていいと思うぞ」
めぐみんの眼帯を引っ張る事を止めたカズマが席に座りなおしてそう言った。
そうは言っても人の名前はからかっていいものではないだろう。先程も言ったが、文化の違いはどこにでもある事だ。
名前の一つや二つ、別に大したことではないだろう。異世界だし。
「アクアから聞いたけど、紅魔族は魔法の扱いに長けた一族らしい。僕は仲間に加えてもいいと思うけど……二人は?」
「そうだな……ひとまず様子見って事で、今俺たちが受けてるクエストでお前を含めて実力を見せてもらおうか」
「いいんじゃない? 紅魔族を騙ったところでメリットなんてないし、その子の言う通り爆裂魔法が使えるなら、それは凄い事よ? 爆裂魔法は、習得が極めて難しいとされる爆発系、その最上級クラスの魔法だもの」
「決まりだな。僕はライ。彼女はアクアで、彼がこのパーティーのリーダーであるカズマだ。よろしく、めぐみん」
「うむ。この私の最強の力を見せてやろうではないか。……あ、ご飯食べてもいいですか?」
「……お好きにどうぞ。よく噛んで食べてね」
店員が運んできた軽食を次々口に放り込んでいくめぐみんの姿を横目に見つつ、僕は言葉にならない不安を感じていた。
アクアの言う通りなら、ますます他の冒険者たちから勧誘が来ないのかが不思議でならないのだ。
――そして、そんな僕の疑問はすぐに氷解することとなる。
§
腹を満たしためぐみんを引き連れ、僕たちは街の外に広がる平原地帯へと足を運んでいた。
目的はこの世界に来て初めて目にした巨大なカエル……ジャイアントトードの討伐だ。
……一応、僕にとっては初めて目にするモンスターと言う事になっているので、驚いているように見せておこう。
「爆裂魔法は最強魔法。その分、魔法を使うのに準備時間が結構かかります。準備が整うまで、あのカエルの足止めをお願いします」
遠くにいたカエルが一匹、こちらに気付いたのか向かって来ていた。更に逆の方向からもカエルが向かって来ていた。
こちらに向かって来ているカエルの姿を見たカズマが、僕たちに顔を向けた。
「遠い方のカエルを魔法で仕留めてくれ。近い方は……ライ、頼めるか?」
「了解。採用されるように頑張るよ」
「ああ、是非とも頑張ってくれ。……まあ、怪我してもこっちには元なんちゃらのアークプリーストがいるからすぐに治してもらえるさ」
「元ってなによぉっ! 私は現在進行形で女神なのよぉっ!」
「……女神?」
「あー……気にするな。こいつはたまに女神を自称する可哀そうな奴なんだ。なるべくそっとしてやってくれ」
カズマの適当な言葉に納得したのかめぐみんは同情するような眼差しをアクアへと送る。
予想通りと言うべきか、カズマは事情を知るアクアや僕以外には自身の事は秘密にするようだ。言ったところで誰も信じないと考えているのかどうかは分からないが、僕としては都合がいい。あとは、僕がなるべく三人、あるいは二人きりにならないように気を付けよう。
などと、僕が考えているうちに涙目になったアクアが拳を握り、何を思ったかカエルへと向かって駆け出して行った。
「何よ、打撃が効き辛いカエルだけど、今度こそ女神の力を見せてやるわよ! 見てなさいよ、今のところ活躍してない私だけど、今度こそ!」
勇ましく向かって行ったアクアは特にカエルに傷を負わせる事もなく捕食された。
「学習能力ないのか、あの馬鹿……」
「あー……ちょっと、助けに行って来るよ」
呆れたように頭を抱えるカズマに一声かけて、僕はアクアを呑み込むためにその場から動かなくなったカエルを目指して地面を蹴る。
この日のために制服から服を変え、防具として籠手と脛当てを購入した。
重すぎず、軽すぎず、僕が全力で走っても邪魔にはならないが、安物なので防御力は気休め程度と思った方がいいだろう。鉄製なので強度はそれなりだが、魔法なんてものがある世界だ。純粋な物理防御力をどこまで信じればいいのか……
武器は腰に巻いた剣帯に吊り下げた細身のロングソード。こちらも安物だ。
僕の特典を隠すための装備でしかないので、金をかける必要もない。――っと、
「全然動かないな……助かるけ、どっ!」
剣を抜き、カエルの口から垂れ下がったアクアの足の長さで大まかな位置を割り出し、うっかり彼女ごと斬らないように注意しつつ、カエルの腹を切り裂いた。
痛覚が鈍いのか、腹を裂かれたと言うのにカエルは身じろぎ一つしない。一体どんな神経してるんだ。
ぱっくり開いたカエルの腹に手を突っ込み、ちらりと覗くアクアの手を掴んで引きずり出し、抱き留める。
「うええええええええええええっ……女神なのにぃ……ぐすっ……わだじめぎゃみなのにぃいいいいいいいいっ……びええええええええええっ」
号泣だった。
思わず見惚れるほどの美少女がカエルの粘液まみれで大号泣していた。
どうしよう。凄く帰りたい。
とは言えまさか本当に放置して行く事も出来ない。……なんだろう。こう、地雷原に足を踏み入れてしまったような気がしてきた。
「……よしよし。アクアは十分頑張ってるから……」
「えぐっ、うぐっ……ありがとねぇ……ありがとうねぇ……帰ったらカエルの唐揚げ一つ上げるからねぇ……えぐっ」
「泣かない泣かない。せっかくの綺麗な顔が涙で……涙? で、台無しになってるよ。ほら、拭いてあげるから手を退けて」
泣きじゃくるアクアをどうにか宥めてハンカチでどろどろになった顔を拭く。
なんでだろう。見た目は同い年ほどに見えるのに、まるでそうは思えない。
年下の童子にそうするように頭を撫でていると、泣きながら縋り付かれた。……ああ、この服買ったばかりなのに。
ちなみにカエルは腹を切り裂かれた時点で絶命していた。一体どんな生態なんだ。よく絶滅しなかったな。
――瞬間、轟音と衝撃。
「っ!? なんだ、今の……っ!?」
泣きながら縋り付いて来たアクアをそのままに、衝撃の起こった方向へと視線を向ける。
爆煙が立ち込めるその場所が、徐々に晴れて行くと――そこには二十メートル以上ものクレーターが出来ていた。
今の凄まじい衝撃は、まさかめぐみんの言っていた爆裂魔法なのか……?
言葉にならないほどの圧倒的な攻撃力。こんなものを、わずか十三歳程度の女の子が自由に扱えるのか。
これほどの力。もし人間に向けて放たれたとしたら――仮に僕が敵対する事になったら。
僕がクラスカードを使ったとして、果たして生きていられるだろうか……?
内心の戦慄を表情に出さないように息を吐き出し、僕はカズマとめぐみんの姿を探した。
爆裂魔法(おそらく)の跡地を唖然と見つめるカズマのすぐ傍で、めぐみんは――地に伏していた。
……うん?
思わず首を傾げた僕の視線の先で、先程の爆発の衝撃に驚いたのか、倒れためぐみんのすぐ近くからもう一匹のカエルが這い出ようとしていた。
「ぐすっ……爆裂魔法は人類が行える中で最も威力のある攻撃手段なの。でも、その威力と引き換えに消費魔力も絶大で……」
「……つまり?」
「誰も使わないネタ魔法って言われてるのよ」
どうにか落ち着いて来たらしいアクアの説明を聞く僕の視線の先で、地面からのそのそと這い出て来たもはや見慣れたカエルがめぐみんに顔を向けた。
……あ、食われた。
半ばやけくそのようにショートソードを引き抜いたカズマが、カエルの頭を砕いて絶命させ、口の端から伸びためぐみんの足首を掴んで引きずり出している。
……アクアから聞いた話をまとめると、だ。
めぐみんの爆裂魔法は人類最強の攻撃である半面、魔力消費もシャレにならず。
結果、一度使用すれば魔力切れになり、動けなくなったのが今のめぐみん、と言う事か。
なんだろう。なんと評すればいいのかちょっと僕には分からない。
未だ泣き止まないアクアの手を引き(離してくれなかった)、僕はカズマたちの元へ向かう。
合流したカズマは、酷く疲れた顔をしていた。
「……帰るか」
「……そうだね」
――こうして、僕の異世界における初めてのクエストは、なんとも反応に困る幕引きとなった。
もしかしたら僕は早まった真似をしてしまったかもしれない。……はぁ。
シリアスなどさせぬぅっ!