長らく待たせた割に低クオリティの手抜きですが……つ、次は大丈夫! 原作に描写がないのは極力カットしているだけだから! 次からが本番だから!
「皆さん! 突然のお呼び出しすいません! もうすでに気付いている方もいるとは思いますが、キャベツです! 今年もキャベツの収穫時期がやってきました! 今年のキャベツは出来がよく、一玉の収穫に付き一万エリスです! すでに街中の住人は家に避難していただいてます。では皆さん、出来るだけ多くのキャベツを捕まえ、ここに納品してください! くれぐれもキャベツに逆襲されて怪我をしないようにお願いします! なお、人数が人数、額が額なので、報酬は後日、お支払いとなりますので!」
キャベツ──アブラナ科アブラナ属の多年草。主に野菜として多く食され、栽培上は一年生植物として扱われる。ちなみに、よく似たレタスはキク科の野菜なのでキャベツとは親類でも何でもない。見た目が似ているだけだ。
キャベツの親類種はケールやブロッコリー、カリフラワーなどが該当する。
野菜なのでてっきり畑に生えてくる物と思っていたが……そうか。キャベツは飛ぶのか。
「……なあ、カズマ」
「……なんだ、ライ?」
「キャベツって、空飛ぶ野菜だったんだな。これからは農家の方々に敬意を持って接することにするよ」
「落ち着け! キャベツは普通飛ばないぞ! お前が正気を失ったら俺が大変なんだよ!」
カズマは涙目だった。
歓声を上げる人々の視線の先には、大空を悠々と飛び回る緑色の丸い物体……キャベツだった。紛うことなきキャベツだった。
「そう言えば、二人は知らなかったわね」
空飛ぶキャベツと言う摩訶不思議な減少に呆然と立ち尽くしていると、いつの間にか側に来ていたアクアが厳かな雰囲気を醸し出していた。
それはあたかも、神託を告げるがごとく。
「この世界のキャベツは──飛ぶわ。味が濃縮してきて収穫時期が近付くと簡単に食われてたまるかとばかりに。街や草原を疾走する彼らは大陸を渡り海を越え、最後には人知れぬ秘境の奥で誰にも食べられず、ひっそりと息を引き取ると言われているの。それならば、私たちは彼らを一玉でも多く捕まえて美味しく食べてあげようってことよ」
「……そっか。きっとキャベツも喜んでくれるよ」
「帰って来いライ! 俺を一人にしないでくれぇ!」
僕はしばらく一人になりたいかな……
馬小屋に帰って寝たい、と現実逃避するように項垂れるカズマはひとまず置いておいて、だ。
僕もいつまでも呆然としているわけにもいかない。
冒険者たちがここまで気勢を上げているのはこのキャベツ収穫の報酬が格別だからだろう。僕としても参加しない理由はない。
……キャベツっぽい鳥を捕まえているのだと思えば、うん。大丈夫。何がどう大丈夫なのかは自分でも分からないけど。
§
「私の名はダクネス。職業はクルセイダー。一応両手剣を使ってはいるが、戦力としては期待しないでくれ。なにせ、不器用すぎて攻撃はほとんど当たらん。だが、壁になることは得意だ。頑丈さだけが取り柄でな。むしろ、堅牢な肉壁として遠慮なく盾にして欲しい」
「そうですね」
「アークプリーストのアクアにアークウィザードの私、そしてクルセイダーのダクネス。上級職が三人とは、我々のパーティーも大分豪華な顔触れになってきましたね」
「そうだね」
新たに加入した前衛職のダクネスに盛り上がるアクアとめぐみんをよそに、僕とカズマは死んだ目で採れたてキャベツを口に運ぶ作業を続けていた。
摩訶不思議に美味しいキャベツが悲しかった。
キャベツ採集の際、ダクネスと意気投合したアクアとめぐみんがパーティーに加えようと提案して、元々そのつもりだった僕も賛同したのだが……正直後悔している。
なにせ彼女、防御系スキルにスキルポイントを全て注ぎ込んでいるため攻撃が一切当たらないのだ。前衛職なら習得して当たり前と言う、《両手剣》などを初めとする武器の扱いが上達する攻撃スキルを一切習得していないらしい。
武器系統のスキルを習得していないのは僕も同じだが、スキルを習得するまでもなく大抵の武具なら扱える。が、ダクネスは元々武器を扱えるわけでもなく、見ていた限りでは力任せに剣を振り回しているだけのように思える。
「ああ……先程のキャベツやモンスターの群れに蹂躙された時は堪らなかったなぁ……」
これがなぁ……
カズマはうつろな目でキャベツを咀嚼しながら「美人なのになぁ……見た目はクール系美女なのになぁ……」と呟いている。哀愁を誘うその姿に僕は罪悪感から皿に残っていた肉を二切れほど贈呈しておく。
今はなにやら煤けているが、カズマは先程のキャベツ収穫にて八面六臂の活躍だったのだ。
空飛ぶキャベツを追って街に迫っていたモンスターの群れを爆裂魔法で粉砕──した後恒例の魔力切れで倒れためぐみんを素早く回収し、キャベツやモンスターたちのど真ん中に自分から突っ込んで行き案の定囲まれ袋叩きにされるダクネスをキャベツを的確に収穫して救出。
潜伏スキルで気配を消し、敵感知でキャベツたちの動きを捕捉し、スティールで背後から強襲する姿はまるで暗殺者のごとし。
動きが的確と言うか、素の能力が低い分それを補うための創意工夫は僕自身、目を見張るものがある。いい意味で常識に囚われていない……いや、僕と違ってカズマはこの世界に早くも順応しつつあるのだろう。侮っていてはいずれ思わぬところで足下を掬われるかもしれない。
「このパーティーでは本格的な前衛職は私だけのようだから、遠慮なく私を囮や壁代わりに使ってくれ。なんなら、危険と判断したら捨て駒として見捨ててもらってもいい。……んんっ! そ、想像しただけで、む、武者震いが……っ!」
頬を赤く染め、息を荒げるその姿は、傍から見ていると官能的に映ったりするのだろうか。
僕の目には被虐的趣味の変態にしか映らないのだが。
「あらゆる回復魔法を操るアークプリーストに、最強の攻撃魔法を使うアークウィザード。そして、鉄壁の守りを誇るクルセイダーか……」
凄いな。完璧な布陣だ。
支援職なのに前に出てモンスターに捕食されるアクアに、一日一発一種類の魔法しか使えないめぐみん。そして、攻撃が一切当たらない前衛職のダクネス。
凄いな。苦労しかしなさそうだ。
「というわけで、だ。これから多分……というか確実に足を引っ張ることになるだろうが、そんな時は是非遠慮なく罵ってくれて構わない。むしろ強い口調で罵倒されると興奮す──んんっ! 反省できるからなっ!」
「今興奮するって言ったか?」
「言ってない」
とりあえずこれから先カズマには優しくしよう──僕は密かに心にそう誓った。
§
そんな一幕もあって、無事に……無事に? 僕たちのパーティーに仲間が一人増えることになった。
いずれこのパーティーは切り捨てる算段ではあるが、それまではパーティーの一員として影に日向に彼らを支えよう。……いや、本当に、自分で企てておいてこんなことを思うのも変な話だが、流石にカズマが不憫すぎる。
それはそうと、キャベツ狩りを経てカズマの冒険者レベルが6になった。何故、普通にモンスターを倒すよりキャベツを捕まえただけでレベルが上がるのか理解に苦しむが、そう言うものだと受け入れよう。ここは異世界。いちいち僕の常識と照らし合わせていたら胃が荒れる。
聞いたところによると、新鮮なキャベツを食べると経験値が貰えるらしい。つまり、資金力のある冒険者ならわざわざ危険を冒してモンスターを狩るよりも安全にレベルが上げられることになる。キャベツ襲来であそこまで士気が高かったのも、そういった事情もあるのだろう。
なのに、僕のレベルは相も変わらず1のままだ。
これは何らかの不具合を疑った方がいいのだろうか……? 幸い、と言うべきか、僕のステータスは十分に高い。女神であるアクアには流石に及ばないが、それでもダクネスとめぐみんには総合力で勝っている。ここ、アクセルの街は駆け出し冒険者が多い街。駆け出しが多いということは危険度も比較的低い、と言うことに他ならない。
余程のことがない限り、そうそうやられることはないだろう。現状、どうにもならなかったらクラスカードをしようすれば対処出来るだろう。出来なければ諦めるしかない。
レベルが上がったことにより得られたスキルポイントでカズマはキャベツ狩りの際に仲良くなったという他パーティーの魔法使いと剣士からそれぞれ《初級魔法》と《片手剣》のスキルを教えて貰ったらしい。
抜け目がないというか、機を見るに敏とするべきか……
そんなカズマはアクアと共に装備を整えに武具ショップに行っている。流石にジャージで冒険はキツイと感じたのだろう。僕は既に必要な装備は整えているので現在はギルドでダクネス、めぐみんと共に二人を待って待機中だ。
……ちなみに、僕がこの世界に来た時ある程度の資金を渡されたと言った時、カズマは物凄い表情でアクアを睨みつけていたが、あれはどういう意味だったのだろうか。まさか、無一文で異世界に放り出されるわけはないだろうし。
「カズマたちを待っている間何もしないと言うのもな……私たちで稼ぎのいいクエストをいくつか探しておくか?」
「ああ……まあ、装備を新調したら試したくなるだろうしね。いいよ、探そうか」
「出来れば私の爆裂魔法が活躍するクエストがあればよいのですが……」
「……この辺りだと過剰戦力じゃないかな」
言いつつ、僕たちは手頃なクエストを探すべく掲示板まで移動する。
「ふむ……今の時期だとジャイアントトードが繁殖期に入っているからな。街の近くまで出没している奴を討伐するクエストが──」
「カエルは止めましょう!」
ダクネスに最後まで言わせず、強い口調でめぐみんが拒絶した。
「……なぜだ? カエルは刃物が通りやすくて倒しやすいし、攻撃も舌による捕食しかしてこない。倒したカエルは食用として売れるから稼ぎもいい。パーティーの試運転には十分だと思うのだが……」
「ああ……めぐみんは前にそのカエルに食われた事があって、それがちょっとトラウマになってるみたいなんだよ」
「カエルに食われた……きっとカエルの粘液まみれになって胃液で衣類を溶かされてあられもない姿に……そしてその姿に欲情したならず者たちに……ああっ! 駄目だっ、そんなっ!」
「……あの、ライ? なぜ私の目を塞いでいるのです?」
「ちょっと……情操教育に悪い光景が広がっていてね」
「いえ、私はもう十分に大人なのですが……と言うか前から思っていたのですがライは私を妙に子供扱いしていませんか?」
「ソンナコトナイヨ」
「何故カタコトなのですか!?
それはそうとダクネス。勝手に想像して勝手に悶えないでほしい。
頬を染めて息を荒げるダクネスは……なんと言うか、思春期なのだろう。
被虐趣味で思春期を拗らせるのは止めてほしい。
「……お前ら何やってんの?」
ダクネスの奇行に僕が心の底から引いていると、買い物を終えたらしいカズマが呆れを多分に含んだ眼差しを送ってきていた。
見れば見慣れたジャージではなくこの世界の服の上に革製の胸当てと金属製の籠手と脛当てを身に着けていた。武器も新調したのか片刃の剣を一振り、腰に差していた。ちょうど、僕と似たような格好だ。
ひとしきり妄想して気が済んだらしいダクネスがカズマに視線を送り、ほう、と感心したように頷いた。
「見違えたな、カズマ。ようやく冒険者らしく見えるぞ」
「今まで俺ってどういう風に見られてたの?」
不審者とでも思われてたのだろう。
「ま、まあいい。とにかく、緊急クエストのキャベツ狩りは除くとして、このメンツでは初めてのクエストだ。幸先良く行くためになるべく楽なクエストがいいな」
「まったく……これだから内向的なヒキ二ートは。そりゃああんたは最弱職で、同じ最弱職のライとは天と地ほどの差があるから慎重になるのは分かるけど、この私を初め、上級職ばかりが集まったのよ? もっと難易度の高いクエストをバシバシこなして、ガンガンお金稼いで、どんどんレベルを上げて、それで魔王をサクッと討伐するの! というわけで、一番難易度の高い高いヤツに行きましょう!」
至極真っ当なことを言っているカズマを小馬鹿にするようにアクアがそんな無茶なことを言う。
いや、アクアの言っていることも間違いではないのだ。間違いでは。ただ、このメンバーを普通の上級職の面々と同格に扱っていいのだろうか。
多分、よくないと思うのだが。
そんなことをつらつらと考えていると、カズマは妙に据わった眼差しをアクアに送っていた。
「……お前、言いたくないけど……まだ何の役にも立ってないよな」
「!?」
カズマの言葉にアクアがびくりと肩を震わせた。
「本来なら俺はお前からチートな能力か装備かを貰って、ここでの生活には困らなかったわけだ。まあ、俺も? その場の勢いで? チートな能力や装備よりもお前を選んだわけだし? ケチなんて付けたくないよ? でもさぁ、本来俺が貰えるはずだったチートの代わりにお前を貰ったのに、お前は今のところそのチート並みに役に立っているのかと俺は問いたい。どうなんだ? 最初は自信たっぷりで偉そうだった割に、ちっとも役に立ってない自称元なんとかさん?」
「う、うぅ……元じゃなくて、その……い、一応、今も女神、です……」
「女神!? 女神ってあの!? 勇者を導いてみたり、勇者が一人前になるまで魔王を封印して時間を稼いだりする!? 今回のキャベツ狩りのクエストで、お前がやったことってなんだ!? キャベツに翻弄されて転んで泣いてただけだろ? お前、野菜に泣かされといてそれで本当に女神なの?」
「うう……で、でも最終的にはいっぱい捕まえたし……」
「お前ライに手伝ってもらってただろうがあああああああああああああああああああああっ! そんなんで女神名乗っていいと思ってるのか!? この、カエルに食われるしか脳のない、宴会芸しか取り柄のない穀潰しがぁああああああああああああああああああああっ!」
「う、うわぁああああああああああんっ!」
カズマの容赦の欠片もない言葉攻めに精神に大ダメージを受けたアクアは泣きながら崩れ落ちた。
勝った……と、カズマが生産性のない勝利に浸っている間、僕はダクネスに助言を貰いながら、クエストを見繕っていた。
「あー、カズマ。そっちは終わったのか?」
「うん? ああ、ライ。どうした? なにかいいクエストでも見つかったのか?」
「それなんだが、これはどう──えふっ!?」
「ライぃいいいいいいいっ! カジュマがぁ! カジュマがぁあああああっ!」
カズマに見つけたクエストのことを離そうとした矢先、飛びついて来たアクアの頭頂部が僕の腹部にめり込んだ。
完全な不意打ちを急所に受け、鈍い鈍痛に脂汗がにじむ。
「お、おい、大丈夫か? 私が変わってやれたらいいのだが」
「……僕も、変われるのなら、変わりたいね」
「本当に大丈夫ですか……? 脂汗が凄いですよ……?」
正直、ギリギリだ。
出来れば直ぐにでも座って一息つきたいところなのだが……ショックのあまり号泣しているアクアを放っておくのも気が引ける。いや、同情の余地はあまりないのだが。
「な、なんとか。……こっちは落ち着かせておくから、説明を……ぐっ」
「聞いてよ! カズマが酷いのよ! 引きこもりの二ートのくせに! 二ートのくせにぃっ!」
「……ええ、では、カズマの方はこちらで説明しておくので、アクアは任せました」
さて、まずは女神を慰めよう。
……今更だが、カズマと組んだのは失策だったかもしれない。
更新は気まぐれ、遅執ですが、とりあえず一巻までの内容はやるつもりですので。
二巻からは……どうしようかな。
次回もよろしくお願いします。