翡翠のヒロインになった俺   作:とはるみな

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 なんでこうなった……。

 

 

 

 

 公共バスに揺られながら、俺は数十分前の行動を悔いる。

 

 

 あのとき、もっとストレートに"ゲームを買ってほしいです"……と伝えておけば……こんなことには……ならなかったのに…

 

 

 後悔先に立たず。

 俯き、頭を抱えていると、矢野が腫れ物を触るかのような態度で話しかけてきた。

 

 

「ほら、ヴェーチェル。もうすぐだぞ」

 

 

 矢野の言葉に、俺は顔を上げ、窓から景色を覗く。

 

 窓の先には、確かに観覧車やジェットコースターのレールなどか見えた。

 

 ――そう、俺たちはゲームを買いにゲームショップへ……ではなく町外れにある遊園地に向かっていた。

 

 

 発端は明々白々たるもので、俺の脅し。

 

 ゲームが買ってほしいと遠回しに訴えた、その言葉を、実質産みの親である矢野は、遊園地に行きたいと受け取ったらしい。

 

「じゃあこれから遊園地に行くか」と焦りながら言われたときは、逆にこっちが焦った。

 

 いや、だってねぇ……遊園地とか人絶対多いじゃんか……。

 そもそもの話、矢野に適当にゲームを買ってきてもらおうと思ってたのにいつの間にか俺も外出する前提になってるし……。

 しかも、違うって否定したくても、確かに公式設定では好きな場所は遊園地になってるから否定できないっていうね…………

 

 

 気がついたら完全に詰んでた。

 やっぱ脅し(なれないこと)はするべきじゃない……。

 

 

「――ホントだ」

 

 

 内心後悔し続けながら、俺は、矢野に怪しまれぬようヴェーチェルを演じる。

 

 

「はは……ヴェーチェル、他の人たちもいるし、バスでは静かにな…………あと、髪がフードから少しはみ出してるからしっかり隠してくれ」

「うん」

 

 軽く返事を返し、フードを被り直す。

 

 ただでさえ、人の目に付きやすい遊園地だ。

 ここでフードが脱げたりしたら……考えただけでも恐ろしい。

 

 ――ジェットコースターには絶対乗れないな……まぁ、フードじゃなくても乗るつもりはないけど……

 

 あの恐怖は二度と体験したくない……一年前に友人達と訪れた遊園地での出来事を思い出していると、バスが停車した。

 間を開けず、目的地に着いた主旨を伝えるアナウンスが流れる。

 

 

 

「なぁ、ヴェーチェル。まず何から行きたい?」

 

 

 ドアが開き、ゾロゾロと周りの人たちがバスから降りていく中、矢野がこちらを向いて訊ねてきた。

 

 

 ――そんなのテキトーに回ればいいじゃん……あっ……

 

 

 そう言葉に出そうとして、気付く。

 

 俺の暴走を重んじていたのか、焦りしかなかった矢野の表情に、微かに弛みが見えた。

 

 

「――ねぇ、お父さん」

「ん?」

「お父さんって最後に遊園地に行ったのっていつ?」

「え? あ、うーん……覚えてないな。少なくともここ数年は行ってない」

 

 

 そっか。そうだよな。社会人って忙しいもんな……

 

 納得する、と同時に決意を固める。

 

 

 ――よし、決めた。せっかくの機会だし、どうせならこの際――

 

 

「じゃ、そろそろ行こう」

「ちょ、おい、引っ張るなって。て、ヴェーチェル!?」

「あはは。早く早く」

 

 

 

 ――矢野を目一杯楽しませよう。

 

 その一心を抱いて、俺は矢野の腕を引き、駆け出した。

 

 

 

 


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