翡翠のヒロインになった俺   作:とはるみな

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 容姿、成績、運動と平均的な能力しか持たない。重い病気を患っているわけでもないが、病気にかからない、なんてこともない。これと言った特技もなし。ごくごく一般的な普通の男子高校生。

 

 安直且単調でありふれたプロフィールだが、他者だけでなく自分もそうであると認めているのだから誤魔化しようがない。

 要するにツマラナイ人間、或いはモブ。

 

 それが俺、原圭介だ。

 

 しかし、まぁ。

 敢えてそのプロフィールに付け足すことがあるとするならば……ボッチであること、そして何かを忘れている、かも知れないことだろう。

 

「何を忘れているんだろうか」

 

 昼休み。教室で昼食を食べている最中、ふとした拍子にボソッとそんな言葉が口から出た。

 

 いけねっ。

 素早く口を閉ざしたが、幸いにも俺の言葉はクラスの狂騒で掻き消され級友達には届かなかったみたいだ。

 

 危ない危ない。ただでさえボッチで印象悪く思われているのに、独り言まで呟き始めたらますます距離を置かれてしまうところだったぜ。

 

 ほっと、安堵の息を溢して、再び思考の海へと潜る。

 

 何かを忘れている。そう感じるのは気のせいではない。断言できる。

 

 言うならば半身が無くなったかのような、そんな感覚。

 だが、肝心な何が無くなったのかが全くもって不明だ。過去の記憶を幾ら遡ろうと思い出すことができないでいた。

 

 重要なことを忘れているのは分かってるのに……あー、くそ、もどかしいったらありゃしないぜ……。

 

「はぁ……」

 

 ガシガシと頭を掻き、溜め息を吐いた。

 その時だった。

 

「あ、あの原くん?」

「え……あ、はい。何ですか?」

 

 不意に声をかけられ振り向いた先にいたのは、同じクラスメイトながらも数回しか会話を交わしたことがない名も知らぬ女子生徒だった。

 その為、思わず声が上擦ってしまったものの女子生徒は気にした様子を見せず、窓の向こうを指差して、一言。

 

「あの人が原くんを呼んでほしいって言ってたの」

 

 女子生徒が指差す校門の前には、フードを深く被った如何にも怪しい人物が立っていた。

 

「いや、え……誰だ……」

「あー……確かに怪しい格好してるけど可愛い女の子だったよ。なんか……原くんの友達の森島由宇? って人の妹だってさ。じゃ、伝えたからね」

 

 俺に友達? 森島……由宇? いや誰だ。

 どこかで聞いたことがあるような気がしないでもないんだが…………駄目だ分からん。

 

 だが、俺が何かを忘れてしまったタイミングで、俺の知らない人の妹を語る怪しい人物。

 彼女ならば、もしかしたら――

 

「ありがとう」

 

 名も知らぬ女子生徒に感謝の言葉を告げると、俺はまだ中身が残っていた弁当を片付け、校門へと向かった。

 

 ――もしかしたら、俺が忘れてしまったものを知っているかも知れない。

 

 そんな期待を胸に抱きながら。


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