翡翠のヒロインになった俺   作:とはるみな

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 【神の使いの災禍姫】

 シナリオゲームであり、高いアクション性を誇るこのゲームは、チュートリアルクリアからストーリーが分岐する。

 全六人のメインヒロインのうち、誰のルートから進めるかを選べる仕組みとなっていた。


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【神の使いの災禍姫】はシナリオゲームであり、対戦ゲームの類ではない。

 

 故にヴェーチェルが示した対決内容は以下の通りだった。

 

 ゲーム開始と同時に球体の風が進行を開始し、おおよそ二時間ほどで街に到着する。

 風が街を破壊するまでにヴェーチェルルートをクリア出来たら矢野の勝ち、というタイムアタック形式。

 

 

 プロローグとチュートリアルはそう長くない。五分もあれば完了する程度だ。

 だが、ヒロインのルートとなると話は別。

 

 初回ルート選択ということで難易度は低めに設定されているが、何度も繰り返す通りこのゲームはシナリオゲーム。

 戦闘もあるが、当然メインはシナリオになる。当然スキップは許されておらず、ましてや実況をしながら進めていかなくてはならない。

 

 一度でも戦闘で敗北したらその時点で負けが確定する。

 

 にも関わらず、有力装備を手に入れる手段であるガチャは禁止とのこと。

 

 

 かなり無理ゲーであった。

 

 救いの点は従来の育成ゲームと違いプレイヤースキル次第で、低ステでも戦闘に勝利できること。そして何処でイベントが発生するか、覚えていることの二点のみ。

 

 

 当然そんな中自信など生まれるはずもなく、矢野はただ不安でしかなかった。

 

 

 

 

 

 

 

「まぁ、それでもやるんだけどさ」

「頑張れー」

 

 私生活用の携帯には既にインストールされている為、仕事用の携帯でアプリをインストールする。

 

 因みに電波はヴェーチェルがどっかから勝手に引っ張ってきているとのこと。

 

 理屈は不明だが、まぁヴェーチェルなら出来るんだろうなと矢野は納得していた。

 

 

「じゃあ準備はいいかな? カウント始めるよ」

 

 

 ヴェーチェルの間延びとした声が響く。

 

 

 

 ーー10、9、8、7、6。

 

 

 矢野は大きく息を吸って、吐いた。

 

 

 ーー5、4、3、2、1。

 

 

 ゴクリ、生唾を飲み込む。

 大丈夫。自分なら出来る。そう言い聞かせて携帯を強く握る。

 

 

 ーー0。

 

 

「スタート!」

「…」

「ほら実況。あっ、私のセリフはいいけど、主人公君のセリフはちゃんと読んでね」

「分かった。えーと…それではゲーム開始。今日は【神の使いの災禍姫】というゲームをやっていきます。今回はですね、チュートリアルをクリアしてメインヒロインの一人であるヴェーチェルルートに進みたいと思います」

 

 

 こうして矢野にとって人生で最初で最後のゲーム実況が始まった。

 

 

 

 

 

 

 ファイル【翡翠01】

 場所:A町 カフェテリア

 概要:幼なじみとの待ち合わせの途中、主人公は緑の髪の少女に声をかけられる。

 

 

「『あ、あぁ。隣なら空いてるけど……他にも席空いてる所は沢山……。え、いや駄目じゃないんだけどさ!』」

 

「『っと、待ち合わせ相手が来たから、オレはもう行くよ。じゃあな』」

 

 

 ファイル【翡翠02】

 場所:A町 市街地a

 概要:街へ買い物に行く際、主人公はカフェテリアで会った緑髪の少女と再会する。

 

 

「『あー、この間の。…そういえば君、名前は? いやいや、ナンパじゃないって!? 本当だってば!』」

 

「『確かに、人の名前を聞く前に自己紹介するべきだよな。オレは[ーー]だ、よろしく』」

 

「『はは…結局教えてくれないのね…。まぁいいさ。いつか君がオレのことを信用出来ると思えた時に教えてくれれば』」

 

 

 ファイル【翡翠04】

 場所:A町 市街地f

 概要:部活動で遅くなった主人公は、帰り道に緑髪の少女と出会う。

 

 

「『うわっ!? ビックリした、なんだ君か。こんな時間帯に女の子が出歩くもんじゃないぞ。最近は異常気象が発生しているみたいだし。早く帰った方がいいよ』」

 

「『あぁ。オレはこの辺りに住んでるんだ。どうしてそんなことを?』」

 

「『もうこの街には異常気象は起こらない? え…それってどういうことだよ?』」

 

 

 

 

 

「え、怖。何この主人公君。私の行動、完全に読まれているんだけど…」

「それは言わないお約束だろ…」

 

 大袈裟に身体を震わせるヴェーチェルに、矢野は小さく息を漏らす。

 

 ーーここまでは順調。かなりのスピードでクリアできているはず。

 ーー問題はここから、か。

 

 矢野は自分の頬を強く叩き、気合を入れ直した。

 

 

 

 

 ファイル【翡翠08】

 場所:B町 海が見える公園

 概要:隣町へ遊びに出かけた主人公は、異常気象に巻き込まれる。そんな中、避難所と反対方向へ歩く緑髪の少女を見かけ、追いかけた。

 

 

「『おい、待ってくれ! 何処行くんだ! 危ないから一緒に避難しよう!』」

 

「『その必要はない? この風は私の力…だって?』」

 

「『あまり信じられないな。…ってなんだコレ!? 風……まさか本当に…!?」

 

「『世界を壊す為に…生まれた…?』」

 

 

 

 

 

「ヴェーチェル、近い。近いから! 少し離れてくれ」

「画面小さくて見えないんだもん。仕方ない、仕方なーい。役得じゃんかー」

「頼むから少し離れてくれ!」

 

 

 

 ファイル【翡翠14】

 場所:A町 廃れた神社

 概要:遠く離れたD町に突如発生した巨大な球体風。主人公は緑髪の少女を止めるために、発生した場所へと向かう。

 

 

「『交通機関は麻痺……くそ…どうやって向かえばいい!?』」

 

「『え……は? 一体何が…? ここは……D町?』」

 

「『……考えるのは後だ。まずはあの子を止めないと』」

 

 

 

 

 

「…え? なにこれ……確かにあの時、どうやって主人公君来たんだろうと思ってたけど………」

「あー、それは四章くらいで分かることなんだけどーー」

「あ、ネタバレはいらないからね。寧ろしたら絶殺だよ」

「お、おう…わかった」

 

 

 

 ファイル【翡翠16】

 場所:D町 周辺部k

 概要:巨大球体風の元へと辿り着いた主人公は、緑髪の少女と再会する。

 

 

「『よう、奇遇だな』」

 

「『ストーカーじゃねぇよ…。まぁいい。そんなことより話したいことがあるんだよ』」

 

 

 ファイル【翡翠17】

 場所:D町 周辺部k

 概要:緑髪の少女の独白を聞き、主人公はーー。

 

 

「『だからなんだ! 世界を壊す為に生まれた? そんなもん知るか! 大事なのはお前が何をしたいか、だろ!』」

 

「『親の意向なんて関係ねぇよ! お前の意思が知りたいんだ!』」

 

「『オレは君が笑顔でいられるなら死んだって構わない!』」

 

 

 ファイル【翡翠19】

 場所:D町 周辺部k

 概要:迫りくる竜巻の群れを回避し、緑髪の少女の元へ何とか辿り着いた主人公は、少女にデコピンをする。

 

「『はぁ……流石に竜巻で追いかけ回すのは酷くないか……? オイタも程々にしてくれよ、この悪戯娘』」

 

「『ん? 別に怒ってなんかいないさ。言っただろ?』」

 

「『君が笑顔でいられるならオレは死んだって構わない、って』」

 

「『あぁ、オレが生きているうちは君をもう泣かせない。……嬉し涙は勘弁してくれ。でないと早速約束を破る駄目男になっちまう…』」

 

 

 ファイル【翡翠20】

 場所:D町 周辺部k

 

 

「『ヴェーチェル…。そうか。ようやく聞けたな。君の名前』」

 

 

 

 

 

 

 

 無事エンディングを迎え、ホッと安堵の息を漏らした矢野に、すぐ隣に座っていたヴェーチェルはポツリと呟く。

 

「こうして客観的に見ると、痛いし寒い台詞だよね」

「うぐっ…!?」

「だいぶご都合主義も入ってるし」

 

 

 ぐさりと突き刺さる批判の言葉の数々。

 

 しかし。

 

 

「だけど…やっぱいいなぁ……」

 

 そう言うヴェーチェルの頬は微かに緩み、紅潮していた。

 

 

 

 

 

 

「あ、そういえば時間は!?」

 

 すっかり頭から抜けていたが、どのくらい経ったのだろうか。一発クリア出来たため、二時間は経過していないと信じたいが。

 

 焦る矢野に、ヴェーチェルはあははと笑い声をあげた。

 

「大丈夫、心配しないでも勝負は君の勝ちだよ」

 

 サラサラと風の球体が溶けるようにして消えていく。

 淀んでいた雲は消え、代わりに綺麗な星空が見えていた。

 次いで、静かで優しい波の音が聞こえてくる。

 

「あれ?」

 

 矢野は目を見開いた。

 

 場所が、風の球体の中に取り込まれる前からまるで変わっていないことに。

 

「まさか…移動させなかったのか…」

「うん、まぁ君ならクリア出来ると思ってたからね。それに私も『私』に罪の意識を背負って欲しくなかったからさ』

 

 驚愕を隠せないでいる矢野に、さも自信ありげな表情でヴェーチェルが語る。

 

「気づいてた? 君、主人公くんと同じ匂いがしてたよ」

「ーー!?」

「じゃあね、お父さん。『私』が帰ってくるといいね」

 

 

 矢野に笑顔を向けた後、もう話すことはないと言わんばかりにヴェーチェルは徐に目を閉じた。

 

「待ーー」

 

 刹那、辺りは眩しい光に包まれた。

 

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