家を出た俺は一直線に近くのスーパーへと足を進める。
時刻は朝9時。
登校や出勤時間のピークが過ぎたとは言え、それなりに大きな街のため人が多い。
そのため、自宅から徒歩5分で着く距離と言えど、多くの人とすれ違うことになった。
『――でさ……』
『――ん……それで災禍姫が…………』
「――っ…」
断片的に聞こえてきた声に思わず肩が震える。
チラリと視線を上げ確認。
俺を見て言った訳じゃないと知ってホッと息を溢し、フードを押さえる。
フードを深く被っているとはいえ、足まで届く緑髪を完全に隠しきれているわけではない。
しかし、一昨日よりは注目が少ないのは確かだ。
ここでフードが脱げてしまったら……
そう考えると寒気がする。
怖い……怖い……
人の視線が怖い。
一昨日感じた好奇心に晒される感覚。
それを連想し、恥ずかしさよりも恐怖を感じた。
俺は再度フードを強く押さえて、俯きながら早足で歩く。
このまま容姿が戻らずヴェーチェルとして生きていくのならば、人の視線に晒されるのはごく普通。当たり前のことになる。
いつかは慣れないといけないこと。そう理解しているが、今はまだ無理だった。
そうしているうちに足を出すペースは更に加速していき、最終的に駆け足になり掛けたところでスーパーにたどり着いた。
――さっさと買い物して帰ろう……
適当に目についた賞味期限が長く安い野菜、肉などを買い物かごに詰めていく。
買い物かごが大体半分くらい満たされたところで、レジに向かった。
それから逃げ出すように帰宅した俺は、そのままベッドに飛び込んだ。
今日だけでかなり精神が削られた。
チラと時計を見れば9時20分を指していて、いかにスピーディーに買い物を終えたのかがハッキリとわかる。
しかし、既に一日を終えたような疲れがあった。
今日はもう何もしていたくない。
ゴロゴロしてのんびり過ごそう……
ベッドに転がりつつ、俺は携帯を開く。
そして、何となくインターネットを開いて、
「なっ――!?」
絶句した。
俺の目に入ったのは一つのニュース記事だった。
『災禍姫ヴェーチェル降臨』
心当たりしかない。
恐る恐る下にスクロールしていくと、一昨日の俺の写真、動画が貼り付けられていた。
更にその下には数千のコメント。
『可愛い』『本物じゃん』『いや本家とは少し違うところがーー』『暴風ちゃん降臨』『これ誰なの?』
好意的な言葉もあれば否定的な言葉もあり、しかしやはり全体的に見れば好意的な言葉が多く存在した。中には、現場にいた人だろう、写真付きのコメントをしている人もいて…
「なんだよ……これ……」
つけられていたのだろう。
俺が家に帰る瞬間を捉えた写真が貼られていた。