翡翠のヒロインになった俺   作:とはるみな

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 ネットには様々な人が存在する。

 

 しっかりマナーを守っている常識的な人もいれば、反対に人に迷惑を掛けることをする非常識的な人も存在しているわけで。現在俺の家の前ではそんな非常識的な人達が大量に集まっていた。

 

『お願いです! 一度顔を出してくださーい』

『出て来て~!』

『暴風ちゃ~ん!!』

 

 ガンガンと鳴り響くノック音に、俺は頭を抱える。

 

 ――ホントどうして……なんでこうなったんだ。

 

警察を呼べばすぐになんとかしてくれることだろう。だけど、今の俺には警察が呼べなかった。

 

 俺の存在が消えてしまった現在、この世界で今の姿の俺がどのような扱いを受けているか知らない。

 俺が消えると同時にこの世界に生まれたのか、それともそれ以前から存在していたのか。

 

 少なくとも容姿でこのように騒がれる以上、以前から顔を見せていなかったのが窺える。

 

 果たしてこの容姿で騒がれずに生きていくことは可能なのだろうか……。

 そう考えると上記の可能性が非常に高いと言える。

 生まれたばかりと考えれば全て辻褄が合う。

 

 しかし、そうなれば浮かんでくるのが、この家は本当に俺の住居なのか、という住居問題だ。

 

 生まれたばかりだと仮定して、いつ、どうやってこの家を借りる暇があったのか。

 俺が消えたことで、今の俺に住居権が引き継がれているならいい。

 

 だが、そうじゃなかったら?

 

 今の俺は無断で家に住み着いているだけだとしたら? 本来の住居者が別にいるとしたら?

 

 そもそも今の俺は身分証明書も持っていない。

 

 以上の理由から俺は警察は呼ぶことも、警察の力を借りることも出来なかったのだ。

 

 

 まぁ、いつかはこの騒ぎを聞き付けた近所の住民によって通報されるだろうが……

 

 そうなったら終わり。もしかしたら逮捕されるかも知れない……可能性は十分にある。

 

 もうこの家を捨てて逃げるしか方法がなかった。

 

「…くそ……」

 

 そこまで考えて、怒りがふつふつと込み上げてきた。

 

「なんで……俺がこんな目に遭わないといけないんだ…………!!」

 

 理不尽に対する怒り。

 行き場のない怒りだと知りながらも、それを堪える余裕は既に俺には残っていなかった。

 

 身を震わせながら悪態を吐きに吐いて、ようやく心が落ち着いてから、俺は鞄を取り出す。

 

 つい先日まで学校に持って行っていた鞄だ。

 故にその中には教科書などが詰まっていて、一瞬泣きそうになるが、グッと堪え、全て外に出し――

 

(金は必須……、汚れないこの服も需要が高いか……)

 

 ――代わりに鞄の中に現金や通帳、モチーフ服を詰め込む。

 

 

 こうして必要最低限なものだけ持ち運べる準備を終えた俺は、最後に今日買った食材の入っている冷蔵庫に目をやり、足早にベランダから外へ逃げ出した――――。

 

 

 

 


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