翡翠のヒロインになった俺   作:とはるみな

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「悪いんですが、ホテル代までは出せないからオレの家で勘弁してくれます?」

「うん。全然OKだよお父さん」

 

 似ているだけなら未だしも、能力を目の前で使われたら信じるしかなくなったのか、住む場所や身分証明書がないと言ったらすぐに家に案内してもらえることになった。

 

 やけに丁重な言葉遣いを使ってくるのは、原作同様俺の機嫌を損ねたら災害を起こされる、とでも思っているからか。

 

 ただでさえ騙していることに良心がずきずきと痛むのに、態度まで畏まれるのは精神的にキツい……

 

「お父さん、変に畏まらないでさっきみたいに接してよ」

「え……ですが……」

「そうしないと怒るよ?」

「わ、分かった。……これでいいのか?」

「うん、よろしい」

 

 最終的に脅すような形になってしまったが、態度を緩和させることに成功した。

 と言っても、まだ完全に吹っ切れている訳でなく割れ物を触るようなおどおどしさがあるが、そちらは一朝一夕で解決する問題ではないので、長い目で見ていくとしよう。

 

「――ところで、ヴェーチェルさんは……」

「呼び捨てで呼んで」

「――ヴェーチェルはどこから来たんだ?」

「んー、分かんない。気づいたらこの姿で道の真ん中に立ってた」

 

 真実は言ってないが嘘も言ってない。

 こんな感じでなあなあに会話を続けていると、不意に矢野の足が止まった。

 

「あそこがオレの家だ」

「え、もう着いたの?」

「あぁ」

 

 そう言われて、矢野の指差す方を見ると、三階建て庭付きの大きな一軒家があった。

 

 会社からの距離は大体500メートル程度だろう。

 だから車ではなく、徒歩で帰宅していたのか、と納得する。

 

 ――流石人気ゲームのシナリオライター。距離といい、規模といい結構良いところに住んでるじゃん。

 

「わーすごい大きいね」

 

 そんな心の声を飲み込み、ヴェーチェルならこう言った言動をするはず、と俺は感嘆の声を上げながら、矢野の周りをピョンピョンと跳ねた。

 

「大きいだけだよ、実際一人暮らしだからほとんどの部屋が有り余ってる状態だし。掃除とか出来てないしね」

 

 苦笑を浮かべながら玄関のドアを開き、家の中に入る矢野に続く。

 

「おじゃましまーす」

 

 ――これは酷い。

 

 入った瞬間、埃っぽい臭いがした。

 ヴェーチェルの体が丈夫だからか咳き込むことはなかったが、これは不味いと思う。こんな環境で生活してたら絶対に健康によくない。

 

 ――養って貰うんだから、掃除くらいはするか。病気になられても困るしな……。

 

 密かに決意を固めながら先導する矢野に続いて玄関をくぐり、リビングに出る。

 

 流石にリビングは掃除をしているのか、先程よりも空気がきれいだった。

 

「ヴェーチェルはそこに座っててくれ。確認だけど、ご飯って食えるよな?」

「うん」

 

 指定されたソファーに腰を下ろした俺が大きく頷くと、 待っていてくれ、と言葉を残し、矢野は奥の扉へと姿を消した。

 

 

 

 

 


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