翡翠のヒロインになった俺   作:とはるみな

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 いや、部屋が埃っぽかった時点で予想はできてたけどさ。

 それでも、もしかしたらっていう期待があったわけよ。出来ないのは掃除だけで料理は一流みたいな、そんな展開を……。

 

 俺は目の前に出された夕食を見て思う。

 

 現実は残酷だ、と。

 

 ある日いきなりゲームのキャラクターに変貌する奇想天外な展開は起きるくせに、何でこういうところだけ平々凡々な展開なんだよ。

 

「…ねぇ、いつもこんな夕食なの?」

「あぁ、時間が勿体ないからな」

 

 淡々と答える矢野に、気づかれないよう小さく溜息を吐く。

 

 ……予想では、もうちょっと良い食べ物が食べられるはずだったんだけどな。まぁ、温かいだけマシだと考えよう。

 

 ――にしても流石にコレを毎日は栄養的にも悪いし、はぁ……仕方ない。ご飯も作ってやるか……。

 

「ほらヴェーチェル、そろそろ三分経つぞ」

「うん……」

 

 矢野の言葉に、俺は頷いて、目の前に置かれたカップヌードルに手を伸ばした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 食事を終えると、矢野が二階へと案内してくれた。どうやら二階フロア全体が俺の使っていいスペースになるらしい。

 二階全部って、そんなに使って良いのか……?

 流石に気になって理由を訊ねてみると、二階は普段一切使っていないから構わない、とのこと。

 

「部屋は全部で三室。自由に使ってくれて構わない。トイレはこの階にもあるが、シャワーは一階にしかないから使いたいときはオレに一言声かけてくれ――とまぁ、そんなところか。じゃあオレは一階に戻るから」

「分かった。ありがとお父さん……さてと」

 

 欠伸をしながら階段を下りていく矢野を姿が見えなくなるまで見送った後、改めて周りを見渡す。

 

 実直に、かなり汚い。その汚さと言ったら、歩けば埃が宙に舞うほど。

 まさに埃の巣窟といった感じだ。

 

 ――うん、掃除しよ。

 

 恐らく今すぐにでも掃除しないとヤバイと俺の本能が告げていたのだろう。決意は驚くほど高速で固まった。

 

 まずはこの溜まりに溜まった埃を何とかするか。……そうだ。…… 

 

 俺は窓を開けると、その窓に向かって全力で風を行使した。

 作戦は思いの外上手くいったようで、文字通り塵も残さず凄まじい勢いで埃が窓の外に飛び出していく。

 次いで空気の入れ換えを行う。これも風を操る能力のおかげで数十秒で総入れ換えすることができた。

 

「やば……この体、掃除するのにすごく便利だわ……」

 

 あれだけ汚かった部屋が一転。五分も経たないうちに、魔境から住めなくはない環境になった。

 まぁ、どうしても風だけでは対処できない汚れとかはあるんだけど、それでも十分な進歩と呼べるだろう。

 

 それにしても、ものの一瞬でここまで成果が出ると、何て言うかね。そう、言葉にするなら……

 

「楽しくなってきた……」

 

 今なら掃除好きの人の気持ちがよく分かる。

 

 ――掃除楽しい! 楽しすぎる! 汚いところが綺麗になる爽快感。あぁ、堪らない……。

 

 沸き上がってきた謎のテンションに身を任せた俺は、

 この後寝る暇も惜しんでめちゃくちゃ掃除した。

 

 

 

 


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