翡翠のヒロインになった俺   作:とはるみな

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 この世界はよく分からない。

 

 

 現実は酷く不確かで不安定だ。

 

 それがオレが二十数年の人生を経て理解できたこと。

 

 現実は小説より奇なり。とは実に的を得た言葉だと思う。

 

 だってそうだろう。

 

 真剣にプロットを考え構成したシナリオは売れず、プロットを考えず行き当たりばったりで書いていた中学時代の妄想――黒歴史とも言える雑なシナリオが今や人気ゲームとなって世に馳せているのだから。

 

 人生とは何が起こるか分からないものである。

 そんな不明確なものだから歩んでいて飽きないし楽しいとも思えるわけだが。

 

 ――だが、

 

「いや、流石にこれは……――」

 

 ――現実外れにも程があるだろうッ――!?

 

 PM11:00。

 オレは今日の出来事を振り返り、頭を抱えた。

 

 思い浮かぶは翡翠の少女。

 自分が産み出したシナリオで出てくるヒロインの姿。

 その存在と現実世界で邂逅した。

 

 

 

 

 

 

 初め、彼女の姿を見たときはコスプレだと思った。やけにクオリティが高いコスプレだな、と。

 

 それも仕方ないだことだろう。

 一体誰が自分の妄想が具現化するなんて予想できようか。中学二年生が患う病にかかっている人だったら予想できるかも知れないが、少なくともオレには無理だった。

 

 しかし、彼女はコスプレイヤーか? と訊ねたオレの言葉に、首を横に振った。

 そしてオレの常識をいとも簡単に壊して見せた。

 

 彼女がオレの目の前でその異能を使ったのだ。

 原作を忠実に再現した。コスプレイヤーには、人間には絶対できないはずの風を司る能力を。

 

 そして極めつけとばかりに彼女はオレの事を「お父さん」と呼んだ。

 

 あり得ない……しかし否定できる材料がなかった。

 故に認めるしかなかった。

 彼女はオレが作り出したヒロインと同一人物であると。

 ヴェーチェル・ディザスタ本人であると。

 

 認めてからは早かった。

 原作通りならその気になれば地球を滅ぼせる力を持つ災禍姫を、そう易々と放っておけるわけがなく。

 監視の意味を込めて自宅へと呼び込んだ。

 

 まぁ、流石にヴェーチェルを産み出したのがオレとは言え、男女が同じ空間に生活することは恥ずかしく、二階を使ってもらうようにお願いしたが。

 

 ――いや、今はそんな話はどうでもいいのだ。

 問題は、これからどうするか……だ。

 

 振り返りを止めて、思考を巡らせる。

 

 ヴェーチェルが具現化した以上、他の災禍姫達が具現化しないとは限らない。

 

 その時ヴェーチェルのように、問題を起こす前に自分に会いに来てくれればいいのだが、そうじゃない可能性も十分にある。それこそ災害規模の問題を起こすこともあり得た。

 

 ヴェーチェルの見た目を見てみれば分かるように、彼女の容姿はゲームからそのまま飛び出してきたと言われても信じられるようなレベルが高いものになっている。

 

 もし、それが他の災禍姫も同じなのだとしたら。

 問題を起こしているところを災禍姫を知る第三者に見られていたとしたら。

 

 責任を取らなくてはいけないのは……産み出した原作者(オレ)……なのではないか……?

 

 責任を取ることがなかったとしても、バッシングは絶対に免れないだろう。

 

「はぁ……」

 

 深く溜息。

 ふと視線を天井に向ける。

 

 眠ってしまったのか、先程まで聞こえていた二階からの物音はなくなっていた。

 

 再度溜息。

 

 時計の秒針を刻む音と自身の呼吸音だけが響く部屋の中でオレはこの日、眠れない夜を過ごした。

 

 

 


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