強く気高く孤高のマミさん   作:ss書くマン

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11話 変わらないやりとり

 

 

 

 

 

 

 マミが活動している見滝原から来たことや、マミの情報を集めているという趣旨を伝えたほむらは、杏子に手招きをされ教会の中に入っていった。教会の中は外から見るよりも燃えた損傷が酷く、それだけ大きな火事が起きたことが伺える。杏子はそんなことは気にしないように、何処から持ってきたのかはわからないが、損傷の酷いこの部屋には似つかわしくない綺麗なテーブルと椅子を引っ張り出してきた。ほむらとの会話は長くなると判断したのか、ほむらが教会の中を見渡している間には杏子は一人椅子に座り、ほむらにも座るように促しているように、もう一つの椅子をぽんぽんと、軽く叩いていた。

 

「お茶もまともに出せないけど、ここでいいかい?」

 

「私の魔法で収納しているものがあるから、それでいいのなら出すけれど」

 

 情報を求めて杏子の元へ向かうも一悶着を起こしてしまい、これからの活動に支障が出してしまうと懸念していたが、どうやらその心配も杞憂になりそうだ。それとは別に、ほむらは目の前に座っている杏子と会話をしていると、背中がむず痒くなるほどの違和感を感じてしまう。普段であれば杏子はお茶を出そうなんてことは口にしない。そもそも、見ず知らずの人物をこの教会に足を踏み入れさせようなんてこともしないはずだ。そう思いながらも、杏子の変わりようのお陰でここまで話がスムーズに進んでいるのだから、今のところは悪くない状況なのだろう。

 

 教会の中にお茶が無いと言う事で、ほむらは魔法少女に変身し、左腕についている太陽系の模型に似た模様があしらわれた円盤型の盾から、紅茶のセットとお茶菓子を取り出す。そんなものが入り込む収納スペースはないはずなのに、そこから取り出されていく異様な光景に杏子は驚きながらも不思議そうに見ていた。とはいえ、不思議そうに見ていたのは数秒間だけであり、好物のお菓子が取り出されたことに喜びを露わにして、紅茶にお湯を入れる前には袋から中身を取り出していた。

 

「お前不思議な魔法を使うなぁ」

 

「紅茶はまだ入れていないのだけど……まあいいわ。お砂糖入れるかしら?」

 

「いや、折角甘いお菓子があるんだ、ストレートでいいぜ」

 

 早足にお菓子を食べ進める杏子に呆れた様子になるほむらは、お湯を温めるべくポットに入っていた水を携帯用ガスコンロで温め始めていた。手際よくお湯を沸かし始める姿をまじまじと見られ、杏子からは準備がいいと言われる。このために用意をしていたわけではないのだが、印象よく見られたのであれば、余計なことは言う必要もないだろう。そうしている内に、ポットに入れていたお湯が沸いたのか、注ぎ口の部分に取り付けられている笛から蒸気が勢いよく出ており、ホイッスルのように高い音が鳴っていた。

 

「ストレートだったわね?」

 

「ああ……って、お前……」

 

 お湯が沸いたのを確認したほむらは、慣れた手つきで紅茶を入れ始める。ほむらは紅茶をいれる度に、紅茶のいれ方を教えてくれた先輩であるマミのことを思い出してしまうのは、紅茶のイメージがマミがいれてくれた紅茶の味や、様になっているその飲み方が、頭に焼き付いているからなのだろう。

 魔法少女になり始める前のことや、契約を交わし魔法少女になり始めたころ。つまり、ほむらがマミからの指導を受けていたころは、マミの紅茶を好んで飲んでいた。紅茶の味や香りもそうだが、その紅茶からマミの優しさが伝わるような気がして、命が伴う魔法少女の戦いに精神をすり減らしたその心身に、飲むたびに安らいでいく気がしていた。だから、そんな紅茶を自分もいれられるようになりたいと思い、マミにいれ方を教えて欲しいとお願いをしたものだ。そんなほむらをマミは嬉しそうに了承し、紅茶のいれ方を何も知らないほむらに一から十まで根気よく教えてくれていた。そしてほむらは、教えて貰っていることとは別に、マミがお茶を入れている姿を何度も見ていたのが原因なのか、その入れ方を真似していたものだった。だからなのだろう、杏子がほむらのお茶を入れている姿を見て、見覚えがあると思うのは。ほむらの姿にマミを重ねてしまうのは、決して不思議なことではないだろう。

 

「どうかしら?」

 

「……ああ、美味えよ。あいつには勝てないけどな」

 

「そう、上手く出来ていたのだけど、あなたに言われるなら仕方ないわね」

 

「お前、一体何もんだよ。美味い紅茶を入れるのは練習すれば誰でも出来るかもしれねえが、そのいれ方はあいつしか見たことねえし、一回見ただけじゃあ真似できないいれ方だ…紅茶もお菓子も揃ったんだ、話してもらうぜ?」

 

 威圧をされているわけではない。ただ、ほむらが何者なのかが本当に不思議でたまらないといった様子だった。しかし、ほむらの素性をご丁寧に話してしまうのはリスクが大きい。とはいえ、こちらもマミの情報を集めているという趣旨を伝えているだけあって、それに対しての報酬の形として、ほむらの情報をほむら自身から求められるのは仕方のないことだろう。しかし、逆に考えれば、ここで信頼を確立しておくと、後々の行動に杏子の手を貸してもらえると思えば、ほむらにとっても悪い話ではない。それにはまずマミの情報を開示してもらう必要がある。聞いた情報が本当に正しいのか判断して、目の前にいる杏子が自分にとって敵なのか味方なのか考え、自分の目的を話す。本当なら、渡された情報が正しいことを裏付ける証拠などを確認してから話したいところではあるが、そこまでは贅沢な考え以前に、そもそもその証拠を集めきれるのに膨大な時間がかかってしまう可能性もある。

 見滝原には魔法少女が居ないと言っていいほど数が少ない。いや、正確に言えばマミ以外の魔法少女を見かけることができなかった。そうなると、マミとともに行動していた魔法少女は杏子ぐらいしかおらず、杏子以外から情報を集めるのは困難だろう。

 ほむらが抱えている問題はマミ以外にもある。そこまで時間をかけてしまえば、最悪の場合この世界線を捨てなければいけない状況になる可能性も出てしまう。次の世界線に向けて準備をすると言えば聞こえはいいかもしれないが、それはつまり、この世界線にいるまどかを救うことを諦める選択でもあるのだ。そんなことは自分の願いにも反し、耐え難いものである。そもそも、この世界線と同じ状況が次の世界線にもなる可能性は極めて低い。

 いつもとは違うイレギュラーな世界線だからこそ、ほむらが求める答えが眠っている可能性がそこにはある。過去に記録してきた情報をもとに、配慮するところは配慮し、切り捨てるところは切り捨てていくしかない。それならば、ほむらの素性を話したときに出るリスクと、ここで杏子の信頼を得るメリットを考えれば、悩み続ける必要はない。

 

「私のことはもちろん話すつもりでいるわ。だけどその前に、マミについての情報をお願いできるかしら?」

 

「……一応言っておくが、あんたのことを信じているわけではない。むしろ、あいつの紅茶の入れ方を知っている時点で、私の敵に近いほうだと思う。それでも、あたしが先に話して、私に情報を話す約束を本当に守るかもわからない。正直私はあんたのことを何も知らないままでも問題ないし、それでいいと思っている。言いたいことはわかるかい?」

 

「あなたに対してのメリットは少ないと言っているのかしら」

 

「ま、そういうことだね」

 

「……」

 

 杏子はほむらから先に話をしなければする気はないと言っているが、本当にそう思っている風には見えなかった。このテーブルに座らせてくれる時点で、彼女はほむらとの情報のやり取りをするつもりでいる。確かにメリットデメリットを考えてはいるだろうが、重要視はしているようには見えない。ほむらから情報を求めてきたのは確かだ。しかし、ほむらの趣旨を伝えたときに、杏子の興味が惹かれるもので無ければ、あのまま切り捨てられてもおかしくはなかった。だが、杏子はほむらの体のことを気遣い、ましてや自分から大切な場所であろうこの教会に招き入れたのだ。ある程度の信頼を相手に寄せていなければ、こんなことはしないだろう。つまりは、彼女は何かをほむらに試しているように思えた。何を試しているのかはわからないが、ここで引いてしまうのはほむらとしても不本意ではあるし、杏子からしても引くとは思っていないだろう。

 

「信頼していないとは言っているけど、私はそうとは思わない。ここがどんな場所なのか知っているし、あなた自身も見ず知らずの私をここに招き入れるという意味は分かっていてやっているはずよ。それに、本当にメリットデメリットを考えるならば、このテーブルに招き入れる時点であなたにとっては悪手なはず。それになによりも、あなたは私が魔法少女に変身したことを許してくれている。これで、本当に一切の信頼を持っていないと言えるのかしら?」

 

「……それで、何が言いたいんだい?」

 

「あなたとは少ししか会話はしていないけれども、求めているものは一緒だということよ。あなたも巴マミの情報を求めている。私の素性よりも最も重要視しているのはそちらのはずよ。そして、私が紅茶をいれたときには確信しているはず。巴マミとの関わり合いがある私には、あなたにとって十分にメリットがあるって」

 

 静かなにらみ合いが続く。相手の腹の中を探るように、杏子と出会ってから起きた出来事を、一つ一つを喋りながら相手を崩していく。何をもって杏子がほむらに対し仕掛けてきたのかはわからない。しかし、これを返せれるものは、ベテランの魔法少女相手に真っ向から突き詰めれるのは、それだけ多くの場数や経験を積んできた魔法少女しかできない芸当だ。ほむらの様子を見ていた杏子は、観念したと言っているように両手をぶらぶらと振りながらため息を漏らしていた。

 

「はぁ……本当に何者だ?肝が据わってるとしか言いようがないよ……ま、確かに私の求めているものと、あんたが求めているものは同じさ。巴マミの情報が欲しいのは間違いないよ。それと同時に、あんたがどれだけ精神的な強さがあるか、状況判断ができるかが知りたかったんだ。回りくどいことしちまったな」

 

「お気に召してくれるのであれば構わないわ。それで、あなたの期待には応えられたかしら」

 

「十分さ。十分すぎると思うよ。精神的にも、魔法少女としての強さもある。そして、あんたは本心で私に頼ってきてるってことも伝わったよ」

 

 確かに回りくどいとしか言いようがないほど、遠回りな探り方だったろう。だが、魔法少女としての能力。つまりは、自分たちが持っている固有能力を見せあうことは出来ない。縄張り争いが起こってしまう魔法少女にとって、敵対する魔法少女に自分の能力が知れ渡っていると足元をすくわれる要因になってしまう。魔女と違い、知性的に動く魔法少女では、過激なものであれば縄張りを作っている魔法少女に対して奇襲を仕掛けることもあるだろう。そのとき、自分の能力がその魔法少女に伝わっていれば、襲われた魔法少女は為す術もなく倒されてしまう。

 お互いがお互いの情報を守る人物であるかは、その時の会話などでしか積み上げることができなかった。遠回りであるがゆえにリスクは少なく、その内容で相手の質を見極めることができるのは、杏子やマミのように多くの場数を踏んでいるベテランの魔法少女でしかできないだろう。つまり、ほむらがそれについてこれるというのは、杏子に対し自分はある程度の場数を潜り抜けている魔法少女であると同意義だ。この会話を無事に乗り越えたほむらであれば、杏子からの信頼は厚いものになるだろう。

 

「あんたが一体どんな状況に巻き込まれてるのかは、これからじっくり話してもらうさ。もちろん、あたしがマミの情報を渡してから判断してくれて構わない。あたしの情報は、あんたが話す情報に値するものだと思っているからね。見滝原に何事もなく住んでいるのがその証拠さ。それに、折角の紅茶とお菓子だろ?あいつには敵わなくても、こんなに美味しいものが飲めるんだから、飲んどかないと損じゃないか」

 

「そう言ってくれるのは嬉しいわ」

 

 杏子はおもむろにポケットからロッキーと書かれた箱を取り出す。棒状の生地の中心にチョコが入っているお菓子のようで、一本を手に取り口に加え、箱の入り口をほむらの方に向けると、お菓子が外に出るように箱を揺らす。ほむらはその様子をみていると、杏子は笑顔でこちらに話しかけてきた。

 

「そういえば自己紹介がまだだったね。あたしの名前は佐倉杏子。食うかい?」

 

「……ええ、ありがたく受け取るわね、杏子。これからよろしくお願いするわ」

 

「ああ、よろしくな、ほむら」

 

 お互いにロッキーを口に咥えながらの握手になってしまっているが、畏まった握手よりも、二人にとってはそれが最高の握手だと思えていた。たとえ周りからは不格好に見られたとしても、お互いの信頼は大きく積み上げられただろう。

 ほむらは何度も時間軸を移動し、杏子との共同戦線の交渉を行ってきたが、このイレギュラーな時間軸でも変わらないものはある。杏子との交渉の最後に信頼を得られたのであれば、彼女からは何かしらのお菓子を貰えることがある。お菓子が好きで、食べ物に対して強い誠意を見せる彼女からお菓子を渡されるのは、交渉が成立したという表われであった。今まで不可解な出来事や、見たことがない現象に対して、不安などの精神に負荷をかけるような真似は表面上には出さないようにしていたが、見慣れていたそのやり取りに安心してしまう。

 ほかの世界線よりも早めに杏子との繋がりを作ってしまったが、これが凶と出るのか吉と出るのかはこれからの行動次第だろう。ただ、この行動は決して無駄ではないと思えるし、リスクもそこまで負ってはいない。むしろ、今回の杏子はいつも以上に頼もしく感じ、これから起きるであろう不可解な事態には、彼女の力が必要だと思えた。そして知ることとなる。ほむらが求めていたマミの情報というのは、自身が思っていた以上に厄介な問題であり、これからの見滝原での行動に、大きな壁になる人物だということが。

 

 

 

 

 

 


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