強く気高く孤高のマミさん【完結】   作:ss書くマン

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17話 願いが生む破滅

 

 

 

「佐倉さん、そろそろあなたの技にも名前を付けないとね」

 

「技に名前って……マミさんのティロ・フィナーレみたいな?」

 

 外の風は徐々に冷たくなり、季節は秋へと移り変わっていく時期に入っていった。待ち行く学生は秋休みにどこに行くか、何をしようかと話し合っているが、同じ学生であるマミはまだまだひよっこの魔法少女である杏子を鍛えるために、休みを惜しまず杏子の下に、または杏子がマミの下に訪れていた。

 

現在は街の少し外れにある、何かを建築中なのか剥き出しになっていた鉄骨の上に2人は座っていた。先程までそこには魔女が潜んでいたのだが、今では魔力の反応は一つも残ってはいなかった。

 複数回の魔女戦を終え一息をついていた杏子とマミは、冷える身体を温めようと魔法で作った紅茶を飲んでいた。

 

 杏子の魔女退治は、マミの指導により数か月前に比べれば劇的な変化をもたらしている。そして、対魔法少女としての訓練も順調あり、その証拠に敵意を持った魔法少女を1人で対処する事が出来るようになっていた。もちろん、魔法少女の本業である対魔女に関しても問題はなく、その中で例を挙げるのであれば、マミとの初めての実践訓練で無意識に使っていた多量の分身技を、自分の思いのままに使い分けることが出来るようになったのが、ここ最近では大きな成果だった。その技を使えば、戦況を大きく変える程に強力である幻影は、正に必殺技と言える。それは、魔女を一撃で粉々にしてしまうマミのティロ・フィナーレと同じ位置にあるだろう。そこでマミは、自分と同じようにその技に名前を付けることを進めていた。

 

「えーっと……マミさんが使ってる分にはかっこよく見えるんだけど、自分が使うのはなんか恥ずかしいっていうか……」

 

「あら、これはちゃんと意味があって名前を付けているのよ?」

 

 名前を付けることが少しばかり恥ずかしいと思っていた杏子に対して、マミは諭すように話始める。

 

「何かに名前を付けるのはとても重要な事なの。あなたがいつも食べているリンゴだって、リンゴって名前を口に出せば、その色や形が勝手にイメージされるでしょう? つまり、自分の行動に、その技に名前を付けてあげることで、その技を使う動作をスムーズにしてあげるの」

 

「へ~、マミさんそんなことを考えてたんだ……確かに言われてみれば、何も名前を付けてなくて魔法使うのと使わないのじゃ違うかも……」

 

 技に名前を付けることがどれだけ重要かという説明を聞き、杏子は納得したような表情をしながらうなずいていた。

 魔法少女と魔女の戦いは正真正銘の命がけであり、ほんの少しの無駄な時間で命を落としかけない状況にあう可能性も少なくない。ならば、その技に名前を付けるなり、自分の慣れたやり方でもいいので何かしらの動作を決めておくことで、後の動作をスムーズに行える。スポーツ選手が自分の本調子を出せるように、決められたルーティンワークをしているのと似たようなものだと語っていた。

 

「後はそうね……魔法少女と言えば、技に名前を付けたりして楽しまなくちゃっていうのもあるかしらね」

 

「ねえマミさん。本当はそっちを主な理由にしてない?」

 

 お茶目を出したように言ったその言葉も中にも、マミなりに考えていたことがあった。常に死と隣り合わせの魔女との戦いで、たとえ逃げ出したくなるような状況だとしても、自分を奮い立たせるために技の名前を叫ぶようにしたと。

 気持ちから楽しもうと思うことは些細なことで重要な要素である。辛いと口に出したり心の中で繰り返してしまえば、気持ちも徐々に暗くなっていく。憂鬱だと思ってしまえば、たとえ憂鬱ではなくとも本当にそう感じてしまう。普段の日常生活でもそんなことがあってしまうのに、死と隣り合わせの魔女との戦いではそれが顕著に出てしまう。だから、気持ちから奮い立たせることは、精神的に安定を保っておくことは、普段の行動や魔女を安定して狩り続けて行くことに必要な事だと語っていた。

 

「魔女を倒せればなんでもいいってわけじゃダメなの。安定して魔女を倒して、常に余裕を持ち続けていく。思いもよらない出来事が起こっても、しっかりと対応できるように。だから、その一歩として自分の必殺技に名前を付けてあげる……分かったかしら?」

 

「はーい。って言ってもなあ、何を付ければいいか……」

 

「それは私が考案してあるから安心して頂戴。技の名前はロッソ・ファンタズマ。日本語に直して赤い幻影。赤い幽霊。赤き幻影……まあ、あなたの衣装や魔力の色と、魔法の特徴を合わせた名前ね。今度からその必殺技を使用するときは、名前を口に出してスムーズに使えるようにしなさい」

 

「ロッソ・ファンタズマ。赤い幻影かぁ……」

 

「極端に言えば、あなたの魔法が強力になっていけば出せる幻影も無限に近くなる。小細工なしにあなたの魔法は無敵の能力よ。一緒に頑張りましょう」

 

 杏子の頭を撫でながら、その手を流れるように頬へと移すと、杏子は頬にあるマミの手に自分の手を添え、無敵の魔法と断言されながらも聞き返した。

 

「マミさんにも勝てるようになるかな」

 

「時間はもちろんかかるわよ。だけど、あなたなら私を超えられるかもしれないわ」

 

「そっか……頑張るよ、マミさんにもっともっと近づけれるように。そしたら、ワルプルギスの夜だって、一緒に倒せるようになるかな?」

 

「ワルプルギスの夜……ふふっ、あなたとなら、難しい話じゃないかもしれないわね」

 

「あたしたちならそんな大物魔女だろうと目じゃない。もしかしたら、大げさかもしれないけど、世界だって救えるんじゃないかって……そう思うんだよね」

 

 頬を少しばかり染めながら口にした。世界を救えるなどと大げさだと自分でも理解しているが、それぐらい出来るんじゃないかと思えるほどに、魔法少女としての実力を持っていると感じていた。

 

「大げさなんかじゃないわ。世界を救う……魔法少女としてこれ以上にない使命よ」

 

 冗談交じりに言ったその言葉は、馬鹿にされはしなくとも笑われるだろうなと思っていたのだが、マミの瞳は真剣そのものであり、世界を救うと言ったのに物怖じせずその言葉をしっかりと受け止めていた。寧ろ、元々最終的には世界を救うつもりだったのではないかと思うほどに。

 

「そうね……もしいつか、本当にワルプルギスの夜がやってくる時が来たら……一緒にこの街を守りましょう」

 

「うん、出来るよ、私とマミさんなら」

 

 特訓に加えて、話し込んでいたのか辺りは夕焼け色に染まっていた。杏子の赤い髪の毛はよりその赤色が映えるように明るく染まり、マミの金色の髪の毛は赤みを帯びつつ反射して輝いていた。

 子供は帰る頃合いだろうとも、魔法少女たちの魔女狩りは終わらない。

 

 マミはその場を立ち上がり、座っている杏子に手を伸ばすと、杏子はその手をしっかりと握り締め立ち上がった。

 魔女の反応を追い、少しばかり肌寒い風の中、ビルとビルの間やその上を走り抜ける。

 杏子は、このまま二人でこの街を守っていく。いや、マミは見滝原を守れてはいるが、杏子はまだまだ守れる範囲は広くはない。他の魔法少女と比べれば十分過ぎるほどに力を付けているのだが、地元である風見野の全てを守れるほど、マミのような魔法少女に成長はできていない。まだまだ時間がかかる。そう言われたが、確かにその通りだろうと思っていた。

 たとえ時間がかかろうとも、マミとの師弟関係がこのままずっと続いて行くと思っていた。自分の理想が近くにいるのだから、それを追い続けていけるのであれば、自分はマミのような魔法少女に成長していくと思っていた。自分で言うのもなんだが、実力も付けて、魔女に対しての理解力も深め、新たな技を生み出せるようにもなった。この時間がこのまま続けばいいなと、そう思っていた。

 

 

 

 

 

 

 

「ん……んん……」

 

 少しばかり日と時が経ち、窓の外を見れば月明りが林を照らし、良い子は寝る時間であった。杏子も自室にあるベッドの上で妹と睡眠を取っていたのだが、月明りよりもひと際輝く謎の光に気付き、徐々に目が覚めてしまう。

 

「……!?」

 

 その光は、指輪状に変化させていたソウルジェムの輝きだった。その反応は魔法少女であれば見慣れた反応。魔女が近くにいるという輝きであることも、杏子は理解していた。

 魔法少女として生活を続けていれば見慣れている輝きであるはずなのに、杏子はいつも以上に急ぎ気味で体を起き上がらせていた。なぜならば、魔女が反応した場所に問題があったからだ。

 杏子の住んでいる土地の周りには林ばかりで、ほとんど人は住んでいない場所である。人があまり集まっていない場所に魔女の反応がしてしまうということは、人が集まれる場所がどこかに存在しているということに繋がる。そして、杏子が住んでいる場所以外で、何者かが集まれる箇所は限られていた。

 

「杏子! 大変だ!」

 

 急いでその場所に向かおうと、パジャマ姿の上に上着を羽織りながら静かに、そして急ぎつつ移動している杏子に声をかける者がいた。その声の先に目を向けると、杏子の様子をうかがっているキュゥべえが窓の外に存在していた。魔女の反応にキュゥべえも気づいたのか、その近くにいる魔法少女に声をかけようと杏子の下に来たのだろう。そう解釈した杏子は、何も言わず魔女が反応している場所に駆け足で向かっていた。

 

「なに……? この臭い……」

 

 杏子が目指していた場所は教会。そして、ソウルジェムが反応を示している場所も同じように教会であった。それはいいのだが、教会に近づくにつれて鼻を突く臭いが周りに立ち込めてくるのを感じていた。

 魔女が現れてしまっている時点で悪いことが起きてしまうのは分かってる。しかし、教会の中で一体何が起きているのかは、この臭いだけでは分からなかった。

 

 教会の扉の前に着いた杏子は、中の様子を伺いながらゆっくりと扉を開いていく。

 

「な……なんなんだよあいつら……!」

 

 キイイと、古い木造の扉が開く音とともに現れた光景は、教会の中心で父親の信徒らしき人物が複数人集まり、その手にある教本を破き捨てながらぶつぶつと喋っていた。破り捨てた教本の上に、なにやら液体のようなものを振りまいていたが、鼻を突く臭いの原因はその液体だと分かった瞬間、その液体が何であれ、何をしようとしているのかはなんとなく察しはついていた。

 

「これも魔女の呪いだ! 結界が浸食を始めている」

 

 キュゥべえが叫ぶように、教会の内部は黒い靄とともに変色を起こし始めていた。このままでは魔女の呪いを受けた人間までも魔女との戦いに巻き込まれてしまう。そう思っていると、液体を振りまき終わっていた集団の中から一人のスーツ姿の男性が、手の中には何やら箱と棒状のものを持ちながら、液体まみれの教本の方に歩み寄っていた。

 

「教会ごと燃やすつもりだ! させるもんか!」

 

 杏子が予想していたのはこの教会を燃やすこと。鼻を突く液体はガソリンスタンドの近くで嗅いだことのある匂いであり、男性が持っていた箱状のものはそれを燃やすためのマッチだった。そんなことはさせまいと、杏子は祈るように両手でソウルジェムを握りしめ、固有魔法である幻影をマッチやガソリンまみれの教本にかけていた。

 

「いただき!」

 

 幻影をかけた物体は瞬く間にお菓子に変化し、それに驚いている男性の隙を見逃さずに、手に持っているお菓子に変化したマッチを奪い取っていった。幻影を見せているだけにすぎず、本質的なものは変わらない。しかし、少しでも時間稼ぎにと思いお菓子のままの状態で保っていた。

 

「あたしの父さんの大切な教会をふざけた呪いで汚しやがって……絶対にタダじゃ済まさねえ!!」

 

 大切な父親の教会を滅茶苦茶にされそうな状況に怒りを燃やした杏子は、その燃え上がるような赤い魔力とともに魔法少女へと変身する。

 杏子の咆哮に反応するように、教会に飾られていた大きな十字架から、魔女の結界が勢いよく形成され始めていた。

 結界には、郵便ポストや切手、手紙といった郵便局に関連するものが敷き詰められており、その中から手紙に黒い翼の生えた使い魔らしきものが杏子に向かって突進をしてきていた。杏子はその突進をものともせず、自身の得物である槍を大量の使い魔のみに当てるように振り回し、奥へと進んでいく。使い魔の攻撃の勢いが増して来ようと、杏子の前には羽虫同然の扱いであった。

 

「フン、なんだ。わざわざそっちから出向いてくれるなんて……手間が省けるよっ!!」

 

 しばらく使い魔が現れる方向を進み続けると、使い魔では相手にならないと悟ったのか、本命である魔女が杏子の目の前に現れた。郵便局員が身に着けているようなワークハットに鳥のような顔つきに大きな翼。下半身は対照的に人間の女性を彷彿とさせるような脚をしており、白いニーハイブーツを履いていた。

 

 杏子は使い魔を倒し進んでいた勢いをそのままに、魔女の胴体に向けて大きな一撃を与える。決して浅くない一撃を受けた魔女の胴体からは、体液が飛沫を上げながら、痛みで空中をふらふらと飛んでいた。しかし、魔女は負けじと大きな翼を羽ばたき始め、杏子に突進し噛みつこうとする。

 

「おっ!!」

 

 杏子は魔女の攻撃を難なく受け止めるが、空中では踏ん張りを付ける足場がなかったため、そのまま突進の勢いで杏子の体が空中で振り回されていた。そして魔女は、咥えている槍の刃を使い、器用に壁へと突き刺し杏子をその場から動けなくさせていた。

 

「なっ……アイツ……!」

 

 自由に行動ができないほどに足場が少ないこの魔女の結界では、杏子は槍にぶら下がっていることしかできずにいた。動けない杏子に付け込むように、先ほどまで羽虫のように倒していた使い魔が一斉に攻撃を浴びせはじめ、魔女までもが杏子に向けて攻撃を加えようとしていた。圧倒的に不利な状況ではあったが、杏子は魔女が近づいてくることを確認すると、笑みを浮かべ始める。

 

「!!」

 

 突進してくる魔女に向けて、突如壁から一列に並んだ槍が伸び始めた。魔女の突進の勢いと合わさり強烈な衝撃になっているのに加えて、思いもよらない攻撃により魔女は空中で先ほどよりも大きくよろめいていた。

 何が起きたのかわからない様子で、徐々に顔を杏子の方へ上げた魔女。そこには、一列に並んでいた槍の上に、その槍の数の杏子が立っていた。

 

「ロッソ・ファンタズマ。合計16人の攻撃だ。……魔女なんかに、こんな場所で好き放題させてたまるかよ」

 

 16人に増えていた杏子は、先ほどの攻撃で硬直している魔女を見下ろしていた。その瞳には、静かな殺意を込めながら。

 

「父さんの教会も、家族も、みんな……あたしの手で守るんだから!!」

 

 防げる術を持っていたとしても、防げる状態ではなかったとしても、単純計算で16倍に手数が増えていた杏子の攻撃を防げるわけもなく、抵抗も出来ずに数の暴力をその身一杯に受けていた。

 16方向から放たれた槍の一突きは、魔女の体を全て貫き粉々に切り裂いていた。

 魔女は消え去り、結界も主が消え去ったことによって崩壊を起こし始める。先ほどまでの空間が元に戻り、いつもの見慣れた教会が周りを染め上げていった。

 

「はぁ……厄介なものを残されたな……」

 

 魔女を倒したのはいいものの、教会に漂っていた臭いが、魔女の呪いにより暴挙を起こされた光景に無理矢理目を向けさせられる。とは言え、夜明けまでは時間があり、掃除する時間や倒れている人たちを避難させるのは問題ないと頭の中で整理していた。

 とにかく騒ぎになる前に動き始めようと、杏子はその場から移動しようとすると、入口の方から何やら物音がするのが聞こえてしまう。

 

「っ!!」

 

「……杏子?」

 

 そこには、現状を理解できずにいるも顔を青ざめていた杏子の父親が立ち尽くしていた。

 

 

 

 

 

 

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