「っふ!」
「……」
あれから数日、杏子はマミの言うお茶会が開かれるまで、モモの様子を見守りながら、マミの一室を借り魔法少女の活動に足を運んでいた。
杏子は短く息を漏らしながら、魔女と使い魔を薙ぎ払い、マミはその後ろで援護に回るように単発のマスケット銃を打ち続けていた。
杏子はその戦いの中で、ある疑問を感じ始めていた。
「魔女って、こんなに弱かったか……?」
マミと共闘を再開したときもかすかな違和感を感じていたが、それが明確に理解し始めたのは最近の事だった。
師弟関係の時期にも杏子は思っていたが、見滝原には魔女や使い魔が極端に少ない。というよりも、マミいわく元々見滝原は他の地域よりも魔女や使い魔は多かったと語っていた。
それなのに少ないと感じるのは、それはマミの活躍が大きいにほかならない。
しかし、杏子が見滝原で活動を再開した最近になって、魔女や使い魔の活動が活発化し始めていた。
驚いたことに、少ないはずの魔女が一度に二体も襲いかかってきた事があったのだが、それ以上に、杏子は驚きを感じたものがあった。
「(魔女二体相手に焦りなんて微塵も感じない……もう一体襲いかかられても、正直余裕を感じるかもしれないほどに、魔女の強さを感じられなかった……)」
「言ったでしょう、あなたは最高の魔法少女だって。あなたはもう、他の魔法少女とは一線を凌駕した存在になったの」
先読みをされていたかのように、マミの口が開かれた。
「……前にも言ってたよな、そんなこと。一体どういうことだよ」
疑問を感じていた杏子に対して、答えを投げつけるように喋り始めたマミだったが、杏子はそれでも疑問が解けない様子で聞き返していた。
「私達が魔法を出している源はソウルジェム。ソウルジェムは魔法を使えば使うほど濁りが溜まっていく……ここまでは良いかしら?」
「ああ……間違っては無いと思う」
一つ一つ紐解いていくように話していくので、とりあえず従っていれば答えを教えてくれるのだろうと思いながら杏子は頷いていた。
「だけど、ソウルジェムにはもう一つ濁りを溜めてしまう原因があるの。それが、精神への負担」
「精神への負担って、例えば怖いとか苦しいとか、5月病とかうつ病とか、そのこと言ってんのか?」
「その解釈で間違ってないと思うわよ。キュゥべえが言うには、私達のような第二次性徴期の少女は精神的に不安定だったり、多感な時期の真っ只中で、自然と濁りを溜めやすくなるみたい」
「キュゥべえが? ……それで、濁りを溜めやすいからって何なんだ?」
「私達が魔法を使えば濁りが溜まる。だけど、それを少なくすることは割と簡単なの。単純に魔力の受け皿を増やすこと。そしてより効率的に、より確実に、より明確に魔法を使うことなど……でも、精神面はどうかしら? 私達はいついかなる時も死と隣り合わせ。相手が相手なだけに、残酷な死に方をする可能性は高い。むしろ死体が残るぐらいなら良いとも思えるぐらいに。そして、敵は魔女だけじゃなく、魔法少女も含まれてしまう。本当なら味方のはずなのにね」
「……」
敵は魔女だけではなく魔法少女も含まれると言われた杏子は、あの緑の魔法少女のことを頭によぎらせていた。
「佐倉さんが言ったように相談なんて出来るものではない。苦しみの共有すら難しい。たった一言愚痴をこぼすことすら。そして、魔法少女になった少女たちは、徐々に徐々に追い詰められ、魔法を使っていないはずなのに、ソウルジェムはどんどん濁りを溜めていく……ね? 恐ろしいでしょう?」
「多感な時期もあって相乗効果か。確かに恐ろしいが、それが昔のあたしと今のあたしでどう関係あるんだよ」
「佐倉さん、あなたが最後にソウルジェムを浄化したのはいつ?」
「あたしがソウルジェムを浄化した日だぁ? そんなの覚えて……覚えて……覚えて、無い……っ!」
杏子はハッとして、身についているソウルジェムを急いで確認し始めると、そこには多少の濁りは見られるが、それでも真紅に輝き続けるソウルジェムがあった。
杏子が今日に至るまで確実に精神的に負担が来る出来事はいくつも思い当たる。しかし、それでもソウルジェムを浄化したのはマミに相談に行った前日かその翌日。父と話をし終わったあとのことは覚えていないが、ソウルジェムを浄化した記憶はなかった。
「一体どうなってやがんだ……仮に精神的な濁りがなくても、魔法を使った濁りが少なすぎるのは説明がつかねぇだろ。あたしは魔法少女になってからマミみたいに長くないんだぞ」
「魔法の使い方は私が叩き込んだ。流し方も、抑え方も。魔力の総量もあなたが思っている以上に増えているのよ? そして、あなたに巻き付いた因果は、あなたを魔法少女の質を上げてくれているの。その御蔭でね」
「巻き付いてる因果ってなんのことだよ」
マミから話を聞いていると、想像はなんとなくは出来るが、それでも説明がほしいときが何度もあった。
しかし、因果という単語は、杏子にとって全くの聞き覚えはなかったものだった。
「魔法少女の潜在力は、背負い込んだ因果の量で決まる。一国の救世主やお姫様といった、多くの人間に影響を与える人ほど、魔法少女の素質は強くなる」
「残念ながら、あたしはそんなたいそれた肩書は持ってないな……ちょっとまて、それじゃ、あんたはどうなるんだよ」
杏子の目の前にいるマミには、そこまで大きな肩書があるようには見えなかった。
それでも杏子にとって、目の前にいる魔法少女はどんなものよりも魔法少女を極めているように見えており、確かな実力を備えていた。
だからマミの説明には不思議でならなかった。
「キュゥべえによれば、私には才能があったらしいわ」
「才能だけじゃその強さは結びつかねえだろ。それこそ因果ってやつを大量に背負い込まない限り……まさかっ!」
そこで杏子は理解した。
先天的ではなくとも、後天的に多くの因果を背負うことがあるのなら、魔法少女としての潜在力を大きく高めることが出来る。巴マミにはそれが可能な環境が整っていた。
「私は、たった一人でこの見滝原市の人間の因果を背負っている。多くの魔女を殺し、結果的に多くの人を助け、命を救った。救うと同時に、多くの魔法少女の命を奪った……私の体には、生きた人間だけでなく、私が殺した魔法少女や魔女の因果が巻き付いている。それは、あなたも同様よ」
「人間を救い、魔法少女を殺した……あんたは、これを知っていて、あたしに魔法少女を殺させたのか」
「遅かれ早かれ、魔法少女との対立は起こり得た。だけど、そのアフターケアを失敗すればソウルジェムは濁ってしまう。どのみち通る過程よ。私が居なくてもね」
魔法少女を殺すことは当然のごとく喋るマミに、杏子は握りこぶしを作った。
確かに言っていることは正しい。魔法少女の対立は、マミと出会わなくても確かに起こっていた。
対処の仕方を間違えれば、相手にも自分にも不利益が起こり得た。
それを杏子は理解していた。
だからこそ悔しくてたまらなかった。
何も出来ない自分の不甲斐なさに。頭が痛くなるほど、どうしようもなくマミの本心を感じていた。
「あんたは本当に、あたしを最高の魔法少女に作り上げようとしてたんだな」
「そして、あなたは最高の魔法少女になったのよ」
魔女を倒し始めていたときは赤く色づいていた空も、徐々に黒く染め上げていった。
見滝原市の外側近くに魔女は湧き続けること数時間。負担は少ないが、魔女の気配は一向に消えず、杏子とマミは街を走り続けていた。
幸い街の人々に被害はなかったが、それでも消え続けない気配に癇癪を起こした杏子は、この街に詳しいマミに理由を聞いていた。
「おい、魔女の気配が消えないのは一体どういうことだよ」
「……気づいたことは無いかしら?」
「はぁ? あたしが質問してるってのに……何がだよ」
「魔女の位置が一定で、そして内側ではなく外側から湧くように魔女がいる。私がそんなことを許すはずもないけど、街の人々には被害がない……おかしいと思わないかしら?」
「そうだな。おかしいと思うが、まさかあたしたちに合わせて魔女が湧いてるなんて言うんじゃないんだろうな……本気で言ってるのかよ?」
残念ながらそうだというように、マミの首は縦に揺れた。
「魔女を操る魔法少女は少なくないわ。実際に私は会ったことがあるもの」
「それじゃなんのために魔女を誘導、もしくは湧かせてるっていうんだよ……って、おい」
ビルからビルへ移っていったマミを追いかけるようにしていた杏子は、急に止まるマミに反応できず地面を滑るようにブレーキを掛けた。
「どうやら、もうそろそろでお茶会の時間みたいよ」
「……あんなにあったはずなのに、魔女の反応が消えてやがる。だけど、その代わりに違う奴らの魔力に囲まれてやがるな……なぁ、マミの言うお茶会の相手ってもしかして」
「魔法少女よ」
マミがそう言葉にした途端、何処からかカシャンカシャンと何枚にも重なっている鉄がぶつかり合う音が聞こえてくる。それは徐々にこちらに近づいており、その方向を見てみると、月夜に照らされて反射している鎧が現れた。
そして、それを切っ掛けにビルの陰や物陰から、勢いよく飛び出る魔法少女が複数人現れ始めた。
マミと杏子を囲むように、魔法少女たちは明らかな敵意を持って、マミたちの前に現れたのだった。
「久しぶりだな。巴マミ」
先ほどの鎧を身に付けた魔法少女がマミに声をかける。二十人近くいる魔法少女の中、明らかに身にまとっている雰囲気が違った魔法少女。その鎧を着込んだ魔法少女は、まるでおとぎ話に出てくるような聖騎士のように、高貴な雰囲気を纏っていた。
「ふふっ、お久しぶりね。随分と人数を揃えてきたみたいだけど」
「貴様を討伐することだけを考えていた。魔法少女たちの恨み。今こそ貴様に返してやろう」
わざとらしく周りを見ていたマミに向けて、聖騎士は腰に下げていた剣を抜き取り、明確な殺意を込めて突きつけていた。
「お茶会ってこれのことかよ。それに、あんたはあの魔法少女とひと悶着あったみたいだが……」
「簡単なことよ、あの子の仲が良かった魔法少女を殺しただけ」
「……くそっ」
「仲が良かった魔法少女を殺しただけ……だと? _____っ!!」
「なっ____!!」
杏子の考えていた予想が外れては欲しかったが、なんとなくは察していた。
そして、その予想は的中していたのだが、マミの返答が聖騎士の逆鱗に触れたのか、顔色を変え、爆発するような音とともに地面をえぐり飛びかかってきた。
「マミ!!」
「大丈夫」
攻撃に反応しきっていたマミは、体に受ける前にマスケット銃を生成し終えており、目の前へと構えて力強く受けきっていた。
衝撃は足に伝わり、ビルの天井にひび割れを起こしていく。
金属同士のぶつかり合いとは少し違う、妙な音が響きながらも、その衝撃は凄まじかった。
「街への被害が大きすぎます! 結界内に移動させますから落ち着いてください!」
聖騎士の突然の行動に慌てていた魔法少女の一人が、街への被害を心配して大声で叫んでいた。
しかし、聖騎士の魔法少女には聞こえていないのか、いつまでも冷静さを保っていたマミの瞳を、鍔迫り合いのさなか貫き殺さんとばかりに睨みつけて声を上げた。
「貴様は魔法少女たちを殺すだけではなく、実験台にしていたのはどこの誰だっ!! 私の親友を、体を弄くられ、糧にしたのは誰だっ!! 貴様だろうっ!! 殺しただけだと!? ふざけるのも大概にしろ!!」
「私は私の正義のために行動している。あなたには説明したのだけど、何度同じことを言わせれば気が済むのかしら?」
「正義のためなら私の親友を……魔法少女たちをっ!! 人間をっ!! 殺してもいいと抜かすのか!! モルモットにしても、好き勝手死体を弄んでもいいと言うのかっ!!」
心が震えるような叫び声を上げていた。
マミに殺されていった魔法少女のことが脳裏に浮かんでいるのか、感情が込められたその叫び声に、マミは無慈悲に答えた。
「魔法少女は人間とは違う。魔女と同じ、化け物よ」
「貴様ァ!!」
マミの言葉に血管が切れているのではないかと思うほどの表情と叫びで、魔力を開放した聖騎士の魔法少女はマスケット銃と鍔迫り合いをしながら、その剣から大量の魔力が放たれマミを襲った。
魔力が地面を伝い、ビルの屋上は崩壊すると思われたが、魔力が放たれる前には、聖騎士とマミを中心の空間が変化し、まるで魔女の結界の中のようになっていた。
「(なんて魔法っ……)」
マミの近くに居た杏子は、聖騎士の魔力の余波を受け吹き飛ばされるも、器用に空中で体勢を整え着地をしていた。
「(魔力を見るに、あの聖騎士は他の魔法少女と格が違う。マミと同じベテランってやつか……)」
興奮した息を整えている聖騎士と、それを心配して駆け寄る魔法少女を見比べていた杏子は、魔法少女としての強さの違いを明確に感じていた。
「ちゃんと力量を量れているようで何よりだわ」
「……一々思考読むの止めてくれない?」
「わかりやすいぐらいに表情に出てるのが悪いのよ。嫌なら少しは隠す努力をしなさい」
聖騎士の膨大な魔力に吹き飛ばされていたはずのマミは、いつの間にか杏子の隣に立っていた。
知らぬ間に隣にいた事に驚くよりも、思考を読んだように答えるマミに不服で居た杏子だったが、気を取り直すように、いつの間にか周りの景色ががらりと変わったことに目を向けていた。
「これは……固有結界ってやつ?」
「街の被害を抑えるために張ったのでしょう。あくまでも目的は私の討伐。見滝原市に被害を出すのは向こうにとってもやりたくないみたいね」
「……」
巴マミの討伐。
明らかな敵意を持って、殺意を持って個人を殺すことを考えている魔法少女たちが、目の前にいる魔法少女の集まりだった。
杏子が聞いた聖騎士の言葉は強く頭に残っていた。
殺すだけではなく、モルモットに、好き放題死体を弄んでいた。
異常なまでに倫理観が欠如した行い。たとえマミの言っているように、魔法少女が人間とは違う化け物だったとしても、その化け物は自分たちと同じように人の形をした化け物だ。
割り切れるものだったのだろうか。それとも、割り切らなければいけないほどに、マミの正義というのは重いものなのだろうか。
急な襲撃を受けたにもかかわらず、余裕の表情を保ち続けているマミの顔を見ている杏子は、問いかけるように視線を送っていても、その答えは出ないままで居た。
「私を含めて数人で巴マミの相手をする。残りの魔法少女は赤髪の方を頼んだ」
「……佐倉さん、聞こえたかしら? 佐倉さんのほうが相手をする魔法少女は多いけど、貴方なら勝てるからお願いね?」
「は、はぁ!? ふざけんなよマ____っておい!」
相手にしなくてはいけないだろうとは思っていたが、まさかここまで大人数を任されることになるとは思わなかったので文句を言おうとしたのだが、言う前には杏子の目の前からはマミは移動していた。
そして、そのマミを追うように聖騎士を含めた数人の魔法少女は移動し始め、杏子の前には十人以上の魔法少女が残されており、今からその相手をしなくてはいけないという状況に、杏子はため息交じりに悪態をついていた。
「はぁ……くそ、まだ聞きたいこともあったってのに」
「さっさと片付けて応援に行く」
「……あん?」
頭をかきながら悪態をついていた杏子は、目の前にいる魔法少女たちの誰かがつぶやいたその言葉が耳についた。
「ちょっとあんたたち、まさか十人ちょっとであたしを倒そうっていうの?」
「それ以上は必要ない。貴女のような使い魔は私達だけで十分」
「(使い魔……?)」
使い魔と杏子のことを呼んでいることに疑問を浮かべていた杏子を他所に、喋り終わっていた時には杏子中心に魔法少女たちが囲むように移動しており、武器を構えていた。
そして、それ以上必要はないと断言した魔法少女は、余裕から言っているのではなく、本心で言っている様子だった。
「あの聖騎士は確かにカリスマ性だとか、大衆を先導する指導者としての才能はあるみたいだけど、魔法少女を見る目はないみたいだね」
「……作戦通りに攻撃」
「あっそ、忠告してやってるんだけどわからないかなぁ___」
杏子が言い終わる前には、大量に囲んでいた魔法少女たちが一斉に杏子に向かって勢いよく武器を振り下ろした。
魔法少女たちの目論見どおりであれば、武器が振り下ろされた場所にはその威力が物語るように、ズタズタに切り裂かれた杏子がいるはずだったのだが、魔法少女たちが予想した結果とは違う光景がそこには映し出されていた。
「何、これ?」
魔法少女たちが得た手応えは肉を切り裂くようなものではなく、十分な強度を持った細長いものに強く打ち付けた感触であった。
それは一人だけではなくその場にいる魔法少女が全員思っていたことだった。
そして、何に武器を打ち付けたのを確認しようにもそれを確認できずにいた。
何故ならば、不自然に発生していた赤い煙が邪魔をしていたからであった。
「あんたたちさ、あの魔法少女に教えてもらわなかったの? 相手の魔力を感じろって」
徐々に煙が消えていくと、そこには魔法少女の数に比例するように、杏子の分身が現れていた。
魔法少女たちが振りかざした武器を、杏子は全て受け止めていたのだった。
「あんた達とあたしには魔力の差が大きくある。あんた達はたった十人ちょっと。あたしは一人でその倍以上の人数を用意できる。戦力、足りてないんじゃない?」
「っく……だが、数を増やそうと所詮貴女は一人だけ。我々とでは魔法の手数が違う。戦力が足りていないのは貴女の方よ!!」
「あぁそれ? 残念だけど____」
「っ!?」
突如、先程と同じように杏子の体や周りからは赤い煙が吹き出し始める。そして、杏子に話しかけていた魔法少女は身の危機を察知したのか杏子からとっさに離れ始めていた。
一人の魔法少女のみが反応できたが、その他の魔法少女は煙に飲まれ始めてしまう。
とっさに離れた魔法少女は息を呑んで煙が消えるのを待っていたが、何かが倒れる音も、杏子が持っていた槍で貫かれる音も、切りつけられる音もしなかった。
思わせぶりに煙を出したはずなのに、煙が消えた頃には傷一つ無い魔法少女たちが立っていただけであった。
「(見の危険を感じて飛び退いたのは勘違いだったの?)」
不審に思いながらも魔法少女たちに声をかける。
「おいお前達! 何をしている一度離れ……なっ!」
声をかけても反応はなかった。
赤い煙に包まれた魔法少女たちの表情は、遠目から見ても生気がなく、瞳は何かに取り憑かれているようにうつろであった。
そして、杏子の側にいる魔法少女たちは、徐々に体を飛び退いた魔法少女に向きかえ、だらしなく下げていた武器を構え始めていた。
「貴女……操っているのねっ!!
「正確にはあんたを敵として見えるように幻覚をかけてるだけ。あたしは操るなんて芸当は知らない。まぁ、とりあえずはあんたの仲間はあたしの仲間になった。これで魔法の手数もこちらが上だけど……これでもまだ戦うつもり?」
力の差は圧倒的なものだった。
魔法少女に幻覚をかけて仲間にしようなんてことは、杏子は考えがつかなかったことだった。
何故ならば、複数人の魔法少女に襲われることがそもそも稀なことであり、たとえ体得をしたとしても人間に幻を見せ続ける魔力などありもしなかった。
魔法少女の敵は魔女だ。
だが、マミの教えには魔法少女も敵だということを強く認識させられ、壊し方を教え込まれた。
それに耐えるための精神力も、その魔法を扱うための魔力の量も増やされた。
成り行きではあるが杏子は改めて魔法少女と戦ってみて、それだけマミは魔法少女と戦ってきたのだろうと思えるほどに、対魔法少女に関して的確な教え方だったと思い知らされていた。
「(やっぱりあんたは凄い師匠だ……だけど、あんたは多分、あたしの大切な一線を超える行いをしてるはずだ。あたしはそれを聞いたら、あんたを許すことは出来ないかもしれない。あの聖騎士のように)」
マミに聞きそびれていたことを思いながらも、杏子は大切な仲間を取られ戦力差も大きく付けられたことに焦り硬直している魔法少女に対し、得物である赤色の槍を構え始めていく。
杏子の相手をするたった一人の魔法少女は、現状のどうしようもなさで動かない体に無理やり活を入れ武器を構えるが、表情は暗く冷や汗をかいていた。
「悪いけどさ、あんたにかまってる暇はないんだよね。おとなしく潰れてもらうよ」
「う、うわ……うわぁああああああああ!!」
たった一人の魔法少女は勢いのまま動き出し、明らかに無謀な特攻を仕掛けるも、杏子の攻撃によって静かな終わりを告げた。