強く気高く孤高のマミさん   作:ss書くマン

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23話 解決していくイレギュラー

 空は晴れ、夜が明けた頃の少し水分を含んだ空気。鳥の鳴き声が囁き聞こえ、清々しい朝と言える早朝だった。

 しかし、とあるマンションの一室ではカーテンを締め切り、机の上にはグリーフシードの山と大量の付箋が貼られたノートを開きながら、黄色に輝くソウルジェムを眺めているマミが静かに座っていた。

 

「……」

 

 普段着には似つかわしくない魔法少女の衣装。魔女も使い魔の気配も無いはずなのに、マミはその衣装に身を包み机の上にあったソウルジェムを手のひらに移動させ、瞳をゆっくりと閉じて行く。

 

 ソウルジェムを握っていないもう一つの手の平を、心臓の位置にあたる胸に押し当て、黒いリボンがが伸び始める。肉を突き破り、プスプスと音をたてながら差し込まれていくと、徐々に魔力が流れ始めていった。

 

「……っ」

 

 表情が歪む。同時に、黄色に輝いていたソウルジェムは徐々に濁り始めていった。

 マミはお構いなしに魔力を流し続け、ソウルジェムの濁りを強めていく。すると、その濁りに呼応するかのように、部屋にはどす黒い瘴気が漏れ始めていた。

 魔法を流し続ける。

 濁りはまして行く。

 強制的に汚染されていく強烈な不快感に脂汗と、血管が切れたのか鼻血が滲み始める。

 しかし、それでも魔力を流し続けた。

 

 「私に、従いなさいよ……っ!」

 

 振り絞るような声で言った。

 誰かに言い聞かせるように、マミは濁りを溜めているソウルジェムを強く握り、力を込めていた。

 ゆっくりとマミの瞳が開かれる。

 その瞳には、光は無かった。

 新しい魔女の誕生を歓迎するかのように、部屋に包まれていた瘴気は勢いをまして言ったその瞬間だった。

 

「あぁあああああああああっ!!!」

 

 マミは魔女になる寸前で言うことを聞かない体に力を込めようと、大きく叫びながら机にあったグリーフシードの山にソウルジェムを無理やり押し込んでいった。

 水を吸うスポンジのように、グリーフシードは濁りを溜めに溜めきったソウルジェムに過敏に反応を起こしながら、大量の濁りを吸い続けていった。

 

「はぁ……はぁ……」

 

 マミの体はガクガクと痙攣を起こすように震えており、その場に倒れ込んでしまう。上手く息を吸えないのか、深呼吸と呼ぶにはか細く弱々しい風の音が続いていた。

 シャツは冷や汗や脂汗などの液体を吸ったせいで体にへばりつき、鼻血が垂れてしまったのか赤色の斑点模様が着いているのを見たマミは、上手く考えれない頭で床に落ちなくてよかったと眺めていた。

 ある程度呼吸や体が落ち着いた頃に、ソウルジェムを入れたグリーフシードの山を見てみると、大量の濁りを吸い続けた代償に全てのグリーフシードは使い物にならなくなっていた。

 

「キュゥべえ」

 

「……何かな?」

 

 人には聞こえないだろう音量。ふと呟いたぐらいの声も、キュゥべえは反応しマミの目の前に現れていた。

 急激な不快感と、その不快感がいきなり取り除かれたことに脳が追いついていないのか、濁りを取り除いた状態でも上手く動かない体にムチを入れて、マミはゆっくりと指を動かしグリーフシードを指していた。

 

「持っていって」

 

「分かった。それで、上手くいきそうなのかい?」

 

「……」

 

 キュゥべえの声は聞こえていたが、マミは反応を返さなかった。

 

「とりあえず、このグリーフシードは回収させてもらうね。また呼んでくれたら現れるよ」

 

「……」

 

 呼んだら現れると言い残し、無言のマミをそのままに帰ろうとしていたが、キュゥべえは立ち止まりマミの方向に振り向いていた。

 

「無謀だと思うけど、君は本当にやるつもりなのかい? 魔女の力____魔女化する際のエネルギーを自分のものにするだなんて」

 

「元を辿っていけば私のものよ。出来る可能性は高い」

 

 倒れたままのマミは初めてキュゥべえに反応を示したが、その声には感情が込められてはいなかった。

 

「ふーん。確かに君の言うことも一理あるかもしれない。だけどそれは、僕たちの技術レベルに追いつくことを意味しているよね。その観点を見れば、まだまだ人類は僕たちよりも劣っている。君もその一人ということを忘れてはいないかい、巴マミ」

 

「魔法と人間の感情はあなた達の想像もつかないものを秘めている。私の夢への実現には、その力を無視できないわ」

 

「……」

 

「インキュベーター。あなたが思うほど、この地球にいる生き物は弱くはない」

 

「僕たちの力でこの地球は発展を遂げてきたことを含めても、それを言えるのかい?」

 

 のっそりとマミは起き上がり、ゆっくりとキュゥべえの目に向けて顔を振り向いて言った。

 

「言えるわ。そしてあなたはいずれ利用される。利用して使い潰していた、他でもない魔法少女にね」

 

 マミの瞳には、強い輝きを帯びていた。

 

 

 

 

 

 見滝原には昔、風見野からやってきた魔法少女が一人いた。

 マミのことを知っている魔法少女ならば、見滝原に行くなど自殺行為にも等しいのだが、その魔法少女は自分の魔法に自信があったのか、縄張りを広げようと自ら進んで見滝原に足を踏み入れたのだ。

 少女の名前は優木沙々。

 その自信に見合う固有魔法を少女は確かに持っており、それは魔法少女や魔女を操ってしまうというものだった。

 見滝原の縄張りを我が物にしようと、彼女はマミに対して不意打ちで攻撃を仕掛け、操ることに成功____したかのように、マミは見せていた。

 沙々が魔法をかけていたマミは、リボンで作られていた偽物であり、本体は沙々の知らないところにいたのだった。

 そもそも魔法少女が見滝原に入っていた時点で、マミには居場所が詳しく分かっている状態になっており、不意打ちを仕掛けたとしても意味がなくそのまま返り討ちにされてしまうはずだったのだが、マミはその魔法少女に興味が湧いていた。

 今まで感じたことのない魔力の波長。

 不意打ちを仕掛けてきた沙々の魔法にわざとかかれば、彼女の魔法を感じられ覚えていけるだろうと考えていた。

 数日沙々の言うことを聞きながら魔法を覚え、理解を深めた後は沙々に向けて魔法を使い始めていた。

 しかし、本物には偽物は勝てない。沙々の持っている固有魔法には勝てないはずなのだが、マミと沙々ではあまりにも魔法に対する理解力や練度に差が出ていたのか、沙々はあっさりとマミの魔法にかかってしまった。

 自分の支配下においている魔法少女から攻撃が来るはずもないという、無意識の場所から攻撃を仕掛けられたということもあっただろうが、マミの支配下になった沙々はソウルジェムを残し始末された。

 いつも通りの作業。しかし、マミにとって沙々の出会いは大きな影響をもたらされた。

 

 

 魔女は敵である。

 そして、魔法少女が魔女に変化した際、魔法少女のときにはなかった大きな力を得ている。もし仮に、その力を自分のものに出来るなら。魔法少女のまま魔女の力を引き出せるようになったならば、魔法少女は自分たちが思っている以上の力を手に入れることができる。マミはそう考えた瞬間、体全身に鳥肌が立つ思いだった。

 魔女は魔法少女自身が変化した姿だ。

 ならば、その力の元はその魔法少女のものであると考えても、不思議ではなかった。

 キュゥべえの言うように、そんな事は出来るはずがないと言われても仕方がない問題だったが、他でもない魔法少女である沙々が、魔法を使い魔女を操っている姿を見せていた。

 固有魔法を使えるからこそそれが可能だったのかもしれない。だとしても、魔法を使い魔女を操っていたと言う事実は変えられないものだった。

 魔法少女が魔女に変化するときのエネルギーは、宇宙の寿命を伸ばすという壮大な計画に組み込まれるほどの力を持ったエネルギーだ。

 マミはそのエネルギーを自分のものにしようと何度も試みてはいたのだが____

 

「結局、今日も失敗に終わったのね」

 

 沙々から得た魔法少女や魔女を操る魔法を利用し、何度も己の中にある魔女の気配をつかもうとしていたのだが、失敗に終わっていた。

 沙々のような固有魔法を持っていないマミは、沙々の魔法とはまた違ったアプローチをしていたのだが、それも上手くはいっていなかった。

 

 マミの固有魔法はリボンだ。

 その本質は物を縛り合わせる・結び合わせるといったものだった。

 命を落としかけたときに、キュゥべえに願った奇跡である「助けて」の言葉で、マミの消えゆく命は結び合わされ、この世界に縛り合わされた。

 その性質を持つリボンと沙々の魔法が合わさり、精神に対してリボンを使い、直接訴えかける力技の魔法を手に入れていた。

 その魔法を使い、自分自身の深層心理を無理やりこじ開けるように魔力を深く流し込み、精神と肉体に強烈な不快感による反射を強制的に起こし、ソウルジェムを無理やり濁らせていった。

 濁りが深くなればなるほど、魔女の気配は色濃く現れる。そうして自分自身の魔女の気配を感じ、自由自在に力を引き出せるように。魔女に変化した際のエネルギーを取り入れるために。マミは自分自身を実験台に使い、危険極まりない試行錯誤を何度も繰り返していた。

 

「魔女の気配は掴めているのに、そこから先が分からない。もどかしいけど、これが今の私の限界なのね……ふぅ、汗で体が気持ち悪いわ。シャワーを浴びましょう」

 

 ソウルジェムを指輪に戻したマミは、先程の不快感が抜けていないのか、重苦しそうな足取りでシャワールームへと入っていった。

 

 

 

 

 

 

 

「おはようございますマミさん!」

 

「おはよう、美樹さん」

 

「もう、マミさん! あたしのことはさやかって呼んでくださいって言ったじゃないですか!」

 

「……おはよう、さやかさん」

 

「え、何それどういうことなのさやかちゃん」

 

 シャワーを浴び終わり学校への身支度を済ませて通学路を歩いているマミの側には、先程の暗い雰囲気とは打って変わって明るい雰囲気を出しているさやかとまどかが引っ付いていた。

 

 昨夜、マミが魔女を倒した後のことである。さやかはマミの魔法少女姿を見て感銘を受けたのか、自分の名前を名字である美樹と呼ばず下の名前で呼んでほしいとマミに提案していた。

 魔法少女に憧れを持たせないように考えて行動していたマミは、魔法少女の酷い部分を見せつけて、さやかを震え上がらせることに成功したと勘違いをしていたので、さやかの溢れんばかりの喜びように面を喰らってしまい硬直していた。

 そんなマミを他所に、さやかは自分を下の名前で呼んで欲しいと勢いをつけてせがんできたので、マミはその流れでうなずいてしまい現状に至っていた。

 

「マミさんの魔法少女姿があまりにもかっこよすぎてさ……今思い出しても、心に来るよ。移動するときとかお姫様抱っこをされたんだけど、夕日で赤く照らされているマミさんの横顔とかすごく印象的で、魔女と戦ってるときなんて普段のマミさんには想像できないような熱くたぎるような凛々しさがあって……」

 

『ちょ、ちょっとマミさん一体何をしたんですか?』

 

『魔法少女に憧れを持たせないようにしたつもりなんだけど、私にも訳がわからないの……』

 

 キュゥべえのセリフを奪うように、マミは思う通りに行かなかったことが不思議で軽く頭を抑えながら、まどかとテレパシーを通して会話をしていた。

 さやかの様子から、これでは魔法少女にさせてしまうという不安の種を、不本意ではあるが自ら作ってしまったこともあり、マミはどうしたらいいものかと悩んでいた。

 

『やっぱり、無理矢理でも連れて行かなかったほうが良かったのかしら。だけどあのままさやかさんを置いていたら、何かの拍子に願いを叶えてしまいそうだったと思ったのだけど……』

 

『……前みたいに、しなかったんですか?』

 

 まどかは不安げな表情でマミに聞いていた。

 前のようにというのは、キュゥべえがまどかたちに魔法少女の契約を押しかけたときに出したプレッシャーのことを指していた。

 確かにあれをすればさやかを黙らすことは出来ただろう。だが、マミの出していたプレッシャーは、魔法少女という大きな力を持った者に対して対抗手段を持っていないただの人間にとっては、たかがプレッシャーでも精神的にも肉体的にも大きなキズを与えかねない。そんなことをしてしまえば、強烈なトラウマや絶対的な恐怖を植え付けるようなことになってしまうので、マミはその手段をあまり取りたくはなかった。

 その結果、魔法少女になってしまえばどれだけの不利益が自分自身に、もしくは周りの人間に降り掛かってしまうのかを実践してみせたのだが、それが目の前で起こっている結果につながるとは、マミも想像をしていなかった。

 

『鹿目さん、とりあえずトリップしてるさやかさんを止めてほしいわ。悪目立ちしちゃうもの』

 

『そうですね……その前に、マミさんにお願いがあるんですが』

 

『え、何かしら?』

 

 マミの悩みなんて知らないように喋り続けているさやかを止めてほしいとお願いすると、突如まどかからストップの声が上がる。

 

『私のことを、鹿目さんじゃなくてまどかって呼んでほしいです!』

 

「……」

 

 どうしてそこで対抗心を燃やそうとしてくるのか、またもや訳が分からないとマミは内心呆れていた。

 まどかの瞳は名前を呼んで欲しそうにキラキラと輝いている。その瞳を直視したマミは、そこまで期待されれて断ってしまうのも忍びないと思い、仕方がないと言う様子でため息を吐きながら結局折れてしまっていた。

 護るべき対象である愛しく可愛い後輩に甘えられるのは嬉しい限りなのだが、しかし、時と場合を考えてほしいとも思っていた。

 

「さやかさんを止めて頂戴……まどかさん」

 

「さやかちゃんステイ! ステイだよ!」

 

「ちょっと何なのさ! あたしはもっとマミさんのことを語りたいのに! まどかだって聞きたくないの!?」

 

「聞きたい! 聞きたいけど今はステイだよ!」

 

「あたしは犬か!」

 

「もう! だから通学路で暴れちゃ駄目よ。落ち着いて……落ち着いて」

 

「ふわぁ」

 

「うひゃー」

 

「ふふっ、いい子ね2人とも」

 

 まどかのお願いを聞き入れさやかを止めるように伝えたはずなのだが、通学路で一緒に暴れだしてしまう二人を見て、最終的にはマミが止めに入ってしまっていた。

 

 

 

 

 

 

「起立、気をつけ、礼、ありがとうございました」

 

「三年生の皆さんは受験勉強を怠らず、気をつけて帰ってくださいね」

 

 その日の放課後、号令とともに生徒たちはバタバタとせわしなく教室を出ていった。

 マミもその様子を見ながら、片付け終わっていなかった机の上の荷物を学校指定の鞄に入れ始め、そのまま椅子に座り一日の授業が終わったことに息をついていた。

 すると、マミの友人の一人である少女が小さく手を振りながらこちらに近づき、それに気づいたマミは少女の方へ顔を向けて手を振り返していた。

 

「巴ちゃん、今日の放課後遊びに行こうよ」

 

「そうね……」

 

 少女は放課後のお誘いをしていたのだが、マミはその誘いを受けようか受けまいか悩むように顎に手を付き首を傾げていた。

 そんな悩む姿に不満を漏らすように、少女は頬を膨らませながらマミの机の近くにあった椅子に座り喋り始めた。

 

「最近、巴ちゃんって可愛らしい女の子二人を侍らせてるけど、もしかしてその子達のことを考えてるの?」

 

「侍らせてるって、あの子たちはそんな関係じゃないわよ。ただの後輩」

 

「ただの後輩にしては過剰に甘えられてるような感じがするし、今日の朝だってそんな感じだったじゃん」

 

「……見られてたのね」

 

 変なものを見られてしまったという表情を無理やり隠しながら、マミはあくまでも落ち着いた様子で答えていた。

 友人に見られたからと言って特に何かがあるわけではないのだが、マミの立場からしてあまり交流の少ないはずの二年生に、あそこまで引っ付かれている姿を見られてしまうと、このように疑問の目を向けられ最悪の場合魔法少女のことを知られるなんてことに繋がってしまうのは、マミとしても避けておきたい事態だった。

 

「いや凄かったよ? 青色の髪の子からも好かれてたけど、桃色の髪をした女の子は巴ちゃんにぴったりだったもん」

 

「ふふっ、何だか最近妙に甘えられちゃってね」

 

 困ったように、しかし嬉しそうにマミは語っていたのだが、それが少女にとって面白くないのか提案があるというように手を叩き、マミに喋り始めた。

 

「だったら少しぐらい離れたほうが、もしかしたらあの子達のためにもなるって! あたしたちは今年で最後の中学生! 折角なんだから一緒に遊びに行こうよ!」

 

「どうしようかしら____っ!」

 

「……どうしたの?」

 

 少女のお誘いに悩んでいたマミが、突如なにかに気づいたようにハッとした表情をしたので疑問の声をかけていた。

 マミはその声を無視して、ふと指についている指輪のように形状を変えているソウルジェムを見始めていた。

 

「(魔女の気配が無くなった。ただ倒されて無くなっただけじゃない、その速さが異常だった。魔女の現出から消える速度までの一連の流れが……まるで、そこで生まれることを知っているかのように)」

 

 魔女を倒した人物は特定している。見滝原市で魔法少女として活動しているのは、マミを除けばほむらしか存在していない。それは、マミがよく知っている事実であった。

 

 ほむらのように魔女の発生した位置を特定して倒すことはマミにも可能だ。

 見滝原市にはマミの魔力が充満している。だからこそ、魔女や使い魔がどこで発生したか。どこに隠れているのか。口づけを受けて魔力を宿した人間がどこにいるのかを全て把握出来ていた。

 しかしそれは、マミの長年に渡り洗練され続けた技術と、数多の魔法少女を費やして得た膨大な魔力を、広大な見滝原市に流し続けるという荒業で可能にできていることだった。

 相手の位置を特定する願いで得た固有魔法とは程遠い、ただの魔法少女としての一つの奥義を使用し続けているからこそ出来る芸当だ。

 

「(暁美さんの佇まいは私と同じように長年戦い続けた魔法少女の風格がある。だけど、暁美さんにそんなことが出来る魔力を持っているとは思えない。だからこそ、暁美さんの魔法は相手の魔力を強く感じ取れる感知系……でも、それだとやっぱりおかしいことがある)」

 

 暁美ほむらの固有魔法は感知系だと、マミは考えていたことがあった。

 その理由の一つとしてあげられたのが、ほむらがまどかとさやかの魔法少女としての素質を見抜いていたことだった。

 魔法少女の素質を感じ取れることは、今のマミでも難しい。そんな事が出来るのは、素質を見抜き魔法少女として勧誘をしているキュゥべえか、その系統の願いを叶え固有魔法を手に入れた魔法少女だけだと考えていた。

 しかし、そういった類の願いを叶えた魔法少女が、マミとの戦いの際、目の前にいるマミの意識する暇もなくリボンを至るところに張った包囲網を、カシャンという何かが開き回転する謎の音とともに消え去り、その場から脱出出来る芸当を持っているはずがないと考えた。

 瞬間移動をする事ができ、魔法少女の素質を見抜いてしまうほどの感知する魔法を持っている。そして、未来でも知っているかのように、魔女が現れる場所に構えている。

 

「(未来でも、知っているかのように?)」

 

 マミの中で未来という単語が引っかかった。

 そもそもマミにとって、ほむらはイレギュラー中のイレギュラーだ。

 居るはずのない場所からいきなり現れたからではない。キュゥべえが契約していないはずなのに、魔法少女として現れ活動しているからだ。

 キュゥべえは決して嘘はつけない。口が足らないことはあるが、質問にはしっかりと答える。だからこそ、契約をしていないというのは本当だった。

 

「(キュゥべえは暁美さんを見ても契約はしていない少女だと断言した。私と同じ様に長年戦い続けて、キュゥべえに知られないようにすることが可能なの? キュゥべえの介入なしに、魔法少女になることが可能なの? あまりにも、現実的ではない……)」

 

 仮にキュゥべえの介入なしに魔法少女になる方法があり、キュゥべえに知られないように行動出来る手段があったとしても、マミから見たほむらの行動はそれに矛盾していた。

 誰かを探したいといった願いで得た、感知系の固有魔法を持っていない一般的な魔法少女である自分の魔法にさえ、あっさりと知られてしまうお粗末な行動。それに加えて、自分の身を隠していたはずなのに自らキュゥべえに対して攻撃を仕掛け姿を見せている。

 

「(まるで未来を知っているかのように魔女を倒した。まどかさんたちの素質を知っていた。私の包囲網から空気が揺れることもなく、カシャンと何かが回る音とともに姿を消した。キュゥべえが契約していない、いきなりその場に現れた魔法少女。長年戦い続けた風格……っ! ま、まさか、もしかして暁美さん、あなたはっ!!)」

 

 突如バラバラに置かれてあった全ての点と点が繋がれていくような感覚に襲われ、がたんと大きな音をたてながら、静かに座っていたマミはいきなり立ち上がる。

 感知系では釣り合わない魔法。

 魔力も自分のように多くはない。

 未来を知っているかのような行動。

 まどかたちの素質を知っていた事。

 契約もしていないはずの魔法少女。

 マミの包囲網を知覚なしにその場から切り抜ける魔法。

 長年戦い続けている風格。

 何かが回る機械音。

 マミはありえないとは思いながらも、ほむらが使う魔法がその類のものであるのならば、今まで並べた仮設が全て合ってしまうものになり、驚きを隠せない様子で一つの答えにたどり着いていた。

 

 「(暁美さんは未来からやってきた魔法少女であり、時に関する願いで得た固有魔法を持っているっ!)」

 

 頭の中に稲妻が走ったような思いだった。

 突如冷や汗が流れ始め、力が抜けたように立ち上がっていたマミは椅子に座り始める。もし、あのとき路地裏で、対立したときにほむらに強い敵対心があったならば、マミはその場でなんの抵抗も出来ることもなく殺されていた事実に。

 

「ねぇ、どうしたの巴ちゃん。いきなり立ち上がったり顔色悪くしたり、何かあったの?」

 

「え!? あ、え……な、なんでもないのよ」

 

 隣に座っていた友人に声をかけられ、思考に没頭していたマミは不意に現実に呼び起こされたかのような感覚になり、落ち着かない様子で答えていた。 

 未来からきた魔法少女に危うく命を落としかけていたなどと正直に言えるわけもなく、マミはこれ以上心配をかけられないように息を整えながら、冷や汗で張り付いた制服の中に空気を送るようにパタパタとあおいでいた。

 

「行きましょう」

 

「え?」

 

「遊びによ」

 

「良いの? なんだか心ここにあらずって感じがするけど____って、うわっ」

 

 遊びに誘ったのは少女だったのだが、先程から落ち着いていないマミの様子に心配して、少しばかり遠慮気味になっていた。

 だが、マミは大きな謎が解決して晴れやかな気分とは行かないが、誘いを断る気分でもなかったので、戸惑う少女の手を引きながら教室を出始めていた。

 

「今日は遊びたい気分なの。それに、折角のお誘いを断るなんて、そんな勿体ないこと出来るわけないじゃない」

 

「わわっ、そうだったの? なんだかそんな様子には見えなかったけど」

 

「良いの! 早く行きましょう!」

 

 少女の遠慮を吹き飛ばすように、マミは手を引き続けた。

 先程の右往左往していた表情から変わって、足取りが軽やかになっていくマミの姿を見ていた少女は、引っ張られていた手を握り返しながらマミの隣に並んでいった。

 

「(暁美さん、あなたの魔法は強力すぎるほど強力よ。だけど、あなたはその魔法に頼りすぎている可能性がある。それとも、あなたはその魔法にすがるしかないほどの魔力しか持っていないのかしら? そして、あなたの謎が解かれた今、私とあなたの立場はどちらが上なのかしら? 時を司るあなたの魔法、ぜひとも理解してみたいわ……!)」

 

「巴ちゃん、次はなんだか嬉しそうな顔してるけど、やっぱり何かあったの?」

 

「え? ふふっ……これから何処に遊びに行こうか、迷ってるところなの。一緒に決めたほうが楽しいわよね」

 

「うん! ……それにしても、巴ちゃんって後輩の子たちと一緒にいるときもそうだったけど、なんだかボディタッチ寛容だったり多かったりするよね。もしかして……」

 

「あら、そんな事をいうとあなたを食べちゃうわよ」

 

「ひゃっ! 何処触ってるの!」

 

 いきなり同性愛者呼ばわりしてくる少女にマミは抱きつき体を弄り始めたので、それに逃げるように少女は小走りで廊下を駆けていった。

 マミもそんな少女を追いかけるように、同じ様に小走りで追いかけたのだった。

 

 

 

 

 


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