強く気高く孤高のマミさん   作:ss書くマン

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25話 分岐点

 

 

 

「グリーフシードの集まりが想像以上に悪いわね。過去の出来事を通して、魔女が出現する場所が分かってないと狩れないほどに」

 

 杏子から情報を得て日にちが少しばかり経ったとある日、ほむらはマミとの衝突を避けながらも魔女を倒し続けてグリーフシードの貯蔵を進めていた。

 マミの異常な過去を伝えられたとしても、目的のために動かなければいけないほむらは、学校が終わった放課後に忙しなく見滝原市内を移動していた。

 

 今まではほむらが過去に体験した出来事を参考に、魔女が発生する場所に先回りをして倒していくなど、繰り返すことが出来る範囲内の時間を効率的に使ってグリーフシードを集めていた。

 とはいえ、グリーフシードを集められる数は限られている。結局ほむらが繰り返せるの時間の狭間のみの事であり、日数にして一ヶ月程度。どれだけ効率的に時間を使ったとしても、大まかに決められた場所に魔女は発生して、発生する数もそれだけだ。

 それ以上のグリーフシードを求めるなら、見滝原市から離れて他の街を探索しなければならない。つまり、得られるグリーフシードが最終的にどれだけのものかは経験上決まっていた。

 魔法での移動手段が乏しいほむらには、電車やバスを使って他の街に移動して、グリーフシードを取りに行くことも考えたことはなかったのだが、あまりにも時間の浪費が激しかった。

 攻撃手段も魔法のものではなく現代兵器を主軸にしているほむらには、ワルプルギスの夜用に集めなくてはいけない兵器の回収にも多くの時間を費やしてしまう。そして、回収に使う時間がほむらの中にある時を止める砂時計の大半を占めていた。

 

 ほむらの魔法は時を止める。しかし、それは限定的な期限のみでしか使えない極めてピーキーな魔法だった。

 腕に身につけている銀色の盾の中には砂時計が仕込まれてあり、その中に入っている砂が全て落ちきるまでは時を止める魔法を使用することが出来る。その砂が全て無くなり元に戻してしまうと、繰り返し始めるスタート地点。つまりは過去に戻ってしまうといったものだった。

 時を止める砂時計の砂を、どれだけ武器の回収やグリーフシードの貯蔵に割り振り、ワルプルギスの戦闘に残しておくのかがほむらにとっての課題だった。

 武器の回収には繰り返す回数に比例して砂を割り振る量が増えていく。それは、過去のワルプルギスに挑んだときよりも、より多くの武器を揃えて置かなければならないからだ。

 その時倒せなかったならば、その時よりも多く。

 また次倒せなかったならば、その時よりもより多く。

 繰り返すたびに更に多く。より多く。現代兵器の回収を行っていた。

 徐々に徐々に回収量は増えていき、そのたびに砂時計を回転させることが多くなった。

 砂時計の割り振る量が回収に多くなればなるほど、他の事に使えなくなっていってしまう。だからこそ、余計なことに時間を割く余裕なんてものは、先のことを見据えてもほむらにはなかった。

 そのため何時ものように他の街に行くこともなく、見滝原市内に留まり過去の経験で培った知識の上で魔女を倒しているのだが、集まったグリーフシードは過去を通してもこれ以上にないほどに少なかった。

 それは未来の出来事を知っているほむらよりも、それ以上に速いスピードで魔女を狩り続ける魔法少女がいるということを意味していた。

 見滝原で活動している魔法少女は、ほむらを除いて一人しか存在しない。

 

「巴マミ……杏子から話を聞いているとはいえ、この時間軸のマミの強さは異常の域ね。逆に、彼女がワルプルギスの討伐に協力してくれれば、これ以上にない戦力になるのだけど」

 

 杏子から聞いた話では、見滝原市にはマミの魔力が充満している。だからこそ、魔女の位置を素早く特定していると言っていた。

 それでも自分よりも速いスピードで魔女や使い魔を狩り続けている方法はほむらには分からなかったが、それが出来るほどの能力を持っているということは確かだ。

 それだけの力を持っていれば、危険が伴っていても、今までの時間軸よりもワルプルギスに対抗できるとはっきりと思えた。

 

「危険は承知。むしろ、巴マミの危険度はいつも上位の位置にある」

 

 過去のほむらにとってマミは魔法少女だけではなく、身の回りのことでも頼れる先輩と思っていた。

 長年一人暮らしで培っていた料理の技術。特にお菓子類や紅茶に関しては絶品だった。

 同じく一人暮らしをしていたほむらにとって、マミから教えられたことは生活のいろはも含まれている。尊敬する先輩であり、魔法少女としても何度も助けてもらっていた頼もしい味方。だが、敵として回ってしまった時の背筋の凍るような恐ろしさも、ほむらには身に染みて分からされていた。

 

 

 

 とある時間軸での話だ。

 繰り返し始めて間もなく、まだまだ魔法少女としての立ち回りも何もかも勉強不足だったときのほむらは、魔法少女が魔女になる真実をまどかたちに見せつけてしまう機会があってしまった。

 魔法少女だったさやかが魔女になった。

 それを、同じく魔法少女になっていたまどかを含め、仲間として戦っていた杏子とマミがその場にいたからだ。

 杏子は握りこぶしを作り、さやかが魔女になり死んでいく姿を悔しがっていた。

 さやかが魔女になった後、何度も声をかけ続けて自我を取り戻そうとしていたまどかも、親友が死んでしまったことに嘆いて大粒の涙を何回もこぼしていた。

 ほむらはも悔しい思いでいた。

 皆を____まどかを助けるために繰り返しているのに、自分の不甲斐なさで目の前の光景を作ってしまっていることに。すると、体に見慣れたリボンが巻き付いてきた。いきなりの出来事であり、反応が出来るものではなかった。

 ほむらの困惑をよそに、パリンと何かが砕ける音が響いた。

 杏子のソウルジェムが砕ける音だった。

 

 ソウルジェムは魔法少女の魂だ。

 それは、キュゥべえから直接問いたださなければ語られない秘密の一つであり、魔法少女の際に作られるソウルジェムは変身用のアイテムなんてものではない。生きるか死ぬかに大きく関わる、正真正銘の人間の魂を形作っているのがソウルジェムだった。

 肉体から魂が抜き取られ、残った肉体は抜け殻となる。 その上、肉体を動かせるのはソウルジェムから100メートル以内であり、まるで肉体を外付けのハードウェアのように改造されてしまっているのが魔法少女だった。

 しかし、逆に言えばソウルジェムが傷つかなければ肉体がどれだけ無くなろうと生き残ってしまう。明らかに死に至っているであろう致命傷でも、ソウルジェムがあれば問題はない。それを、混乱に乗じて正確に撃ち抜いたのだ___巴マミが。

 

『 ソウルジェムが魔女を産むなら、みんな死ぬしかないじゃない! あなたも、私も…!』 

 

 ほむらにはその時のことは、過去を何度も繰り返して長い時間を渡り続けた今でも、鮮明に思い出せるほどに絶望的で印象的な出来事だった。

 魔法少女が魔女になることに絶望し、ソウルジェムの濁り切らせ魔女になることもなく、その場に踏みとどまったマミの表情とそのセリフ。

 震えながらでも、時を止めるという強力な魔法を使うほむらを確実に拘束した後、魔法少女としての歴がマミに続いて長い杏子を即座に始末する一連の流れが、あまりにも躊躇がなかった。

 拘束されたほむらは何も出来ることはなく、そのままマミの弾丸を受けることになるかと思ったが、ほむらを助けようとしたまどかの攻撃が、マミのソウルジェムを貫きほむらはリボンから解放された。

 だが、魂という曖昧なものを形作るソウルジェムが壊され、マミは確実に死んだはずなのに、マミのマスケット銃はそれでも火を吹きほむらを貫こうとしていた。

 まどかから放たれた攻撃で、思わず引き金が引かれただけかもしれない。しかしほむらにはその弾丸が意識がなくなった後でも、確実に殺そうとする強い思念を持っているかのように思えてゾッとした。

 

「……今回の巴さんは危険だけど、私には寧ろ接しやすい部類ね」

 

 ほむらにとってマミは頼もしい仲間になるときもあれば、扱いを間違えればこれ以上にない敵になる。それは、今の時間軸がイレギュラーであろうとも、それは変わらない。寧ろ、魔法少女が魔女になる事を知って、それを個人的に乗り切ってくれているだけ、ほむらにとっては好都合だった。

 ほむらがマミに対して恐怖しているのは決して強さだけではない。思い切ったことをいきなりしてしまう不安定さが怖かった。

 自分一人で魔女になってしまうならともかく、身に余る強さを冷静に振り回し、周りの人間を巻き込んで壊そうとしてくる恐怖。静かな人ほど切れたときが怖いというが、マミはそれを体現していた。

 しかし、今のマミは危険ではあるが安定している。彼女の精神が壊れる確率が多い魔法少女の真実を知っていてなお、心の中に一本の柱を形成して行動している。それは、安定した精神を持っていなければ出来ないことだ。

 

 杏子が言っていたように、今回のマミは他の時間軸のマミと比べてしまうのが申し訳ないほどに強い。だからこそ仲間になれば、ワルプルギスの夜を討伐することが可能かもしれない。そのためにはマミへ直接接触をしなければいけないのだが、杏子にはなるべく止めるようにとは伝えられていた。

 とはいえ、現在こうして生き残っているということは、今の自分にはマミにとって利用価値が残されているということ。今のうちに伝えて置かなければ、いつ殺されるかは分からないと思っていた。

 そして、ほむらの好都合だと言わんばかりに、とある日は必ず接触を図らなくてはいけない事態があった。

 

「巴さんが高確率で命を落とす魔女。その日は必ず私も会いに行かなければならない。まどかとさやかがどうしても側に付いてしまっている魔女だから」

 

 お菓子の魔女。そう呼んでいる魔女が、過去を通してマミの命を何度も奪っている名前だった。

 魔女としての強さはある程度持っているが、他の魔女と比べて抜きに出た強さを持っているわけではない。冷静に対処してしまえばほむらでも簡単に対処ができる。ただ、マミとの相性が特別悪く、それに加えてまどかたちに良い所を見せようと意識をしすぎて、驕りと油断が合わさりそのまま命を落としてしまう。それが、ほむらが何度も経験したマミの死に方だった。

 

 マミが死んでしまえば、側にいたさやかとまどかが魔法少女の契約をしてしまう。マミよりも早く倒してしまうと、グリーフシード狙いだと勘違いをされる事が多く、警戒心を強められてしまう。たとえ関係が悪くても、何度も共闘しようと提案していたが、リボンで拘束され助けることもなくそのままマミが死んでいく事が多かった。

 

 ほむらにとって、お菓子の魔女でどのようなパターンを引くかにより、この先の未来がある程度決まってしまう大きな分岐点の一つだった。

 しかし、今回のマミは異例中の異例であり、油断も無ければ隙も無い。まどかたちを魔法少女に勧誘していることもないので、格好良く見せすぎるといった意識も持っていない。杏子の話からも、簡単に魔女にやられてしまう様子もない。ほむらには、今までのマミが死亡してきたパターンに繋がる要素が見当たらないように思えていた。

 

「それでも、まどかがそこにいるのなら。危険な状況に追い込まれかねないのなら、私は向かわなければならない」

 

 マミがお菓子の魔女にやられることはないだろう。だからと言って、ほむらが護るべき対象であるまどかが危険な場所にいるのなら、たとえ魔法少女にとって危険なマミが居たとしても、それがほむらを止める理由にはならなかった。

 そして、接触を図るとある日____ほむらの運命の分岐点であるお菓子の魔女と、マミとの接触は今日の事を指していた。

 

「待っててまどか」

 

 ほむらの決意は長いこと前から決まっている。何度も何度も繰り返してきた時間の果てに、崩れることも無くより強固になっていた。

 

 最初は全てを助けようとした。

 何度も何度も、さやかを、マミを、杏子を、色々なものを救おうとした。

 色々なものを救おうとして、歪で大きな石だったほむらは、長い時間の濁流に流され続け、まるで角が取れていくようにまどか以外の余計なものを手放し始め、最後にはまどかを救うことだけを考えていた。

 まどかさえ救えればどうなっても良い。それが、ほむらを形作る正義だった。

 

「今度こそあなたを護ってみせるわ」

 

 ほむらは艷やかに輝く黒く長い髪の毛に腕を通し、大きくはらうような動作で美しい黒いカーテンを作り上げた。

 

 

 

 

 


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