強く気高く孤高のマミさん【完結】   作:ss書くマン

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27話 お菓子の魔女 下

 

 

 

 

「(本当に巴マミは死んでしまったの? こんなにあっさりと?)」

 

 まどかの声で現実に呼び覚まされたほむらだったが、それでも目の前で起きている光景が現実のものなのか疑問で仕方がなかった。

 だが、魔女はマミの死体をまるでおもちゃの様に空中に投げ捨て、地面に転がし、そのたびにぐちゃぐちゃと不快な音を鳴らしている。それが何よりの証拠だった。

 それでもやはり、マミが死んでしまったことが信じられない。杏子にはなんと言えば良いのだろうか。ただの魔女に頭から食べられて死んでしまいましたなどと言えば、鼻で笑っている杏子の姿がほむらには安易に想像できた。

 それほどほむらにとって、目の前で死体を弄んでいる光景が映し出されようとも、信じようにも信じきれなかった。

 

 マミが死んでしまった以上はお菓子の魔女を自分が倒さなければならない。そうしなければ、ここにいるまどかとさやかがキュゥべえと契約をして魔法少女になるか、そのまま死んでいってしまうかの二択だ。

 そんなことは許すわけがないと思いながら、深く深呼吸をしながら体に力を入れると、その場をゆっくりと立ち上がった。

 

「……二人ともごめんなさい。私がいながら、巴マミを助けられなかった。あの魔女は私が倒すから、安心して頂戴」

 

 信頼していた。

 いや、信頼以上の何かをマミに抱いていた二人は、その人物の残酷な死を間近で見てしまい、当たり前であるが精神的に不安になっている。そんな彼女たちを少しでも安心させるように、ほむらは声をかけた。

 

「だ、駄目……ほむら、行かないで……ほむらちゃんまで、し、死ん……うぅ……」

 

 少し前には抱擁をその身に優しく与えてもらっていた人が、大切な身近にいた人の死が脳裏に焼き付けられているのか、死んでしまったというその事実を口に出したく無いように、上手く口が開かずにガタガタと体を震わせながらもその手をほむらの方にゆらゆらと向かわせていた。

 恐怖と絶望で動かない体を無理に動かしながらも、魔女に向かおうとしていたほむらを心配するまどかの優しい気持ちを感じ、ほむらはゆっくりとまどかの前でしゃがみその手を握った。

 そしてまどかを落ち着かせるように、ほむらは今の状況でも作ることの出来る精一杯の笑顔で語りかけた。

 

「大丈夫。私はあの魔女の対処法を知っているの。それに、私はあなたを護りきるまで死なないわ」

 

「ほむら……ちゃん?」

 

「美樹さん。まどかをよろしく頼むわよ」

 

「え? ……あ、あぁ、うん……って、ちょ!!」

 

 まどかと同じ様にマミの死が受け入れられていないさやかに声をかけ、すぐさまその場から立ち去ろうとするほむらにさやかは声を荒げる。しかしほむらはさやかの声を振り切り、その場から魔法少女の脚力で舞台の中心へと跳躍した。

 マミの亡骸に夢中の様子だった魔女は、いきなり現れた魔法少女に興味を移し始める。ほむらは何もせず、マミと同じ様にただ魔女に近づいて歩いていた。

 

 コツコツとほむらが履いている靴が地面を鳴らし、その音があたりに響いていた。

 魔法少女の衣装では黒いヒールを身につけているほむらの歩行は、中学生ながらも様になっている。それは、長い時間この衣装に身を包み、履きなれていた魔法製の黒いヒールであり、ただ歩いているだけなのにその歩行姿は何かの魔法を使っているのではないかと思うほどに美しかった。

 

 静かに、しかし堂々と近づいてくる黒い魔法少女に対し、敵対の意を感じたお菓子の魔女は、マミの首を噛みちぎった時と同じように驚異的な速さでほむらに近づき、身体を丸呑みにしようと大口を開き突進していた。

 

「だめええええええぇぇぇえええ!!!」

 

「ほむら!!!」

 

 

 避ける様子を見せないほむらの姿。それを見たまどかは悲鳴のように叫び、さやかはほむらの名前を喉が裂けるのではないかと思うほどに力強く呼んだ。

 しかし、叫んだところで何かが変わるわけではない。だが、魔法少女でもなんでも無いただの人間である二人には叫ばずにはいられなかった。

 魔女が大口を開けて向かっていくその瞬間、ほむらがマミと同じ末路を巡る未来しか見えなかった。

 喉が焼き切れそうに熱くなろうと、自分でさえ耳を塞ぎたくなってしまうほど痛く醜い叫び声だとしても、二人にはそれをすることしか出来なかった。

 

「あ、あぁ……嫌……」

 

 見たく無かったその光景。まどかがいくら叫ぼうとも、聞くに堪えない声だとしても、大きく開かれた魔女の大口は勢いのままに、ほむらの身体全身を飲み込んでいた。

 

「あ、ああぁああ……嫌、嫌だ……嫌だよ……なんで……」

 

 マミのように生々しく首をもがれ、血飛沫を上げ骸を弄ばれる訳ではない。それでも、たった数分で友人を2人失ってしまう現実にまどかは顔を手のひらで覆い、その場で泣き崩れるしか出来なかった。

 

 さやかも目の前の現実が到底受け入れられずに放心していた。

 これ以上にないほどに尊敬していたマミも死んでしまい、出会って日が浅い転校生だとは言え、一緒にお昼ご飯を食べている仲まで親しくなれた新しい友人だった。

 魔法少女は死と隣り合わせだ。

 昨日まで笑顔で出会っていた人とも、明日を迎えることができなくなる可能性が染み付いていしまう。それを分かっていたはずだった。

 だが目の前を出来事を見て、分かっていたふりをしていただけにすぎないと理解した。

 こんな現実を到底受け入れられるはずがない。受け入れて良いはずがない。いともたやすく命が消えていく瞬間を見ていたさやかは、悲しみが襲ってくるよりも、ふつふつと湧き出てくる怒りが増していくのを感じて、奥歯を砕かんとばかりにギリギリと歯へ力が入っていた。

 

 魔法少女がいなくなったこの場で、次の標的はまどかとさやかに移るだろう。魔法少女でもないただの人間が魔女に太刀打ちできる訳でもなく、同じようにその大口で飲み込まれる運命にあるだろう。しかし、魔法少女でなければの話だ。

 

「キュゥべえ……あたしを、魔法少女にしなさいよ。願いは……あたしの願いは、マミさんとほむらを生き返させる! あんたなら出来んでしょ!」

 

 吠えるようにさやかはキュゥべえに問いかけた。

 さやかにはキュゥべえの話を聞いたとき、願いを叶えるならこの願いが良いと、その場で頭に浮かんだほどに強く叶えたい願いは他にあった。

 しかし、その願いはまだ生きているものに対しての願い。それなら、マミとほむらを生き返らせる方が良いと思いキュゥべえへと伝えたのだが、さやかの思ってもいない答えが返ってきた。

 

「残念だけどそれは出来ない。さやかの持っている資質では、人間を二人生き返らせる願いを叶えるほどのものを持っていないんだ」

 

「は、はぁ!? ふっざけんじゃないわよ!! このままあたしに黙って見過ごせっていうの!? あんたは何のために願いを叶えてんのよ!!」

 

 キュゥべえに思わぬお断りを言い渡されたさやかは怒りに任せて拳を地面を叩きつけていた。

 そして、さやかの持っている資質という言葉を聞き、まどかはゆっくりと顔を上げた。

 

「だったら私を魔法少女にして。そして、願いはさやかちゃんと同じ様にマミさんとほむらちゃんを生き返させる……私には何でも願いを叶える資質がある! そうでしょうキュゥべえ!?」

 

 何の取り柄もないはずだった自分には見合わないほどの、膨大な量の因果が巻き付いていると、まどかは聞いていた。

 そんな自分なら、キュゥべえが渡してくる天秤に人生の一生をかけてしまえば、本当にどんな願いでも叶える権利が与えられている。だから、人を二人生き返させることぐらい訳がない。少女の命を取り扱うことに長けているキュゥべえならそのぐらい簡単だろうと、まどかは掴みかからんとばかりにキュゥべえにまくし立てた。

 

 魔法少女になれば先程まで起こっていた残虐な死に身を投じることになるだろう。しかし、それでもまどかは構わなかった。

 マミから伝えられた魔法少女と言う存在が、目の前で起こったようにどれだけ残酷な結末を迎えようとも、友人を2人失うと言う現実を受け入れてまで、人の身のまま生き続けたいとは思う自信がまどかにはなかった。

 マミのように自分を変えてしまうほどの正義は持っていない。立派な魔法少女になれないかもしれない。それでもまどかは、涙で濡れている手のひらをゆっくりと下ろし、キュゥべえを睨みつけるように見ていた。

 

 そして、それを聞き入れたキュゥべえは、まどか願いを叶え、魔法少女に生まれ変わらせようとしたその瞬間だった。

 

「その必要はないわ」

 

「……え? っあう!?」

 

 聞こえるはずのない声が。聞こえてはならないはずの透き通るような声が、頭に血が上っていたまどかとさやかの耳に入り込んでくる。まどかの願いを叶えようとしたキュゥべえは、いつの間にか何かを打ち込まれたように複数の穴を開けていたが、そんな事を気にしない様子のまどかは声が聞こえた方向にすぐさま顔を向け始めた。

 しかし、その瞬間何かが爆発する大きな音と、爆発の衝撃や熱風を受けてしまい目を細めてしまう。それでも聞こえて良いはずのない声の主を捉えようと、まぶたを開かんとしていた。

 聞いた声が嘘であってほしくはない。幻聴であってほしくはない。だからこそ、それを確かめるように、すがる思いで熱風を受けながらもまどかは瞳に映そうとしていた。

 声の主を。美しい黒髪をなびかせている少女の姿を。

 

「ま、まどか!! あそこ!!」

 

「嘘……嘘じゃないよね____ほむらちゃん!!」

 

 さやかが指を指した方向に目を向けると、先程魔女に飲み込まれていたはずのほむらが五体満足で立っていた。

 怪我一つ無い。何処かが欠損しているわけでもない。爆風の余波を受け黒髪をなびかせている姿は、間違いなく暁美ほむらの姿であった。

 

「私は大丈夫よ。それに言ったでしょう? 私はあなたを護りきるまで死なないって……さあ、終わりにしましょう」

 

 まどかたちは食い入るようにほむらを見つめていたのだが、ほむらがそう言い残した瞬間にはほむらの姿は消えていた。

 そして、先程と同じ様に何かが爆発する音と同時に熱風がまどかたちを襲っていた。

 まどかたちは死んでいたと思っていた友人が生きていることに嬉しくもありながら、混乱も隠せない様子でいたが熱風が発生している爆発源に振り向くと、その爆発は魔女の口から発生していた。

 魔女は何度も内部から爆発を受けており、何が何だか分からない様子でもがき苦しんでいた。

 何度も続いていた爆発が止むと、消えていたほむらは現れ先ほどと同じ様に静かに魔女へ近づき歩き始める。何度も爆発を受けていた魔女は、まるで蛇の脱皮の如く口の中から傷一つない姿を現し、近づいてくるほむらに向けてまたもや先程と同じ様に大口を開きながら突進して見せた。

 ほむらはそんな魔女を見ても、同じ光景を繰り返すように逃げるような動作もせず佇んでいる。ただ、何かがカシャリと金属が擦れ開く音が響いた。

 

「どれだけ速く動いても、私の世界では意味がないもの。それに、あなたの攻撃方法や弱点は把握済みよ……残念ね」

 

 何かが回転する金属の音ともに、ほむらを中心とした空間がモノクロに変化し始め静止した。

 舞っていた塵ひとつ動かずに固まっていく世界。それは魔女も例外はなく、大口を開けたままほむらの目の前で停止していた。

 先程食べられたように見えたのはほむらの魔法で一時的に世界を静止させ、移動したに過ぎず、魔女が爆発をしたのは時を止めた際に、大口を開けた魔女の中に爆弾を入れただけであった。

 

 ほむらは過去に繰り返して集めた情報通りなら、次の爆弾による爆発でこの魔女は脱皮を繰り返せないほどの致命傷を受けるだろうと考えていた。

 魔女を倒してしまえばこの魔女の空間は崩壊し、マミの遺体はそのまま崩壊と共に引き摺り込まれ、まどかとさやかは護れたことになる。マミという貴重な戦力を失ったことはほむらにとっても手痛いものだったが、まどかを護ることが優先と考えていたので、ある程度は割り切っていた。

 

 しかし、倒せると分かっていても油断はしない。今回のマミなら大丈夫と過信してしまい何も出来ずに殺されてしまった。

 それは、ほむらも読み取れなかったマミ自身の油断もあっただろうが、自身の油断によるもので起きてしまった最悪の事故だ。

 あのときマミに全てを任せていなければ、過去の情報に囚われずに見張っていれば、簡単に防げた事故だった。

 つまり、今回の魔女も過去と同じようにこの爆発で倒せると決まった訳ではない。そう思いながら警戒心を強めて、予備の爆弾と魔法の再展開の準備を整えていた。

 

「準備完了。ふぅ……時よ、戻りなさい……どう言うこと? 何故戻らないの?」

 

 息を整え、ほむらが静止させていた世界を動かそうと、銀色の盾に込めていた魔力を遮断し元に戻そうとし始める。そうして先ほどと同じようにカシャンと音が聞こえ、ほむらを中心にモノクロの世界に色が染め上げられる____筈だった。

 いつまで経っても世界に色が戻り始めない。その代わりに無理やり金属を動かそうとする、ガリガリと不快な金属音が耳に入る。音の方向はほむらの腕についている盾からであった。

 ほむらは元に戻らない世界に疑問を懐きながら、不快な音を出しているその盾を確認しようと視線を下げると、着いていないはずのものを見てしまった。

 

「これは……っ!」

 

 そこには、ほむらにとっては何度も見慣れた黄色いリボンがぐるぐると厳重に巻きついていた。

 見覚えがあるほどに見慣れている、魔法で作られたパステルイエローのリボン。それは、存在してはならないはずの黄色いリボンであり、ほむらの盾には元の世界に戻らせないようにと厳重に巻きついていたのだ。

 そして静止した世界では、その魔法を行使しているほむら以外が音を出す存在などいないはずなのに、誰かが近づいてくる足音がほむらの耳に入ってしまい、勢いよくその方向に振り向いていた。

 

「へぇ……やっぱりこう言う原理だったのね、あなたの使う未知の魔法は」

 

「と、巴マミ!」

 

「ふふ、先程振ね。暁美ほむらさん」

 

 ほむらの目の前で首から上をもがれたはずのマミが、平然とそこには存在していた。

 そして、ほむらだけの世界である静止ししたモノクロの世界に、同じく自由に動いてみせていたのだった。

 

「どうして貴女が生きて____いえ、死んだように見せていたの」

 

「私が死んだように見せたのは貴女の魔法を解明したかったから。私の中ではある程度の答えは出ていたけど、この目で確かめて裏付けを取りたかったの」

 

「そんなことのために、貴女はまどかたちを危険に晒したのね」

 

「だから本当に悪いことをしたと思っているわ。だけど、暁美さんならまどかさんたちを必ず護ってくれると信じていた。だって、暁美さんの狙いは、多分まどかさんだから」

 

「っ……」

 

 図星を突かれたことを隠そうと無表情を貫こうとしていたほむらだったが、まどかを護るということを知られてしまったことよりも、魔法の正体を呆気なく暴かれてしまったことが痛手で、それが原因により表情を少しばかり崩してしまっていた。

 

 時を止めるという魔法として明らかに強力な一手は、ソウルジェムという弱点を晒している魔法少女にとって必殺の武器になる。持っている素質を過去に戻るという願いに全て注ぎ込んでしまった結果、限定的ではあるが強力な魔法を得た代償として魔法少女としての基礎能力が低いほむらにとっては、マミが知り得なかった時を止めるというアドバンテージを活かせなければ対処が難しい。それを杏子も分かっていたからこそ、マミとの接触を控えるように言われていたのだが、まさか自身を死んだように見せ、死体まで精巧に作ってしまうとはほむらも思ってもいなかった。

 

「一体どこでそんなことをしてみせたの」

 

「結界を張ったあのとき、魔法を使うのに不自然ではないタイミングで私の作れる精巧な偽物を作ったの。本物みたいだったでしょう? だって、本物の死体を何度も触ったことがあるもの。それがなかったら、私の偽物もあんなに上手くは作れなかったでしょうね。それと、偽物とのフィードバックが遅れてキュゥべえの声に反応出来なかったから、少しヒヤッとしたのは内緒よ」

 

 あのときか。ほむらは結界を張っていたときにキュゥべえから2度声をかけられていたことを思い出していた。

 全ての準備が整ったと言っていたが、それはまどかたちに結界を張ったことを指しているのではなく、精巧に作られた自分の偽者と入れ替わり、感覚を共有出来たと言う意味を指していると。

 

 それでは盾に巻きつけられたリボンは一体どこでやられたかをほむらは考えたが、まどかたちを護るようにとお願いされたとき、態々気配をご丁寧に消して体に密着してきたあの時だと察していた。

 

「ちょっとわざとらしかったかしら。リボンを仕掛けたことに気付かれないよう私に注目してもらったのだけど、上手く行って助かったわ」

 

 得意げに話すマミを、ほむらは憎たらしいような目つきで睨みつける。それは、マミの取った作戦が全て上手く行ってしまっていたことを意味していた。

 

 何故、マミがほむらの静止した世界で動けているのか、その理由はほむらの魔法が酷く単純な構造をしていたからだ。

 ほむらと接している物や生き物はほむらと同じように自由に行動ができる。それは、空中に存在している空気も完全に静止してしまうと、その場から動けない所か呼吸すらままならない。なので、ほむらの魔法には自分が自由に動けるような仕様が存在していた。

 つまりほむらに触れている人間は、ほむらと同じ魔法が適用されることになっていたのだった。

 しかしほむらとマミの体の部位はどこにも触れ合っていない。だが、身体が触れ合っていなくても、間接的に触れてさえいれば問題がなかった。

 この場合はマミの体から伸びているリボンがほむらの盾に巻きついていることで、間接的に触れ合っていることになり同じ静止した世界を自由に動けてしまう判定になっていた。

 

「何故こんな回りくどい事をするのかしら。自分を死んだように見せかけてまで、あなたなら____」

 

「それよりも良いのかしら。魔法にも限度があるのだから、このまま時間を止めているのも魔力の無駄遣いよ。さあ、あの魔女に止めを刺しなさい」

 

 ほむらは握りこぶしを作りマミに問いかけたのだが、全てを言い切る前にはマミが途中から遮るように喋り始めた。

 時を止める魔法を理解して見せていたが、限定的な魔法だとは知らないマミは魔力の消費を心配する様子を見せていた。

 ほむらもこれ以上時を止める砂を浪費したくはないと思い、とりあえず静止した魔女を倒すためにセットしておいた爆弾を起爆しようと、リボンをで固められた盾をマミに向けて静かに指差し、リボンを解くように促した。

 

 ほむらの時を止めるための盾の中には、時計のようにいくつもの歯車が組み合わさった機械仕掛けの構造になっている。その間に何か物を挟まれたり、ここまで固められて仕舞えばほむらは時を止める事も解除する事もままならない。

 ほむらの指示に気づいたマミは言うことを素直に聞き入れ、リボンを解いていて見せたのだが、マミとほむらが繋いでいる架け橋となっていたはずのリボンが無くなっても、マミの身体がモノクロに変化することはなかった。

 盾のリボンを解いた後も静止した世界で自由に動けて見せていると言うことは、ほむらの身体の一部にリボンを絡ませているのだろう。そう思いつつ、ほむらは自分の身体を見渡すがそれらしきものは巻きついている様子は無く、付け加えて言えば何かが巻きついている感覚すらなかった。

 

 魔法で作ったリボンを限界まで空気に溶かし、感覚が無いほどに魔力を弱めているのだろう。それとも、杏子のように幻覚魔法を交えたリボンでも作っているのだろうかと思っていたが、今のほむらにそれを確認する術は持ち合わせていなかった。

 

「(本当に抜け目のない人……まるで、いつでも私を殺せると言っているように)」

 

 魔法少女として主力にしていた盾に巻きついているリボンでさえ、違和感を感じ取ることが出来ず気付くことに遅れていた。

 ほむらが魔法少女としての基礎能力が弱く、魔力感知などに疎いとは言ったものの、ここまでされて気づかないとなると思った以上に実力の差に開きを感じてしまっていた。

 しかし、これはほむらにとってもチャンスだと考えていた。

 

 ほむらの魔法は長期戦で使うものではなく、短期戦に特化している。もっと言えば初見殺しのように不意を突き、知覚させることも何をされたかすらも判断をさせないまま相手を倒す、まさに暗殺向きの魔法であった。

 そして、もし仮にマミと敵対関係になり衝突した際、今と同じように知らぬ間にリボンを絡まされていれば、それに対応できたかどうか怪しかった。

 しかし油断をしているのか、余裕を見せつけているのかはほむらには分からないが、姿を現さず隠れていれば有利になっていたものをほむらの前にマミは現れていた。

 

 確かにほむらはマミと比べれば魔法少女としての能力は劣っているだろう。しかしほむらには、魔法少女になってから長い時が経っている今でも分かっていた事だ。

 ほむらは自分自身を最弱の魔法少女と自己評価している。だからこそ、目の前に障害があれば情報を集め、それを元に対策を立てて今まで突破してきた。

 ならば見えない・感じることの出来ないリボンや自分の偽者を作り上げる魔法。マミが時を止める魔法を知っているという事実を知れたのは、時を止める魔法を知られたとことが痛手であろうと、ほむらにとっても大きなアドバンテージになる可能性を秘めていた。

 

「(対策を考えましょう。私をいつでも殺せれる状況で魔法の情報も手のうちにあったとしても、生かしている手段を取っていると言うこと。それは巴さんにとって私にはまだ利用価値があると見ている。それがいつまで持つのか分からないけど、殺される前に何とかしてみせるわ)」

 

 ひとまず盾に巻き付かれていたリボンが解かれている事を確認したほむらは、魔法を解除し止まっていた時間を再生させはじめた。

 ほむら目掛けて突進していたはず魔女は、時を止め移動し終わっていたほむらに気付かず誰もいない場所に突っ込んでいた。

 同時にほむらの仕掛けていた爆弾が何度も爆発を繰り返す。ほむらはマミのこともあり警戒をし続けながら魔女の様子を見ていたが、今度は未来通りに爆発を受けた魔女は何度も脱皮するが再生が間に合わず、最後には粉々に砕け散っていた。

 

「空間が元に戻っていく……どうやら魔女を無事に倒せたようね。流石だわ」

 

「……」

 

 結界の主である魔女が死んだことにより、絵具を滅茶苦茶にかき混ぜたような空間は崩壊していく様子を見せ始め、真っ白な病院が徐々に目の前に現れようとしていた。

 結界が崩れていく様子を見ていたマミはパチパチと拍手をしており、それを流し目に見ていたほむらは同じように結界が崩れていくことを確認して少しながら安堵していた。

 周りを見渡してみると時間がある程度経ったのか、夕焼け空になっていた。

 

「(ふぅ……)」

 

「ほむらちゃーん!」

 

「ほむらー! 大丈夫かー!」

 

「まどか、美樹さん……」

 

 無事にほむらにとっての分岐点を1つ越えられたことに息を吐いているととしていると、パタパタと足音を経てながら走ってくる人影が2つ伸びていた。

 魔女の戦いを見ていたまどかとさやかがほむらに向けて手を振りながら、大声で無事の確認を取っていたようだった。

 それを見たほむらは、久しぶりに襲われた感情にぼおっとしていた。

 

「(あぁ、そっか。私は2人を……いえ、3人を無事に助けられたんだ……)」

 

 いつもならマミを助けれずに、お菓子の魔女を乗り越える事が多かった。

 そして、さやかに縄張りやグリーフシード目当てなどで助けなかったと勘違いをされ、より一層敵対心を向けられることも多かった。

 不安げな表情をしているまどかに、さやかの明かな怒気を含む目付き。それが当たり前だと思い、いつもの事であり、慣れていたと思っていた。

 だが、ほむらはこのときこの瞬間が欲しかったんだと、走ってくるさやかとまどかの表情を見てそう思っていた。

 悪意もなにもない、友人である自分を心配している声。ほむらに向かって手を振る2人の表情は、ほむらの無事を確認して嬉しそうにしながら駆け寄ってきていた。

 遠目から見ても無事だと言うことは分かっているが、それでも優しく声をかけてくれるほむらの大切な友人だった。

 

「うん……うん……私は、大丈夫よ……」

 

 不意に溢れようとしてくる涙を噛み殺し、不格好だけどもほんの少し微笑みながら小さく手を振り返す。たったそれだけでも、ほむらにとっては幸せな出来事だった。

 

「って、あ、あああああああああマミさん!?!?」

 

「マミさんが生きてる!? ゆ、ゆゆゆ、幽霊!? さやかちゃん私大丈夫!?」

 

「本当に、本当に驚かせてしまってごめんなさい。それと、ちゃんと生きてるわよ」

 

 ほむらの隣にいたマミに気づいたまどかとさやかは、公共の施設があると言うのにそんな事もお構いなしに大声で叫んでいた。

 肉を貪られ骨を砕き、血飛沫を上げているマミの死体を目の当たりにしていた二人は、本物かどうかを確かめようとマミの顔や豊満な身体を揉みしだくようにあちらこちらを触っていたのだが、本物のマミだと確信すると身体一杯に抱きしめ大声を出しながら涙を流して叫んでいた。

 マミも驚かせてしまった事を何度も何度も謝りながら、胸の中で泣いている2人の頭を撫でて微笑み返していたのだった。

 

 

 

 

 

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